プロローグ③
『な、なんだ?』
シルヴィスは自分の身に起きている事に流石に戸惑っている。
先ほどまで全意識をヴェルティアへ向けていたのに、今の自分の目の前にはヴェルティアはおらず、先ほどまでの景色もない。
まるで夜空の中を跳んでいるように、闇の空間にポツポツと星のような光が見える。
『ここはどこだ? くっ……』
シルヴィスは見えざる何かの力に引きずられているのを感じていた。かなりの高速で引きずられており、その力に抗うことはできないというわけはないが、干渉を退けたところで、その後の一手がないため、干渉を退けることは止めておいた。
『ち……どこのバカがこんな事を……』
シルヴィスは苛ついていた。ヴェルティアという好敵手との勝負の楽しみを奪われたのだから機嫌も悪くなるというものだ。
『ん?』
シルヴィスの声に、不快混じりの警戒が混ざった。
シルヴィスの中に何かが入り込もうという不快な感覚だ。
『ふざけやがって……!!』
シルヴィスは入り込もうとする不快な感覚を弾くために自分の皮膚一枚分の場所に魔力で膜を張ると一気に放出した。
入り込もうとした不快な感覚が弾け飛ぶと、なにやら驚いたような何者かの感覚をシルヴィスは感じた。
『何者だ?』
シルヴィスの問いかけに答える者はいない。
その間にもシルヴィスは高速で引きずられていく。時間にして二、三秒というところだが、ヴェルティアとの勝負のために感覚が増していたので、それなりの時間に感じていたに過ぎないのだ。
(あそこか……)
シルヴィスは自分がどこに引きずられているかを察した。空間に無数にある星の光の一つに向かっているのがわかったからだ。
シルヴィスは光の中に引きずり込まれたのである。