十天使戦①
十体の天使はシルヴィスの前に降り立った。
「ずいぶんなご挨拶だな。お前達の礼儀作法はどうなってるんだ? あぁ、そうだったなお前達にそんな事を言っても無駄だったな。何しろ黒呪なんて子供よりも稚拙な言い訳しか思いつかない程度の知性しかない神の下僕だからな」
シルヴィスの侮蔑の籠もった挨拶に天使達の表情がピキッと引きつった。
「それで? お前らは一体何だ?」
シルヴィスは思い切り侮蔑の表情を作って天使達に尋ねる。天使達はシルヴィスの態度に怒りを表しながらも口を開いた。
「我らは天使を統べる十天使の一人、デミオル。神をも恐れぬ貴様の傲慢さに鉄槌を下しに来た」
「ほう……鉄槌と来たか」
「下等生物ごときがディアンリア様を侮辱するとは……」
デミオルと名乗った天使は光り輝く長剣の鋒をシルヴィスに向けて言う。天使達の殺気をまともに受けたシルヴィスであったがまったく恐れを見せない。
「そうかデミオルとやらはわかった。他の奴らは?」
まったく調子を崩すこと無くシルヴィスは他の九体の天使達に向けて言い放った。
「貴様は」
デミオルの隣にいる天使が蔑みを込めての話は即座に中断された。シルヴィスが動いたからだ。
シルヴィスは一番左端に立っていた天使を狙う。その天使を狙ったのは別に実力がこの十体で最も劣っていることを見抜いたからでは無い。初撃を外した際に包囲されることを避けるためである。
「く……」
シルヴィスの狙いが自分であると気づいた天使は、手にした戦槌を振るう。
しかし、シルヴィスはその軌道を左手を静かに添えることで軌道をずらすと戦槌が空を切る。
シルヴィスは虎の爪で天使の右太ももを切り裂いた。そして、次の瞬間に十分にタメを作った体勢から放たれた左正拳突きが天使の脇腹に直撃した。
ギョギィィ!!
「が……」
肋骨が砕けた音が響き渡り天使が他の天使達の方へと倒れ込むのを確認するとシルヴィスは後ろに跳び距離をとる。
「パネストラ!!」
「おのれ!!」
パネストラと呼ばれた天使がヨロヨロと立ち上がる。その表情には当然のごとく怒りがあった。
「すまんすまん、たまたまお前がボサッとしてたからさ。さぁ、もう一度自己紹介よろしく」
シルヴィスの物言いはいけしゃあしゃあという表現そのものであり、それが天使達の憎悪を限りなく増幅させていく。
「しかし、お前らさっきの連中との戦いを見てたんじゃなかったのか? 俺がこういう戦いをするなんてわかりきってるだろう。何をしてるんだ?」
心からの疑問のシルヴィスの言葉に天使達の怒りのボルテージは一気に上がった。
「貴様ぁぁぁ!!」
パネストラの忍耐力が限界を超えたのだろう。パネストラはシルヴィスに襲いかかった。
戦槌を横に払ってきた。威力、速度ともに並の人間であれば、対応など出来るはずもなく肉片となったであろう。
しかし、シルヴィスは虎の爪で下から切り上げることで軌道を逸らした。シルヴィスはその場で一回転し、その勢いのままパネストラの胸に左肘を叩き込む。
ゴギィィィ!!
パネストラの胸骨がまたも砕ける音が響いた。
「よっと……」
シルヴィスはそのまま砕けた胸骨に頭突きで追撃を行う。
「じゃあな……」
シルヴィスの冷たい宣告がパネストラの耳に入った瞬間にシルヴィスの左貫手がパネストラの胸を貫いた。
「が……」
シルヴィスは即座に左手をパネストラの胸から抜き取った瞬間に、魔力を弾丸にして他の天使達に向かって放った。
数発の魔力の弾丸はパネストラの体を貫き天使達を襲う。パネストラの死の衝撃、そして体が死角となって天使達はシルヴィスの魔力の弾丸を散会して躱した。
(あいつだな……)
シルヴィスは一体の槍を持つ天使に襲いかかる。
「なめるなぁぁぁ!!」
狙われた天使はプライドを傷つけられたのだろう激高して槍を突き出した。凄まじい速度で放たれた槍をシルヴィスは、最小の動きで躱すと槍の柄に沿って虎の爪を滑らせると天使の指がボトボトと落ちた。
「ぐぅ!!」
指を失った天使が苦痛に表情を歪ませた瞬間にシルヴィスの虎の爪が一閃され天使の首が斬り飛ばされた。




