神魔大戦 ~魔都強襲③~
天軍の突撃が開始される。
天軍の兵士達は奴隷兵士であり、一切声を出さずに突っ込んでくる様は不気味そのものである。
「構えぇぇぇえ!! 放てぇ!!」
指揮官の命令に従い弓兵達が一斉に矢を放つ。矢の豪雨が降り注ぐと突撃してくる奴隷兵士が次々と斃れる。しかし、奴隷兵士は感情がないために構うことなく突っ込んでくるのだ。
ドン!!
ドン!!
そこに壁上から魔術師達が火球を次々と放ちだした。放たれた火球は奴隷兵士達をまとめて吹き飛ばした。
地面に転がった奴隷兵士達は呻き声一つあげない。それは異様な光景であるのは間違いない。だが、守備隊の兵士達は構うことなく次々と矢を射掛けた。
奴隷兵士達は突然城壁の十メートル程の距離で見えない壁に阻まれたようであり先に進めない。
ムルバイズ達が施した魔都の結界が奴隷兵士達の進行を阻んだのだ。
「よし!! いまだ!!」
指揮官達の言葉に兵達は行動で答える。
一斉に放った矢が雨となって再び降り注ぐと、奴隷兵士達が次々と斃れていく。
ムルバイズ達の張った結界は、外側からは通さないが城壁側からの攻撃は通すという不条理の塊のような術式を組んでいるものだ。
「奴隷兵士達ではムルバイズ達の結界は破れないわね」
「まぁ、さすがにあの程度の連中に破られれば立つ瀬がないですわい」
「それもそうね」
「しかし、神を止めることはできんですわい。そこからが本番ですな」
「ええ、神に対抗できるのは私、ムルバイズ、ジュリナ、ディアーネさん、ユリさん……ね」
「そうですのう……だが、神だからこそリネア様を狙ってくるでしょうな」
「ええ、神は自尊心の塊、地味な働きなど我慢できないでしょうね。しかもここに自尊心を満足させることのできるエサがいるんだから、こっちにくるわ。他の場所は奴隷兵士や天使達を差し向けるでしょうね」
リネアの言葉にムルバイズは苦笑を浮かべる。自分をエサにすることで神をここに集中させると言う豪胆さを有するものはそうはいないだろう。
天軍の方から立て続けに魔術が放たれるが、それらは結界によって阻まれてしまう。
「ん……きたのう」
ムルバイズの言葉通り、数柱の神が結界の前に位置取ると自分の剣を結界に刺しこむと結界を切り裂いた。
その瞬間である。
一柱がそのまま崩れ落ちた。それは糸の切れた人形のようで何かしらその身に何か起こったことは明らかであった。
「ありがとうジュリナ」
「いえ、これくらいは大したことではありません」
「ふふ、それができるのはあなたくらいなのよ」
リネアがジュリナを称賛するのはリネアの放つ矢を魔術で不可視化させたのだ。兵士達の放つ矢に注意を向けることができても、不可視化された矢を躱すのは困難を極めるというものであった。
不可視化の魔術を使うことは魔術師の中にもできるものはいる。だが、ジュリナの不可視化はその精度がズバ抜けているのである。
しかも、射殺された神は結界を切り裂くことに意識をむけていた以上、さらに躱すことは困難というものである。
「さて……次はあいつね」
リネアは切り裂いた結界を超えて一柱が結界内に踏み込んだところでリネアに首を射抜かれた。もちろんジュリナの不可視の術を施した矢である。
リネアが二柱を射殺したが、他の箇所から開けられた孔から奴隷兵士が流れ込んで来る。そこに一斉に矢が放たれる。
次々に奴隷兵士が斃れるがそれでも全部を倒すことはできない。結界内に侵入してきた奴隷兵士の全てを打ち取ることはできなかった。
城壁に取り付いた奴隷兵士達が城門へ激しくぶつかる。しかし魔術師達の火球が降り注ぎまとめて吹き飛ばしていく。
天使達も結界内に入り込むと同時に光の矢を城壁へ放った。
しかし、放たれた光の矢は兵士達に直撃する前にムルバイズの防御陣により阻まれた。
「ふむ……ここからが本番じゃのう」
ムルバイズは掌の上に魔力の珠を浮かべるとそのままフワフワと浮かんでいくと、そのまま珠は爆ぜた。爆ぜた珠からは魔力で形成された杭が放たれると飛行している天使達を刺し貫いた。
「このクズどもが!!」
城壁上に一柱が現れた。
ピシュン!!
その瞬間に神の眉間に放たれたリネアの矢を手にした長剣で受ける。
「舐めるなよ!! 卑怯者めが!!」
長剣を構えると同時に神はリネアに向かって駆け出そうとした瞬間にディアーネとユリがその神の前に立ち塞がった。
「死にたいか!!」
神の咆哮に対してディアーネとユリは答えることなく手にした愛用の武器で神へ襲い掛かる。
ディアーネの斧槍の一撃を神は長剣で受ける。その瞬間にユリが神の間合いに踏み込むと首へ斬撃を放つ。
「う〜ん、必殺の間合いだったと思ったけど躱すなんて神の実力も案外甘く見たらいけないね」
「そうですか?この状況でわざわざ城壁上へと登ってくるなんて死ににくるようなものでしょう? 状況判断が甘いのだから恐れるようなことはないと思いますよ」
ディアーネの評価は限りなく辛口だ。これは神を煽るという意図もあるのだが、紛れもない本心であるのもまた事実である。
「ふざけるなよ!! この薄汚い魔族どもが!!」
神の激昂に対してディアーネとユリは不敵な笑みを浮かべた。既に冷静さを失っている以上、勝利を確信しているのだ。
「さて……まぁまだまだ序盤ですからさっさと死んでもらっていいですか?」
ディアーネは艶やかな笑みを神に向ける。その笑顔はものすごく美しいのだが、それ以上に危険な雰囲気が漂う。神もその危険性を感じたのか頬に一筋の汗が流れる。
そして……
ピシ……ピシ……
空間にヒビが入りそのまま大きく開かれた。
開かれた孔からヴェルティアがひょいと出てきた。ヴェルティアは周囲をキョロキョロと見渡すと事情を察したのだろう。
「あれ?お取り込み中みたいですね!! いいでしょう!! このヴェルティアとシルヴィスが戻ってきた以上反撃といこうではありませんか!!」
ヴェルティアの宣言に神だけでなく魔軍の兵士達も呆気に取られた。




