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チートを拒否した最強魔術士。転移先で無能扱いされるが最強なので何の問題もなかった  作者: やとぎ


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神魔大戦 ~魔都強襲②~

 カンカンカン!!


 カンカンカン!!


 敵襲を知らせる鐘の音が夜の帳が下りた魔都(エリュシュデン)に鳴り響いた。


 敵襲に魔都(エリュシュデン)の民達は大きな動揺を示すが、それが混乱にまで発展しなかったのは、王妃であるリネアが陣頭に立つことを選択したことが魔都(エリュシュデン)の民に知れたからである。


 もちろん、この情報は意図的に流されたものである。


 リネアが陣頭に立つということはかつてない激戦の予感を感じさせるものではあるのだが、それ以上に逃亡を……言い換えれば自分達を見捨てていないという希望でもあるのだ。


 そして、その希望は魔都(エリュシュデン)の民達に落ち着きを与えたのだ。民達は自宅待機の命令を守り、万一の時のために荷物の準備を始める。これは魔都(エリュシュデン)が戦場となった場合に、いつでも動けるようにしておくことをリネアが厳命していたのだ。

 やることがわかっていると民達は不安を和らげることができるのは事実である。リネアの厳命は初期の混乱を収めることに大いに貢献したのは間違いない。


 そして、この魔都(エリュシュデン)に潜り込んでいる諜報員達に対してリネアの出陣の情報を与えることで、天軍の指揮官に狙いを絞らせるという目的もあった。


「お、おい……あれって転移門か?」

「多分、そうだろ」

「なんであんなものを設置されるのを見逃すんだ? ありえねぇだろ」 


 守備隊の兵士たちが巨大な転移門を見てゴクリと喉を鳴らした。続々と門から天軍が現れるのを見ていれば不安が出てくるのは当然であった。


「おい、どんどん出てくるぞ」


 兵士達の不安はどんどん大きくなってくる。守備隊のほとんどは今回の戦いが初陣である。そのため、実際の敵を目にしてしまえば不安が大きくなってくる。


「お、おい」

「なんだよ!!」


 一人の兵士が隣の兵士を肘で突きながら声をかける。呼ばれた兵士は苛立ちながら兵士に目を向けるとその兵士は別の箇所を見ていた。


 兵士の視線の先を見ると一段高い指揮所にリネアの姿があった。


「お、王妃……様?」

「あ、あ……やっぱりそうだよな?」


 リネアの姿を見た兵士達は先ほどの不安など消えている。むしろこの場に立っていることに純粋な驚きがあったのだ。


「ほ、本当に来てくれたんだ」

「ああ、王妃様は俺たちを見捨ててないぞ!!」


 リネアの登場を目にした兵士達の声に高揚が含まれ始めた。リネアは武装しており、それが頼もしさを与えていた。


 兵士達にとってもはやリネアは希望、勝利の象徴が具現化した存在であったことだろう。


「ああ、やるぞ!! 王妃様をお守りするんだ!!」

「おう!!」

「王妃様の前で無様な戦いをするわけにはいかないぞ!!」

「当然だ!! 侵略者共をこの魔都(エリュシュデン)に入れさせん!!」

「皆殺しだ!!」


 兵士達の中から士気が爆発寸前にまで高まっていく。


「すごいわね」

「ああ、姿を見せただけでこの士気の高まりってやっぱ持ってる方(・・・・・)ってのはいるもんだね」

「うちの皇女様では見られない反応ね」

「まぁお嬢の場合は強すぎるから、うちの連中は相手の不幸を憐れむものな」

「そうね……勝利の象徴というのは共通しているけど……破壊(・・)の象徴とも言えるものね」

「どっちも美人なんだけどなぁ」

「ヴェルティア様の場合は本当に敵軍に一人で突っ込んで蹴散らしますからね。対してリネアさんは弓使い……どうも絵柄的に力強いというイメージはつきにくいものです」

「ははは、確かに」


 ディアーネとユリは呑気なようである。眼前に展開している天軍で神族と天使はいるのは間違いないが、すでに何度か神族と戦闘経験がある二人とすれば決して手も足も出ないという印象であったのだ。

 というよりも神族たちの方がヴェルティアの前に手も足も出ないということがわかっている。


「まぁ天軍にとってヴェルティア様とシルヴィス様がこの場にいないのは幸運でしたね」

「そうだなぁ。あの二人が組んでる限り敵にとって不幸以外の感情は湧いてこないものな」


 ユリの言葉にディアーネは苦笑を浮かべた。全く持ってユリの言う通りであり、理不尽を体現した存在が自分達の主人というのは幸運以外の何ものでもない。


 そしてリネアが一歩進みでると兵士達の声が一気に鎮まる。


「わが将兵達よ!!」


 リネアは指揮所から守備隊の兵士たちに向けて声を投げかけた。それは力強くリネアの意志の強さが垣間見えるものである。


「我らの王キラトはエランスギオムで天軍と決戦の最中!! その戦況は未だ定まっていません!!」

「……」

「ここで魔都(エリュシュデン)が陥落したという報告を与えることが果たして望ましいと言えますか?」

『否!!』


 リネアの問いかけに兵士達は一斉に否定の言葉を簡潔に叫ぶ。


「そう、もし魔都(エリュシュデン)が陥落したという話が陛下達に伝われば間違いなくその動揺により魔軍は敗れる!! この戦いは単に魔都(エリュシュデン)のみならず、エランスギオムの決戦の行方を左右するもの!! ならば戦おうではありませんか!! そして勝利の祝杯をあげようではありませんか!!」

『ウォォォォォォォ!!』


 リネアの檄に兵士達は雄叫びを上げた。その雄叫びは魔都(エリュシュデン)全体から湧き起こり、大気を揺らした。


「素晴らしい演説であったぞ!! 王妃リネア!!」


 そこに天軍から一柱の男が進み出て大音量でリネアに投げかけた。


「我こそはディアンリア様直属『レミテバイス』のフォーガネス!! 王妃リネアよ。降伏せよ!! お前の自己満足に民をまきこ……」


 フォーガネスと名乗った神が演説途中で突然倒れた。それはあまりにも突然のことであり、両軍は大いに戸惑った。


「お、おい。あれ!!」


 一人の兵士がリネアを指差して叫んだ。そこにはリネアが弓を構えた姿があったのだ。矢を番ていない姿に守備隊の中から事情を察した者達が現れた。


「お、王妃様だ!! 王妃様があの無礼者を射ったんだ!!」

「あ、あの距離を一射で!?」

「す、すげぇ!!」


 事情が分かった兵士達はリネアの技量にさらにテンションが上がった。


「天軍よ!! くだらぬ搦手などというくだらぬ手を使うな。このリネアの首が欲しければ力でもぎ取るが良い!! 神であるというのならば己の武威を示せ!!」


 リネアの傲然とした宣言に溜まりに溜まった士気がついに爆発した。


『ウォォォォォォォ!! 王妃リネア様!! 王妃リネア様!! 』


 リネアの一射は守備隊の士気を爆発的に高めた。


「と、突撃!!」


 天軍の中からいくつか散発的な突撃を告げる命令が発せられたが、ほとんど聞こえるものではなかった。


 魔都(エリュシュデン)攻防戦が始まったのである。


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