神魔大戦 ~初戦④~
「あの門って転移するためのものですよね?」
「ああ、破壊するとしよう」
「わかりました!! さぁて、行きますよ!!」
シルヴィスの言葉にヴェルティアが元気よく答えると一歩進み出た。
「ん? 待てヴェルティア!!」
シルヴィスはヴェルティアの襟首をむんずと掴みヴェルティアを止めた。
「どうしたんです?」
「門から天軍が転移してきた」
「あ、本当ですね……しかも転移してきたのは大物ですね」
「ああ、シオルだ」
シルヴィスの告げた名前にヴェルティアもため息をついた。
「困りましたね。今の我々ではシオルさん達を止めれませんね」
「ああ、仕方ないが、手が出せないな」
「とりあえず、キラトさんに伝えないといけませんね」
「そうだな」
シルヴィスはヴェルティアの言葉に頷くとしばし沈黙する。約十分間という沈黙の後にシルヴィス達が再び動き出す。
「一旦下がるとしよう」
シルヴィスの言葉を受けてヴェルティア達三人も一旦下がる。その引き際は素晴らしく早かった。
「ああ、今シオルに仕掛けるわけにはいかない。勝てるわけないし、後の計画に支障が出る。しかし、何もしないとキラト達が大きい不利の中で戦うことになる」
「そうすると我々ができることといえば嫌がらせくらいですね」
ディアーネの言葉にシルヴィスは頷いた。
「ディアーネさんのいう通りだ。陣容が整う時間を遅らせるというのが先程のキラトの依頼です。というよりもそれ以上のことは来ない」
「我々四人でどこまでやれますかね?」
「大丈夫です!! 我々が力を合わせれば撃破も可能です!! さぁ!! みんな行きますよ!!」
「だから、いつもの感覚で行こうとするなってシオルは俺たちのことを知ってるからバレるだろ」
「あっそれもそうですね。う〜ん、困りました。シオルさんに会わずに陣容を整えるのを邪魔するのは難しいです」
「三百の人形は置いてきたから、四人だけでやるしかないな。ただし、シオルに直接会わないように、かつ、やられないようにする」
「よ〜し、それでは行きましょう!!」
「だから待てって!! お前は真っ先にシオルに突っ込むことだけは絶対にするなよ」
「はい!! 任せてください!! 私は絶対にシオルさんに向かってなんか行きませんから!!」
「そうかそうか。それならヴェルティアならまずどこに向けて突撃する?」
「それはもちろん!! あそこに向かって突っ込みます!!」
ヴェルティアはそう言って指差した先にはシオルの放つ凄まじい威圧感があった。
「よし!! ヴェルティア、俺が先導するから俺についてこい。ディアーネさんとユリさんもそれでいいですね?」
「わかりました!! このヴェルティアはシルヴィスの援護をしろというわけですね!! 心配せずともシルヴィスの背中は私が守って見せますよ!!」
「……心強いよ。ディアーネさん、ユリさんも頼みますよ」
「はい」
「任せてくれ」
シルヴィスの言葉にディアーネとユリは苦笑まじりに返答する。シルヴィスの確認はどう考えてもヴェルティアがシオルに突っ込まないように気を付けてくれと釘を刺したことを意味しているのだが、ヴェルティアにはそちらの方で伝わってはいないようだ。
「さて、それじゃあ行こうか」
シルヴィスは一言言い放つと駆け出した。そしてヴェルティア、ディアーネ、ユリと続く。
門から転移してきたシオル達は瞬く間に陣容を整えていく。シルヴィス達からすれば陣容が厚くなればなるほどシオルと接敵する可能性が下がるためにある程度、敵が陣容を整えるのを待っていたのだ。
凄まじい速度でかけてくるシルヴィス達四人に気付いたシオル軍から迎撃の矢が放たれた。
シルヴィス達は矢が放たれると同時に速度をもう一段階上げると矢の間合いの内側に一気に滑り込んだ。奴隷兵士達が一斉に槍衾を形成するが、シルヴィス達の速度は落ちることはない。
間合いに入った瞬間に槍が一斉に突き出される。
シルヴィスは前列の奴隷兵士を飛び越えると真っ只中に着地し右手に立つ奴隷兵士の腹部を容赦なく蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた奴隷兵士はそのまま吹き飛び、周囲の兵士たちを巻き込みながら倒れ込んだ。
突き出された槍をフッと横に躱しつつ掴み上げると奴隷兵士の間合いへと飛び込み裏拳で兵士の顔面を打つと兵士が血を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
「よっと!!」
シルヴィスは奪った槍を振り回してそのまま容赦なく奴隷兵士達を打ちつけ始めた。
シルヴィスに続けてヴェルティア達も奴隷兵士の隊列に突っ込むと手にした武器を存分に振り始めた。
「てぇい!!」
ヴェルティアの棍棒の一撃で数体の奴隷兵士が吹き飛ばされた。
「おお!! 武器というのも中々使えるものですねぇ〜」
ヴェルティアの呑気な言葉が戦場に聞こえる。奴隷兵士は声を発することがないためにヴェルティアの言葉だけが聞こえるのだ。
「ヴェルティア様、どんどんやっちゃってください!!ただし、シルヴィス様から離れないでくださいね」
「お嬢!! 絶対にシルヴィス様から離れちゃダメだよ!!」
「わかってますよ!! 任せてください!! 絶対にシルヴィスの元を離れませんからね!!」
二人がヴェルティアの動きに釘を刺すとヴェルティアは素直にそれに従ってシルヴィスの背後につく。しかも互いの武器の届かないギリギリのところの場所に立っており、思い切り振り回しても同士討ちになることはない。
「う〜ん、やっぱりこの奴隷兵士相手って不気味だな」
「そうですね。何というか声を一切発しないから不気味ですし、恐怖を感じないから構わず突っ込んできますね」
「それでシルヴィス様、ここでこいつらを蹴散らし続けたところで嫌がらせにはほど遠いと思うのですけど……」
「そうでもないですよ。ここで俺達が暴れるだけで十分に嫌がらせになってますよ。その証拠にどんどんこちらに兵が殺到してますよね」
「それはそうですけど……」
既にディアーネの足元には多くの奴隷兵士達の死体が転がっている。乱戦に於いてディアーネの斧槍は大きな威力を発しており、多くの奴隷兵士を屠っているのだ。
「何をしている!!たった四匹ではないか!! さっさと殺せ!!」
そこに妙にデカい態度で奴隷兵士へ命令を下す男が現れた。周囲に天使達がいることから神であることは間違いないだろう。
シルヴィスは男に向かって槍を思い切り投擲する。凄まじい速度で投擲された槍であったが男は余裕の表情で槍を掴むと顔面ギリギリのところで槍の穂先が止まった。
「ふん、この程度でこのルゼン……がぁ……!!」
余裕の態度を見せていた男であったが、次の瞬間に発した声は苦痛を告げるものであった。
男が苦痛を発したのは男が止めた槍の石突の部分をヴェルティアが間合いを詰めて手にしていた棍棒で思い切り殴りつけたためであり、その衝撃で槍の穂先が顔面を刺し貫いたのだ。
「余裕を見せるにはまだまだ早いですよ!!」
崩れ落ちる男をみた周囲の天使達が狼狽して男に視線を向けた瞬間にヴェルティアの棍棒が振るわれ天使達をまとめて薙ぎ払った。
「さて、アホが相手でよかったな」
「まったくです」
「次はこんな簡単にいかんだろうから油断するなよ」
「はっはっはっ!! このヴェルティアにそのような心配は無用なのですよ!!」
ヴェルティアが高笑いをしたところに一人の男がヴェルティアに襲いかかった。男の斬撃をヴェルティアは後ろに跳んで躱した。
「よくもルゼンガスを!! 下等生物の分際で!!」
男の目には抑えきれない激情があるのがわかる。先ほど斃した神と交流のある者なのだろう。
その神にシルヴィスは突きを放つ。シルヴィスの放った突きは間違いなく一流の突きであった。しかし、男はその突きを余裕で躱すと槍の穂先を切り落とした。
「舐めるなよ!!下等生物が!!」
男はシルヴィスへ狙いを定めると一瞬で間合いへと踏み込むと胴薙の斬撃を放つ。シルヴィスは後ろに跳び何とか躱すことに成功するがそれで終わりではない。
男はさらに間合いを詰めると斬撃を次々と繰り出した。
シルヴィスは次々と放たれる斬撃を何とか躱しつつ反撃の機会を窺うが繰り出される斬撃に中々入り込むことはできない。
そこにディアーネとユリが間に入ると男と激しい剣戟が始まった。
「う〜ん、これは少々まずいですね」
「だな。ここまで動きについていけないとは思わなかった」
「この間の天使とは全然違いますねぇ〜」
「一旦、下がるしかないな」
「そうですね」
「逃げられると思っているのか!!」
そこに新手の神が現れる。
「どけぇ!! 雑兵ども!!」
さらに新手が現れる。
「これは困ったな」
「ここは限界みたいですね」
「そうみたいだな」
「ディアーネ、ユリ」
「はい」
「了解!!」
ヴェルティアの呼びかけに二人は即座に答えるとシルヴィス達の元へと下がった。
「ふん、集まったところで生き残ることは不可能だ」
「大人しく神の裁きを受けるがいい」
神達は嗜虐的な笑みを浮かべてジリジリとシルヴィス達との間合いを詰める。
「神も中々侮れないものだな……」
「仕方ないですよ」
「ふん、動くなよ……今その首を落としてくれるわ!!」
神の二柱がシルヴィス達へと襲いかかる。
神の斬撃がシルヴィスの肩口に、ヴェルティアの首にかかる寸前のことである。
シルヴィス達四人の体がカッと一瞬光る。
そして次の瞬間……
ドゴォォォォォォォ!!
凄まじい爆発が四人の体から発せられ、周囲の天軍達と共に吹き飛ばした。
そして、それからすぐにシルヴィス達が先ほど転移してきた場所に再びシルヴィス達が姿を見せる。
「仕切り直しだな」
「ええ、まさか神にまったく手も足も出ないとは思ってもみませんでした」
「まぁ仕方ない。今度は四人じゃなく三百人だ」
シルヴィスがそういうと魔力で形成した人形達が三百体現れた。
「お、新たな軍団が転移してきたな。今度はあっちをやるとしよう」
「そうしましょう!! さぁ行きますよ!!」
シルヴィス達三百体は新しい軍団へ向かって駆け出していった。




