神魔大戦 ~初戦③~
シルヴィス達が配置についた次の日に天軍の先行部隊と接敵した。
「きたぞ……」
シルヴィスが片手を振り上げて振り下ろすと前線の部隊が盾を一列に並べて槍を間から突き出して天軍へと突っ込んでいった。
天軍もそれにすぐさま対応すると激しい戦いが始まった。
シルヴィス側の兵達は魔力により作られた人形達、天界の奴隷兵士との戦いであり、双方の兵士に意思がないために戦いは激しいのだが、奇妙な静けさがあった。
「う〜ん、なんか不気味な戦いですね」
ヴェルティアの言葉にシルヴィスは苦笑を浮かべた。確かにシルヴィスも同様の感想を持っている。
「声ってやっぱり重要だな」
「そうですねぇ。やはり声を出さないというのは意思が全く感じられませんものね」
「ま、勝つのが目的じゃないから……このまま時間を稼ぐとしよう」
シルヴィスの言葉にヴェルティア達は頷いた。
それから、激しい戦いが展開されているが声を一切発していない両軍の激突は奇妙な燻りを見せている。
「とはいえそろそろ動きがあるだろうな」
「具体的には?」
「両隣の森から襲いかかってくるとか……天使が空から攻撃してくるとかだな」
「お〜なるほど!! やはりそう来ますか!!」
「お前……考えてなかったろ?」
「そ、そんなことありませんよ!!」
ヴェルティアの反応は図星を指されたゆえのものであることは明らかであるが、シルヴィスは気づかないふりをすることにした。武士の情けというやつである。
それから2時間が経過したが、敵は街道をそのまま突っ込んでくるのを繰り返しており、シルヴィス達は疑問が湧いてきた。
この狭い街道上で戦う限り疲労が存在しない人形達が破られる可能性は皆無である。
神達が来れば一蹴できるのであろうが、それすらもないのは疑問がいやでも湧くというものである。
「全然動きがないな……」
「そうですね……」
「さて、この状況……どうやら俺たちは嵌められた可能性が高くなってきたな」
「困りましたねぇ〜問題は私達へを嵌めたのか。それとも魔族達を嵌めたのか気になるところです」
「お前、時々本当に冴える時があるな」
「何を言っているのですか? この私の光る知性を知らないんですか?」
「光る知性がきちんと光るのなら評価もするんだがな……」
『まるで同類だな』
そこに先日のキラトの言葉が突然シルヴィスの頭の中に響いた。
「そうだ……同類だ」
「え?」
「俺とシュレンが同類とすれば……俺ならばどうする? 勝利の条件をキラトの命、もしくは降伏とすればそれで勝利は確定……魔都を落とすよりは野戦で戦った方がまだ……やりやすい。そして合計百万もの軍が展開でき、勝利した後に魔都に近いのは間違いなくここ……エランスギオムだ。アクランに転移してエランスギオムまでの移動は三日……陣形を整えて魔族達を蹴散らすことを考える……しかし何の妨害もないと想定するか?」
ブツブツと呟くシルヴィスに対してヴェルティアは静かにしている。ヴェルティアはこういう時は意外と気配りを見せ話しかけるようなことはしないのである。
「ムルバイズさん達が広大なエランギオムを全て調査する……そこに見落としは考えられない。だが手が足りないのも事実……二度目はない。おそらく……ムルバイズさん達が調べた後に転移陣を施したとしたら……」
ビシュン!!
シルヴィスが言葉を紡いだその時、一本の矢が放たれる。シルヴィスは易々と放たれた矢を掴んだ。
矢の放たれた方向を見ると街道の外から奴隷兵士達が襲いかかってきた。
「う〜ん、ここで来たか……でもどうしても相手の動きが遅いよな」
「そうですね。まぁ出番がきたということで行きますよぉ!! ディアーネ、ユリ!!」
「はい!!」
「よし、いくぜ!! シルヴィス様は全体を見ておいてくれよ。ちょっと発散してくる!!」
ヴェルティア達は妙に元気よく駆け出していった。どうやら退屈していたようである。
ヴェルティア達の実力を考えれば奴隷兵士では全く争うことができないというものだ。実際にヴェルティア達に奴隷兵士達は次々と蹴散らされていく。
(……いや……陣の仕込みでは元々ないのか……? キラト達と同じ方式だとしたら……今までの陣を仕込んだこと自体がミスリードのための一手だとすれば……)
シルヴィスが一つの考えに思い至ると振り返った。背後に生じた気配にシルヴィスの頬に冷たい汗が伝う。
「しまった……完全にミスリードされた。ヴェルティア、ディアーネさん、ユリさんエランスギオムへ引きましょう。天界は既にエランスギオムに軍を展開し始めてる」
「え?」
「あ……本当ですね」
「どうやら嵌められたわけか……アクランへの先発隊は私達の注意を逸らすためか……」
シルヴィスの言葉にヴェルティア達も即座にその意図を察すると転移陣を起動した。
エランスギオムへと転移したシルヴィス達の目に巨大な門が形成されていた。




