竜皇女と神は出逢った①
「さ〜て、みんな行くわよ!!」
『はっ!!』
レティシアの号令が発せられると共にシーラ達が奴隷兵士へと襲い掛かった。
シーラ達四人と奴隷兵士の実力差は大きく、四人は草を薙ぐように一方的に奴隷兵士達を切り伏せていく。
あまりにも一方的に切り伏せていくので、奴隷兵士達は何らかの術により動きを封じられているのではないかと考えてしまうくらいだ。
「レティシア様……天界は一体何を企んでいるのでしょう?」
「そうね……魔族の情報伝達能力、展開能力、救援に来るまでの時間の把握、魔族の戦闘力……それらを探っていると言うのは……さすがに違うわよね」
「はい。既に私たちの出動は二十回を超えてますし、シルヴィス様達、レンヤ達、魔族の方々の出撃もほぼ同様の回数です。調査としてはもう十分な情報が集まっているとは思います」
「そうなのよ……ね。ここまでくると別の目的があるとしか思えないわ」
「つまり……この襲撃は何らかの陽動であると?」
「私はそう思ってるわ。そしてお義兄様やキラトさん達もそう睨んでいると思うわ。でもそれが何なのかわかってないわね」
「う〜む、厄介ですね。となると不死身の男がディアンリアによって祝福を取り上げられたのは情報の漏洩を防ぐためですかね」
「そう考えるのが自然よね。神は決して愚かじゃないわ。私たちと同じように感情があり、戦略があり、戦術がある。だからこそ侮ることなくやらないといけないわね」
レティシアがそう締めくくったところで、シーラ達が奴隷兵士達を殲滅した。
「みんな、お疲れ様」
「はい。完全に作業ですのでお気になさらず」
レティシアの労いの言葉にシーラ達四人は頭を下げる。
「そうそう、カイ、レイ一つ聞きたいのだけど」
「何でしょう?」
レティシアの問いかけにカイが答える。レイもレティシアへと視線を向けた。
「あなた達が宝物を家の中に隠そうとするとき、どこに隠す?」
「え?」
「そ、それは……」
レティシアの質問にカイとレイは口ごもった。何しろこの場には祖母と母がいるのだ。
「あら? 二人とも……まさかレティシア様の質問に答えないつもりかしら?」
母であるサーシャの表情はニコニコとしたものであるが、声には妙な凄みがあるのである。これは忠誠心ゆえからの言葉ではないことは確実である。
「俺は自分の部屋です!!」
「俺は普段人が来ない物置です!!」
カイとレイはビシッと背筋を伸ばすと即座に答える。二人にとって母サーシャは恐ろしすぎる相手である。もちろん戦闘能力としてはカイ、レイはサーシャに及ばないと言うわけではないのだが、それ以外の力関係が存在しているのも家族としては当然である。
「サーシャ、あなたはへそくりをどこに隠しているのかしら?」
そこにシーラがサーシャに問いかける。
「私はへそくりなんてありませんよ!!」
「うそおっしゃい!! あなたは昔から嘘をつくときに語気を強くする傾向があるわよ」
「う……」
シーラの詰め寄りに今度はサーシャが口澱んだ。母の姿にカイ、レイは表情を引き締めたままだ。シーラという強力な援護があっても調子に乗ればサーシャに逆襲を受けるのは確実なのだ。
「あなたの事だから……一度探したところに隠すのでしょう?」
「知ってるなら言わなくて良いでしょう!!」
サーシャは口を尖らせてシーラに言う。半ばやけくそ的な返答であるが、シーラはそれをサラリと流して、レティシアに一礼した。
「レティシア様、三人の情報が何やら意味があったようで光栄でございます」
「ちょ、ちょっとお母様、お母様の隠し場所はどこか伝えるのも必要じゃないかしら?」
「あら? レティシア様は既に何かに気付かれたご様子、ならばこれ以上の注進は必要ないと思わない?」
シーラはニコニコとしながらサーシャに言い放つが、ゴゴゴというような威圧感が放たれている。その迫力に押されたのか、サーシャはごくりと喉を鳴らした。
「……はい。必要ないです……」
サーシャの言葉は完全敗北の表れである。カイ、レイをやり込めたサーシャであったが、母シーラにはまだまだ及ばないという状況なのだろう。
「ふふ、三人ともごめんね。シーラの機嫌を損ねる利益がないのでここで情報の確保は終わりにするわね」
「はい……」
サーシャはレティシアに返答するが、その声にはやや覇気がないのは仕方ない。主であるレティシアがそう判断した以上、サーシャとしては反論することはできないというものだ。
「さて、ダメもとよ。ヴィリス、地図を出して」
「はい」
レティシアの求めに応じて、ヴィリスが地図を空間から取り出した。
取り出した地図を地面に置き、レティシアがブツブツとなにやら呟きながら思考に入る。
それをヴィリスは静かに見守り、シーラ達は周囲の警戒にあたる。この辺りは役割分担というところだ。
「ヴィリス……ここに行ってみましょう」
レティシアの指差した所はいくつかの襲撃の箇所から等間隔の場所であった。
「ここを選んだ理由は何でしょうか?」
「うん……ここに意思を感じるのよ」
「意思ですか?」
「ええ、平静さを装うというね」
「平静さですか?」
「ええ、例えば数十個をその場に落としたら当然バラけるでしょう?」
「はい」
「実際は多く重なる箇所もあれば、少ない箇所もある。でも、この辺りは等間隔でしょ?」
レティシアの言葉にヴィリスは静かに頷いた。
「そして……こことは別のこの場所は襲撃が増えているわ。何となくここから目を逸らそうとしてるんじゃないかと思ってね」
「なるほど……転移箇所からの等間隔……逆に言えばどの転移箇所からも駆けつけるのに最も時間がかかるわけですね」
「そういうこと……もちろん、私の推測が外れていることも十分に考えられるわ」
「レティシア様の推測……から見ると……ここと……ここ……ここもですね」
「そうね。この際だから全部回ってみましょう」
『はっ!!』
レティシアの言葉にヴィリス達は短く返答すると、ヴィリスが転移陣を起動し、レティシア達は姿を消した。




