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チートを拒否した最強魔術士。転移先で無能扱いされるが最強なので何の問題もなかった  作者: やとぎ


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レンヤの失恋

「はぁ……やっぱり無理なのかな」


 レンヤは中庭でボーッと空を見ながら呟いた。


「お前もかよ」


 そこにヴィルガルドがため息をつきながらレンヤに声をかける。


「うるせぇ、リア充は黙ってろ」

「なんだリア充って?」

「けっ」


 ヴィルガルドの質問をレンヤはそっぽを向くことで対応した。かなりの無礼な対応であるがヴィルガルドは特段不愉快になったようには見えない。ヴィルガルドにしてみれば弟分が拗ねていることを楽しんでいるようでもある。


「なぁヴィルガルド」

「なんだ? 俺の惚気話を聞きたくなったか?」

「そんなわけないだろ。シルヴィスさんとヴェルティアさんのことだ」

「諦めろ。あの二人の間に割り込めるやつなんていないぞ」

「はっきりいうなよ……もっと、こう希望を持たせるような言い方はできないの?」

「それでお前が救われるか?」

「……」


 ヴィルガルドの言葉にレンヤは沈黙する。下手な慰めは時として余計に傷つけることになることをわかっているからだ。


「俺もわかってるよ。あの二人が両思いってことぐらい」

「ああ、残念だがもうあの二人がくっつくのはもう時間の問題だ」

「……そうなんだけどさ……何もしないでというのはな」

「気持ちはわからんでもないが……」

「ヴェルティアさんを戸惑わせるのは嫌だけど……何もしないで諦めるというのは……いやだ」

「そうは言ってもなぁ」


 レンヤの言葉にヴィルガルドも腕を組み悩む。この辺りのレンヤの気持ちもヴィルガルドはわかるというものだ。


 それから二人はお互いに考え込んだ。


「よし!! 決めた!!」


 そして、レンヤが意を決したように言い放った。それをヴィルガルドは視線を向けることで先を促した。


「シルヴィスさんに挑戦してくる!!」

「はぁ?」


 レンヤの宣言にヴィルガルドは呆気に取られた返答をしてしまう。


「お前、どういうことだ? 勝てるわけないだろう。死ぬ気か?」

「いや、そんなつもりはない。俺とシルヴィスさんとじゃ実力が天と地くらい違うのはわかってる」

「そもそもどうして彼に挑戦するんだ? 彼に何の落ち度もないだろう?」

「当然だ。俺がシルヴィスさんに挑戦するのは俺自身の区切りのためだ」

「ますますわからんのだが……?」


 ヴィルガルドは首を傾げた。どういう流れでそういう結論に達したのか理解できなかったからだ。


「いいか。ヴェルティアさんに相応しいのは実際にシルヴィスさんだ。ヴェルティアさんの規格外の実力についていけるのはシルヴィスさんくらいだろう」

「ああ、確かにそうだな」

「だから俺は挑戦する」

「要するに自分はヴェルティアさんに相応しい男なのかシルヴィスさんに挑戦することで確かめたいということか?」

「そういうことだ」

「おい、流石にそれは彼に迷惑じゃないか?」

「それは百も承知だ。俺だって無理筋だということは理解してるさ。それでもやってもらいたいんだよ」

「しかしなぁ……」

「残念だが、俺はこういうやり方でしか自分の気持ちに区切りをつけることができないんだよ。ものすごく我儘だとは思ってる。でも仕方ないんだよ!!」


 レンヤの言葉にヴィルガルドは困ったような表情を浮かべた。


「わかったよ……俺も一緒に頼むよ」

「いいのか?」

「仕方ないだろう。お前だけだと完全に意図が伝えられない」

「恩に切るぜ」

「無茶苦茶怖いけどな……はぁ〜」


 ヴィルガルドの大きいため息は彼の恐怖とレンヤが心配という気持ちのせめぎ合いを示している。


「それじゃあ……行くぞ」

「……ああ」


 ヴィルガルドの言葉にレンヤは重々しく答える。いきなりと考えられるかもしれないが、時間を置いたところでシルヴィスに挑むという事の恐怖感が薄れることは決してない。むしろ決心が鈍っていくことを二人は確信していたために、まずは動くことを選択したのである。


 二人はシルヴィスの元へと向かうことになった。


 * * * * *


「シルヴィスさん、よろしいですか?」


 シルヴィスを尋ねたレンヤ達が声をかける。


「どうした?」


 シルヴィスは訓練中であった。シルヴィス自身が魔力で形成した人形と戦っているのだ。


 シルヴィスは襲いかかる魔力の人形をほぼ斬り結ぶことなく倒していく。シルヴィスの動きは二人から見て、機能美の極致という動きだ。一切の無駄のない動きで人形達を屠る様はレンヤ達はゴクリと喉を鳴らした。


 人形達を一蹴したシルヴィスは二人に視線を向けた。


「シ、シルヴィスさん!! 俺と勝負してください!!」

「いいぞ」

「え?」

「どうした?自分から言い始めたことだろう?」

「そ、そうなんですが……いいんですか?」

「ああ、何か理由があるんだろう?」

「はい。シルヴィスさんを利用するようなことになるのは申し訳ないのですが、俺にとってとても大事な事です」

「わかった。理由はきかんよ」


 シルヴィスは空間に手を突っ込むと虎の爪(カランシャ)を取り出した。


「さて……それじゃあ相手をしよう」


 シルヴィスはレンヤと距離をとると虎の爪(カランシャ)を構えた。


「うぉ……」


 シルヴィスが構えを取った瞬間にレンヤとヴィルガルドは押しつぶされるかのような圧迫感を感じた。


「レンヤ……行け」

「ああ」


 シルヴィスの圧迫感にレンヤは全力で耐えながら剣を抜き放った。


 レンヤは鋒をシルヴィスに向けるとシルヴィスへ意識を向けた。


(ほう……隙が少なくなった(・・・・・・)な。以前よりも遙かに実力をつけたな)


 シルヴィスはレンヤへ手始めに殺気を放つ。


 シルヴィスの殺気にレンヤは首を斬り飛ばされたかのような感覚を覚えたが、それを動揺に繋げることはない。


(……レンヤ、今のをよく耐えた)


 ヴィルガルドは心の中でシルヴィスの放った殺気に心折れなかったことに素直に感心していた。レンヤが首を斬り飛ばされた幻影をヴィルガルドも感じていたのだ。だからこそ、レンヤが心折れなかった事に驚嘆していたのだ。


 レンヤがジリジリと踏み込むタイミングを探る。シルヴィスは未だに動かない。


(動かないのか?)


 レンヤはついに焦れてシルヴィスに向かって間合いを詰めようとした瞬間、シルヴィスが一瞬でレンヤの間合いへと踏み込んだ。


 シルヴィスはレンヤが動く瞬間を狙っていたのだ。


 レンヤは突きを放つ。いや、放たされた(・・・・・)と言った方が正確であろう。実際に動いたのは短すぎる時間であっただが、ここまでの流れは完全にシルヴィスの手のひらの上であったのだ。


 シルヴィスに放たれた突きの速度は凄まじいものであった。ほとんどの者は躱すどころか認識すら出来ずに貫かれることだろう。


 だが、レンヤがそれほどの突きを放ったにもかかわらずシルヴィスは紙一重で躱すと虎の爪(カランシャ)を剣に添える。突きから横薙ぎの斬撃に備えてのことであった。


 シルヴィスは虎の爪(カランシャ)を添えた箇所を支点に肘をレンヤの右頬へと叩き込むとレンヤの体が宙に舞うと数回くるくると回り地面に叩きつけられた。


「レンヤ!!」


 地面に倒れ込むレンヤにヴィルガルドが駆け寄った。


「あ、ありがとうございました……参りました」

「ああ、それじゃあな」


 シルヴィスは振り返らずもせず背を向けるとそのまま歩き去った。


「泣くな」

「くやしいなぁ……」

「でもわかってるだろ?」

「ああ……」


 レンヤの声は()を含んだものだった。シルヴィスはその事に気づいて一言発しただけで背を向けたのだ。

 それがどのような意味を持っているのかレンヤもヴィルガルドも察していた。


 敗北は惨めななものだ。敗残者の惨めな姿を見られる屈辱をシルヴィスに見せる事はレンヤの自尊心を傷つける行為であるとシルヴィスは考えて顧みることなく歩き去ったのだ。


「優しい言葉をかけるのだけが情けではないと言うことだな」

「ああ、男の情けというやつだな」


 ヴィルガルドの言葉にレンヤは涙の籠もった声で言う。しかし、涙の奥に何かが吹っ切れた響きがあるのも事実であった。


「ここまで差を見せつけられれば諦めるしかないよな……」

「そうか……自分なりに答えを出したか」

「ああ……」


 レンヤは静かに目を閉じると再び涙がこぼれた。


 それはヴェルティアへの恋が終わった事を示しているをレンヤもヴィルガルドもわかっていた。

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