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チートを拒否した最強魔術士。転移先で無能扱いされるが最強なので何の問題もなかった  作者: やとぎ


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宣戦布告①

「陛下!!申し上げます!!」


 その日、キラトは愛妻のリネアと朝食をとっていた。そこに武官が駆け込んできたのである。


「どうした?」


 キラトの声はおちつたものである。リネアとの時間を邪魔されたことに対して不愉快な気持ちは当然ながらあるのだが、この武官が朝食の場に駆け込んでくるのは余程のことがあったと察したために咎めるようなことはしない。


「はっ、天界から特使が参っております!!」

「ほう……神が特使をとはな」

「どうするの?」


 リネアの問いかけにキラトはしばし考え、すぐに口を開く


「会おう」


 これがキラトの出した答えである。


「リネアお前も同席してほしい」

「もちろんよ」

「シルヴィス達は同席はしないでもらおう。必要以上に晒す必要はないからな」

「それもそうね。特にレティシアさん達は見せてはダメよね」

「ああ、せっかく相手が知らないのだからここで知らせる必要はないさ」


 キラトの言葉にリネアは頷いた。


「さて、各軍団長、ムルバイズ、ジュリナを招集せよ。全員揃うまで特使は待たせておけ」

「よろしいのですか?」

「ああ、先触れも出さぬような不躾なことをするものだ。こちらも不躾でいこうではないか」

「はっ!!」


 キラトの返答に武官は力強く返答した。


「ああ、そうそう。歓待は不要だ。外で待たせておけ」


 キラトの更なる指示に武官は一礼すると退出していった。


「さて、どんな要件かしらね?」

「普通に考えれば宣戦布告だろうな」

「次点で降伏勧告の申し出かしらね」

「まぁそんなところだろうな」

「和睦だったりして」


 リネアの和睦という意見にキラトは少しばかり考え込む。和睦の申し出など普通に考えてあり得ないのだが、和睦が失敗したのは魔族に責任があるという口実にする可能性があったからだ。


「ありえるな。こちらに戦争の責任をなすりつけるという可能性は十分にある」

「ええ、あいつらの常套手段だものね」

「まったく正義など単なる立場に過ぎないというのに、それによって見下してくるのは度し難いな」

「間違いなく病気よ。正義病とかいう病名をつけた方がいいんじゃないかしら」


 キラトとリネアはそう言って笑うと朝食を再開した。



 * * * * *


「我らを待たせるとは無礼にも程がある!!」

「しかも、外で待てだと!!」

「所詮魔王などと言っても下賤な魔族の王というだけで、下賤は下賤よ」


 特使の三柱の神達は口汚い言葉で魔族達を罵っている。神族特有の傲慢さが滲み出ており、とても尊敬に値するものではない。


 周囲の騎士達は表情を殺し、特使達の暴言を聞いている。神達の暴言を天使達は顔をニヤニヤとしている。強い立場にあるという考えが特使一行の傲慢さを示しているようであった。


「う〜ん、礼儀がなってませんねぇ〜」


 そこに妙に呑気な声が響いた。


 声の主はやはりというかヴェルティアである。


「お姉様、仕方ありません。神というのは元来礼儀作法がなっていないものです」

「そうは言っても神として偉そうに礼儀作法を要求しておきながら自分達はやらないって普通に考えてダメでしょう」

「ヴェスランカ王国の神族達も傲慢だったではないですか」

「そうですか? 私が会いに行った時はとても礼儀正しい方達でしたよ?」

「それは……お姉様が相手だからです」

「な、なんと!! それでは私という偉大な皇女に気後れしたゆえの態度だったわけですね……」

「気後れというよりも怖かったのだと思いますよ」

「そんなに気後れしなくても良かったのですけどねぇ〜偉大すぎる私の高貴なオーラが相手を萎縮させていたとは……くっ!! 反省しなければなりません」


 ヴェルティアとレティシアの会話はどこか認識の違いを感じさせるものであった。


 まずいのは二人の会話が特使の神達に聞こえてしまったことである。


「おい、貴様ら!!」


 特使の一柱がヴェルティア達を怒鳴りつけた。特使に対する無礼を謝罪させるとともに魔族をこき下ろしてやろうと思っている意図がありありとわかる。


「なんですか?」


 対してヴェルティアは首を傾げながら返答する。その声も態度もなぜ怒鳴られたかわかっていないようである。

 ヴェルティアにしてみれば、手出しできない者達を口汚く罵る行為があり得ないことであり、聞こえたならば反省するという考えがあるからだ。


「我らは特使!! その特使である我々を侮辱してタダで済むと思っているのか?」

「特使なのにいきなり来たのですか!?」

「な、なんだと?」

「だって、特使を迎えるために先触れを出すのは常識でしょう?」

「なぜ神族である我々が魔族などに配慮してやらねばならんのだ!!下賤な魔族ごときが調子に乗るな!!」

「ふふん、甘いですねぇ〜」


 特使の言葉にヴェルティアは自信たっぷりに言い放った。あまりにも自信たっぷりなヴェルティアの様子に特使達は怪訝な表情を浮かべた。


「王者たるもの他者の尊厳を尊重するものなのです!! それができないのは小者でしかないのです!!」


 ヴェルティアの言葉に特使が反論しようとしたのであるが、それよりも早くヴェルティアが話を続けた。


「しかも特使というのは自分の陣営の誇りも背負っているのです!! あなた方の行いのせいでここにいる魔族の皆さんは神族というのは単なる無礼者であり、器の小さな種族という位置付けになりましたね!! もうこれは間違いないです。あなた方は神族の名誉を限りなく損なっています!! 反省してください!!」


 ヴェルティアはビシッと特使を指差して言い放った。これはこれで中々無礼な行為なのだが、ヴェルティアとすれば特使の態度に憤っており、こいつに礼儀を守ってやる価値はないと見做しているからである。


「貴様……下賤な魔族風情が」

「ほう……やりますか? いいですよ」


 特使が殺気を放ち出すと、ヴェルティアも殺気を放ち応じた。


「お、おい……この女……」

「あっあの時の女じゃないか」


 随行の天使達がヴェルティアがかつて天界に攻め込んできた一人であることに気づいて一気に顔を青くした。


「どのみち、天界は宣戦布告に来たんでしょうから、今あなた方をここで斃してしまってもなんの問題もありませんからね。やりましょうか!!」


 ヴェルティアがやる気を見せたことに天使達の顔色が一気に土気色となった。


「お姉様、ちょっと待ってください。ここで騒ぎを起こしても無意味です」

「う〜ん、そうですかねぇ? 少なくとも侮辱されていた魔族の皆さんの気は晴れると思いますよ」

「それはそうなんですけど、何というか可哀想じゃないですか?」

「可哀想ですか?」

「ええ、この特使の方々は自分の立場がまったく分かってない愚か者なんです。普通に考えて、歓待されてないということで自分達が招かれざる客であることを察することもできない程度の知性しかないのです。そんな方々にきちんと相手を尊重しなさいなどという高尚なことが理解できるわけないじゃないですか。お姉様は虫に礼儀作法を守れなどと言って無茶を言っているんです」

「あっ!! 何ということでしょう……この私がそんな無茶を言っていたとは!! これは反省せねばなりません!!」


 ヴェルティアは納得したようにうんうんと頷くと特使達にペコリと頭を下げた。


「大変失礼しました。あなた方は正論を受け止めるだけの器量がないことを失念していました!! それなのに私は……私は自分が恥ずかしいです。世の中には器が小さすぎる方々がいるのを失念していました!!」

「そうですよ。お姉様、気をつけてください。世の中にはこういう器の小さすぎる方々が存在しているのですからね」

「そうですね……反省します。それにしてもレティシアは本当に物事をよく見てますねぇ〜偉いです!!」

「えへへ、ありがとうございます」


 ヴェルティアの賛辞にレティシアは嬉しそうに微笑んだ。ここだけみると美少女同士の微笑ましいやりとりなのだが、その前の煽りが苛烈すぎるため、特使達は怒りを爆発させる一歩手前、天使達は顔を青くしてヴェルティアの恐怖に耐えており、なお魔族達は妙に胸がスッとした表情を浮かべていた。


「貴様ら、我らを……侮るのも」

「侮りたくもなるな……このような下品な者共が特使になるのだからな」


 そこに威厳のある声が発せられると魔族達は一斉に跪いた。


「あれ? 玉座で待っていたのではなかったのですか?」


 ヴェルティアが首を傾げながらキラトに尋ねる。


 キラトの後ろにはリネア、ムルバイズ、ジュリナのみならず八体の武官服に身を包んだ者達、文官服に身を包んだ者達が付き従っている。

 どんなに洞察力が皆無の者達であってもキラトの背後にいる者達が只者でないことを察することができるというものであった。


「何、ヴェルティア殿達が面白いことをしているようなので出向いてきたまでのことだ」

「あ〜そうでしたか。やはり私の行動は注目を集めてしまいますねぇ〜うんうん」


 ヴェルティアの返答に魔族一行は口を綻ばせた。


「おい、ヴェルティア。お前、また迷惑をかけてるんんじゃないのか?」


 そこにシルヴィスが転移魔術でやってきた。一拍遅れてからディアーネとユリも姿を現した。


「ひ……あいつらだ」

「間違いない」


 シルヴィス達の姿を見た天使達の顔がさらにこわばった。



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