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天使襲来②

 ズザササササ!!


 シルヴィスに襲いかかった天使が、頭から地面に落ちるとそのまま十歩ほどの距離をこすりながら転がった。


「な、何をやった!?」


 地面に落ちた天使は、呆然としていたが、自分の状況を理解すると怒りの籠もった眼と声をシルヴィスに向けた。


「おやおや、お偉い天使様のくせに何をされたかがわかんないんですか~?」


 シルヴィスの特技の一つは戦う相手を本気で逆上させる態度だ。冷静さを欠いた者は普段出来る事ができなくなる可能性が一気に上がることを知っているからこそ、シルヴィスは行う。

 しかも、言葉だけで良いのだから失敗しても大した問題ではない。


「おのれぇぇ!!」


 天使は立ち上がると一瞬で間合いを詰め袈裟斬りを放つ。


 シルヴィスはそれを躱すのではなく逆に間合いを詰めると、振り下ろそうとした腕を掴むと横にいなし、天使の体勢が崩れた瞬間に逆に腕を極めると天使の体が宙を舞った。


 ドシャッ!!


 天使はまたも頭から落ちてしまう。


 シルヴィスは叩きつけられた天使の頭を容赦なく蹴飛ばした。


 ゴギィィィィ!!


 シルヴィスの蹴りにより天使の首はあり得ない方向へ曲がり、そのまま二十歩ほどの距離を飛び、木の幹にぶつかって止まった。


 シルヴィスは呆然とする他の天使達を無視して幹にぶつかってピクピクとしている天使の元に歩いていくと顔面を踏み抜いた。


「普通に死んだな」


 シルヴィスの淡々とした言葉に、天使達は背筋に氷水を浴びせられたような感覚を持った。


「とりあえず顔面を破壊すれば死ぬと言うことがわかっただけでも情報としての価値はあるな」


シルヴィスはそう言うと残りの天使達に眼を向けた。


「ひっ」


 天使の一体から恐怖の言葉が漏れる。シルヴィスは自分達を使って対天使の戦術を確立させようとしている事を察してしまったのだ。

 実際の命のやりとりの場で戦術の確立を行おうというのは、シルヴィスと自分達にはそれだけの実力差があることを示している。


 少なくともシルヴィスはそう考えており、天使達を脅威と見なしているわけではない。


「ビビるなよ……天使様」


 シルヴィスは言い終わると同時に跳躍し、恐怖を示した天使の懐に潜り込むと貫手で天使の胸を刺し貫いた。


「が……は……」


 シルヴィスは右手を胸から引き抜くとそのまま地面に引きずり落とした。


 天使はピクピクと痙攣している。明らかに致命傷であり、シルヴィスは黙ってその様子を見ている。

 天使の痙攣は収まり、動かなくなる。


「なるほどな。人間と同じか」


 シルヴィスの冷たい声に天使達の恐怖は増すばかりであった。


「さて、お前らは見逃してやる。さっさと失せろ」


 シルヴィスの言葉は天使達にとって到底許すことの出来ない響きが含まれていた。それは人間からの上から目線である。

 神の僕という位置づけでは、天使と人間は同じであるといえる。だが、天使と人間では格というものが違うのだ。人間に哀れみを受け、上から目線で見られるなど、とても許すことは出来ない。


「おのれぇぇぇ!! 人間ごときが!!」


 イセルは抜剣するとシルヴィスへ襲いかかる。イセルに残りの四体の天使も続いた。


 散開しシルヴィスを取り囲むと一斉に斬りかかったのだ。


「バカが……せっかくの好機を……」


 天使の斬撃を紙一重で躱すと天使の顔面に肘を叩き込んだ。歯と血を撒き散らしながら天使が地面に落ちる。


 シルヴィスは構うことなく次の天使に狙いを絞る。またも斬撃を紙一重で躱すと延髄を掴んだ。

 そして次の瞬間、天使は崩れ落ちた。シルヴィスは掌に魔力を集中し放ったのだ。その威力は凄まじく天使の延髄を打ち砕いたのだ。


 ゴギィ!!


 次の天使の首筋にシルヴィスの高速の手刀が直撃すると骨が砕かれた音が周囲に響く。


 ビギィ!!


 四体目の天使右脇腹へ拳を叩くと肋骨の砕ける音が響く。とどめを刺そうとして次の一打を喉へ放とうとした瞬間に、シルヴィスは攻撃を取りやめると後ろに跳躍した。


「がぁ!! イ、イセルさ……ま?」


 天使の胸元から剣の鋒が飛び出ている。シルヴィスが攻撃を止めて後ろに跳んだのはイセルが天使ごとシルヴィスを貫こうとしたのを察したからである。


「ち……よく気づいたな」


 イセルが剣を引き抜くと胸を貫かれた天使は崩れ落ちた。


「貴様!! 自分の部下ごと斬るなんて!!」


 シルヴィスの怒りの声が周囲に響いた。

 

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