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チートを拒否した最強魔術士。転移先で無能扱いされるが最強なので何の問題もなかった  作者: やとぎ


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魔王即位

 ルキナと軍規相ガルエルムの死はその日のうちに、魔族の領域(フェインバイス)にいる者達全てが知る事になる。


 ルキナの魔族達からの支持は絶対的なものであったために、訃報は魔族達にとって悲しみと怒りの感情をまきおこした。

 そして、ルキナの死が神によるものであることが知られると怒りの感情が一気に爆発する事になった。


 特に軍部の怒りは凄まじいものであった。主君である魔王ルキナだけでなく軍規相ガルエルムが暗殺されたという事実は軍に対する侮辱以外の何ものでもなかったのだ。


 新しく魔王となったキラトは戴冠式を目前に控え、静かな沈黙を守っている。


 その態度に魔族達の不満は一気に高まる事になった。


『新しい魔王様は腰抜けだ。自分の親を殺されて報復もしないとは!!』

『腰抜けの日和見主義だ!!』

『情けない。魔王の称号も先代までだ!!』


 日増しに大きくなる批判の言葉にもキラトは沈黙を守る。


 しかし、その批判が全くの的外れであることはキラトの周囲にいる者達が一番理解していた。


 ルキナとガルエルムの国葬が執り行われ悲しみに彩られた葬儀の中にあっても沈黙を守るキラトに対して怒りの声が囁かれた。


 それを背にしたキラトは無表情を貫いている。


 キラトの戴冠式は国葬から二週間という短期間で執り行われる事になった。先代魔王であるルキナ、軍規相ガルエルム、魔族虐殺という天界の行為は明らかな宣戦布告でありそれに対処するためには一刻も早く戴冠式を執り行い、新魔王の元に魔族達は団結する必要があるのだ。


 魔族達、貴族達の間では相変わらずキラトへの不満が勢いを持っていたが、それとは反対に中央官庁、軍部からの不満の声は急速になくなっていった。


 そして戴冠式の日を迎え、厳かな雰囲気の元、戴冠式が執り行われる。


 魔王の戴冠式は先代から冠を授かるのだが、先代が既に亡い場合は、先代に誓いを述べ自ら戴冠する。その誓いはただの誓いではなく破った場合、自らの心臓を刺し貫く刃となり命を奪うのである。


 戴冠式に参列した者達は、キラトが先代ルキナに何を誓うのか冷めた目で見ている。魔族達の不満に一向に答えようとしない弱腰の魔王など評価が下がるというものであった。


「先王ルキナ……私は魔王として民を守り、民達への不当な行為を見逃す事は絶対にしないことをここに誓おう」


 キラトの口から紡ぎ出される誓いの言葉に魔族達は息を飲んだ。キラトがその場凌ぎの言葉を述べているわけでないことが明らかだ。この場で誓った事は取り消すことができない以上、神との戦いをキラトが行うことをすでに決断していることは明らかであったのだ。


 キラトは冠を自らの手で冠ると豪奢な黒いマントをはためかせると戴冠式の参列者へ視線を移した。


「先王ルキナは神シオルとの一騎打ちの結果敗れた……。正々堂々とした立ち会いでありそこに憎しみはない。憎しみという濁った感情であの戦いを穢すことはこの魔王キラトが許さぬ!!」


 キラトの言葉に参列者は知らず知らずのうちに喉を鳴らしていた。自分達が侮った新王は先王ルキナに劣らないほどの覇気を発していたのだ。


「諸君!! 神シオルは報復などではない、決闘をもってこの魔王キラトが討つことを宣言する!! この戦いを邪魔するというものはたとえ誰であっても許さぬ!!」


 キラトの言葉に魔族達は固唾を呑んで見ている。


「だが……」


 ここで一旦キラトが言葉を切ると魔族達はゴクリと喉を鳴らした。


「軍規相ガルエルムを暗殺し力無き者達を虐殺した神の卑劣なやり方をこの魔王キラトは決して許さぬ!! 神ならばどのような非道も許されるというのか!?……そんなことがあってたまるか!! 奴らは決して許されぬことをしたのだ!! 神が正義を語るというのならば我らも正義を語ろうではないか!!」


 キラトの言葉を参列者達は歓喜を表に出さない様に必死に耐えているようであった。


「我らの語るべき正義は一つ!! 神々に愚行の報いをくれてやることだ!!」

『ウォォォォ!!』


 キラトが言い終わると同時に参列者達から咆哮が発せられた。


 その光景をシルヴィス達は感心した表情で眺めていた。


「どうやら上手くいったな」

「そうですねぇ〜危険な方法でしたけど上手くいきましたね」

「不満が最高潮に達していたからな。溜まりに溜まった鬱憤を吐き出させたから参列者達の中でキラトの評価は一気に上がるな」

「う〜ん、しかしキラトさんって準備に時間をきちんとかけますね」

「ああ、正直俺には真似できんな」


 ヴェルティアの言葉にシルヴィスは苦笑しながら言う。


 キラトへの不満を煽ったのは、キラト自身(・・)であった。それに同調した魔族達がキラトへの不満を集中させ、戴冠式でそれを一気に払拭させる方法を取ったのである。

 もちろん、参列者の中にサクラを紛れ込ませており、演説が終わった時は参列者を煽るという仕込みを行なっていたのである。


「確かにすごいですよね」

「最初に自分を下げることで評価を爆上げするのは本当に勇気がいったことだろうよ。失敗すればキラトは多分魔王の座を追われていたかもな」

「でもキラトさんなら長いこと準備してたんじゃないですかね?」

「かもな」

「さて、キラトさんの評価が上がったところで、神達との戦いが本格的に始まりましたね。私たちも何とか協力したいところですね」

「お前は少しばかり抑えろよ」

「はっはっはっ!! 任せてください!! このヴェルティアは空気の読める女なので安心してください!!」


 ヴェルティアの自信たっぷりな宣言にシルヴィス達は微妙な表情を浮かべた。ヴェルティアの力加減ほど当てにならないものはないからだ。


「ま……おめでとうと言っておくか」


 シルヴィスは魔王という重責を背負ったキラトに対して小さく賛辞を送る。その道は決して楽なものではない。その苦労を思えば手放しで賛辞をおくるのは憚れるというものであった。その気持ちが含まれていたからであろうかシルヴィスの賛辞は参列者達の興奮の咆哮にかき消されて誰の耳にも届かなかった。



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