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閑話 ~神の変質~

「ディアンリア」


 その男の声に、ディアンリアと呼ばれた金色の豪奢な髪を持つ美女が顔を強張らせて頭を垂れる。


「申し訳ございません。ヴォルゼイス様、この不始末は必ず我が手で(すす)いで見せます」


 ディアンリアはそう言ってヴォルゼイスの返答を待つ。


「ふ、誤解するな。私は別に怒っているわけではない」

「は?」


 ディアンリアはヴォルゼイスの返答に呆けた声を出した。


「連れてきた四人の内の一人がお前の祝福(ギフト)を拒否するとはな」

「……」

「ふはは、お前の祝福(ギフト)を撥ね除ける者など初めてのこと、今度の玩具(・・)はどう楽しませてくれるのかな」


 ヴォルゼイスはそう言って嗤う。絶対者として神界に君臨するヴォルゼイスの()みは得体の知れない凄みがあった。

 

「ディアンリア」

「はい」

「その者は今どうしている?」

「はっ、エルガルド帝国の皇城から既に脱出しております」

「ほう」

「そして、その際に数名の殺害を行い、皇女へ宣戦布告を行っております」

「宣戦布告だと?」

「はい。一人を操り皇女の暗殺を行ったと、未遂ではありますが、エルガルドの八つ足(アラスベイム)の幹部が死んだとのことです」

「ほう、祝福(ギフト)もないのにやるものだな」

「はい」


 ヴォルゼイスの楽しそうな声とは対照的にディアンリアの声は苦い。ディアンリアにしてみれば祝福(ギフト)を与えた者は、ヴォルゼイスを喜ばせるための玩具である。


 それを拒否したシルヴィスはディアンリアにとって、ヴォルゼイスの玩具たる立場を放棄した不届き者、無責任な者という位置づけであり、到底許すことの出来ない存在なのだ。


「ディアンリア、その者の名は何という?」

「は……シルヴィスでございます」

「そうか……シルヴィスか」


 ヴォルゼイスはニヤリと嗤う。


 ディアンリアは下げた頭の下で口惜しさのために唇を噛んだ。偉大なる主がシルヴィスのような下等生物の名を呼ぶこと自体ディアンリアには許せない。


「ディアンリア、シルヴィスに適度に試練を与えよ」

「承知いたしました。しかし、かの者が試練に耐えきれずに死ぬかも知れませんが」

「それはそれで構わぬ。魔族、人族の戦争(ゲーム)の不確定要素になれればそれでよし、ならぬならならぬで、戦争(ゲーム)に何の支障もない」

「……はい」


 ディアンリアの返答が一拍空いたことに、ヴォルゼイスはニヤリと嗤う。


(これで、ディアンリアはシルヴィスを付け狙うな)


 ヴォルゼイスは、ディアンリアが神族至上主義者であること、ヴォルゼイスに対して病的なほど執着していることを知っている。この二つを上手く刺激すればディアンリアはシルヴィスへの排除に動き出すことは間違いないことは理解していた。


(今度の戦争(ゲーム)では私に届く者はいるかな)


 ヴォルゼイスはそう考える。


 ヴォルゼイスは最初は文明が育っていくのを見るのが楽しかった。泣き、笑いの人の営みの全てが愛しかった。


 文明の営みを手助けし、見守るヴォルゼイスは慈愛の神として尊崇の念を集めていく。


 だが、どのような文明であってもやがて終わりが来る。いくつもの文明が滅んでいくのを見る事に心を痛め。何とか助けようと力を尽くしたが、ヴォルゼイスの力を以てしても救うことはかなわなかった。


 そんな文明の内、一つの文明をヴォルゼイスは過度に保護したことがあった。生きることに必要な事全てを与えた。寿命による死、病、飢餓などの苦しみを排除したのだ。


 だが、それで平穏は訪れなかった。


 死ななくなったその文明では娯楽として殺し合いが始まったのだ。互いに殺し合ったその文明は程なく滅びたが、ヴォルゼイスの心に悲しみと暗い喜びを与えたのだ。


 ヴォルゼイスに命とは滅びるからこそ美しいのではないかという意識が芽生えてしまったのだ。


 滅びを大量に生み出すことの出来る戦争は、ヴォルゼイスにとって人の営みを豊かにするものととらえるようになっていった。


 それが娯楽となっていくことは時間の問題であったのだ。


 ヴォルゼイスの慈愛の微笑みは、永劫の時を経て邪悪なものに変質していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「神格」が「人格」を持ったらもう駄目よ 人間に滅ぼされる末路は確定してる
[一言] この神の言ってることも言いたいことも理解はできる。 まぁだから神に人格なんて持たせちゃダメなんだよなぁと毎回思っております。
[一言] 邪神に成り果てて 主人公に消し飛ばして消えそうなキャラですね 
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