閑話 ~魔王ルキナの不可解な命令~
「これは……」
ルキナは執務室で書類の決済を行なっていると、突如感じた凄まじいばかりの闘気を感じ取った。
「そういうことか……ヴォルゼイスよ」
ルキナは小さく呟くと机の上に置いてあった呼び鈴を鳴らした。すると呼び鈴を聞いた侍従が執務室の扉を開けた。
「お呼びでしょうか?」
恭しく侍従は一礼する。所作の一つ一つが洗練されており、侍従の実力の高さが窺えるというものである。
「キラトとリネアを呼んでくれ。武装してくるように……とな」
「武装……でございますか?」
「ああ、おそらくそう時間はかかるまい」
「この……威圧感に関係しているのでございますか?」
「そうだ」
侍従の言葉にルキナは即答する。ルキナの言葉を受けて侍従は一礼すると踵を返して執務室を早足で出て行った。
(……城の者たちも退避させねばならんか……それとも私が移動した方が良いかな)
ルキナは胸中につぶやいた。
「よし……決めた」
ルキナは微笑を浮かべるとキラト達を待つと程なくキラトとリネアがやってきた。
「親父殿、どうしたんだ?」
キラトは執務室に入ると即座にルキナへと問いかけた。
「ふむ、お前も感じているだろう?」
「ああ、ヴェルティア嬢が何者かと戦っている」
「そう……キラト、リネア。君達二人はヴェルティア嬢への支援に回ってくれ」
「……良いのか?」
ルキナの言葉にキラトは訝しんだ。自分の性格を熟知しているルキナは、止めることも想定していたのに、積極的に支援に行かせようとしていることに何か引っかかるものを感じたのだ。
「ああ、シルヴィス君もヴィルティア嬢達も我ら魔族の……いや、息子の友人を助けに行きたいという気持ちを汲んだのだよ。それで行くのかな?」
ルキナはゆっくりとした口調で問いかける。
「もちろん、行くよ」
「そうか……それではすぐに助けに向かえ」
「親父殿、恩にきる」
キラトはリネアと互いに頷くと踵を返し執務室を出て行こうとするがキラトは立ち止まった。
「親父殿……大丈夫だよな?」
「ああ、何も問題ない」
「戻ったら……ゆっくりと話をしたい」
「……楽しみにしてるよ。もしかして子供ができたとかかな?」
「それはもう少し待ってくれ」
「それは残念だ」
「そう言わないでくれ、子は授かりものさ」
「ああ、そうだな。お前が生まれた時に本当に嬉しかったよ」
「おいおい、なんかジジイめいた事を言い始めたな」
「ははは、年齢的にはその通りさ。まぁそれじゃあ行ってこい」
「じゃあ、行ってくるよ」
「お義父様、行って参ります」
キラトとリネアはそう言うと執務室を出て行った。
二人を見送りルキナは小さく笑う。笑みがおさまるとルキナは呼び鈴を鳴らした。
するとすぐに侍従が現れる。
「お呼びでしょうか?」
「ああ、これから玉座の間に行くから用意を整えてくれ」
「は? 玉座の間でございますか?」
「ああ、少し考え事がしたくてな。私が玉座の間に入ったら、魔煌殿には誰も立ち入らないように徹底させてくれ」
「陛下……一体何を……?」
「これは勅命だよ」
「う、承りました」
ルキナの言葉に侍従はあわてて頷いた。勅命とまで言われてしまえばそうせざるを得ない。
「そうそう……」
ルキナは空間から一枚の紙を取り出すと、文字が浮かび上がり、その紙がふわふわと侍従の手に渡る。
「正式な文書だ。困ったことがあればそれを使え」
「へ、陛下」
侍従の手には先ほどのルキナの命令が書類になったものがあった。それが侍従にはルキナの覚悟を感じ取るには十分すぎることであった。
「陛下、私も側に!!」
「ルゼス、お前は私に長く仕えてくれた。もしもの時にはキラトを支えてくれ」
「陛下!!」
「ルゼス、ついてくることは許さん。お前への次の勅命はキラトを支えることだ」
「……御意」
ルキナの強い言葉にルゼスは唇の端を噛み締め血が流れる。
「お前の忠誠……とても有り難く思うぞ」
「もったいないお言葉でございます」
「ふふ、少し気が早かったな」
ルキナがそう言って立ち上がり玉座の間へと向かって歩き出す。
「行ってらっしゃいませ」
ルゼスは一礼してルキナを見送った。




