暗躍⑥
「待ってくださ〜〜い!!」
シルヴィスの後ろからヴェルティアが大声で呼びながら追って来ている。
「おう」
シルヴィスはわずかに速度を緩めるとヴェルティアは、シルヴィスが二十歩ほど駆けたところで追いついた。
「シルヴィス、スティルさんの居場所がわかるのですか?」
「ああ、正確にはソールの部下達の気配だな」
「え?……あ、本当ですね。あっちですね」
「ああ、ゆっくりと移動してるだろ? おそらくスティルさんをつけてるんだろうな」
「お〜シルヴィス冴えてますね〜」
「もっと褒めろ」
「はい!! シルヴィス!! 素晴らしいです!! 頭が良いです!!」
「ごめん、もういい」
「え〜」
シルヴィスとヴェルティアは駆けながら軽口を叩き合う。この軽い態度は決して事態を甘く見ているわけではない。むしろ精神の均衡を保つための行為である。常に気を張り続けていればやはり消耗するのだ。
シルヴィスは戦闘に不利にならないように色々なところに気を配っている。その一つにすぎない。
「そうそう、シルヴィス。どうしてその方にかけた魔術で毒蟲とかいうハッタリをしたんですか? それに連れて行く理由は何なんです?」
「何だ。やっぱり気付いてたのか? 何も言わなかったから気付いてないと思ってたぞ」
「一応、瘴気とバレないように隠していたみたいですけどこの私の鋭すぎる洞察力の前には無意味なのです!!」
「お〜まさかお前がそのような判断ができるとは思ってなかったぞ。エライなぁ〜」
「ふふふ、そんなに手放しで褒められると照れますねぇ〜」
シルヴィスの言葉にヴェルティアは得意満面という様子であった。素直なヴェルティアの反応にシルヴィスはついつい笑ってしまう。
「まぁ、お前が気付いたようにこいつは瘴気を纏わせて動きを封じてる。もちろん最初は他の連中に対する脅しだったんだけど、ソールに対して意趣返しをしようと思ってな」
「また、何か性悪な事を考えてるんですね〜」
「まぁな(お前の爆走に巻き込まれる方も大概、災難だがな)」
シルヴィスは簡潔に返答するが心の中では盛大にツッコミを入れていた。ヴェルティアは直線的に敵を粉砕する。そうするだけの実力がヴェルティアには備わっているのである。
シルヴィスとヴェルティアの敵にしてみれば、様々な手により潰されるのと正面から吹き飛ばされるの違いがあるだけで、自分達が敗れることに違いはないのだ。
「とりあえず、スティルさんを助けないとな。軍規相と違い軍団長となれば武官と考えられるから、こいつら以上の手練れが襲撃してるかもしれない」
「そうですね。そう考えるのが自然ですね。でもスティルさんってムルバイズさんんの息子さんで、ジュリナさんのお父さんですよね。となると魔術師タイプかもしれませんね」
「ああ、あり得るな」
シルヴィスがムルバイズという賢者然とした雰囲気とジュリナの魔術師としての実力を考えると魔術師としての素養を考えてしまうのも当然であろう。
「ディアーネとユリも追って来てますが、追いつけないみたいですね」
「お前が速すぎるんだよ」
「シルヴィスも私のことは言えないと思いますよ」
ヴェルティアの抗議の言葉をシルヴィスはさりげなく無視した。
「あ!! そうだ!!」
ヴェルティアが何かを思いついたように言うと即座に実行に移した。
ヴェルティアがやったことは殺気を襲撃者へ放ったのだ。ヴェルティアにしてみれば襲撃者が動揺すれば良し、スティルが気付けば注意喚起になるという考えから行ったのだ。
結果的にこれがスティルの助けになるのだった。




