もたらされた情報③
「シオルは千年ほど前にある人間の娘と恋に落ちた。娘は平民でな特に障害もなく二人は結ばれた」
「許されざる恋路ではなかったとくわけですね」
「ああ、二人は仲むつまじく暮らしていたな」
ルキナの話に女性陣は目を輝かせて聞いていた。リネア達が恋の話に興味があるのは、シルヴィスとヴェルティアの仲をいじることからも容易に想像がつくというものだ。
「ほ~神様と人間の種族の垣根を越えた愛というのも中々尊いものですよね。でも大抵異種族間の恋愛というのは悲恋として終わることが多いですよね」
ヴェルティアの言葉にルキナは小さく頷いた。
「そう。神と人間との間には寿命というどうしようもない壁がある。だが、二人には限られた時間の中でも共に生きようとしたわけだ」
「それに余計な邪魔をしたのはヴォルゼイスですか?」
シルヴィスの問いかけにルキナは首を横に振ることで否定した。
「いや、ヴォルゼイスはシオルとその娘を祝福していたよ。短い時間だが共に幸せに暮らすように地上での生活を許していた」
「意外ですね。神達の価値観なら人間との恋愛なんて認めないと言い出す連中がいそうなんですけどね」
「実際にそういう連中はいたらしいけど、シオルに反抗するだけの気概を持つ者はいない。ヴォルゼイスに至っては反対どころか賛成していたよ」
「なるほど、そこまで揃えばまず異を唱えることは出来ませんね」
「ああ、シオルと娘の間には、男の子が生まれた」
ルキナはそういうと遠い目をした。
(ん? なんだ……この表情は?)
シルヴィスはルキナの表情に悔恨の念がふくまれているのを感じた。
(魔王はシオルと何かしら因縁があるようだな。そう考えれば事情に詳しすぎる)
シルヴィスはルキナの話からそう予測する。シルヴィスの思考を読んだかのようにルキナは苦笑いを浮かべた。
「君の予想通りだよ。私とシオルには多少の因縁がある。子供が生まれてしばらくして、魔族と神族との戦いは激化していった。魔族と神族は世界の至る所で戦いを行っていったんだ。そんな殺し合いがシオル達の暮らす村の近くで行われたんだよ」
「それに魔王様は参加してたわけですね」
シルヴィスの問いかけにルキナは頷く。
「そういうことだ。我々と神族は激しくぶつかってね。両軍ともに凄まじい死傷者が出たよ。そんな激戦だったからね近隣の村々も戦いに巻き込まれた。当然シオルはそれを黙っているような男じゃないからね。妻子を守るために剣を取ったんだ」
「シオルレベルを押さえ込めるのは……」
「そう、私だ。シオルと私は激しく戦った。他のことに気を配ることなど出来るわけない程だったな。当然だが私とシオルが戦っている間も他の者達は戦い続けていた。その戦いの中でシオルの妻は……死んだ」
ルキナの言葉に全員が息を呑む。シオルの怒りの大きさを予感したからだ。
「誰が殺したかはわからない。運悪く流れ矢に当たってしまったからね」
「その時に赤ん坊も……死んでしまったんですか?」
「いや……シオルの子は死んではいない。行方不明になったんだ」
「誰が連れ去ったんです?」
シルヴィスの問いかけにルキナは首を振る。
「シオルの子は母親が息絶えたときに大声で泣き叫ぶと強烈な光を放ち光が消えるのと同時に姿を消していたんだ」
「神の仕業……ですか?」
シルヴィスの声に嫌悪感が含まれた。神と人間の混血児を良く思わない者が、最大の障壁であるシオルが邪魔できない状況を放っておくとは思えなかったからだ。
「いや……それはない」
「どうして断言できるんです?」
「強烈な光のために私とシオルの戦いも中断されてね。その時に赤ん坊が他の者達に干渉された形跡はなかった」
「え?」
「干渉はなかったんだよ」
ルキナの言葉にシルヴィスは一つの考えが頭に浮かんだ。そして、同様にヴェルティアも答えを思いついたようであった。
「あっ!! 赤ん坊が命の危機に自力で逃げたんですね!!」
「私はそう思っている。あの光は間違いなく赤ん坊の力だった」
「おお~赤ん坊の時からそんな事が出来るなんて将来有望ですねぇ~」
ヴェルティアの称賛にシルヴィスはため息混じりに言う。
「お前な、流石に千年前なんだから寿命が尽きて死んでるんじゃないか?」
「わかりませんよ。神様との混血児なんですから寿命も人間の常識ではないんじゃないですか?」
「う……そう言われれば」
「でしょう!! 千年生きていても……あっ!!」
ヴェルティアが何かに気づいてルキナに視線を移すとルキナは頷いた。
「そう。シオルはそこに望みを持っている。だから、シオルは息子を探し続けてるんだ」
「千年も……ですか」
シルヴィスの声にルキナは頷いた。




