9. 槌 と 電子レンジ
目の前の不思議な電子レンジに何かしらの回答を見出そうとするが、互いに答えが出せず、答え合わせをする為に与一のカースから異能の詳細を見る事となった。
『”カース”って言えば武器と異能の詳細が確認できるわよ』
「…【カース】……」
俺がボソッと呟くと、右腕にある交差している槌の痣から、ブォォンと言う不思議な低い音と共に俺の目の前へとホログラムが飛び出して現れた。
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上代 与一 (24)
階位:1
パラレル:槌(上代 夜市)
ジョブ:ブラックスミス
ランク:クラウン
カース: ★★★★★
─納刀─
【バースト】(パッシブ)
【記憶】(アクティブ)
【換装】(アクティブ)
─抜刀─
【アタノール】(アクティブ)
【倉庫】(アクティブ)
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『「…………」』
異能を確認した俺と夜市は、何故か互いに無言となった。
と言うのも、納刀の異能もそうだが、抜刀の異能の意味が全く分からなかった。
ってか、カースって異能って事?
呪いの間違いだろコレ……
「おい。なにコレ?記憶とか、倉庫って一体なんなんだよ?しかもアタノールって何?」
『さ、さぁ……私に言われても……私は武器になって貴方が得た異能を発現させる為の媒介でしかないから……そ、そんなの私に分かる訳ないじゃないのよ…… と、とにかく! そこに表示されている異能の箇所に触れて、とりあえず詳細を確認して見てよ』
詳細… 確認できるのかよ……
俺は目の前に現れているホログラムの異能の箇所へと上から順に”納刀”の項目タップする。
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【バースト】(パッシブ)
・パラレルの威力を底上げする
【記憶】(アクティブ)
・作成した武器を記憶させる
【換装】(アクティブ)
・記憶させた武器をパラレルへと換装する
──────
全く意味がわからん……
かろうじて【バースト】はなんとなく分かる。
記載通り、武器の威力が上がるって事なんだろうが…
【記憶】に説明がある、作成した武器を記憶させるってどう言うこと?
まさか… 俺は武器をイチから作るとこから始めなきゃならないのか?
って言うか、武器を作って記憶させなければ、【換装】って使う用途がなくねぇか?
「…おい。 説明の説明を求める」
『そのセリフ、そのまま返すわ』
『「…………」』
俺と夜市は再度無言となる。
次にメインとなる”抜刀”の詳細をタップする。
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【アタノール】
─左扉─
・精製、製造、抽出
素材の精製、武器の製造、スキルやエレメントの抽出を行う
─右扉─
・強化、突破、付与
作成した武器の強化と突破、武器へと抽出したスキルやエレメントの付与を行う
【倉庫】
・プライベートダンジョンの倉庫と繋がっている。倉庫からの取り出しや保管ができる
──────
『「…………」』
もう、このおかしな内容にどうきり出して良いのか分からない。
本当に俺にイチから武器を作れってことなのか?
俺に武器をDIYしろって言ってんのか?
そんで、それ使って俺に戦えって事なのか?
どんな無茶振りだよ……
こんなの、の○ぽさんやワ○ワクさんでも無理だろ……
『ごめん…なんて言って良いのか、ホント…ごめん…』
「いや、なんか、俺の方こそ、さっきはクソゲー作ったやつを殴り行くとかって大きい事言ってごめん…… ここ出たら、さっさとどっかのチームかなんかに大人しく保護してもらうわ……」
戦いの渦中の真っ只中にこの身を投げ出されたと言うのに、俺にのんびりとイチから武器を作れと言っている様な、クソみたいに偏りすぎているイカれた異能の構成。
今すぐに使えそうなのがバーストと倉庫のみ。
ってか、俺の武器は“武器”って事で本当にあってんだよな?
柄の長いハンマーだけど、武器なんだよな?
俺がこの偏りまくっている酷い異能で、どうやって人様の役に立てるだろうかと、ここを出た後の事を真剣に考え始めていると、急に電子レンジの左扉が勝手に開きだした。
『「え?」』
俺と夜市は訳が分からないと言う声が自然と漏れ、俺達の存在を無視するかの様に開いた左扉が勢いよく何かを吸い込み始めた。
「ズゴォォォォォォォ」と言う、まるで掃除機の様な音を立てながら唸る電子レンジの左扉は、俺が倒した白い獣を勢いよく吸い込み始める。
そんな小さな扉に、そんな巨体がどうやったら入るんだよと突っ込もうかと思ったが、小さな左扉は綺麗さっぱり首が吹き飛んだ獣を吸い込んで自動的に扉を閉めた。
ガチャン
そして、ヴゥゥゥーンと軽く唸った後、数秒後に電子レンジの加熱終了を知らせる音と同じ様な「チーン」という腑抜けた音が鳴り響く。
「『…………』」
この場にそぐわない、あまりにもシュールすぎる音と、いきなり動き出した電子レンジに対し、俺と夜市は再度無言となるが、俺は沈黙を破るかの様に夜市へと尋ねる。
「おまえ、何かしたか?」
『いや……アンタこそ何したのよ?』
っていうか、「チーン」って鳴ったって事は、何かが終了した、若しくはできたって事だよな?
俺は恐る恐る獣を吸い込んで閉じられた方の扉を開く。
「……なんだこりゃ……」
俺が扉を開くと、そこには白いビー玉の様なものがあった。
「玉が出来上がっているぞ」
俺は中から玉を取り出して掌の上に乗せる。
サイズは直径1cm程で、ツルッツルの真っ白な球体である。
ビー玉か?と聞かれれば、100人中100人がビー玉と答えるであろうソレ。
俺が、コレをどうすれば良いんだよと思いながら電子レンジを見つめていると、レンジにあるボタンがチカチカと光った。
「んん?」
チカチカ光るボタンに気が付き、俺が2つの扉がある不思議なレンジをよく見ると、左の扉の上にあるボタンがチカチカと光って点滅している。
左扉の上にあるボタンは、左から順に【精製】【製造】【抽出】であり、その内の【製造】のボタンが光っていた。
不意にボタンから扉へと視線を移すと、左扉に文字が浮き上がっていた。
──────
【製造可能武器】
・ホワイトウルフナイフ
【抽出可能スキル】
・ファング
──────
「なんてこった……」
左の扉へと記載されている文字を見た俺は、無意識の内に語彙力が全く無いアホみたいな言葉を呟いていた。
『嘘でしょ!?』
それは夜市も同じだったらしく、初めて自身へと転換した異能の概要を知った、いや、知ってしまったという様な驚き様だった。
「かかかかかか、簡単に武器が作れるぞコレ!?」
『そそそそそそ、そんな事より、ススススス、スキルよ!?』
与一と夜市の驚いている箇所は全く違っていたが、2人はこの異能の凄さを理解し始めたのであった。
「と、とりあえず!武器を作ってみるぞ!」
『え?何言ってんのよ!?スキルが先に決まってるでしょ!』
ここでも与一と夜市の意見は食い違った。
「いや!俺はなんとなく分かったぞ!ここで得られるスキルは、武器にしか付与できないとみた!でないと、この右の扉にある【付与】ってボタンの説明がつかない!って事で、先ずはベースとなる武器を作る必用があるのではないだろうか!」
与一は少し興奮気味に鼻息を荒くしながら力説する。
ってか、なんで俺はこうもこのイカれた状況に順応し始めてんだ?
『まぁ、確かに。 あんたの言っている事は理に適ってるわね… それじゃ、先ずは武器を作成して見てよ。私もどんなの武器ができるか見てみたいわ』
「あぁ。そんじゃやるぞ?」
俺は掌の上にある玉を左扉へと入れ、少し震える指で【製造】と言うボタンを押す。
ポチっ
俺がボタンを押すと、再度、電子レンジがヴゥゥゥンンと起動し、数十秒後にチーンと言う音を鳴らした後に動きを止めた。
『できたの?』
「……ポいな」
俺は恐る恐ると言った感じで、動きを止めた電子レンジの左扉を開けた。
すると、開いた扉から、ペッと吐き出される様に白い両刃のサバイバルナイフの様なものが地面へと姿を表した。
「ナイフが出て来たぞ……」
『ナイフが出て来たわね……』
俺達は、いとも簡単に作りだされた武器に対し、思考が停止した。