表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラレル 狩られる ルルルルル〜  作者: だる飯あん
始まり
7/20

7. 異能 と 呪い

俺が槌を握り、獣へと力の籠もった視線を向けると、獣は、一瞬、俺を警戒するが、それ以上に俺を食いたいと言う欲求を抑えられないのか、涎をダラダラと垂らしながら体重を後ろ足へとかける。


先ほども見た、獣が突っ込んでくる前の動作を確認した俺は、左足を前に出し、眼前の槌を右下へと構え、迎撃の体勢を取る。


俺が身体を動かすと同時に、獣が後ろ足で力強く地を蹴り、大きく顎門を開けながら俺へと飛びかかって来た。


眼前へと迫る大きく開いた顎門を見た俺は、さっき腕を食われかけた記憶が蘇り、槌を頭上へと横に構えて受けようとするが、


『今よ!横から思いっきり叩いてブチノメすのよ!!』


頭の中で響く、どこか安心できる指示によって俺の怯えた思考はキャンセルされ、反射的に右から左へと槌を薙ぐ。


「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


俺が勢いで薙いだ槌は、顎門を開けて迫りくる獣の横っ面へとクリーンヒットし、獣は涎を撒き散らしながら俺の左側へと盛大に吹っ飛んで行った。


俺は激しく吹き飛んで行った獣の姿に驚くが、それ以上にスマホや脚で蹴った時とは比べ物にならないくらいの軽さと手応えを感じ、吹き飛んで無残に地面へと横たわっている獣へと呆然として呆けた顔を向ける。


『走って!トドメよ!』


呆けていた俺は女性の声によって思考が戻り、言われるままに獣の下へと向かって走り出す。




軽い。


足が軽い。


まるで、飛んでいる様だ。



走っている俺の足取りはとても軽く、それ以上に、一歩一歩の速度や地面への蹴り込みが上がっている様に感じ、たった数歩で獣の側へと近く。


『今よ!上に飛んで!』


女性に言われるままに走っている最中に獣へと向かって飛び上がる。


『そのまま叩き潰す!!』


空中で上段へと構え直した槌は、重力にしたがって獣の顔面へと勢いよく振り下ろされる。




ドォォォォォォォォォオオン!!




俺の振り下ろした槌は、ボーリングの球が地面へと落ちた時の様な重い音を立てながら獣の顔面へと叩きつけられ、同時に獣の首から上が弾け飛ぶ。



アレだけの勢いで叩きつけられた槌は、細い柄が曲がる事もなく俺の両手から真っ直ぐな状態で地面へと伸びており、俺の手や腕は何事もなかったかの様に痺れも痛みも全く感じなかった。


獣の頭が弾け飛んで数秒後、またしても音もなく壁へと大きな穴が出現してた。


ソレを見た俺はトラウマが蘇って来たかの様に構えるが、そんなのはお構いなしと言わんばかりに、俺は再び三半規管を激しく揺らされる様な酷い酔いに襲われた。



「ウップ……オ”エ”ェ”ェ”ェ”ェ”ェ”ェ”──」



さっきの酔いを経験していた為か、今回は決心と言うか心構えがあった為、さっきよりは酷い醜態は晒さなかったのだが、地面へと両手両膝をついて盛大に胃液を吐き出した。


『…階位が上がったのね……階位が上がると身体が造り変えられるから、その副作用で酷く酔うのよね……まぁ、ソレもその内に慣れてくるわ…』


女性が俺の今の現状について説明してくれているが、頭の中がグルグルしまくっている俺には、右から左で何も頭に入ってこなかった。


数分後、なんとか酔いが治った俺は、顔を青白くさせてその場で横になった。


『それじゃ、色々と説明するから、【転換】を解除して』


俺が復活するのを待っていたのか、女性は俺が落ち着いたと同時に次の指示を出してきた。


「解除?一体、どうすれば……」


『そのまんまよ。私を元の姿に戻すって事を思い浮かべればいいのよ』


とりあえず、うる覚えだが、先ほどの女性の姿を思い浮かべながら俺はなんとなく呟いた。


「解除…」


すると、俺の手を離れていた槌がピンと柄を軸にして立ち上がり、瞬時に先ほどの女性の姿へと変わった。


「ふぅ。まさか、私が星5のクラウンになるとは思わなかったわ……」


女性は姿が戻るなり、驚いた様な表情で小言を言い出した。


「あ、あの……貴女は一体誰で、なんで俺はこんな意味が分からない酷い目にあってるんですか……」


与一は、ゆっくりと起き上がって胡座で座り、青ざめた表情からだんだんと戻りつつある顔を女性へと向けた。


「う〜ん。先ずは、此処に来た経緯から話した方が良いわね……貴方は資格を得た為に此処へ来たのよ」


「…………」


資格とか全く意味が分からん。


俺はこんな資格を欲した覚えも得た覚えも全く無い。


俺は理不尽で意味の分からない事に怒りを感じつつも、女性の話を黙って聞いた。






俺は、コインを拾った事で資格を得た。


このコインは、この世界の何処にでも落ちていて、機会があれば誰でも手に入れる事ができる。


まぁ、其れ程数は多くは無いらしいが。


そして、その資格たるコインを手に入れてしまった者は、ドッペルゲンガーと言う現象に襲われる。


女性が言うには、ドッペルゲンガーは”事象”ではなく”現象”とのこと。


よく、ドッペルゲンガーを見た者は、死んだり、姿を消すと言う事をオカルト雑誌や怪しいネットなどで言われているが、それは半分正しくて、半分間違っているらしい。


ドッペルゲンガーは、資格を得た者達へと選択を与える為の現象である。


資格を得てドッペルゲンガーを見た者達は、ここ、”選択の場”へと飛ばされる。


それが、ドッペルゲンガーをみて姿を消すと言うやつで、所謂、神隠しらしい。


資格を得て”選択の場”へと来た者達は、その名の通りここでとある選択をする事になる。




─人間を辞めるか、




─そうでないか、




だ。


俺のポケットにも入っていた様なリストバンド ─女性は”カース”と呼んでいる─ を装着すると、エクリプスに登録され、選択肢が現れる。


ここで”No”を選択すれば、ここでの記憶を消され元の世界へと戻れるが、2度と資格は得られなくなる。


”Yes”を選択すれば、拾った資格 ─コイン─ に記載がある力を得て、エクリプスへと参戦する事になる。


拾うコインは完全ランダムで、1人1枚しか利用することができない。


人間は、人生の中で何度も、何種類ものコインを見ては見逃し、コインの存在に気付かずに過ごしている人が大半だと言う。


それで、もし、この場で選択をしなかった場合、選択をするまで、この”選択の場”へと一生閉じ込められてしまうらしい。


これが神隠しの真相だ。


俺の様に選択をしないで先へと進んでしまうと、中途半端に解放されたシステムによってモンスターと戦う事になってしまい、ほとんどが命を落とすと言う。


俺の様に選択をしないでモンスターを倒し、無能でステージを進める様な者は稀すぎると言われた。


ここへと来た者の大半は“No”を選択して記憶を消されて元の生活へと戻るのだが、“Yes”を選択した場合は能力を得てイクリプスへと参戦となり、何も選択をしなかった場合はここから出られずに死ぬらしい。


だからオカルトでは、ドッペルゲンガーに合えば、死ぬ、神隠しにあう、数日後に死ぬ、と言った事が言われているのだとか……


死ぬや、神隠しにあうのは分かるが、数日後に死ぬってどう言う事だよって質問したら、



─イクリプスに参戦し、その戦いで死んだ─



と言う最悪な未来を平然と言ってきやがった。


”No”以外は死ぬ設定とか、マジで理不尽すぎるぞ……



そんな訳で、俺はとりあえず、どうにかまだ生きている訳だが、どうやら俺はそのイクリプスと言うヤツに参戦してしまっているらしい。


ここを出た瞬間からスタートらしく、”Yes”を選択した今、ここは”選択の場”から”プライベートダンジョン”に変わったとの事。


この”プライベートダンジョン”ではモンスターを倒して”階位”を上げる事により、身体能力を向上させる事ができるらしい。




所謂、修行の場みたいな感じか?




しかし、指定のモンスターを倒さなければ次のステージへと進む事ができないらしく、そう、ホイホイと階位を上げられるものでは無いとの事。


階位が1上がる度に、他の平行世界の自分を吸収し、その分、オリジナルの力が上がる。


一体、どれくらい階位を上げる事ができるのかと聞いたところ、ステージモンスターを倒し続ければ倒した分だけ、無限に階位が上がるらしい。


現在のレコード記録は、階位53だとかで、その人は今もイクリプスを現役で戦っているらしい。




階位53って事は、53もの並行世界を吸収したって事だよな……


一体、どんな化け物だよ……




また、イクリプスに参戦したプチ特典として、参戦者は、この”プライベートダンジョン”でモンスターを倒す度に、お金を得る事ができるらしい。


1stステージのモンスターで10万円。


ステージが1上がる毎に10万プラス。




…ステージ数カケル10万って事か…




参加者の平均ステージは大体10前後で、同じく階位も10前後。




って事は、ステージ10まで行けば、550万円は稼げるって事になるのか?




─しかし、ステージに挑戦して得られるお金は1度のみ─




命張って550万しか得られないとか、クソかよ。


しかも一回のみって…




って俺が思っていると、この試練の穴の横には試練で倒したモンスターが沸き続ける“狩り場”と言う場所があるらしい。


しかし、狩り場で得られる金額は、ステージモンスターの100分の1。


1stステージのモンスタだと1体1,000円。

2ndステージのモンスターだと1体2,000円。


狩り場では、一度倒したステージモンスターを指定して自由に選ぶ事ができ、好きなモンスターを延々狩り続ける事が出来るらしい。




どんだけ稼げるんだよ……




少しブルジョワな未来が見えたかと思ったが、派手にお金を使っていると、他のプレイヤーに見つかる恐れがある為、派手にお金を使う者は少ないと言う。


なんせ、負ければ死が待っている。


そんなんじゃ、このイクリプスってゲームは成立しないだろ?って質問したら、驚きの回答が返って来た。


1ヶ月に一回、500万円をイクリプスに納金しなければ死亡。


納金せずとも、プレイヤーを1人倒せば納金を免除されて死の回避ができる。




死を回避する為に死地に赴くってどう言う事だよ…


そんなんだから、必然的にステージ10へと行って階位を上げて、修練の場で1体1万のモンスターを500体、1日当たり約17体のモンスターを狩るのが、無理の無い平均的な数字になっているんだろうな……


ステージを上げ続ければ、もっと楽になるかもだが……


無理無くステージ10で留まって、納金しながら少ない金を稼いで満足するか、リスクを承知で他のプレイヤーを倒して大金を得るか、と言うのが一般的なプレイヤーの行動らしいな…


お金を持っていても派手に使えばプレイヤーだと言う事がバレるし、積極的にプレイヤーを狩ろうにも、返り討ちにあったら死ぬし、なんて微妙なクソゲーなんだ……




しかも、ステージが上がれば上がる程、モンスターは強くなり、それを突破できなければ次のステージへは進めない。


他のプレイヤーにどんな能力があるのかは分からないが、やっぱりステージ10前後が人としての天井なのだろうか?




ってか、人間辞めてるにも関わらず、軽く天井が見えてるとかどんなクソゲーなんだよ…


ソレを考えると、階位53のやつとか、ガチで人間辞めてるだろ……




そんじゃ、細々と納金し続けていればいいな、と考えていた俺の考えは甘く、60日に1人、プレイヤーを倒さなければ失格となり、これまた死亡。




どうやっても戦闘をさせたいらしい……


俺が思ってた以上にデスゲームすぎるだろ……


2ヶ月に1人とかどうやって見つけるんだよ、って思っていたら、プレイヤーはカースを得た日から60日周期というものがあるらしい。


しかも、周期の最後の10日間はキル日と言う、意味の分からない設定があり、キル日が訪れたプレイヤーは、自身のカースへと近場にいるプレイヤーの居場所が現れると言う謎の親切設定。


と、一瞬思ったが、裏を返すと、人それぞれキル日が違うため、実質、毎日の様に誰かに自分の居場所がバレていると言う鬼畜設定……


俺が考えていたお金を派手に使わずに身を潜めると言う事も無理と言う事が分かった瞬間だった……




キル日を駆使し、60日周期のデッドラインギリギリでプレイヤーを倒しながらコソコソと逃げ続けるか、バッサリと開き直って積極的にプレイヤーを倒し続けるしかない状態。




マジで カース(呪い) だな……


あの時、”No”を選択しなかった自分が本当に恨めしい……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ