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パラレル 狩られる ルルルルル〜  作者: だる飯あん
始まり
2/20

2. コイン と 影

今、俺は、目の前に居る、自身へと死を齎すかもしれないソレから視線を外せずにいる。


バクバクと煩いくらいに激しく波打つ鼓動。


フッフッと必死で酸素を取り込もうと荒れ狂う短い呼吸。


そんな自身の異常な身体の状態すらも気に留める余裕がない程に、目の前にいるソレの一挙手一投足を見逃すまいと、俺はソレを必死に見続ける。





─脚はもう動かない。


─腕も上がらない。



俺は腕や脚へと酷い傷を負ってしまい、これ以上、ソレから逃げる事も、多くを考える事ももうできない…



ギラつくソレの目には知性の光というものは全く感じられない。


目の前にいるソレは、これ見よがしに大きく顎門を開けて涎を垂らし、俺を早く食いたいとばかりに異様に目をギラつかせる。


ソレが持ち合わせている感情や思考は、ただ単純に俺を喰いたいという欲望だけで動いている様だ。




背中に感じる、冷たく、薄く、青く光る壁。


掌に感じる、ゴツゴツとした湿った地面。


眼前のソレは、俺の味を覚えたのか知らないが、涎を垂らし、イカれた目つきでただジィっとモノ欲しそうに俺を見つめる。




そして……




─相も変わらず、目の前にチラつくイカれた文字─





─今日は本当に最悪だ─





あの時こうしていれば


あの時ああしていれば


あの時…………


あの時………


あの時……


………


……




“あの時”と言う言葉を何度思い、繰り返したか分からない程に─


─後悔を多分に含んだ感情が延々と湧き上がる。















─時間は少し遡る─


そんな不思議な夢を見た日の夜。


仕事からの帰り道はすっかり帳が降りて真っ暗になっており、家路への帰路の途中にある公園の入り口では、自販機が変わりなく周りを明るく照らして自己主張しているといった、いつもと変わらない日常の光景が見れた。


疲れきった俺の身体は糖分を欲しており、俺はいつもの様に自身の疲れた身体や頭へと”お疲れ様”と労うかの様に、甘味を購入する為に公園の自販機へと足を向ける。


薄暗い公園の横にある自販機は、まるで、”おかえり、今日も頑張ったね”と疲れきった俺を出迎えてくれているかの様に、暗がりを照らしながらその存在をアピールしている。


生きる為に仕事をし、仕事をする為に生きている訳ではない俺。


社会人と言う意味の分からないカテゴリーに括られ、縛られ、勝手に義務を背負わされている事に酷く疲れ切っている。


上でのさばっている老害共は、”社会人なんだろ?”や、”社会人の常識だろ?”から始まり、皆が皆、二言めには”社会人”と言う言葉の意味も分からずに多用してくる。


部下や他人に責任を押し付けておいて、一体どの口が言ってんだよ──



──クソ老害共が



って言うか、社会人ってなんだ?


一体、何処の誰が作った言葉なんだ?



”社会人の定義”をネットで調べても、出てくる内容は曖昧。




そんな、”社会人”と言う、曖昧でクソみたいな”洗脳”や”刷り込み”




どうせなら、何処かの秘境に住んでいる民族や部族、昔の人達の様に、”成人”と言う言葉で括ってくれれば諦めがつく……




ってか、”社会人”ってマジでなんだよ?




まるで──




──人を縛る呪いだな……




と、いつも思っている愚痴を考えながらズボンのポケットへと手を突っ込んで小銭を出したところ、俺の手から小銭が転がって自販機の下へと転がり込んだ。


「ウゲぇ…」


俺は疲れのせいか、それとも考え事をしていたせいか、反射的に動けずに自販機の下へと転がり込んだ小銭を心底面倒臭そうに目で追い続けた。


「マジかよ…」


転がり込んで行ったのが1番大きな金額の小銭だった為、俺は自販機の下をスマホの画面で明るく照らし、面倒臭そうに地べたを這って顔を近づける。


割と近くで止まっていたのか、転がり込んだ小銭は直ぐに取る事が出来そうであり、しかも、転がり込んだ小銭の近くにはもう一つの小銭らしき影があった。


俺は自分の落とした小銭と一緒に、もう一つの小銭らしき影も一緒に纏めて掴み取って腕を自販機の下から引き抜く。


自販機の下から引き抜いた俺の掌の中には、2枚の小銭の感触があり、俺はこの小さな幸せを喜んだ。


「ウハっ。これは、損して得取れってヤツか」


嬉しくなった俺が掌を広げると、そこにはいつも見慣れた自販機の下へと転がって行った小銭と、鈍く金色に輝く不思議なコインが掌の中にあった。


「なんだコレ?」


サイズ的には拾い上げた500円と同じ大きさであり、コインの片面には、中心の王冠を囲む様に5つの星が描かれ、反対の面には交差している槌の様な絵が描かれていた。


俺は、まるで玩具の様な見た目のホコリが付いているコインの表面を指の腹で拭いながらマジマジと見た後、自然と横の公園内へと首を向け、どこかの子供が落とした物だろうと考えるが、手にしている質感と言い、匂いや重さと言い、鉛や鉄臭い玩具ではなく、コレは本物の金でできているのでは?となんとなく感じてしまった。


「なんか、デザインはアレだが……本物の金っぽく感じるな……」


玩具の様な見た目のコインを手にしている俺は、何故か捨てるに捨てきれず、そのままスラックスのポケットへと仕舞い、当初の目的であったジュースを購入して公園の中にあるベンチへと腰を下ろす。


カシュっと言う音を立てて缶のプルタブをあけ、真っ黒な企業で働いた後の疲れきった身体へと染み渡る甘さを、「ぷはぁ〜」と言う漏れ出た感情と一緒に全身で噛み締めていると、フトさっきのコインを思い出してポケットから取り出した。


「一体、なんなんだろうなこのコイン……アニメか何かの限定品やノベルティか何かか?」


親指と人差し指でコインの縁を掴み、薄暗い街灯へと翳す様に見ているコインは、見れば見るほど不思議な雰囲気を持っており、玩具やゲームセンターのコインとは違って、明らかに別物な質感だった。


コインの表には、まるで、何かの魔法陣を思わせる様な図形や見た事もない様な言語が縁をぐるっと囲む様に描かれており、その不思議な文字のせいなのかおかげなのか、中心に描かれている交差している槌の様な絵が際立たされて目立っていた。


コインを裏返し、裏側の5つの星と王冠が描かれている部分を再度マジマジとよく見ると、星や王冠と言った、色々とゴチャゴチャしたデザインに対し、俺は、「やっぱりコレは何かの玩具の類いだろう」と思い、ピンっと親指でコインを上空へと弾き、クルクルと回転するコインを横から薙ぐ様にキャッチする。


「そんじゃ、帰るか」


キャッチしたコインを掌の中で確かめながらスラックスのポケットへと仕舞い込んで、ゆっくりとジュースを飲み終えた俺は、公園から歩いて5分程にあるアパートへと足を向ける為にベンチを立ち上がる。


ゆっくりとした足取りで公園を出ようとしたところ、先ほど、俺がジュースを買った自販機の前に人影があった。


いつもなら、こんな夜遅くの公園になんて全く誰も居ないのだが、俺は少し不思議に思いながらも自販機の前にいる人とすれ違う様に公園を出ようとした瞬間、不意にその人と目が合ってしまった。




!?




俺と目があったその人は、髪型や顔、身長や服装と言った何もかもが俺そっくりであり、まるで鏡で自分の姿を見ているかの様に、俺と目線を逸らすことなく、ジィィィーっと視線を合わせ続けている。


夜もだいぶ深けた薄暗い公園の中、全てが自分と同じ“ナニカ”を見た俺は、瞬時に言い様のない恐怖に襲われ、頭の天辺から足の先まで一斉に鳥肌がブワっと逆立ち、ブルっと言う震えと共に身体が硬直してしまった。


─これはヤバイ!


─絶対にヤバイやつだ!


─逃げろ!


─今すぐここから逃げろ!


と、俺の思考や感情はけたたましくアラートを鳴らしているが、考え、思っている事とは裏腹に、俺の身体は全く動く事ができない。


恐怖を和らげ、逸らし、どうにかして目の前に居るソレから逃げる為に思考を切り替えようとするが、思考も視線もソレから外す事ができない。


終いには、これが俗に言う”ドッペルゲンガー”なのか?と、どこかで覚えて来た様な変な知識が頭を廻り、俺は何かを諦めたかの様に、落ち着いて目の前のソレを観察、考察してしまっていた。


人間、パニックを過ぎ去ると、落ち着くのか?と自身の状況についても分析できる程に思考が落ち着いてしまい、どれほどの時間が立っているのかと言う感覚も消え失せ、目だけがせわしなくキョロキョロと目の前のソレを見続けていた。


俺の目がせわしなく動いている中、今まで無表情で俺を見つめ続けていた目の前のソレは、口角を三日月の様に持ち上げて歪な笑みを浮かべながら口を開いた。




─ミツケタ─




目の前のソレが発する感情も抑揚も無い声は、まるで、録音した自身の声を聞いた時と同じ様な音を発し、その声を聞いた瞬間、俺の意識は反転して深い闇へと落ちて行った。

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