19. 作り直し と カンスト
やってしまった感で、死んだ魚の様な目で只々電子レンジをジッと見つめている俺の心情とは裏腹に、チーンと言う間の抜けた音が鳴り響く。
そんな間抜けな音だが、今の俺には、まるで、仏具の鐘が鳴った様な音に聞こえた。
「………………」
眉間に皺を寄せて険しくも悲しい表情となっている俺は、恐る恐るといった感じでレンジの中の槍を取り出す。
「どうせ、失敗だろコレ…… 槍を両手にとかってなって、扱えたもんじゃなくなってるに決まってる……」
レンジの中に手を入れて、柄の部分に手をやって槍を引き抜く。
「!?」
俺が引き抜いた槍は、スキルを付与する前の普通の槍、所謂、素槍だったのだが、レンジから取り出した2つのスキルを付与した槍は、薙刀の様であり、しかも柄の長さが3分の1程短くなって、短槍の様になっていた。
「……なんて言うか、柄が短い薙刀?」
槍に違うスキルを足すと、何故か違う武器になった。
「って事は、もしかして……」
俺は電子レンジの扉のディスプレイを確認する。
そこには、
─────
【ビーストグレイブ】☆8
スキル:2/8
【刺突】パッシブスキル
-突きの速度が上がる。
【鎌鼬】アクティブスキル
-刀身から斬撃を飛ばす。
アクティブタイム:60秒
リキャストタイム:10秒
─────
と言う新たな武器の名前とスキル名があった。
「………… どうなってんだ一体……」
いきなり出来上がった槍とは違う武器を手に、俺は意味が分からなくなった。
「見た目も変わったが、新たなスキルがついて、ナイフの時の2本って言うデメリットがなくなってるぞ……」
いくら考えてもさっぱり分からなかったので、とりあえず、今はコレのレベルをカンストさせる事にする為、槌に記憶させるのはやめておく。
何故かしっくりとして手に馴染む柄の短い薙刀の性能を試す為に、俺は再び狩場へと戻った。
再度、石板でコボルトを狩る為に、リポップ数を1、リポップタイムは10秒に設定。
槌はナイフへと変えて腰の後ろでベルトにそのまま挿し、手には短い薙刀を握る。
程なくしてコボルトが姿を表した。
現れたコボルトへと向かって俺は走り出し、手にしていた薙刀を横薙ぎに振るう。
俺が振るった薙刀は、コボルトが縦に握っていた槍ごとコボルトの身体を真っ二つにした。
すぐに足で触って倉庫へと送り、コボルトが出てきた背後、さっきの狩りの時に印をつけていた箇所へと向かっていくが、俺がつけた印は綺麗さっぱり消えていた。
とりあえず、新しく印をつけている内に、コボルトがリポップしてきたので、横に薙ぐ。
またしても軽々とコボルトを上下に真っ二つにしてしまい、急いで足で触って倉庫へと送る。
次々と現れるコボルトを野球のスイングで1時間ほど斬っていく。
一度、休憩をする為に、コボルトのリポップを解除して通路に座り込む。
まるで高校球児の様に槍をスイングし続ける俺は、程よく汗をかいており、俺は倉庫からペットボトルの水を取り出して飲み始める。
「……倉庫の時間の経過がないとは言え、元々常温の物は流石に温いな…… そういえば、冷蔵庫って壊れていたよな…… 新しく買わなきゃだな」
俺はスーパーで冷蔵庫を盾に使った事を思い出し、次に表に出た時は冷蔵庫を買うという事に決めた。
「て言うか、コレってなかなか切れ味が良いな… スパスパ斬れるぞ。 もう、1体追加してみるか?」
って事で、5分ほど休憩した俺は、リポップ数を2、リポップ時間を10秒にして狩りの続きを始める。
コボルトは、中央に横に2体並んで現れており、俺は腰のナイフを引き抜いて1体へと投げて動きを止め、残りの1体を薙刀で斬り裂いた後に、ナイフで刺したコボルトに止めを刺した。
急いで足で触って倉庫へ送り、落ちたナイフを拾ってリポップに備える。
現れた2匹の丁度中間に位置を取り、またしても背後から野球スイングで2体を同時に斬っていく。
しかし、今度は倉庫に送る余裕がなくなった。
仕方がないので、腰のナイフを床に置き、抜刀して電子レンジへと変えて足元へ置く。
こうなってからはかなり余裕ができた。
俺がコボルトを斬り殺した側から電子レンジがどんどん死体を吸い込んでいく。
この方法だと更に狩る速度が上がり、途中からリポップタイムを10秒から5秒に変更した。
そんなこんなで、視界の端にある時計と残り時間をチラチラと見ながら、続けて2時間ほどコボルトを狩り続ける。
階位が上がった身体能力とは言え、流石にこれは疲れた。
この2時間で2,884体のコボルトを狩った。
残りの玉と合わせて、3,277個のコボルトの玉が手に入った。
そして今気づいたんだが、玉は倉庫に保存しなくても、電子レンジ内に保存ができる様だった。
扉のディスプレイで玉の数と種類、利用する玉の数と種類を選べ、簡単に操作できた。
いや……
これはこれで便利だが、武器を記憶させて換装させた時は、いつも通り倉庫に送るしかないな……
って言うか、こんだけあれば、もう一本作ってもカンスト可能だろう。
と言う事で、先に倉庫へ送った分を玉へと変える為に倉庫へと向かう。
倉庫のコボルトを電子レンジで吸収し、玉へと変えた後に薙刀を強化する。
薙刀を電子レンジの中へ入れ、いざ、強化を使用としたところ、電子レンジの扉へとおかしな文字が現れた。
─────
同種の素材がありません。
他の素材を使用して強化しますか?
その場合、強化に2倍の量を使用します。
Yes / No
─────
「は?」
危うく俺は、そのままボタンを押しそうになったが、偶々扉の文字を目にし手を止めた。
俺は、意味が分からなくなり、武器作成可能欄で【ビーストグレイブ】をタップするが、そこにはスキル以外の情報はなかった。
「おい。 夜市。 これは一体どう言う事だ?」
俺は思わず夜市へと声をかける。
『私が知るわけないじゃない。 ビーストグレイブの素材がないって事なんでしょ?』
「もしかして、スキルを2つ付けて、名前も見た目も変わったからこうなったのか?」
『ソレもあり得るんじゃない? もしそうだったら、武器のレベルをカンストした後、スキルを最後につければ解決するんじゃない?』
「マジか…… 俺に改めてソレを作り直せと? せっかく強化を8までしたのに、再度作り直せと?」
『だって、そうでないと、素材が2倍になるんでしょ? どっちかを選べって言ったら、作り直した方がコスト的にも良いでしょうが?』
「マジかよ……」
俺は、作り直しと言う事に盛大にヘコんだ。
『スキルの掛け合わせで武器の見た目や性能が変わるって事はだよ、カンストさせた武器を沢山作っておけば、新たな武器をどんどん増やせるって事なんじゃない? 狩りやすいモンスターを狩りまくって、ソレで作った武器をカンストさせておけば、スキルを掛け合わせた武器に変わるって事じゃない? 私ってもしかして天才?』
夜市は饒舌に語り出すが、俺の頭には疑問が浮かんだ。
「ベースとなる武器次第ってのもあるかもしれないぞ? ベースになっている武器に他のスキルを付与する事で、そのベースになっている武器が進化してるんじゃねぇか? 知らんけど」
『あ…… ソレも考えられるわね…… って事はどうすれば良いのよ! グチャグチャして、何がなんだか分からなくなってきたじゃない!』
「なんでお前がキレてんだよ。 キレたいのはコッチだっつうの! ハァ〜…… マジで意味がわからねぇ…… もう、トライ・アンド・エラーし続けるしかねぇな……」
終わりが見えない武器作成に対して俺は頭が痛くなってきた。
「まぁ、とりあえず、槍の素材はカンストできるまで溜まったから、槍1本はカンストさせるわ…… カンストさせたらどうなるのかってのも見てみたいしな」
と言う事で、俺はLv10まで強化した槍を2本作った。
そして、2本を材料に槍のLvを突破させる。
突破時には、何かしらの特別なエフェクトが出ると思っていた俺の気持ちは、いつも通りのヴゥゥゥゥゥゥンと言う音と、チーンと言う腑抜けた音によって打ち壊された。
「俺の期待を返せぇぇぇぇぇぇ!」
『あんた、なに一人で喚き散らしてるのよ』
しかも、夜市からひどく冷たい声が帰って来た。
なんで俺だけこんな目に遭うんだよマジで……
突破した槍をそのまま強化し続けて、1本の槍をカンストさせた。
カンストさせた際も、普通に”チーン”と言う腑抜けた音共に出来上がった。
「…………エフェクトなんて、もう俺は期待しないからな……」
ロマンを打ち砕かれた俺は、電子レンジの中からカンストさせた槍を取り出した。
「……カンストって言っても、見た目は同じじゃねぇか…… そんで、次はスキル付与か…」
俺は【ファング】と【刺突】のスキルキューブを作り、電子レンジの中へと槍とスキルキューブを入れた。
そんで、付与をポチっとな…
意を決して付与のボタンを押す。
俺の気持ちとは裏腹に、いつも通りのヴゥゥゥゥゥゥンと言う音と、チーンと言う腑抜けた音が倉庫に鳴り響く。
「ここまで来てエフェクトは一切皆無と……」
俺はこれ以上エフェクトを期待するのを止めた。
出来上がった武器を電子レンジから取り出すと、俺の手の中には柄の短い薙刀が握られていた。
電子レンジのディスプレイには、
─────
【ビーストグレイブ】★10
スキル:2/20
【刺突】パッシブスキル
-突きの速度が上がる。
【鎌鼬】アクティブスキル
-刀身から斬撃を飛ばす。
アクティブタイム:60秒
リキャストタイム:10秒
─────
と記載があった。
変わったのは、カンストした数字と星の色だけだ。
これでこの武器のレベルはカンストし、スキルを後、18個付けられる。
って言うか、なんで新しいスキルになってるんだよ……
付けたスキルはファングと刺突じゃなかったのかよ……
また謎が増えたぞ……
そして、素材も、
─────
【素材の残り】
ホワイトウルフ:51個
コボルト:517個
─────
と大分減った。
まぁ、これで当分コボルトの素材集めはないかな…
しかし、こうなったら今まで倒した怪物のスキルを付与してみたいと言う衝動に駆られる。
未だに確認できていないスキルは、ゴブリンとオークのものか。
ホワイトウルフは大きいから2体同時には狩流のが難しそうだが、人型のゴブリンとオークは2体同時でいけるだろう。
って事で、サクッと狩ってくるか。
残り時間は……
39:12:38
よし、まだまだいける。
俺は軽くご飯を済ませた後に、狩り場へと向かった。
残り時間
39:12:38




