15. 武器強化 と 犬人間
とりあえず、おれは、2本のナイフをLV2にする事にした。
ナイフと素材の玉を右の扉へと入れると、強化のボタンが光ったので、そのままボタンをポチる。
コレを2度繰り返し、これで、残りの素材は10個。
俺の手元には、10個の素材の玉と、6本の普通のナイフ、2本のスキル付きのナイフ、2本のLV2のスキル付きのナイフがある。
俺はこの後の事をどうするか悩む。
階位を上げるのは今後の外での為を思うと早く上げるに越した事はないが、ナイフの強化もかなり気になる。
迷っていてもなんの解決にもならないので、とりあえず、階位からあげていく事にする。
とりあえず、俺は、LV2のナイフを槌で叩いて記憶させる事にした。
が、此処で疑問が出た。
LV2にナイフを記憶させるのはいいが、1本?2本?どう記憶させるか?
仮に、LV2の2本を槌に記憶させた場合、ナイフは槌に吸収されて、手元にはLV0のナイフしか残らなくなる。
って言うか、換装した場合、記憶させたナイフは1本で出てくるのか?
ソレとも2本で出てくるのか?
もし、換装できるのが1本だけだとしたら、倉庫にもLV2のナイフを残しておくべきではないのか?
それか、槌に記憶させずに倉庫に入れておけば良いのではないか?
しかし、このナイフは2本で1セットにしなければスキルが発動しない。
倉庫からナイフを2本取り出したら、槌が邪魔になる。
って言うか、槌を手放すと破壊される恐れが出てくる為、容易に手放す事はできない……
今の手持ちがない状態だから此処まで悩んでしまうが、要は武器を大量に作成できていれば、こんな問題は簡単にクリアされる。
俺はため息を吐きながら、とりあえず、試しに普通のナイフを槌へと記憶させる。
槌で叩いたナイフは崩れる様にして消えていき、再度槌へと吸収された。
そして、再度ナイフを叩いて2本目を記憶させる。
コレも1本目と同じ様に槌へと吸収された。
まぁ、此処までは想定内だ。
次は換装を確かめる。
「【換装】ホワイトウルフナイフ」
槌を握り、換装と口にすると、俺の右手にはナイフが握られていた。
続けてもう1本のナイフを取り出すために換装と口にするも、手にしているナイフが入れ替わる様な感覚があっただけで、依然、俺の右手にはナイフが1本握られていた。
俺は右手に握るナイフと、空を握る何もない左手を交互に見やる。
…………まさかな……
俺は一旦ナイフを解除し、漆黒の槌の姿へと戻す。
そして、今度は両手で槌を握り締め、再度ナイフを換装させる。
「【換装】ホワイトウルフナイフ」
すると、今度は俺の両手へとナイフが1本ずつ現れて握られていた。
そう言うことか……
俺は、両手にしているナイフを槌へと解除すると、換装させる前と同じ様な握り方で両手で槌を握っていた。
再度、槌を両手で握り、ナイフへと換装させる。
同じ様に両手へとナイフが1本ずつ現れる。
次に、左手のナイフを床へと置き、右手だけでナイフを握って槌へと解除させると、ナイフを握っている右手へと槌が現れた。
俺は再度槌を両手で握り、今度は右手だけにナイフが現れる様に考えながら換装させる。
すると、槌は俺が考えた通りに右手だけに1本のナイフが現れた。
と言う事はまさかな……
再度ナイフを槌に戻し、今度は右手だけで槌を握る。
しかし、今度は右手に2本のナイフを握るイメージで換装と称える。
「マジでできたよ……」
俺の右手には2本のナイフが握られていた。
なんとなく分かったぞ…
この槌は、俺が槌を握る箇所へと武器を換装して発現させる。
そして、換装させる時に、武器の数をしていすれば、俺の考えの通りの数の武器を発現させる。
だが、俺が握れる範囲の武器の数となる。
100とかって考えても、俺の手の中に100本の武器は握れないだろう。
ナイフであれば、両手で槌を握って各指に挟むイメージで換装させれば、最高8本は発現させれそうだ。
この最初の段階でこれに気づけたのはラッキーだ。
と言う事で、俺はLV2のナイフを叩いて槌へと記憶させようとしたが、次なる疑問が浮かんできた。
記憶させたナイフは強化できるのか?
ナイフの状態からの抜刀は?
俺は再度、槌をナイフへと換装させ、抜刀と唱えた。
結果、ナイフから抜刀して電子レンジの姿へと変える事はできたが、記憶させたナイフは現れなかった。
…………
マジかよ……
一度、槌に記憶させた武器は、それ以上強化させる事ができない。
武器を強化させる為には、槌へと記憶させる事ができない。
強化させた武器を記憶させる為には、都度イチから造る必要があった。
……最悪だな……
此処に来て俺のカースの大きな落とし穴を発見した。
仕方ない……
1本は槌へと記憶させて、1本は倉庫と言う感じで2本のナイフを発現させるか。
そして、倉庫のナイフを強化して、いく感じか……
俺は強化したLV2のスキル付きナイフを1本だけ槌へと記憶させた。
強化する倉庫のナイフは常に3本ずつにして、1本を記憶用、1本を戦う用、1本を次の記憶用と言った感じで常に3本を強化していく感じにすれば、なんとか2本の強化済みのナイフを倉庫内に残せる。
俺はナイフに関しての運用と素材が多くなってしまう事に対して頭を痛めた。
階位を上げてさっさと新しい化け物で武器を作り、ナイフ以外を武器にするしかないか……
と言う事で、俺は新たな化け物から作れるであろう武器とスキルへと希望を抱き、階位を上げるために階位の間へと向かって歩いて行った。
階位の間は相変わらずの作りであり、俺が中へと入ると背後の入り口が閉じて壁となった。
しかし、選択をした今回は前回と違い、広い場所へと向かう前に通路の壁へとオレンジ色のパネルが現れていた。
まぁ、これでいつでもエントランスへ戻れると言う事が確認できたので、後は化物を倒して階位を上げる事に専念する。
後、新たな武器の確保だな。
通路を抜け、広場へと到着すると、広場の中央が赤く光輝いた。
次の階位の化け物か……
広場の天井まで伸びる真っ赤な光が収まると、そこには、槍を持った2足歩行の犬が現れていた。
灰色と茶色が混ざる獣の様な体毛で身体中を覆われたソレは、革の防具の様なものを着込んでおり、充血した様な真っ赤な瞳をギョロつかせて周りを確認し、目の前にいる俺と目があうや否や槍先を俺へと向けた。
向けられている槍先からは、嫌でも感じられるほどの殺気を含んでおり、目の前の犬人間は歯茎を剥き出しにして喉をグルグルと唸らせながら俺を睨みつける。
相変わらずの化け物から放たれる殺気によって気圧されそうになるが、こんなとこで死んでたまるかと言う気持ちを心に、目の前の犬人間を睨みつけながら槌を発現させる。
俺が槌を発現させると、犬人間は鼻にシワを寄せグルグルと喉を唸らせながらギザギザの歯を見せて威嚇する。
目の前の犬人間がどの様に動くのかさっぱり見当も付かず、先に動くのを待とうかと考えが過ぎるも、俺は頭を振って自身の考えを正す。
相手に動きを合わせるな…
俺は手にしている槌を握りしめ、右から左へと薙ぐ様な体制で槌を右下へと移動させ、目の前にいる犬人間へと向かって一歩を踏み出す。
犬人間は、俺が動いた事で犬人間も槍を引き絞って突きの態勢へと入る。
一歩を踏み出した俺は、徐々に歩く速度を上げていき、犬人間へと向かって走り出す。
犬人間は、自身の槍の間合いへと俺が入って来るタイミングを待っているかの様に槍を引き絞ったまま微動だにしない。
俺は両手に持って右下で構えている槌を、右から左へと薙ぐ様な仕草で地面と水平にして持ち上げ、犬人間へと振りかぶる直前で槌を換装でナイフへと変える。
「【換装】!」
換装させる瞬間、俺は槌から右手を離し、俺の左手にはスキル付きの強化したナイフが現れる。
そして、ナイフが現れると同時に右手へもスキル付きの強化したナイフを倉庫から出現させる。
「【ファング】!」
俺の手にナイフが2本となった瞬間、俺はナイフのスキルを発動させた。
ナイフを2本握りながら振りかぶっている状態の俺は、左手にあるナイフを犬人間へと向かって投擲した。
手にしていた槌から急にナイフへと変わり、更に俺がナイフを投げつけてきた事に反応できない犬人間は、俺を突き殺す為に引き絞っている槍を動かすことができず、投擲した振動するナイフは犬人間の左腕へと容易に突き刺さった。
「ギャン!」
ナイフが犬人間へと突き刺さったのを見た俺は、次に右手に握っているナイフを続け様に犬人間へと向けて投げた。
左腕に深々とナイフが突き刺さった犬人間は、俺が投げたナイフが腕に突き刺さった事で槍を引き絞っていた突きの体勢を崩しており、俺が右手で投げたナイフは、無防備な犬人間の右胸へと突き刺さった。
俺は倉庫から両手へと新たなスキル付きのナイフを出現させ、犬人間の背後へと回る様に移動しながらスキルを発動させて投擲する。
俺が投げたナイフは、犬人間の防具の上から腰と左胸の裏へと容易に突き刺さり、犬人間は手にしている槍を手放して前のめりに倒れた。
今度はスキルなしのナイフを両手へと出現させ、倒れている犬人間へと向けて駆け寄る。
先に犬人間が手放した槍へと一直線に向かって駆け寄り、ボールをける要領で槍を蹴って遠くへと飛ばす。
次に俺は犬人間の背中へと馬乗りになり、手にしている両手のナイフをそのまま首の左右へと一気に突き刺す。
「ギャイン!!」
ナイフは犬人間の首の左右へと深々と突き刺さり、犬人間は白目を剥きながら舌を出して息絶えた。
「ハァハァハァハァ──」
俺はナイフを手放し、左腕に突き刺さっている換装させたナイフを左手で力任せに引き抜きながら立ち上がる。
「ッ──解除。 ハァハァハァハァ──」
緊張で息を荒くさせながら立ち上がった俺の左手には、ナイフから姿が戻った漆黒の槌が握られており、俺は槌の先を犬人間の横へと向けて抜刀した。
「──【抜刀】」
普通、倒した後は納刀になるのだが、抜刀ってどう言う事だよ……
と思いながらも、俺は抜刀で槌を電子レンジへと変える。
電子レンジの姿に変わった槌は、自動で扉が開き、犬人間を掃除機の様な音を立てて吸収した。
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コボルトの槍
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拾い上げた電子レンジの扉には、コボルトの槍と言う新たな表示が現れており、電子レンジの中には、まるでさっきの犬人間を表している様な灰色と茶色が混ざった玉が入っていた。
俺が電子レンジを確認していると、不意に酔いによる目眩と吐き気が襲ってきた。
階位が上がった事による酔いだ。
俺は口を押さえ、激しく揺れる様な感覚の脳をこれ以上動かさない様にして、その場で蹲ってじっと酔いが治るのを絶えた。
3度目の経験という事もあり、酷い目眩と酔いはあったものの、今回は吐くまでには至らなかった。
「ふぅ〜……」
吐くまではいかなかったけど、相変わらずの酷い酔いだ。
酔いが治まった俺は、コレまた相変わらずいつの間にか空いている穴へと向けて、酔いで気怠い視線を移す。




