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パラレル 狩られる ルルルルル〜  作者: だる飯あん
始まり
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1. 始まり と 夢

ある日、俺は不思議な夢を見た。


夢の中の俺は、見た事も来た事もない商店街の入り口の前で立ち尽くし、何をする訳でもなく、商店街を行き来する人の流れを、ただ、ボーっと眺めている。


しかも、ここは俺が知らない場所の筈だが、何故か俺はこの目の前の商店街を、この街を知っている。


煩くない程度に聞こえてくる喧騒、学校帰りの小学生や中高生、おばちゃん同士の立ち話等、それら目に見え、聞こえてくる全てが懐かしく、心が安らぐ雰囲気さえ感じている。


そんな中、俺がボーっと人の流れを眺めていると、1人の女性が何度も商店街の入り口を行ったり来たりを繰り返していた。


さっきまでは気にも留めなかったのだが、こう何度も行ったり来たりを繰り返していると、嫌でも目についてしまい、何故かその女性を気になり始めてきた。


その女性は、まるで道に迷っている様子で、商店街の入り口を出たり入ったりと繰り返しており、それを見かねた俺は、つい、女性へと声をかけてしまった。


「さっきから出たり入ったりを繰り返すしてますが、どうしたんですか?」


俺に声をかけられた女性は、今にも泣きそうな顔でバッと俺の顔を見るが、急に声をかけて来た俺に対して悲しそうな表情から一転させ、胡乱げな表情で睨みつける様に俺へと視線を合わせる。


しかし、女性は、背に腹はかえられぬと言った切羽詰まった様子で俺の質問へと答えた。


「……隣街へと行きたいんですが、私が知っている道とだいぶ変わっていて、どうしてもこの商店街から隣街へ抜けられないんです……」


女性が言う通り、隣街へと行くには、今、俺が居る商店街を通り抜けなければならない。


住んだ事も、ましてや来たこともない筈のこの商店街なのだが、何故か俺は知っていた。


こんな夢を見るなんて、俺は心の何処かで新たな出会いや安らぎが欲しかったのかも知れない。


それはさておき、俺が声をかけた女性は、どうしても隣街へと行かなければならないと言い、俺の顔と商店街の入り口へと何度も視線を行ったり来たりさせている。


「も、もし、あなたが構わないのであれば、俺が隣街まで案内しますが?」


「あ、ありがとう………でも……キミはそれで大丈夫なの?」


女性は申し訳無さそうに下を向き、俺の顔を見ようとしない。


「はい。丁度やる事もなくボーっとしてましたので、これくらいお安い御用ですよ」


「でも──私のせいでキミに迷惑をかけるかもしれない……」


「ハハハハハ。迷惑だなんてそんな。困っている人は放って置けませんよ。それに、これは俺の暇つぶしなので」


「でも──!?」


俺は何かに怯えている女性の手を取り、商店街へと向かって歩いて行った。




──だって


──これは夢なんだし


──強引に手を取るくらい問題ないよな?




「大丈夫ですよ。あなたは困っている。俺は暇を持て余している。俺に取っては単なる暇潰しですよ。それに、別にあなたをどうこうする訳でもないですし、危ないと思ったら逃げだしても、声を上げてもいいですから」


怯える女性の手を取りつつも、俺は振り返って女性を見下ろし、優しく笑みを浮かべながら商店街の入り口をすんなりと潜る。




──なんだ


──この懐かしい感じは




女性は俺に手を取られながら、少し恥ずかしそうに頬を赤く染め、同時に、申し訳なさそうに顔を少し俯かせ、俺の手を力強く握り返した。


「ごめん──な、さい………」


俺は夢の中と言う事で女性が謝る理由をそれほど気にも留めず、強く握り返された手に温もりを感じながら商店街の中を進んで行く。


「あっ!?ここっ!私の知っている情報では、ここを抜けると隣街に行ける筈だったの!」


俺に手を引かれている女性は、空いている右手の人差し指で店と店の間の路地を指さした。


「ここ?」


女性は、逆に俺の手を引いて目当ての路地の中へと入って行き、袋小路にある大きな家具屋へと辿り着く。


「……私の情報では、ここは大きな古着屋だった筈……その古着屋のお店の中を突っ切って通り抜けると、隣街へと続く道があった筈、なのに……」


女性は、眉間に皺を寄せながら家具屋の外観を見回し、困った様な悲しそうな表情を作った。


「あぁ。ここは大分前に古着屋から家具屋に変わったんだよ。その時に隣街へと続く通路も塞がれたんだ」


俺の頭の中では、まるで、この商店街の全てを知っているかの様に滾々と知識が溢れだし、気づいたら女性へと説明をしていた。


「え?そ、そんな……」


女性は俺の説明を聞き、見るからに絶望したかの様にションボリと肩を落としていた。


そんな中、家具屋の店員が俺の名前を呼ぶ。


「おう!■■■■■■じゃねぇか!昼間っから女連れて歩いてるとは羨ましいな!」


「いやぁ~。そんなんじゃないですよ。ちょっと道案内をしているだけです」


俺は俺の名前を呼び、話しかけてきた人物の顔を全く知らない。


知らない筈なのに……何故か長い付き合いの様な感じがして、気づいたら抵抗無く普通に会話をしていた。


「それじゃ、もう行きますんで!」


「おう!また今度遊びに来いよ!」


「はい!では、また!」


俺と肩を落としている女性は手をつなぎながら元来た道を戻り、家具屋のある路地裏から抜け出し、商店街のメイン通りへと戻ってきた。


「まぁ、あそこから隣街へと行く道は潰れちゃってるけど、今はあそこから行けるようになってんだよ」


またしても、知らない、この商店街の知識と共に俺の口からは言葉が発せられていた。


俺は出てきた路地の先にある別の路地を指さし、女性へと向けて微笑む。


「え?」


下を俯いていた女性は、俺の言葉に吃驚し、新たな希望を掴んだかの様にバッと顔を上げた。


「ほら。行くよ」


女性は、まるで思考が追い付いていないかの様に足を止め身体を硬直させたが、俺は女性の手を引いて目の先に見える路地へと向かって歩き始めた。


俺達が入った路地は、周りを建物の壁で覆われて薄暗くなっているのだが、路地の奥は陽の光が差し込んで明るくなっており、まるでちょっとしたトンネルにも思えた。


オドオドしている女性を気遣って足早に薄暗い路地を抜けると、そこは駐車場と複数の民家、そして、下へと続くコンクリート作りの階段があった。


下へと続く階段は、民家の横にある複数の車が停めてある駐車場から続いており、俺達は腰の高さ程のブロック塀を迂回して駐車場へと入って行く。


駐車場の中を横切り、下へと続く階段へと足をかけようとしたところで、俺の頭上へと不思議な鳥が羽ばたきながら現れた。


2mはありそうな青い巨体は、全身がドット絵の様にカクカクとしたタイル状の身体をしており、その現実では絶対に見た事もない様な鳥は、商店街にある商業施設の壁に身体をベタっと張り付け、壁の突起に脚をかけて泊まった。


鳥は壁に張り付くと同時に、身体をカクカクと変形させ、青いドット絵のスマイルマークになった。


この異様な光景や不思議な鳥に対しても、俺は全てを知っているかの様に笑顔で見つめ、振り返って背後に居る女性へと声をかけた。


「今日のブロックバードはスマイルを作りましたよ。相当機嫌が良い様ですね」


女性は俺の言葉や異様な鳥に対して吃驚しており、驚いた様子で表情を固まらせていた。


しかも、ブロックバードの雛が俺達が居る階段へと降りて来て、ドット絵のハートの形へと身体を変形させた。


「凄い!?ブロックバードの雛まで!?なんだか今日は良い事がありそうだ」


ブロックバードの雛が形を変えたのを見た女性は、驚愕した表情から、少しホッコリとした様な柔らかく優しい表情へと変わった。


「何がなんだか訳が分からないですが、素敵な鳥ですね」


「そうですね。このまま平和が続いてくれれば……」


俺はまた、自分では考えても思ってもいない事が口から溢れ、女性へと微笑む。


「さぁ、ここを降りて行けば隣街ですよ」


俺は階段の下を指差して、まるで別れるのが嫌だと言わんばかりに女性の手をギュッと握りしめる。


「……ここ迄私を導いてくれて、本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません。また会えました時は、今度は私があなたを全力で助けます」


階段の下へと降りて行った俺達は、隣街との境界線上で、別れを惜しむ様にお互いの手を強く握りしめた。


「はい。俺もまた、あなたと会いたいです」


「大丈夫。あなたが強く願えば、また、私に会う事が出来ます」


「おぉ!?では、毎日、あなたに会える様にと願っておきます」


まぁ、夢の中なんだろうがな。




「ウフフ。これから、何があっても強く生きてください。絶対に諦めないでください──では、また会える日を楽しみにしています」


女性はそう言うと、俺から手を離して隣街へと向かって行った。


俺には彼女が言った言葉の意味が分からなかったが、別れ際に彼女のとびっきりの笑顔を見れた事が嬉しくてたまらなかった。


そして、女性が隣街へと向けて歩き出すと、女性の姿が段々と薄れていき、同時に、俺の周りも真っ白に塗り潰されていった。





こうして、俺は不思議な夢から目覚めたのだった。



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