〜閑話〜 召喚者が飛び道具キャラのおやつ的な報われない存在かと思って蓋を開いたらリ◯ルマックだった件について
息抜き。超息抜き。死ぬ程息抜き。酸欠。そして訪れる死。
【リリー視点】
今日も影太くんは空き部屋だった部屋で寝ている。
食事とお風呂とトイレ以外の時は、そこから出て来てくれない。
入ろうとしても追い出されるし、なんなんだろう。
仮にも同い年の男の子だし、色々あるのかな。
だけど完全に私物化されてしまっているのはおかしいんじゃないかな。
元々何も置いてない部屋だったんだけど、いつの間にか勝手に荷物だとか装備品だとかを置かれてしまってるし。
使ってなかったからいいんだけど…。
そうだ、せっかくだしここを影太くんの部屋って事にしよう。
今度家具とか買ってあげようかな。
そう思えば許せる気がしてきた。
よーし、じゃあスッキリしたところでそろそろ寝ようかな。
そう思い、部屋の電気を消した。
………。
辺りが真っ暗に暗転した矢先、胸を刺すような孤独に襲われた。
………影太くんの部屋、入っちゃおう。
ちょっとだけ寝顔を見せてもらってから寝よう。
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そっと彼の部屋のドアを開け、中を確認する。
雑多に置かれた武器と鎧に丁寧に畳まれた着替え、何故かそこそこのお金が入った袋。
それだけしか置かれていない部屋の真ん中に、影太くんが寝ていた。
布団も敷かなければかけてもいない、オマケに変な姿勢。
なんで腕で顔を覆ってうつ伏せになって寝てるんだろう…。
きっと朝起きたら体を痛めるんだろうなぁ…。
彼の事は『転移者の習性』って本(習性って言い方、私はあんまり好きじゃない)に書いてあったような内容とは大きく外れた人だとは思っていた。
確か、こちらの世界のような世界をモチーフにした娯楽の文化に恵まれているからか、やたらそれに倣った行動を取ったりするって書かれてたと思うんだけど、冒険者ギルドに入りたがるという点しか合ってない。
私にも一向に懐いてくれないし…。
嫌われる容姿では無いと思うんだけどなぁ…。
確かこの世界の平均的な容姿っていうのも、転移者からは好かれる物っていう風にも書いてあったし…。
私の見た目が子供っぽいからとか…? やたらガキって言ってきたりするし、まさかそれが原因…?
それとも彼って、普通の転移者とは違うの…?
…クセ強いし普通の転移者と違うのは間違いないか…。
そういえば、本当に召喚の時の設定間違えてなかったよね…?
いや、確実に順応力がある人っていう風にしか指定しなかったはず…。
不安に耽っていると、いつの間にか、私の手は影太くんの頭に触れようとしていた。
ええいままよ、このまま頭を撫でてやる。
ふさっ。
手を触れたその瞬間、影太くんは音も置き去りにするかのような速さで起き上がり、まるで鞭の一撃のような回し蹴りを放ってきた。
「うわはぁ!!」
咄嗟に避けようとした。
でも、手に当たってしまった。
『バコッ』という音と共に腕の内側に鈍い痛みが走る。
絶対骨折した。
回復魔法はかけたものの、痛みだけは根深く残った。
堪らず歯を食いしばりながら抑えるが、結局声が漏れ出てしまう。
「く…ううあぁぁ……痛ぁ……なんで…。………っ…………〜〜………うぅ……」
怒りよりも、悲しみの方が深く、強く私の感情を支配した。
ショックで涙が止まらない。
ここまで嫌われていたなんて思ってもいなかった。
なんて声を掛ければ良いか分からず、影太くんの顔を見る事しか出来ない。
でも、影太くんも影太くんでどこかおかしい。
今の状況を理解出来てないのか、
「リ、リリー?」
と吐息混じりに呼び掛けてくる。
真っ青な顔。目は動転してるかのように血走っている。
その様子を見て悟った。
私が浅はかだった。
多分、嫌われてるわけじゃない。
訳ありなんだ。
だからいつもいつもおかしな行動ばっかり取るんだ。
だからベッドで寝るのも嫌がるんだ。
「…リリーですが何か…?」
「勝手に入ってくるなよ…しかも人が気持ちよく寝てるタイミングに触りやがって。心臓に悪い」
………。
切羽詰まっているような様子で私を呼んだ物だから、向こうに何か理由がある事を考慮して、こっちが気を遣うべきかと思ってたけどそんな必要は全く無さそう。
安心したけどいつもの調子で言ってくるものだからカチンと来た。
「ここは私の家だから別にいいじゃないですか! それより…くうぅ…影太くんの方こそいきなり蹴らないでくださいよ!
すごく痛いんですけど! 回復しても未だにジンジンするんですけど!!」
「そ、それはすまん…」
ちゃんと謝ってくれた。
謝ってくれるって事は嫌われてはいないって事なのかな、良かった。
でも、どこか不満げな顔をしているようにも見える。なんでだろう。
「もう、暫くは根に持つからね…」
敢えて不機嫌を装い、低めで抑え気味の声でそう言うと、そのまま影太くんに向かって背を掛け、もたれかかってみる。
「どうしたら許してくれるんだ?」
めんどくさがられてるのを感じる。でも、負けないから!
この機会に影太くんと仲良くなるんだから!
「私と一緒に寝てください!」
互いに沈黙。
空気が凍てつくのを感じた。
やっぱりそうなるよね。
でも、もう『朝起きたらいない!』なんて事は嫌だし、影太くんを一人で床に寝させるのは本人が希望してたとしても申し訳ないし、根本的に一人で寝るのは寂しかったし、彼がやった事もやった事だし…
別にこれぐらい要求してもいいと思うけど……。
でも…。
そういう風に誤解されてたらどうしよう。
それ以前に誤解されててもされてなくても、拒否されそうな気がしない事もないけど大丈夫かな…。
いきなり攻め過ぎたかな…。
「別に構わんが」
「へ? いいの?」
「あぁ」
「じゃ、じゃあ! …ちょっと待ってて!」
やった、寝てくれるって! えへへ!
返事も軽かったし、誤解もされて無さそう…!
一旦物置から枕二つと掛け布団、敷布団、毛布を取りに行き、部屋にそれらを配置し、片方の枕を影太くんに手渡してから顔を見つめてみる。
なんか迷惑そう…。苦笑いしてるし…。ん…よく見ると綺麗な顔…。
…あっ、そっぽ向かれた。
相変わらず酷いなぁ…。
そうだ! ちょっといたずらしてみよう。
嘆息してあぐらをかいてる影太くんに後ろから抱きつき、耳元で、
「まるで恋人みたいだね」
と囁いてみる。
「別にヤる気はないぞ」
「へ? あ、わ、私だってまだそんな段階じゃないと思うし!」
ダメだ、私にはそれに耐えられる度胸なんてなかった。
「こんなガキみたいなやつにサカる程落ちぶれてねえよ」
………。 ……。
…。 ………。 ………。
…………。 …………。
「…訂正します。私達、まるで兄妹みたいですね…」
「…」
「…」
微妙な空気のまま、彼の隣で寝た。
お陰で寂しくないし、あったかくて良かったけど、さっき言われた事が何度も脳内に反響して響いているせいで気分は最悪だった。
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【影太視点】
寝れねえ…。
リリーと寝て数時間後に目が覚めた。
ヤツは何の連絡も無しに俺の部屋に押し掛け、そして無理矢理俺を起こし、上手い具合に俺をハメて添い寝をせがんできたのだ。
蹴った覚えなんてないのだが…。
いや待て、祖父母の家に引き取られる前、親と同じ家に住んでいた時の癖だろうか?
指摘されなかったから気付かなかったがまだあったんだな。
因みにだが、今目が覚めた原因はもう分かっている。
リリーが足までかけて絡みつくように俺の腕を抱いているせいだ。邪魔で邪魔で仕方ない。
どうやら寝てる間に寝返りを打ったタイミングで掴まれたらしい。
腕の状態も最悪であった。
段々痺れてきた上、振り解こうにも中々に強烈な締め付けの為、脱出は困難と見込まれる。
無理矢理解こうにも手の平の位置が悪い。
どうやら太ももで挟まれているらしい。
感触はハッキリ言って悪くない。むしろ良い。しっかり女の子らしいしててすごくイイ。
だが、下手に動かすと彼女の太ももに俺の手の感触が伝わり、変な誤解が生まれる可能性もあるので何も出来ない。
悪いのは向こうなので、別に誤解されても構わないのだが、俺にそういう趣味は無いからな。ロリコンじゃないからな。そういう意味では誤解されたくない。
何にせよ、起こしたらめんどくさそうだしそっとしておこう、これぐらい耐えなければと寝る事を決意した。
それと同時に“二度とコイツの横では寝ない。絶対に寝ない。金積まれても寝てやんない”と、そう心の中で強く誓いを立てた。
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翌日、部屋のカーテンを貫通して朝日が差し込んできたのを体が察知し、リリーは目を覚ました。
「ん〜………影太く…あれ? 影太くん!?」
忽然といなくなっている。
実はと言うと、あれから暫く経った後にもう一度目が覚め、その時にようやく影太の腕は解放されていた。
チャンスと見た影太は、リビングのソファに移って寝、起床時間になると、気付かれないように着替え、さっさと家を出てしまったらしい。
しかし、彼女が腕を掴んだ理由については影太に知られる事も無かった。
(寝ちゃってる間に影太くんの腕、離しちゃったかなぁ…。
甘えたくて掴んでも、何もしてくれなくて、だんだんエスカレートしちゃったのは正直申し訳ないけど…。
でも、結局最後まで何もしてくれないし、何も言ってもくれないまま出て行っちゃうんだ…。はぁ……。
あ、朝まで一緒に寝てってお願いすれば一緒に起きられて、一緒に朝ご飯も食べれたのかな…)
そしてため息をつくと、影太が使っていた枕に顔を埋め、放心状態になるのであった。
こいつら調子乗ってますね。
次回は普通ぐらいの長さの回になるのかなー、分かんないや!