〜第6話〜 初めての冒険
告知した通りめっちゃ長いから時間ある時に読んでね。
作者より。
作者よりなんて書かなくても分かるか。
アッハッハ。つまんな。
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雨が降っているその日。
リリーは朝食の準備が出来た事を伝える為、影太が寝ている部屋のドアをノックする。
度重なる影太の暴走のせいで、昨日は満足行くまで話せず、溜まったフラストレーションの解消するべく、一緒に朝ご飯計画を遂行する為だ。
「影太くん、起きてる?」
(昨日は晩ご飯も二口ぐらいしか食べてなかったし、あの後ベッドの事で揉めて、そのまま空き部屋で寝ようとしてたけど、ちゃんと寝れたかなぁ)
… … …
- 昨晩 -
床やソファで寝かせるのは忍びないと、自分のベッドで寝かせようと影太を揺さぶるリリー。
そんなリリーに対し、激しく声を荒げる影太。表情豊かな彼の眉間には皺が寄っている。
「だから床で寝るのは慣れているって言ってるだろうが! 勝手に寝させてくれよ!」
「ダメだよ! そんな事言って風邪引いちゃったらどうするの? ちゃんとベッドで寝なきゃ___
「そんな物に罹った事なんて無いわい!」
そう言うと、影太は勝手に空き部屋に入り、付いてきたリリーを部屋から追い出してしまった。
… … …
恐る恐るドアを開ける。
「影太くん、朝ご飯持ってき………いない…」
そこに影太の姿は無かった。
彼が何故か持っていた剣や、何故か着ていた鎧一式も無い。
完全なるもぬけの殻。
「…こんな雨の中ギルドに行ったの? 朝ご飯も食べないまま……」
未だ拒絶されているのか、関心を持たれていないのか、また何も言わずに出て行かれてしまった。
どこか既視感を感じる。
昨日よりも深い寂しさを感じる。
言葉も出ない。
行き先は分かりきっているが、ちゃんと生きて帰ってきてくれるのだろうか。
そもそも影太はここに戻ってくる気はあるのだろうか。
色んな意味で心配になってきて耐えられず、その場に崩れるリリーであった…。
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【影太視点】
「多分、暫くは止まないな…」
雨の中ギルドの前に立ち、ギルドが開く時間を待つ事にした。
30秒程経って気付く。
ギルドの看板に掛けられた板には“営業中“の文字が。
まだ6時前だが開いているのか。
ドアを開いてレッツラゴー。
「お、影太くんじゃないか、おはよう。随分と早いね!」
ギルドに入った途端、待ち構えていたかのようにディエゴに声を掛けられる。
まだ早朝だというのに何故いる。
「ああ」
無愛想に答え、なんとなくディエゴと同じ席に座るが、隣にランが居た事に気付かなかったので一瞬ビクッとしてしまう。
会釈すると、向こうもそれに返してくれた。
驚いた事の誤魔化しが入ったせいでヘドバンみたいになってたが、伝わったのか。
何事も無かったかのように、聞きたかった事をディエゴに聞く。
社交辞令的な事は面倒なのでパス。
「なあ、冒険者ってまず最初に何をすりゃ良いんだ?
というか、お前は最初に何をした?」
「日常会話の前にいきなり冒険に関する質問とはね…まあいいや、最初は採取クエストに行ったかな」
「なるほど、採取クエストか」
「そうだね、まずは物の探し方とか覚えたり、知らない場所を探索する事に慣れる事から始めた方がいいかも。
それからある程度お金を稼いで装備を整え…って、影太くんのはもう整ってるな」
一応ちゃんとは教えてくれるが、ディエゴの頬のムダ毛が気になって仕方がない。
あまり話が入ってこない。
剃れよ…。
「なるほどな、あと、自分のステータスを確認する際はどうすれば良い?
受付の機械と同じ物を買えば良いのか?」
重要そうなのでこれも。
レベル上げもとい鍛錬の後に逐一ステータス確認出来ないとまずいだろうし。
「いや、それでも良いんだけど、そんな事しなくとも魔術の基本さえ分かってれば簡単に見れるよ。
こっちに来てから魔導書とかって読んだことある?」
「無いな。魔術の基本ってなんだ? イメージとか魔力かなんかの力の流れを意識したりする事か?」
昔読んだ漫画に書いてた事だが通じるだろうか?
「そう、二つとも正解! 知ってるじゃないか」
マジか。通じるんだ。
「前の世界の漫画に書いてた知識なんだが」
「そういう事か…まあいいや、じゃあまず、机の上に黒いボードがあるとイメージしてみて」
言われた通りに実践してみると、なんと、机の上にスタンド付きの黒い板が現れた。
「グレート! じゃあ、今度はボードに手をかざして、その手から自分のマナを少しだけ流してみて!」
今目の前にあるこのボード物体、他の奴にも見えているって事は幻覚では無いのか。
さて、それよりもマナを流すには、力の流れを意識し、それを外に放せばいいんだよな、多分。
試しに、マナという物が体を循環していて、それを手から放つというイメージをしてみる。
不思議な事に、様々な色がごちゃまぜになったような感じの、実際にその色の物体があったとするなら触れたくないと思わせるような緑色の何かが手からボードに流れて行く。
すると、受付の機械に手をかざした時同様、ボードの上に自分の名前や体格や能力値について表示される。
「おお、よく出来たね!」
嬉しそうに笑うディエゴには一切目を向けず、自分のステータスを確認する。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ランク I
職業:転移者(レベル1)
体力:60/60
マナ:15/16
正気度:99/100
力:23
攻撃力:26
魔力:8
防御:15
守備力:19
素早さ:38
回避:46
賢さ:190
器用さ:41
隠密:74
防具:12
重量:24
魅力:166
慈悲:3
アビリティ:透明化(レベル1)
スキル:
魔法:
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
思っていた以上に細かく分けて書かれているんだな…。
賢さと魅力が高いのは勉強と努力を怠らなかった結果か。
平均を知らんから高いとは限らないが、他の数値を見て比べた限りだと高いのだろう。
多分。
運動は出来る方だったつもりだがこんな物なのか…恐らくこれは数字的に低い。
まあ別に年齢的にも仕方ないし、ヒョロガリだし、筋トレなんて軽くしかやってないし、本気でトレーニングしたわけでもないし。
これからまた鍛えるか。
まあ、平均を知らんからわからないのでテキトーに低い前提でそれっぽく言ってるってだけだが。
ん? なんでそんな余計な事言うのかって? うるさいな、そういう雰囲気を楽しみたいだけだからほっといてくれ!
…『穢ケガレ』はどこにも表示されないのか。
本当にアビリティでもスキルとしても魔法としても扱われないのな。
あのやり取り自体が幻覚の可能性も微レ存…?
「因みに、ギルドカードをかざした場合、カードの情報更新も同時に行われて…えぇっ!? 慈悲3!?」
ちょっと待てふざけんな。
「おい、勝手に見るな!」
こういうのは他人に見られたく無いので慌てて制止。
…つか、慈悲って…なぜこんな物がステータスに書かれているんだ?
下の方にあったから気付かなかった。
「あ、ご、ごめん…」
「ごめんなさい…」
ランも謝るが、そっちは無視して総責任者であろうディエゴを満足行くまで睨み付けた。
そのまま意識がボードから離れると、ボードごとそのステータスは消え、そのまま無に還ってしまった。
なるほど、消し方は意識を途絶えさせる事ね、把握。
「依頼はどこで受ければいい?」
冷静さを取り戻した途端、また俺が質問してやると、
「あ…あぁ、それなら受付の近くの大きい看板、分かりやすく言うとクエストボードに依頼について書かれた紙が貼ってあるんだけど、それにカードをかざすんだ。
そして受付嬢さんにその事を報告____
困惑を隠せずオドオドしながら答える。
分かってても気は遣いません。怒ってるので。
話し終える前に、「分かった、行ってくるよ」と席を立つと、ディエゴは唖然としながら、
「な、なあ、もう行くの? 今日は雨だよ?
それにまだ互いについてもパーティについても話してないじゃないか…。
あ、そうだ、僕達も同行しようか?」
予定が一部崩れたせいだろう、少し声を震わせながらそう呼びかけてくるが、後ろを向いたままこう突き付ける。
「今回は一人で行くよ。
採取クエストなら一人で十分だ。
パーティで動くのはまた何かモンスターを狩る時にしよう。じゃあな」
そのまま振り向きもせず立ち去った。
だってとっとと冒険してみたいですもん。
今は世間話に興味ないですもん。
ハジメテは一人がいいですもん。
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【ディエゴ視点】
いつ来るかも分からないからわざわざ早く起きてギルドに来たのに、全然話したかった事も話せなかったし聞きたかった事も聞けなかった…。
彼、なんで僕やランちゃんについての質問はしないんだろう…。
関心を持たれてないのかなぁ…? 向こうからすれば、最初の仲間の筈なのに、おかしいな。全然仲良くなるキッカケを与えてくれない…。
年甲斐もなく泣きそうになってきた。
そんな僕に対し、ランは、
「もう彼誘うのやめたら?」
と、ヤケにハッキリとした口調で言い出す始末。
「え、いやぁ…でもさ、折角僕達同じ転移者だし…それに彼、頭いいみたいじゃん!
…今は、その…まだ心を開いてくれてないだけの可能性もあるし、さ…?」
ハキハキと発言するランに対し、僕は中々意見が定まっていないような、モヤモヤとした主張をしてしまった。
どこまで情けないんだろう。
ランは口調と舌の回転をそのままに文句を言い続ける。
「どうせ一回きりなんじゃ無いの?」
「む、向こうが話しかけてくれなくても…僕から話しかけるさ、彼が僕達に心を開いてくれるまで!」
「思いやりも慈悲もない人に心なんてあるんだか」
トドメのようにそう言い放つ。
「でも、とにかく決まった事だから」
そうナヨナヨとした口調で返す事しか出来なかった。
もう目も当てられないと言わんばかりにため息を吐き、そっぽを向かれた。
文句を言う価値もないって事なのかな。
はぁ…。
…彼との距離感を縮めるにはどうすればいいんだろう。
前の世界ではあんまり友達がいなかったから分からない…。
……今は考えても仕方ない、また明日頑張ろう。
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【影太視点】
攻略本ディエゴから離れ、クエストボードに貼られてある依頼を確認し、内容を見ては考え、別の依頼に目を向け、といった作業を繰り返す。
Sランク向けからIランク向けの物まで、それぞれ区分けされた上で貼られている。
Iランク向けの物は、採取依頼はどれも報酬金が安い。当然だ。
物によっては紙に印が記されている。恐らくギルドカードの裏側に書かれていた記号に似てるので、受注者の印だろう。
物によっては複数個印がついている物もある。ダブルブッキングとかは無く、完全に早い物勝ちがルールという事か。
一番楽そうな薬草採取は何故か受注者が多くて嫌になる。
いや待て、なんでよりによって薬草採取依頼の受注者が多いんだ?
青色の丸で囲われているのはパーティとかそういうのを表しているのか?
だとするならなんで六パーティも受注してるんだ? 意味が分からん…。
そのうち四つは纏めて赤丸で囲まれてるし…連合とかクラン的なやつか? もう訳がわからん。
だが、その事について考えても仕方がないので再び発掘作業に取り掛かる。
おっと、良さげな依頼を発見。
“クロイロツノキノコを採取せよ“…か……ん? 10g当り銀貨3枚だと?
高過ぎず、安過ぎなくて良いな、これにしよう。
金の相場なんて全く知らんけど。
カードをかざすと紙に印が付けられる。
それを見届けた後、受付にいるジョイに報告するべく声をかけようとした瞬間、
「あ、影太さん! もしかして依頼の手続きですか?」
と、声をかけられる。
一連の動作を見てたから気を遣って声かけてくれたのね。
「あぁ、クロイロツノキノコのやつだ」
「分かりました! その依頼を受けられるのであれば…こちらの地図をどうぞ!
風魔法? か何かで遠くの資料を呼び寄せ、それを手渡してきた。
ふむふむ、街の周辺の地図ね。
「クロイロツノキノコはここから一番近い場所だと、歩いて一時間ぐらいのところにある《聖騎士の森》に生えているキノコですね〜。
そこまで珍しいキノコって訳じゃないんですけど、最近その辺りにゴブリンの巣穴が出来ちゃったせいでとてもきのこ狩りが出来る状況じゃないらしくて…。
なので冒険者さんに採取を頼むって話になったみたいなんですけど、現時点では初心者さんには危ない場所で___
「それでいい。こんな日にはピッタリだ。
で、キノコの特徴は? 黒色のツノが生えてるのか? それともツノが生えた黒色のキノコか?」
大体の要点は掴めたので、余計な話は遮り、大事なところだけ聞いておく。
「あ、え、え、えぇ?
こ…後者ですけど……あ、見た目はこんな感じです…」
カメラのような物を取り出し、キノコの姿を映して見せた。黒色のマッシュルームに尖ったツノが生えたような外見だ。
キノコの見た目は分かったが、この世界ってカメラがあるのか…。
「なるほど」
それだけ言い残し、手渡された地図を眺めながら、支給品と書かれたリュックを背負い、その場を去ろうとする。
「え、ほんとに行っちゃうんですか!?
ちょっと待ってくださいよ! せめてパーティを組んでから行ってくださいよ!」
うるせえなぁ、もう。
知るか。俺がいいって言ってるんだからこれでいいんだよ!
じゃあな!
▲△▲
ジョイに呼び止められても尚、それを無視してそのままギルドの外に出て行った影太。
その背を慌てて追いかけようとするが、別の冒険者に声を掛けられ、身動きが取れなくなる。
(どうしよう、もし万が一死亡報告書が届いたりしたら……リリーちゃんにどう説明すれば…)
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【影太視点】
雨が強まってきたせいなのか、頭が痛い。
初めての街の外を、まさかこんな気分で迎えるとは。
痛みが引く訳でもないのに濡れた頭をぐりぐりしてみるが、どうにもならないので全てを諦め、別の事を考えるようにした。
街の外は、意外と整備されている。
道に敷石が埋まっている。
これに沿って歩けば辿り着くのだろうが、不安なので、地図を確認しながら歩こう。
一時間程整備された道を歩くと目的地に着いた。
特に危険生物に出会う事も無かったのはラッキー。
“聖騎士の森”と書かれた看板を過ぎ、深そうな森の中に道が続く道へと遠慮なく入る。
雨はまだ止んでない。
頭痛は鬱陶しいが、まあいいだろう。
“聖騎士の森”と書かれた看板の先にそのまま進み歩く。
暫く広い道を進み、途中開けた場所があったので、道を逸れてそこに出ると、朱色で小さく、いかにも小賢しそうで悪そうな顔をした何かが一体。
人、ではない。この人相で、尖った耳に、小さなツノ。
多分これがゴブリンだな。
念の為剣を鞘から抜き、茂みに隠れながら遠くから迂回して背後に回る。
いくらゴブリンの巣穴があるとは言えども、雨が降ってりゃ向こうからすればこちらの姿も見えにくいだろうし、もしかしたら殺せるかもな、と考えてここまで来てみたが、ククク、実に安い商売だ。
こっそり近付き、間合いが狭まるとサッと掛けだし何の躊躇も無くゴブリンのうなじに剣を刺す。
グエッと小さく断末魔をあげ、剣を引き抜いたと同時に崩れる。
我ながら完璧だ。
初めて自らの手で虫以上に大きな生き物を殺した。
しかし、それ以上の事は何も思わない。
この世界では当然の理ことわりだ。
ゲームのように死体が消えたりもしない事に安心しながらゴブリンの死体をまさぐる。
ドロップアイテムのチェックだ。
ふむ…こいつの剣はボロボロで使えそうに無い。
後は角笛と腰に下げているよく分からん袋ぐらいしか良さげな物は無い。
袋の中身は…何これ、お豆さん? 何の豆かは分からないしそっとしておこう。
一通り漁り終えると、豆が入っていた袋で剣を拭う。
油を落とす為だ。
そして死体は他のゴブリンに見つかる可能性を考慮し、茂みに隠した。
さて、クロイロツノキノコを探そうか。
木の根本、茂み、あの子のスカートの中と、様々なところを漁るが、結構な頻度で見つかる。
あの子のスカートの中からキノコが見つかったら嫌だなぁとか考えながら、倒木を確認してみると、まとまって見つかったりもした。
群生している場合もあるようだ。
よっぽど長い間放置されていたのだろう。
これだけ見つかるにも関わらず報酬金がそこそこ高額だったのは誰も受注しないからか。
こんな中途半端な距離で、ゴブリン程度しか魔物が居ず、そしてそのゴブリンは恐らく群れで、駆け出しの冒険者には向かない採取依頼となると、そりゃ当然誰も受注しない筈だ。
モ○ハンとかでも星3のクエストの採取依頼なんか終盤になるまで放置しちゃうもんだし。
というかそれなら最初からゴブリンの巣の掃討依頼を出せば良いだろう。
そしたらパーティを組んだ初心者の目に付くかも知れないし…それかギルド側が上手いこと融通の利いた詳細書くかしろよ…。
もう俺にギルド運営させろよいっその事。
そっちの方が世の為人の為俺の為になるだろ…。
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夢中になってかき集めていると、納得出来る程の量のキノコが集まった。
恐らく暫く食事に困る事はない程の額は入るだろうと確信し、帰る事にした。
もう少し漁っても良かったが、これだけで十分良い額になるだろうし、まだ依頼がそのまんまなら別の日にまた漁りに行けばいいし、今日は疲れた。
体感では500g程は集まった。
帰路に就く為に道を引き返し、先程ゴブリンを仕留めた広場に出ると、ゴブリンが二体もいた。
辺りをキョロキョロ見回し、警戒しているようだ。
まずい、まさかこいつら、さっき殺したやつの行方を追いに来たのか…?
流石に二体は相手にしてられないし迂回するか。
しかし、片方のゴブリンが、身の丈に合わない程のロングソードを持っている事に気付く。
あの体格であれは振れない。現にヨロヨロ歩いてるしな。
それに見たところ新品だ。
あの様子だと一度も実戦で使った事はないだろう。剣そのものも妙に綺麗だし。
油断さえしなければ、あいつを先に仕留めて一対一ワンオンワンに持っていける。
この考えこそが油断かも知れないけどな。
もう一体の動けそうなのを先に狙っても良いが、距離が開き過ぎてるし、それに万が一あいつの大振りの一撃に当たったらたまったもんじゃない。
流石にあの剣が当たりはしないとは思うが、もしもの事があったら革の鎧じゃ防げる気がしないしロングソード持ちを先に狙うか。
…だが、ショートソード持ちのやつと対峙する事はほぼ確実。
多少怪我する事は覚悟しておこう。
一旦リュックを置き、片方がよそ見している間に最初に目をつけたロングソードを持った個体に足音を立てぬよう近付く。
間合いがある程度縮んだ時、振り向かれた。
当然気付かれたらしく、「ギャッ」と声をあげられ、もう一体の視線もこちらに向く。
だが、計算内だ。
不意討ちが上手く行けば、うなじか胸部を刺して殺す予定ではあったが仕方ない、構える前にこちらを振り向いたので、怯ませる為適当に斬る。
特に狙わず斬ったが、上手く胸に当たる。
意外と斬れるものだ。ビギナーズラック。
ゴブリンはゴボゴボと吐血音混じりの断末魔を上げながら数歩だけ歩き、やがて倒れてもがき、やがて衰弱して息絶えた。
今ので肺をやったのか? まさかそこまで深い傷とは思わなんだ。
ゴブリンが死ぬのを確認し終わった矢先、もう一体がこちらに飛びかかり、ボロボロのショートソードで襲いかかってくる。
完全に不意を突かれた。
「マズった!」
避ける暇もなく、攻撃が当たり、脛を斬られるが、脛当てのお陰で内側は無事。
鎧自体の外傷もかすり傷程度で済んだ。
ターロンナイス。
即座に切り返し、顔の一部を斬って怯ませると、即座に胸部を刺しにかかる。
命中。
そして剣を抜くと、「ギャギャガガガガゴボバ…」とか発しながら血を吐き倒れた。
「ふぅ…」
勝てるとは思っていたが、流石に肝が冷えたぞ…。
今後は死体を確認する時は気をつけよ。
死んだか死んでないかは毎回しっかり見極めた上で判断しないとな。
倒したゴブリンの持ち物を確認する。
先程と同じように、ボロボロの剣と角笛とよく分からない豆が入った袋しか持っていない。
袋で剣の油を拭うとその死体を放置し、もう片方に目を向ける。
こいつも角笛と豆か…。
だが、あのロングソードはまだ新品のようだし使えそうだ。
ゴブリンの背中の鞘を取り、地面に落ちていたロングソードを拾い、眺めたり持ったりしてみる。
何の変哲もない外見。
太さは大してないが、刃渡りがおおよそ90cm程あり、片手で待つにはかなり重い。
両手で持っても重い。
どう考えてもゴブリンの体格には合わない。
一旦それを鞘に納め、剣帯を背中に掛けた。
安置していたリュックをその上から背負い、ショートソードを手に持ち、森を後にする。
ショートソードを腰に差しても良かったけど重心がズレてこけたら嫌じゃん。
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重い…。
リュックの重さ自体は大した事ない。
だが、かさばるせいでちょくちょく持ち方を変えないといけない。
その度にロングソードの負荷が体に掛かる。
ふとした時に思い出す。
『穢ケガレ』を試し忘れた…。
そもそも攻撃用なのかは分からんが…。
また一時間程同じ道を歩き、街に着いた頃には雨が止んでいた。
やったね、バイバイ頭痛。
そのうちマシになるなこりゃ。
ギルドに戻り、納品と報告をする為カウンターでジョイを待つ。
「あ、影太さん…! おかえりなさい…!! 良かった、生きてて…」
奥から現れてはほっと一息つくジョイにリュックを差し出す。
「これで良いのか?」
「あ、はい、確認します……ってその前に!! 一言言わせてください!」
机を叩いてこちらを黙らせてきた。
大体何言われるかは分かっているが、何のつもりだこいつは。
机を叩く必要はないだろ。祭壇蹴って相手を威圧するやつ並にヤバいぞそれは。
「…なんだ?」
「私初心者さんには危ない場所って言いましたよね?
どうしてそのまま振り切って行っちゃったんですか?」
悲しそうな表情を浮かべながらこちらを見つめて問う。
そんな顔しないでよ。もう少し俺を信じてよ。
えーん。
「ゴブリンの巣穴があると言ったな」
「ええ、言いました」
「雨が降っているのならゴブリンも巣穴に籠るのではないかと読んだ。
仮に見張りが居たとしても、少数だろうし視界も悪くなっていてあまり見えないとも思った」
「だ、だとしても、いくらなんでも無茶ですよ!
もし気付かれたらどうするんですか!
最初はスライムとかコボルトとかと戦って攻撃する事に慣れ___
「結果的に俺はゴブリンを殺し、無事に帰ってきた。別に問題は無いだろ」
めんどくさいのでネタバレだ。
こいつ、俺がモンスターを殺す度胸も無いやつと思ってただろうし。
「……へ? 倒したんですか?」
眉間に皺を寄せてこちらを伺いながら問う。
そんなに疑わしいのかよ。
「…確認させてください。
ステータス見せてもらえ…あ、出し方分かります?」
無言のままボードを出し、ステータスを表示する。
「…モンスター討伐数の項目はっと…え? え!? さ、三体も倒したんですか!?」
ジョイが驚いている様子を見ているとニヤけてきた。
あまり人に褒められた事が無いからだろう。
我ながらキモい。
「たまーに妙に強い転移者さんがいたりするんですが、影太さんもその手の人だったとは…。
でも確か、腕力はあまり無かった筈ですが……あ、そうか、賢さが高かったのか…。
一体何をして勝ったんですか…?」
「不意討ちの繰り返し。雨が降っていたお陰で決まり易かった。
運が良かっただけで俺が強い訳ではない」
と述べながらも得意げに微笑む。
オタク特有のやつだと気付いた瞬間死ぬ程恥ずかしくなったので、それを打ち消す為に、「で、報酬は?」と急かす。
「あ、すみません、報酬ですね! 少々お待ちを…」
ジョイが先程渡したリュックを開き、キノコを取り出し、カウンターにある大きな秤に乗せる。
「全部で約510g…です。たくさん集めましたね〜…」
ジョイはギルドの奥に行き、袋を持ってきてそれを影太に手渡す。
「こちらが報酬になります!」
中身を確認する。
金貨が7枚と銀貨が13枚入っている。
なるほど、金貨1枚は銀貨20枚分の価値か。
「えぇ〜っと、なんでそんなにたくさん採れたんですか?」
不思議そうに聞いてくるが、
「あの依頼、長い間放置されてたんじゃないのか? たくさん生えてたぞ」
と言うと、納得したような表情で頷く。
やっぱ当たりか。
「じゃあ、帰るよ」
「あ、はい! お疲れ様でした!」
元気な声に送られながらギルドを出て、リリーが一人待つ家に戻り、玄関のドアを開ける。
鍵は開きっぱなし。無用心なやつめ。
リビングのソファの前で二本の剣を降ろしたタイミングで、二階からかけ降りてきたリリーに嬉しそうに「おかえり!」と声をかけられる。
軽く頷くと、寄ってきては、上目遣い。
「なんで何も言わずに出て行っちゃったの?」
「声を掛けた方が良かったか?」
「当たり前じゃない! もー…。
朝ご飯ぐらいは一緒に食べようよ…」
ムスッとしながら俺にタオルを渡し、すぐ傍の椅子に座り、頬を膨らませながらこちらを見つめてくる。
目を合わせないようにしながら鎧を脱ぎ、渡されたタオルで体と鎧を拭くと、ソファに腰掛け机に財布代わりの袋を置く。
そのまま横になり、「腹が減った」と口にする。
「じゃあ、今度こそ朝ご飯にしよう。でも、その前にシャワー浴びてきてね。
いくら影太くんでもそのまんまだと風邪ひいちゃうから」
それだけ言って、キッチンに向かうリリーを目で追いながら、そのままリラックスする。
ある程度満足がいくまで休むと風呂場に向かい、シャワーを浴びた。
朝飯、なんだろう。昨日みたくスープか何かだろうか。
おっと、この世界に来て初めて日常らしい事考えた気がするぞ。
息抜き回用意しときます。