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イバラノカゴ  作者: 咒 弍一郎
【序章】転移、そして冒険者へ
5/29

〜第5話〜 お節介

 遅れました。

 毎度長々とすみませんねぇ。


 闇の中、幾つもの小さな声が途切れ途切れに聞こえる。


「ああ我が………返せ……顔を………し……」


「王よ…………我ら…………よこ……雅なる…………ご拝謁賜り………」


「お前と俺は……………最高の………お前……」


 それぞれ別々の言葉を発しているが、いずれもハッキリと聞こえない。

 全く話している内容が分からない。

 なんとなくバラバラな気もするが…。


 「聞こえるように喋れ」と言おうとするが、体が動かない…。

 どころか、声を出そうとする時の感覚すら無い。

 そもそも、その空間に自分の実体が存在しないような気もする。


 にわかに声が止む。

 訪れる静寂に、呆気を取られていると、

 突如、先程まで別々の事を言っていた声達が、皆同じ事を喋り出す。


「ニイロエイタ イズレ マタ アイマミエヨウゾ」


 あの声だ。

 神を名乗る()()()の声だ。

 さっきのあの不安定な喋りではない。

 先程までは感じ取れなかった凄まじい語気。

 不気味過ぎて笑えない。


 分かっていた事だがやはり奴は倒されていない。

 消滅などしていない。


 色々とハッキリさせないと。


 奴はなぜ俺の前に現れたのか、何のための『(ケガレ)』なのか、奴の最終的な目標とは何か。


 とにかく、現状だと利用されている気がしてならない。


 などと考えていると、目の前が徐々に明るくなる。


 …なんだ? この布……?

 俺は…どこに…夢……? …ん?


 動いてもいないのに体が揺れるのを感じる。

 太ももの辺り、何かの圧がある。

 何者かに背負われているらしい。


「あ、目が覚めたみたいだねー!」


 喧しい声がすぐ隣から聞こえる。


 状況が分からない。どうなってんだ。

 とりあえずこの声がカイラの物である事は分かった。

 となると、俺を背負っているのは…?


「ったく…起きやがったか。

 どうしてあの流れで路地から出ようとしたんだか…。

 まあいい、あのなぁ、お前が重い鎧着てたらその辺に放置してたからな? 感謝しやがれこのクソッタレ」


 タデウスが冷淡にブツブツ文句を言うが、それに対しての返事はしてやらない。

 つか、降ろせよ。別に歩けるだろうし。


「なあ、降ろしてくれないか? 自分で歩ける」


 大体ね、互いに何も知らないような、なんならさっき会ったばかりの距離が遠過ぎる他人に触られているのが気持ち悪いんすよ。

 勘弁してくださいよほんと。


「さっきまでは歩けてなかっただろうが!!」


 どやされた。

 泣きそう。今なら歩けると思うのに…。いや、やっぱ無理なのかなこういう時って。

 いけると思っててもダメなもんなのか。


 あー、今になって感じるこの疲労感。だめなやつや。

 ぼーっとしておこ。


「えっとね、君の身元は分かんないけど、服装的に冒険者っぽいから一旦ギルドに送り届けるって事になってるんだけどそこは大丈夫?

 …って、大丈夫そうか、それまでタデウスの背中で休んでて!」


 考える事すら面倒で、その言葉に返事を返さずただ惚けていると、それだけで大丈夫認定されてしまった。

 正直キツイんすけど…。ギルドじゃなくてどっかその辺の宿屋に…まあいいや、最悪ギルドで寝させてもらおう。


「なあ…俺みたいなヒョロヒョロじゃなくて、テメェが持てば良かったんじゃねえのか?」

「そりゃ力は私の方が強いけど、私の身長じゃ足りないかもしれないじゃん! それに相手は男の子なんだよ? ナニか…私に当たるかもしんないじゃん? むふふ…」

「…背負うんじゃなくて担げび良かったじゃねえか」

「やだよ! 人攫いみたいじゃん!!」


 くだらない口論が始まったが、ギルドの前に着く頃になってようやく収束した。

 内容はただただ不毛だったので聞かずにほっといた。


- - - - - - - - - - - - - - -


 タデウスがギルドのドアを開け、「ぶっ倒れてやがった迷子の冒険者連れてきたぞ」と皮肉のように言い放ち、受付嬢を呼ぶ。


 俺の対応をした茶髪の受付嬢があたふたしながら「影太さん!?」と叫んで走ってきた。

 そりゃ驚かれるだろうさ、街の外に出てもいないのにくたばった状態で帰還されちゃあさ。

 つか、恥ずかしいから降ろして欲しいんですけど。

 体調どうこうよりも恥ずかしいから。周りの冒険者にすげー顔で見られてっから。


「なあ、いい加減降ろせ。ここなら椅子もあるからいいだろ?」

「そんなに嫌かよ」


 …やっと解放された。

 ため息混じりに「書類は纏まってるのか?」と、状況に合わない発言をしたせいでタデウスに「礼の一言も無いのかよ」と小声で咎められた。

 こればっかりは冷静さを欠いてるな。

 一回落ち着くべきか。


「すまん」

「謝れとは言ってねえよ」


 タデウスは苛立ちを隠さずボソッと言い放ちながら、そのまま笑顔で手を振るカイラの首根っこを引っ張り、共にギルドを出てしまう。

 助かりはしたがどこか不快…いや、流石に俺が悪いか。反省。


「あ、えぇっと…何があったんですか?」


 受付嬢が恐る恐る状況の確認をしてくる。

 どう説明すれば。


 でもそれであんまり時間取られたくないし、今日はもうさっさと寝たい。風呂も入りたい。そもそもこの世界、風呂が一般家庭に普及してるのか知らんけど、どこかに銭湯とか浴場ならあるだろ。


 脱線気味の思考回路の電源をオフにしつつ、やれやれとありのまま今起きた事を話しておく。


「幽霊みたいな化け物に化かされたんだよ。こっちの世界にはそういうのもいるんだな」

「え、そんなのが街の中に居たんですか? 信じられない…」


 あ、詳しく聞かれるやつや。

 めんどくさいので話逸らそう。


「それより書類の話だ」

「え、えぇ!? あ、は、は、は、はい! えぇっと、こちらが影太さんのギルドカードになります! あ、あとこれも! 帰ってからお読みになってください!」


 小さい割に妙に分厚いカードを手渡された。

 遅れて紙を数枚渡されたが、こっちは帰ってから読めだそうだ。


 先にカードの方に何が書かれているか確認する。


 エイタ・ニイロ…登録日、1384年5の月…16歳、人間…転移者…、所属クラン無し…所属パーティ無し、Iランク…。


 自分の情報が書かれている。


 一通り確認し終え、裏も見てみると、見た事がないような、複雑な記号が書かれているのが目につく。


「紛失しても再発行出来るようにはなってますけど、その場合は手数料いっぱい取られちゃいますから気を付けてくださいね!」


 さっきからずっと思っていたが、拙い言葉遣いだ。


 なぜギルドの人間なのに『取られちゃう』と言うのだろうか。

 言うなら『手数料がかかります』って言えよ。

 ギルドの人間なら消費者視点で言うな。


 新人なんだろうけどさ…事前に予習とかしなかったのか…?


 しかし、今はその程度の事を気にする必要はないな。

 ツッコミは入れず、聞きたい事を優先的に聞く。


「なあ」

「はい?」

「裏面の記号…? これ、なんだ?」


 カードの裏面に記されたその複雑な何かを指差し、受付嬢に問う。


「あ、これですか? これはですね、影太さんを表すマークです!

 えっとですね、影太さんが依頼を受けた際、これがクエストボードの依頼書の方に表示されるようになってます!

 お陰で誰がどの依頼を受けたか確認出来るんですよー、便利ですよねー」

「…自分で描けないものなのか?」

「その場合ですと、他の人と似たようなデザインになっちゃう可能性もありますし、それがキッカケで揉める場合もあるので…」


 なるほど、と頷き、帰ろうとすると、「待ってください」と受付嬢に引き止められる。

 なんだよ、さっきの化け物について聞かれるのか? 上手く話逸らせたと思ったのに。まあ当然か。


「影太さんを待ってた人がたくさんいるので、帰る前にまずその人達に会ってからで…。

 あと、さっきの化け物の事も聞かせて欲しいんですよね」


 待ってる人ってなんだよ。

 まさかリリーか? いや、そうに違いない。めんどくさい事になったな。どうしようか。


「さっきの事? あぁ、なるほど。それは一旦置いておこう、待っていたやつとは?」

「あちらです」


 と手で指された方向を見ると、ニヤニヤしながらこちらを伺うディエゴと、少し俯いている芋っぽい女がいる。

 ゆっくりと近付いてくるディエゴとその女。


 ああ、なんだ、こいつらか。ビビらせやがって。


「ずっと待ってたよ影太くん。

 随分と…その…素晴らしい登場シーンだったね」


 ディエゴに皮肉られるが、それに気を取られる事は無かった。

 それよりも、後ろの見覚えの無い女が誰なのかが気になり、「こいつは誰だ?」と問う。


「あ、あぁ、彼女はランって言うんだ。

 僕のパートナーさ…さっきもいたんだけどね…」


 背負われていた事をいじった件には一切触れられなかったせいか、たじたじしながらそう答えると、それに続けてランが、


「ラ、ランです、よろしくお願いします…」


 と軽い自己紹介をする。

 見た目クソブスなのに子供みてえな声してんななんだこいつ。

 こいつも転移者か? ネットの囲われナオンって感じだな。


 適当に頷くと、ディエゴが更に続けて喋り出す。


「えっとさ、影太くん、君、僕達のパーティに参加しない? 僕達みんな新入りだし転移者だろ? 前の世界の話とかも共有し合えるし良いじゃないか」


 本日二度目の勧誘だ。…いや、一回目は勢いで言っただけか、やっぱあれはノーカン。


 正直人付き合いとなると面倒だが、現状を見ている限りだと自分と同じ転移者は貴重だ。

 前の世界の情報共有に関しては興味無いが、向こうがこちらの世界で得た情報で、自分の現状を整理する事や、ギルドの情報や機能を知る事にも繋がるだろう。


 そう考えると、当面の間は関わる価値はある。


 それにパーティを組んだとしてだ、今後モンスター等と対峙する事もある筈。

 もしそういう事があって、且つ最悪な状況にでも陥った際は、コイツらを盾にする事も出来る。

 断る理由も「面倒くさい」以外に無い。


 ここで無精するのは勿体無いというのは確実なので、前向きに検討するか。


「…いいよ、明日にでもまた話そうか」

「明日だね、分かった! …やった、これで三人だ…!」


 別にパーティそのものに加わるとまでは言ってないんだがな…。

 大袈裟に喜ぶディエゴだが、俺の背後に小さな殺意が佇んでいる事に気付き、指を指して震え出す。

 当然、その正体を俺はまだ知らない。


「影太くん、後ろ……」


 ディエゴが指を指した方向を見ると、そこには穏やかだが仮面のような微笑みを浮かべたリリーが立っていた。


「仲が良さそうで何よりです…。

 へぇ〜、お名前はぁ…エ・イ・タ・くんって言うんですね〜」

「…そうっすね」


 結局こいついたのか…。

 やっぱりギルドに居る事はバレていただろうしそりゃあ来るよな…ワンチャン諦めてくれたかと期待していたんだが無理か……。


 それよりも最初と比べて雰囲気が違い過ぎるんだが。口調に謎の圧を感じる。

 コミュ障だと思ってたんだが違うのか?


 何の予備動作も見せないように気を付けつつ、走って逃げ出そうとするが、鎧を掴まれ、止められる。


「どこでこんな鎧を……。――なんで今朝、私の事無視して飛び出しちゃったんですか?

 あと今度は勝手に行っちゃわないで下さいね」


 ああ、もうオドオドしたコミュ障じみた口調では喋らなくなっている。

 かなり怒っているのか。

 …放置して出て行ったのはマズかったか…だがあれはどう考えても諦める流れだろ…。

 くぅーん…。


 何と返せば良いか分からず、顔を逸らしたまま硬直してしまった。


「無視ですか…」


 だって怖いですもん! どうすりゃいいんですか! あとさっきからその怖い顔やめてくんね!? ああクソ…。んで、俺はどうするべきなんだよ…。


 どうしようも無く立ち尽くす。

 状況は変わらない。

 そんな俺を見かねたのか、リリーは、


「もう、影太くん、貴方が『勝手に召喚された〜!』って怒る気持ちも分かりますけれど、私は貴方の召喚者ですから。

 どの道こちらの世界に留まるつもりだったら頼ってくださいよ。

 全力で応えますから」


 さっきまでとは打って変わった優しーーーい口調で優しーーーくハグをしてきた。

 何この子きゃわわ…じゃなくてだ、なんだこの情緒不安定女。

 怒るなら怒れよ。

 予想外なムーヴ過ぎてコイツの事嫌いになりそう……。


「お前のような子供に頼ってたまるか」

「一応、これでも貴方と同い年なんですよ?」

「……???」


 え、理解が追いつかない。

 こんな小学生みたいな風貌の16歳とか見た事がないんだけど。

 身長が140cmぐらいしか無いようだが、いわゆる未熟児なのだろうか。

 それはいいとしてこいつはどこで俺の年齢を知ったんだ。


「この体型には深い訳があるんです。

 とにかく、帰りましょう?」


 腕を掴まれたままリードされてしまっている。

 そのまんまの流れで目をパチクリさせたまま頷いてしまう。


「リリーちゃん、良かったね〜」


 受付嬢がニコニコしながらリリーを祝福する。


「うん、ジョイちゃんもありがとう! …いきなりズカズカと押し込んじゃって本当にごめんね〜…」

「いやいや、久しぶりに会えて嬉しかったし全然いいよ〜!」


 …ジョイって言うのかこの受付嬢。

 名札のような物が付いていないか受付嬢をよく確認すると、胸元のポケットに《ジョイ・クインシー》と記されている。

 こいつらに友人関係があるとは厄介な気がする。


「でも確かにリリーちゃん子供みたいだよね、6年前のまんまだよ〜」

「むうぅ〜、言わないでよ〜」


 俺と同い年という事を考えると、10歳で成長が止まったのか。

 なんて考えていると、リリーがムスッとした顔で俺の手を引っ張り、「じゃあ、そろそろ帰るね!」とジョイに言う。


「影太くん、一緒に帰ろ。

 こっちでは私の家が貴方の家だから」


 いつの間にか丁寧語ではなくタメ口で喋りかけてくるようになっている。

 先程までの怒りが親しみに裏返ったのだろうか。

 理解に苦しむ。


 それよりもドサクサに紛れて自分の家を俺の家扱いする逆ジャイアニズムを展開してる件について、どう対処すればいいの?


「宿に泊まる事は出来ないのか?」

「ダメ、そもそも影太くんお金持ってないでしょ?」

「あるが」


 そう言って、俺が稼いだ訳でもないのに手品師の如く、得意げに袋から銀貨を何枚か取り出す。


「どこで貰ったの…もう……スリとかだったら許さないからね」

「やるように見えるか?」

「うっ…ど、どうだろ…」


 目を逸らして微妙な返答。

 なんでそこでするように見えないと言い切ってくれないのか。

 だが、空腹で、更に眠たいこの現状で、ツッコミを入れる為の気力が湧くはずも無く、ため息だけで済ませ、リリーに従う事にした。


「あ、影太さん、リリーちゃんの事よろしくお願いしますね!」


 なぜかジョイによろしく頼まれてしまう。面倒だと思いながら頷くと、リリーは「逆だよ」と小さな声で呟き、続けて、


「でも、影太くんのお陰で昔のお友達と再会出来たし、今までの事は全部許してあげる」


 と告げてきた。


 なるほど、許されたのか、俺は。

 つまりこいつはあれか、勝手に俺を召喚した癖に、相応に勝手に逃げた俺にキレてたのか。

 なるほど。

 ちょっとイラッと来たぞ。


 そのままギルドを後にし、帰路に就く。



▲△▲



 影太が去って行くその背を見、


「いいなぁ、僕もあんなに可愛い召喚者に召喚されたかったよ…」


 と、ふにゃふにゃとした口調でそう言い、影太を羨むディエゴ。


「そうだね。私も雑に扱ってこない人が良かったな」


 ランもそれに重ねるよう呟く。


「…召喚者っていうのもやっぱり色んなのがいるんだね」


 どこか寂しげな二人をよそに、カウンターで書類に目を通していたジョイは、今になって忘れ物を思い出したようだ。


(あ…影太さんに街にいた化け物について聞くの忘れてた…。

 でも普通はそういう事真っ先に報告するものだと思うし…何かの喩えとか冗談なのかなぁ…? それとも遠回しの皮肉…? 皮肉の線、ありそうだな…。

 まあいいや)


- - - - - - - - - - - - - - -

▲△▲


【影太視点】


 …痛い。痛いし歩くペースが早い。


「おい、なあ、いい加減手を離せ」


 そう要求するが、


「また逃げちゃうかも知れないから」


 と主張し離そうとしない。

 家に着いても同じ事だろうがクソボケ…。寝てる間に逃げてやろうかクソが。


 仕方なしに手を繋いだまま帰る。


「ねえ、結局なんであの時私の事を無視したの?」


 許すと言ったにも関わらず苦しい質問をしてくるが、もう面倒なので全て言ってしまう事にした。


「相手にする時間が勿体ないと思ったからだ」


 それを聞いたリリーはしょんぼり顔で、「酷すぎる」とボソリと呟く。


「その、一応、冒険者になる事に関しては認めますし、私の家に住む事も許可しますが…」


 前の世界に帰る時、先程のお怒りモードの時と同じような丁寧語になる。

 真面目に話す時は丁寧語で喋る習性があるのだろう。


 つか、こいつに認められなくても冒険者にはなれたし、家なんざ無くてもその辺の宿に泊まれるだろうが。

 お前が俺に居て欲しいだけだろ…。


「私のお友達になってください!!!!」


 …はぁ。


 大声でそう発し、懲りずに真剣な眼差しをこちらに向けてくる。

 嘆息する事しか出来なかった。

 無視していると、


「私じゃダメなんですか? あの冒険者さんとは仲良しなのに?」


 とまた語気を強めて返してくる。

 拒否するべく文句を言いかけるが、一度考える。


 そういえばギルドの受付嬢と仲が良いのか。

 もし今後コイツの元を離れてギルドに通ったとしてもめんどくさそうだ…。


 もう吹っ切れた。


「ウン、イイヨー」


 自分でも分かるが、今俺は死人のような顔をしながら頷いてるだろう。

 リリーはそれに気付かず嬉しそうに「ふふん」と笑いながら急ぎ足になる。


 …なんか言えよ! 何照れてんだコラ! そんなんだからテメェはボッチなんだよカス!


 あ、待った、俺もボッチ…。

 い、い、い、いや違うし、こいつと違ってネットのコミュニティに属してるから薄皮一枚分ぐらいは格上だしいいぃぃ!?


 …しょうもな。


 それよりも、こちらの調子が悪いにも関わらず、早足で歩く事を半ば強要するとはお友達に対する配慮に欠けるのではなかろうか。

 無理矢理手を引き剥がそうとした途端、パラっとリリーの方から手を離す。


 なんやねん!!


 家の前に着いた。

 リリーが鍵をポケットから取り出すと駆け出し、ドアを開け、また俺のところに戻って手を引っ張り家に連れ入る。


「影太くん、晩御飯の支度手伝ってね」

「無理矢理住まわせてる癖に図々しいやつだな…」


 そんなチグハグな二人を包む夜空に星は無い。

 ただただ不穏な雲模様を映している。


 明日は雨が降るのだろうか。

 次回も長いんですよ。すまんまん。


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