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イバラノカゴ  作者: 咒 弍一郎
【序章】転移、そして冒険者へ
3/29

〜第3話〜 準備完了

 ちょっと早めの投稿です。


 善人多くて泣けるね。


「『召喚者なんていない』だァ?」


 俺の顔を見返し、つぶらな瞳でジーっと睨んでくる。

 ま、そりゃバレるか、ここは大人しく嘘をついた事を認め___


「ンな事ァある筈ァ無え!

 …けどよォ…もし本当だったら…」


 お、待て、ワンチャンあるか?


 途端にさっきまでの威勢の良さが消え、代わりにどこか悲愴に暮れた表情で、俺の顔を見つめ直してきた。

 しめたと心の内でニヤり。


「いや、いいんだ。

 しかし、気が付いたらこんな場所に居て……この先俺はどうなるんだろうなぁ」


 わざとらしく不安な表情を浮かべてドワーフに意地悪な質問をしてやると、ドワーフは、必死な表情を浮かべ、


「お、お、俺の家に来い!!!! 色々と役に立つ物をくれてやる!! か、かか金も無ェみてェだしな!!!」


 慌ただしくも真剣な眼差しでこちらを見ては、手を取ってきた。


「わ、分かった…」


 敢えて元気の無さそうな顔をチラつかせながら、返事をする。


「よゥし! そうと決まりゃァ一回帰るとすっかァ!」

「あ、あぁ」


 ムキになって適当な事を言ったつもりが、なぜかドワーフの家に連行される事になってしまった…。

 なんかくれるらしいからいいけど。

 心の内で右手を上げて、勝利のポーズ。

 ガン○ム○Cの曲も添えて。


- - - - - - - - - - - - - -


 ドワーフの後に続き歩く。

 ただただ無言で歩くのも退屈だろうと気を利かせてくれたのか、ドワーフがずっとベラベラと喋っている。


「そンでなァ、俺ンにゃエルフの嫁さんが居てなァ…。

 あ、名乗り忘れてたが俺ン名前はターロンってンだ。

 この名前を付けたのは親父でなァ、由来が昔のドワーフの王様らしいンだが、親父ときたら、その王様の名前を間違えて覚えてやがったンだ!

 だからこォンな紛い物みたいな名前でなァ…」


 ターロンの話は適当に聞き流そう。

 聞いたところで生産性が無さそうだ。

 それより現状についてを考えるべきだ。


 …さて。


 少なくとも、この男が非常に利用しやすい事だけは分かる。

 俺の話の中には矛盾という程ではないが、ツッコミを入れられるような箇所はあったというのに勢いだけで俺に同情するとは。

 …転移してからノーヒントで冒険者ギルドという発想が湧くのが向こう視点ではおかしく見えないのか?

 いや、たくさん転移者がいるのならみんな俺と同じ発想に行き着く物だろうし、別に違和感ないって事になるか…。


 まあ良い、こいつがかなりの世話焼きの善人である事には変わりない。

 何をくれるのかは分からないが…。

 うーむ、ドワーフと言えば鍛冶屋か? 剣や鎧みたいな武具をくれるのか?


 しかし待てよ、この世界には俺の予想であるならば悉く外れるという法則があるようにも窺える。

 もしかしたら何かしらの小道具を大量に渡され、『これを担保に金稼ぎしろ!』とか言われるのかも知れないな。

 別にそれでも困りはしないから良いが。


「おい! さっきから聞いてやがンのか?」


 あ、やべ、考え事に夢中にになっちゃってたせいで怒られちゃった。へけっ。


「あぁ、すまない、お前の名前の話だろ? トーリンだっけか?」

「違ァう!! 合ってるけど違う! そっちァ実際の王様ン名前だ!! 俺ン名前はターロンだ!」

「あ、ごめんなさい」

「転移したばかりなンだろうし具合でも悪いのかァ?」


 怒っている顔が面白かったので謝りながらうっすらと笑ってしまった。


「いや、一度寝たからマシにはなった。他人の家の倉庫でな」

「そ、そうかァ…とにかくそろそろ着くぞ」


 あれ、いじられる覚悟で他人の家の倉庫で寝たと言ってみたが、何も言われず、ただ苦笑いされた。

 どうやら気を遣われたらしい。

 なんかショック。


「ところでオメー、名前ァなンて言うンだァ?」


 そういえばこの世界では一度も名前を聞かれてなかったな。

 なんか微妙な気分だ。


「な、名前か…俺の名前は…ユーツだ、ユーツ」


 別に本名を教えても良かったが、自分の名前が嫌いだったので、偽名を兼ねて、ネット上で使っていたハンドルネームを名乗った。


 俺の名前、“影太”という名前は“存在感のあるやつになれ”みたいな願いを込めた名前らしいが、暗い印象を与えかねない漢字をチョイスするぐらいなら全く別の名前にして欲しかった。


 が、一回小学生の時、それについて文句を言ったら『俺の名前に入ってる漢字じゃ嫌か?』とか言われたんだったか。

 そういや父さんの名前なんだっけ、“影慈(えいじ)”だっけ。

 自分の名前の漢字を継がせたかったのか。まあなんでもいいや。


「ユーツか……ふゥむ……まあいっか、覚えたぞ! オメーの名前はユーツだな!」


 途中表情と口調に曇りがあった為、バレたかと思ったが、意気揚々とした様子で随分と嬉しそうに名前を繰り返したのでバレてはなさそう。

 しかし、あまりにも子供じみた喜び様。

 本当の名を名乗ったわけじゃないのに。


「あぁ」


 そう相槌を打つ事しか出来なかった。


「よォし着いたぞ! 俺の家だ!」


 いつの間にか、そこそこの距離を歩いていたのだろう。

 ターロンの家に着いた。

 そこには炉や金床が立ち並んでいた。


「…鍛冶場だな……」


 またもや自分の予想が外れた。

 最初の短絡的な考えこそが正解だった事にショックを覚え、ため息を吐く。

 当然「どォした?」と気を遣われるが、「何でも無い」とそのまま鍛冶場の奥の部屋に上がり、案内された先の椅子に座る。


「飯は食ったか? 昨日の残りがあるンだが…」

「あぁ、教会の前を通ったらパンを持ったシスターがいたものだから、それを少し頂いた」


 朝に弱い体質なので、これ以上の食事を摂りたくない。

 しかし、今更ここで召喚者にスープをご馳走されたなどとは言えない故に、また嘘をつく。


「そいつァ鳩にやる用のパンじゃねェのか?」


 そう言われ、雑過ぎる嘘をついた事を後悔するが、特に詮索される事もなく、どころか「傑作だ」と笑われたお陰で安堵。

 勝利のポーズ再び。


「ところで、何をくれるつもりなんだ?」


 あまり長居をするつもりは無いので目的を完遂させようと急かしてみる。


「あぁ、忘れてたぜ、ちょっと待ってな」


 小走りのターロンを目で追い、地下室へと消えて行ったのを確認したので先程同様、自分の世界に引き篭もる事にした。


 今の内に今後の予定を立てよう。

 いや、あれだけ俺の予想が外れ続けたのに、しかも現状何も分からないのに予定を立てたところで何の意味がある?


 …今得た事だけを考えよう。


 そういえばターロンはエルフの嫁がいるとか言ってたな。普通のファンタジー物だとドワーフとエルフは仲が悪い物として描かれているものなんだが、なぜ結婚してるんだ?


 この世界ではそこまで仲が悪い種族同士というわけでは無いのか? それとも仲良くなった理由か何かがあるのだろうか。

 種族間の情勢を知る事も大事だし聞いてみるか。

 仮に地雷だったとしても転移者だし許されるだろうし。


 考えが定まり、ターロンを待つ事にすると、丁度良く戻ってきた。


 何やら大きな箱を持っている。

 そんな小さな体で持てるのか?

 落とされたらガタガタうるさそうなので、手伝おうとするが、「いや、いい」と言い、「よいせ」と床に置き、箱の蓋を開ける。


 中身を見ると、革の鎧、脛当て、ブーツ、籠手、長さと幅がバラバラな革紐が何本か、革のベルトが4本と、革の端材が数切れ入っている。


「ガッハッハ! 待たせたなァ、これだ、こいつらをやりたかったンだ。サイズもピッタリだろう」


 ニヤニヤ笑いながら、いつのまにか腰に差していたブロードソードを横にして差し出してきた。

 殺せって事か? 冗談はさておき、「どうも」と答え、剣を受け取る。

 片手で持つには重い。ヒョロガリにはキツい。


 鞘に付いている剣帯を肩にかけ、背中に背負ってみるとかなりマシになった。


「腰じゃなくて背中と来るかァ」


 どこか不思議そうな顔で俺の立ち姿を眺め、満足したのか今度は箱の中の革の防具達を取り出し、


「こいつらはな、不恰好だが鉄の物と比べりゃ扱い易いぞゥ」


 と意気揚々に語り出す。

 不恰好と言う割には結構綺麗に出来上がってていいと思うが…。

 まあ、これを推す理由はそこじゃないって事だよな。

 つまり、


「なるほど、最初は鎧を着る事自体に慣れろという訳か」

「そういうこった。物分かりが良いじゃねェか」


 いきなり鉄の装備を渡されたところで重くてどうしようもないだろうし、正直助かった。

 それに、見た目が思っていたよりも丈夫そうなので、ケチったわけでも無いのが分かる。


「しかしお前さん、なぜ転移したばっかなのに、いきなり冒険者ギルドに行きたがったンだ?」


 革鎧に見惚れていると、ツッコミが入った。

 しかし、聞かれる可能性はある事は分かっていた。

 即座に、


「俺の元いた世界にな、異世界に行った人間が冒険者ギルドに行って云々かんたらって感じの事が書かれている本があってな、それの影響だ」


 と返す。

 少なくとも嘘ではない回答だ。


「ほへェ……あるンだなァ、そんな事書いてる本…」

「まあな」

「ひょっとしてこっちの世界から戻ったやつの自伝か何かかァ?」

「いや、恐らく別の世界の話か空想の書物だ。

 ここと少し似てるが色々と異なる点が多い」


 自分の今の状況を考慮すると、完全に()()を空想の本であると断言したくなくなってきたので敢えてそう答えてみる。


「それよりも、嫁さんがエルフと言っていたな。仲は良いのか?」


 それっぽい事を言ってどうにか誤魔化せたので話を逸らす。

 嘘をついている以上はあまり自分の事について、詮索されたくはない。


「あぁ、そりゃあな。

 もしかしてあれかァ? エルフとドワーフは仲が悪いものだろうとか言い出すつもりかァ?」


 察しが良い。

 だが、他に転移者がいるとなると、恐らく同じ事を聞いてくる者もいるだろうと予想はしていた。

 想定通りの問い返しだ。


「いや、そのつもりなんだが…もしかして、他の奴にも言われたか?」

「おうよ、オメーさんと同じ転移者の小僧にな。

 しっかしなァンで転移者ってやつァ、見た目こそこっちの世界の人間とそっくりなのに、頭ン中はこうもパッパラパーなんだァ?

 逆にこっちが色々と聞きたくなるぜ」

「なるほどな…」


 一度ため息をついて体と精神を落ち着かせる。

 そして、特にツッコミを入れる意味は無いけども、一つ言っておく事にした。


「少なくとも、俺の元いた世界では、ドワーフというのは、どの民族とも仲が悪いというイメージがある。

 だから皆その事を気にするんだろう」


 正してやると、ターロンは目を丸くしている。

 「何かおかしかったか?」と言ってみると、ターロンは首を横に振る。


「まあ、ぶっちゃけた話、間違っちゃァいねえが、それは大昔の話だ。

 確か転移者召喚術が編み出された頃にはもう種族間の争いなんて無くなったらしくてなァ…八千年程昔らしいが…」


 八千年程昔…大昔だな。

 そんなに昔から転移者召喚出来たのか。


 ちょっと待て、そんな昔から転移者が居たのならなぜこの世界はこの程度の文明力なんだ…?


 …まあいい、どうせ何か理由があるのだろう。途中でその技術が失われたとかな。


「言い伝えによるとなァ、八千年前までは、言葉や文化の違いが原因で様々な争ってたらしいンだが、確か世界で三番目に現れた転移者が言語を全て統一させちまってなァ、その辺りから皆争うのをやめたらしいンだ」

「言語を統一? 随分とデカい事をやったものだな」

「いや、そうなンだがなァ…こればっかりは俺もただのおとぎ話なのかも知れンなァと思ってる。

 何せその転移者、色々と胡散臭くてなァ、逆さの青色の瓢箪に手足が生えたみてェな外見で、婆さんみてェな声で喋り、変わった道具をたくさん持っててなァ。

 そいつがどうやって言語を統一したかっつったらなァ、そいつの持ってる道具の内の一つを魔道具に組んでな、この世界全体に撒いたらみィン同じ言葉を喋るようになっちまった〜…みてェな?

 そンでそれ以降は互いの文化を知る事が簡単に出来るようになり、蟠りも無くなり、次第にみンな争う事をやめてったらしいって話なンだが…とにかく、どうだ、胡散臭いだろゥ?

 だから俺ァ最初から、皆同じ言葉で喋ってるもンだと思ってるぜィ」

「ふーむ…むぅ??」


 話は聞いていたが、その転移者の特徴に全部持ってかれた。

 …逆さで手足のある瓢箪をシルエットで表した上で、適当に色付けしてみると、なんとなく何が転移したのか分かってしまった気がしてきた。

 …いや、無い無い。


 色んな意味でめちゃくちゃ過ぎる話に呆れを隠せないがしかし、今思えば、誰と会話しても言葉が通じているのにはどこか違和感を感じる。


「しかもなァ、そいつが作り上げた街や魔術とやらは、もう存在しないと来た。

 その時の文明は一度滅びちまったせいで、そいつが存在したぅて証拠はこの言い伝えと皆言葉が通じるっていう事しか残っててねェのさ…。

 滅びちまった原因も、そいつの領地の結界内での謎の大爆発らしくてなァ、胡散臭いったらありゃしねェ」

「はぁ…」


 なるほど、そいつが現れた割にはこの世界の文明力が低い原因はそれか。

 どうせそれが原因で召喚の技術も失われたに違いない。


 ネズミでも現れたのだろうか…。


 未だに拭えないデジャヴを感じるが、まあ、恐らく、きっと、何かの間違いだ。

 間違いだと思いたい。

 間違いであってくれ。

 あの国民的キャラクターがそんなヘマするわけない。

 頼むから俺の心にいつまでも輝いてる夢をそのポケットで爆破解体しないで欲しい。


 ま、まあいい。

 とにかく、知りたい事は知れたし適当にギルドまで案内させようと口を開こうとすると、


「話が脱線したなァ、最低限の装備は整ったしギルドまで行くか?」


 と向こうからそう呼び掛けられたので、遠慮無しに、「そうする」と答え、革の鎧一式を身につけ、その上にさっきまで着ていた上着を着、剣を腰に差し直して軽く会釈する。

 背中にあったら鞘に剣を納めるの苦労するじゃん。


 その様子をニコニコしながら見届けると、家を出るターロン。

 慌てて追いかけた。


- - - - - - - - - - - - - - -


「まるで息子を送り出してるみてェだなァ」


 ターロンが呟いた。


 俺としては、何と返せば良いか分からず、無言のまま歩く。

 父親とはあまり外出した事もないまま死別した為、記憶はあまり無いので上手く話に乗れない。


 すると何を思ったのか、どこか残念そうな表情を浮かべ、あからさまにそっぽを向くターロン。

 触れるのもめんどくさいので今まで注視していなかった街の風景に目を向け、気分を変える。


 改めて見ると不思議な街だ。

 歴史と重みを感じさせる煉瓦造りの家に、木造の温かみのある家に、真っ白な煉瓦で出来た気品すら感じさせる家に、道具屋と併設された石造りの家に…。

 道々の不揃いな家達が成す異世界らしい街並みを、夢中になって眺めていると、やたら大きなドアに“冒険者ギルド”と書かれた看板が掛けられた建物。


 もう着いてしまった。

 早くねえか?


 道を覚え忘れた事にも気付いて少し慌ててしまうが、確か真っ直ぐに歩いただけだったと俺の足は言っている。

 というか、覚えたところでって話か。


「おい、ユーツ! ここがオメーの大好きな冒険者ギルドだ! …そンじゃ、行ってこい!!」

「あ、あぁ」


 ターロンは来ないのか…まあ、良いか、一人で何とかなるだろう。


「ユーツ! 転移者は早死にすると言われてる事は知らねェだろう? 一人で敵さんに突っ込んで死んだりすンなよ? あと、何があっても自殺なんて真似だけはすンなよ?」


 荒々しい声に見送られ、軽く会釈しギルドに入ろうとすると、またターロンに呼び止められる。


「ちょっと待てィ! これを渡し忘れてた!」


 やれやれと引き返すと、感触的に硬貨が入っているであろう袋と、先程の皮の端材が入った袋、何本かの緋色に輝く液体が入った小さな瓶を手渡される。


「そいつにゃ銀貨が何枚か入ってる。宿代にはなるだろう。それとな、こっちは___

「回復用のポーションか?」

「…当たりだ。例の本にでも書いてあったのか?」

「概ねそうだ。じゃ、行ってくるよ。」

「おう! 死ぬなよ!!!!」



 ▲△▲



 ギルドのドアを開ける影太を見送るターロンの目には、ギルドの看板が映っていた。

 が、そこから目を背け、


「世話が焼けるぜ。全くよォ。可愛げは無ェがな…」


 ガハハと笑いながらそう呟くと、トボトボと先程の市場に戻る。

 どうやら買い物する予定を放って影太を助けていたようだが、その事を影太が知る事は無かった。


- - - - - - - - - - - - - -

▲△▲


【影太視点】


 ギルド内に入ると、まずは異世界の象徴とも言えるこの場所とはどんなものかと場内を見回す事にした。


 そこら中に椅子と机。まるでショッピングモールのフードコート。

 座ってるやつも、飲み食いしてるやつ、ただ談笑してるだけのやつ、カードゲーム…恐らく賭け事みたいな事をしてるやつ、色々いるな。

 酒場とか飯屋と併設されてるのだろうか。


 正面に真っ直ぐ行くと、カウンターが有り、その側に看板が幾つか点在している。

 店内の左端にもカウンターがある。

 それぞれのカウンターへの道に沿って沢山席が置かれているが、左端のカウンターの近くの席は、特に飲み食いしてるやつが多い。

 となるとあっちは食事処か?


 次はカウンターに注目しよう。

 正面の方は整った服装の受付嬢が並んでいる。

 そこで冒険者としての籍を登録したり、依頼を受けたりするのだろうか。


 続いて左端のをよく確認すると、ウエイトレス風の受付嬢、その後ろに厨房が見える。

 こちらのカウンターは、食事や酒を提供してくれる店のようだ。ウエイトレスの一人がビールと肉を運んでたし、予想通り。飯屋と併設されてるのは確定。


 今度は周囲の人間に注意を向ける。どこを見ても人だらけで、施設の隅々に人集りが出来ている。


 それぞれの顔を見ていると、何となく気付いた。


 ただ椅子に座り、談笑していた戦士と魔女と職業不明の軽装の女。

 壁に背を掛け、互いに硬貨を数えて合っている、いかにもガラが悪そうな大男二人。

 受付嬢と駄弁っていた大柄で太ったメガネの男とその後ろに控える芋っぽい雰囲気の女。

 黒色の道着で統一した坊主頭の男の集団。

 ドワーフより小さな直立する猫と、それを撫でている小柄な少年。

 老若男女。人畜問わず。

 そこに集う冒険者達は皆『新入りか』と言わんばかりに俺を見ている。


 ここまで大勢の人間に注目される事など無かった為か、何か奇妙な感覚が全身を走るが、不思議と不快感は僅かにしか感じなかった。


 だが、歩こうにも体が中々動かない。緊張してしまっているのだ。

 だからと言って、そのまま立ってる訳にも行かず、ひとまず正面のカウンターに向かって気力を奮い立たせて歩を進める。


 いつの間にか、自身の足元に向いていた顔を前にあげるとカウンターの奥の、茶髪が似合うポニーテールの受付嬢が『来い』と合図をするかの如く、何かを呟きながら制服のリボンと帽子の位置を整え直しているのが目に入る…が…。

 こいつはそんな大層な合図とか発して無いわ。

 めっちゃ資料落としたし。

 帽子から手を離した途端、何をやったのかは知らんがカウンターの上の資料ぶち撒けたよあいつ。


 その様子を隣で間近で見ていたショートボブの受付嬢に笑われながら、背中を叩かれている様子を見るに、恐らく新人のようだ。

 お陰様で、少し緊張がほぐれた。


 だが、俺はこの世界のどの住人と比べても新人だ。

 そこらの赤ん坊よりも新しい存在だ。

 そう思うと、相手を伺うより自分の事にだけ集中するべきだ、と暗示を掛け、カウンターの前に立つ。



「名前を登録したいんだが」

 次回はちょっと長めになりそうです。

 時間がある時に読んでください。

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