〜第21話〜 殴り合い…?
モンハンとルンファクの沼に溺れてサボってましたがようやく脱する事に成功しました事をお知らせいたします。
ほんとごめんなさい…。
今後は気をつけます…。
そうそう、サボってる間にキープが十話ぐらい増えました。一応書いてはいますので今後についてはご安心を。
「あの、ヴァレーナさん、すみません」
「あらゴルトじゃない、いきなりどうしたの? 何か用?」
笑顔でゴルトの顔を見るヴァレーナ。
しかし、そんな表情とは裏腹に、彼女は震える手を握りしめている。
どういう事? 何があったの?
完全にめちゃくちゃキレてる人の挙動なんだけど。
ただ邪魔されたってだけじゃ、こうはならんよな。
何か確執があるだろこいつら。
「あ、いえ、ちょっと…彼…あ、影太くんと冒険の約束があるから呼びに行こうとしたら…偶然……ね……」
「へえ、でもすみませんね、彼とは今取り込み中なの」
あ、まずい、これゴルトが勢いで負けるやつや。
ワイはもう察したで。
ゴルトニキすっげえしどろもどろやん。
そーっと逃げるやで!
睨み合いの隙に逃げようとするが、気付いてしまった。
周囲の冒険者達に『なんだ喧嘩か?』と見られてる。
しかも囲まれてるし。
逃げ道は行方不明になりましたとさ。
クソッタレ。
逃げあぐねていると、ヴァレーナに腕を掴まれた。
「てゆーか私達、この後おデートのお約束があるんですよ、邪魔しないでもらえます?
ね、影太さん♡」
そう言ってニヤァっと笑いながら、俺の肩に顔を擦り寄せてきた。
…そう攻めてくるか。
どっかの魔族程ではないが、ウザいな。
「俺に触れるなクソビッチ」
「な゛っ……!?」
遠慮なくそう言って腕を払い除けてやると、周囲の冒険者達がドッと笑い出した。
ヴァレーナが狼狽えている隙に、堂々と去ろうとすると、背後から肩を掴まれた。
何だよ…。
振り返ると、いきなり俺と同じぐらいの背丈のやつに顔面を殴られた。
「ぐへっ!?」
ストレートにやられた。
いきなりの事だったので、その場でよろけ、床にこけてしまった。
痛い。
この世界に来て初めて殴られた。
ああクソ、鼻のあたりにジンジンと妙な感覚が…そうか、鼻血出てんのか。
なんてこった。
俺の気分はまるで路上で干からびた蛙になったような、そんな感じ。
体を動かす気力も起こす膂力も湧かない。
対して周囲の冒険者は面白い物見れたと大盛り上がりだ。
俺に同情しろよそこは。
泣くぞ?
流石にこの空気でやられたままだと世間体が終わると判断し、自分に鞭打ち殴り返そうと起き上がるが、ゴルトが間に入ったせいで、手が出せない。
「ストップストップ! いきなり殴るなんてどうかしてる! 落ち着けよ!」
「やかましい! 落ち着いてられるか!
こんなやつがヴァレーナ様を侮辱するなんて許せん!」
ゴルトがいる奥の方から響く怒声は女の物。やや低い感じのボーイッシュな声。
「あーもうダメだジーク、受付嬢の人呼んできて!」
「わかった!」
ゴルトの横にいたジークシアが、カウンターの方に駆けて行った。
この隙にと殴ってきた犯人の顔を見ると、ウェーブがかかった前髪が特徴的な、執事のような服を着た金髪の女。
こちらに飛び掛かろうと構えている。
向こうは武器を使ってないし、ここで銃で撃ったりしたら流石に俺が悪者になるだろうな。
どうしたものか。
そう考えていると、ゴルトが押し倒される。
刹那、女が飛びかかってきた。
近くの冒険者が座っている席の方に避けると、安全を考慮してか、動きが止まったので話しかけてみる事にした。
「おいおい落ち着けよ」
「貴様…ヴァレーナ様に謝れ!」
落ち着くどころか一方的な要求。
ダメだこれ。話を聞いてくれる気配無さそう。
肝心のヴァレーナは、いるんだろうが見当たらないし、どうすれば…。
誰か止めてーーー!! ママーーー!!
あ、そうだ。じゃあ周りの野次馬を味方につけよう。
「いやいや、ありゃビッチと言われても仕方ないだろ。
過剰なボディタッチに勝手な捏造に、やりたい放題だったろ?
それともあれか? おさわりマンこっちですとでも叫ぶべきだったか?」
………。
ボケたつもりがやや静かになった。
すみません。雑でしたよね。滑っちゃいましたね。
今『最後蛇足だろ』とか言って一人失笑してたそこの黒髪の魔術師さん、全くもってその通りでございます。
どうもすみませんでした。
「うるさい! だとしても、あんな風に断るのは失礼だろうが!」
「落ち着けよクソ犬」
舌を出して中指を立て、それを舐めるジェスチャーをしてみると、今度は周りにもウケた。
やっぱ周りに大勢人がいる時って相手を馬鹿にすりゃウケるものなのか。いい勉強になった。
周りに便乗してヘラヘラ笑っていると、
「きっっっさまあああァァァァァ!!!!!」
後ろの席で哺乳瓶持ってバブバブしてる赤ちゃんが乗っているにも関わらず、女が殴りかかってきたので今度も避けようとしたが、避けるコースを読まれて押し倒され、馬乗りに。
まずい、シャレになってない、マウントポジションはダメだって。
畜生、変な意地張って無理矢理笑いを取る方向性で行かなきゃ良かった。
そして、女はゆっくりと両の拳を上げた。
おい何する気だやめろ馬鹿。だめだね、だめよ、だめな…ちょ、ストッ___
「ごはっ、つぁ!!」
二発も顔面をぶん殴られた。
そして俺は死んだ…かと思いきや、二発目が当たったタイミングで、その場に現れたシュリに止められたらしい。
どうやら俺の危機を察知したシュリが突如として現れ、ヤツの首根っこを掴み、床に叩きつけ、更にヤツの頭を「えいっ」と軽く叩いて気絶させ、ギルドの外に蹴り飛ばしたとか。
そんでそれを見た職員が慌てて回収して奥で寝かせたと。
グレートティーチャーにも程がある。
…が、あんなに美人なシュリがそんな事をやったとは思いたくないので、シュリと職員が協力して止めたという風に認識しておいたが。
肝心な俺はというと、よだれを垂らし、白目をひん剥いた状態で気絶していましたぁ、てへっ♡
因みにだが、その気絶していた時の表情が笑っていたように見えたと証言する馬鹿が数名現れ、俺に[狂人]という不名誉極まりないあだ名がついてしまった。
治療担当医のゲンジからは、「普通に表情が歪んでただけで、笑ってなかったと思います」という冷静なカルテを頂けましたが。
当たり前だろボケ。
そういった話が出てきた根本的原因は、極小規模ではあるが、俺を危険人物として崇める界隈が存在するからだという話も聞けた。
実際、グレイに関しての話をジョイから聞いてる時も、周りからめちゃくちゃ見られてたし、そういう噂が立っててもおかしくはないとは思ってたけどもさ、なんだよその陰謀論者の集まりみたいな界隈。
もう俺、冒険者やめようかな。
これだけ悪目立ちしといていきなり冒険者やめたらやめたでまた新たな噂が生まれそうだしやめないけど。
それ関係無しに、強くなるまでやめるつもりはない。
まあいい、余計な話はここまでにしよう。
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「ん? …ここは……?」
両頬が暖かい。
…誰かに触られてる…? いやムニムニすんなし。
「おっと、気が付いたようだな冒険者よ」
「――シュリか。……なぜ膝枕を…」
「影太さんがやられちゃってたからね」
「あー………で、ここどこ?」
「んー? ギルドだぞぉ?」
その言葉を聞き、反射的に起き上がる。
ああ、確かに眩しくて、人が多くて、喧しい…。
シュリの右隣の椅子に座ると、向かい側に、ジークシア、ゲンジ、マルカがいた。
あれ? ゴルトはどこだ? まさか証人として連行されてるのか? などと思い、ゴルトを探そうとすると、シュリの左の椅子から立ち上がり、こちらに寄っては俺の肩を叩き、こう言ってきた。
「ごめんね、僕のせいで…それにしても影太くん、よく殴らずに耐えたね」
「……はい…」
いや、俺が弱すぎて殴れなかっただけっす。
毎回毎回買い被るのやめてくんない?
胃に来るから。
ホントに。
「貴方が殴り返すほどポンコツじゃなくて良かったわ」
「誰がポンコツだ」
流れでジークシアに皮肉られ、反射的に言い返してしまったが、自分が殴り返せない程の雑魚という意味でのポンコツである事に気付かされ、心の内ですすり泣いた。
「一応、ボクが回復魔法をかけておいたので、もう痛くはない筈です…」
「あ、お陰様で超助かりました」
なるほど、痛みが引いてるのはゲンジのお陰か。
不思議と体が軽くなってる気もするのだが、これもこいつのお陰か。
だが、さっきから目線の向く先が不安定なのはなんだ? 何か不安でもあるのか?
まあいい。
「影太…今度あいつらが手を出してきたら、代わりにお姉ちゃんが戦ってやるからな」
「お姉ちゃんって誰の事っすか?」
論外。馬鹿かお前は。
当然そう告げてやると、マルカは頭を抱え始め、一人ブツクサ自虐的な事を言い始めた。
何? 病んでるの? どしたん話聞こか?
まあ、自発的に相談されん限り聞かんけど。
そしてマルカを慰め始めるメンバー達。
そこを起点にくだらない雑談が始まり、少し経った頃に、そろそろ冒険に行くという話になり、その流れでシュリもグループに加わる事となった。
クエストボードを見に行く手前、
「シュリエールさん、もしかして、影太くんがいる限りは僕らと同行してくれるって事ですか?」
ゴルトが金髪をふわふわさせながら、期待の表情でシュリを見つめると、シュリは当然のように、「そりゃあね」と笑顔で頷いた。
俺の頭を撫でながら。
「って事はつまり…あれですか?」
「そうよ! パーティの申請が出来る! パーティ名どうする!?」
「じゃあ漆黒の弓というのは…」
「それ完全にマル姉主役じゃないか!」
くだらない事で揉めてる。
特に干渉したくないし、このメンバーが後に滅ぶ可能性の事を考えると、深入りしたくもなくなってくる。
「じゃあ黄金騎士団は…」
「ゴルト! あんた! いくら自分の金髪を鼻にかけてるからってそれに他のメンバーまで巻き込まないでもらえる!?」
「そうですよ、もう少しみんなの共通点に沿った名前にするか、かっこいいのにしましょうよ」
こいつらうるせえな。
これじゃ轟音の馬鹿共じゃないか。
…。
案外いいかもしれん。
ちょっと捻りを入れた上で提案してやろう。
「轟音の珍走団にしろよ、ククク」
そう言った途端、ゴルト以外のメンバーの表情が一気に険しくなった。
「なあ影太、お前もパーティメンバーである事を分かってて言ってるのか?」
マルカがそう言って、優しくない笑顔で俺を包み込んできた。
怖いですやめてください。
「じゃ、もういっそ私が決めていいー?」
俺を含めた5人の様子を見かねたシュリが、急に割り込んできた。
「シュリエールさん! じゃあ、お願いするよ」
マルカが尻尾を振っている。
あれ、なんでこんなに懐かれてるんだ?
他のメンバーの表情も、皆例外無く期待の色に染まっている。
俺が寝てる間に何かあったのか? それともこれが普通なのか? 俺もう分かんないよ。
「〔イーズ〕とかどうかな?」
〔イーズ〕…。なんで?
試しに聞いてみるか。
「なんでそれがいいと思ったんだ?」
「んにゃ、そのまんま。
緩くて安心感あるなーって思ったからねー」
ヘラヘラ笑いながら、メンバーの顔を確認するシュリ。
反応は悪くないと見たのか、鼻を鳴らす。
「……それで行こう。
じゃ、その名前で申請してくるよ!
ついでにアンデッドか何かの討伐依頼の紙も取ってくる!」
急にゴルトが上機嫌にスキップしながら行ってしまった。
そんな気に入ったのか。
しかし、なるほど、〔イーズ〕ねぇ。無難で分かりやすいな。
と、一人で勝手に納得。
正直面白みに欠けるとは思うけど…。ま、いっか。
▲△▲
【ヴァレーナ視点】
ああ、最悪だ。
やってしまった。
私が感情的になって、ボディーガードの愛花を止めなかったせいで、愛花が怖いお姉さんに気絶させられた。
ギルドの職員には『軽い脳震盪を起こしてる』と告げられた後、回復魔術で治療してもらったけど、未だに目覚める気配がない。
影太くんも影太くんで最悪だ。
私に対する聞き捨てならない罵倒もそうだけど、まさかあそこまで愛花を煽って怒らせるとか信じられない。
私も含めてみんな悪いとは思うけど、こちらが恥をかいた事には変わりない。
本当に最悪過ぎる。また実家に文句言われる。
そもそも影太くん、あの状況で煽っても殴られるだけで何もいい事はない筈なのに、なんで…。
まさか…わざと馬鹿にするよう煽って殴られる事によって、こちらの印象を下げつつ、仲間のあの怖いお姉さんを呼び、自分達に弱いというレッテルが貼られないよう派手に暴れてもらう事が真の狙いだったとか無いよね…?
そう思うと段々彼が怖くなってきた。
わざと殴られようとする時点で正気の沙汰じゃない。紛う事無き狂人の行動だ。
そういえば、普段はポーカーフェイスなのに、気絶した際笑っていたという話をさっき近くにいた人から聞いた。
更に彼が怖くなってきた。
顔がいいからって無理矢理誘うべきじゃなかった。
今後はああいう風に、勝手に有りもしない事を言い出したりするのもやめよう。
いくらゴルトにムカついたとはいえ、あれは失敗だった。
「う、うぐ…うぅ…あ痛ぁ…」
あっ、良かった、ちゃんと目が覚めたみたい。
ひとまず胸を撫で下ろし、愛花の頭を撫でてあげる。
「目、覚めた?」
「ヴァレーナ…様…?」
「大丈夫、あの怖いお姉さんはもういないから…」
「……すみません、ヤツに煽られ、感情的になってしまったせいで、逆にヴァレーナ様の評判を落とす事に…。
それに加え、あろう事か、怖いお姉さんに負けて意識を失い、更にヴァレーナ様に恥をかかせてしまうとは…」
「…相手が悪かったのよ。
私も影太くんの仲間にあんな怖いお姉さんがいるとは思ってなかったし」
…あの怖いお姉さん、何者なんだろう。
なんであんな化け物みたいなのが影太くんの側にいるのかな…。
….そういえば確か、バックにとんでもない団体がいるって噂も…。
……嫌だ。
考えたくない。
考えたくない。
そんなヤバいやつを敵に回したなんて考えたくない。
でも、身を守る為にはそうは言ってられない。
今はとりあえず、何とか彼と和睦を結べるように根回ししなきゃいけない。
向こうから攻められる前に…。
「ヴァレーナ様…」
「ん? どうしたの?」
愛花が起き上がり、正面に膝を立ててこちらを上目遣いに見つめては、
「今度、ヤツに決闘を挑みます。その時に必ず名誉挽回しに___
ダメだ、止めなきゃ。
「やめなさい! エイタ・ニイロは私達が敵に回しちゃいけないような存在と裏で繋がってる可能性もあるのよ!
…いくら私が貴族の娘だからって下手な事し過ぎると、そのうちとんでもないしっぺ返しが来るかもしれない。
だから大人しくしといて欲しいの」
「は、はい…ヴァレーナ様がそう仰るなら…」
残念そうな様子ではあるが、仕方ない。
私だって普通の相手が私を侮辱したのなら綺麗に纏まるよう報復するけど、今回ばかりはダメ。
そうだ、ふと思った疑問をぶつけてみよう。
「大体、愛花も影太くんも同じ転移者同士なんだから、少し仲良く出来なかったの?」
「……私が仲良くなれるような人種ではないと思います。転移者もピンキリですので」
なるほど…。じゃあ、間を取り持ってもらうのはやめましょう。
とにかく今は、後ろ盾になってもらうようチームの人達に連絡しなきゃ。
最悪私の命にも関わる。
いや、最悪チームごと滅ぼされるかもしれない…けど、背に腹は変えられない。
ああ、でも、今回恥をかいたせいで、実家に帰りたくない理由がまた一つ増えてしまった。
ほんとに最悪…。