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イバラノカゴ  作者: 咒 弍一郎
【序章】転移、そして冒険者へ
2/29

〜第2話〜 独断専行

 思ってたより時間がかかりましたが初投稿です。


 自分で1話を読んでみましたが、自分より弱い相手に圧をかけるのってダメだと思うんですよ。


 え、誰も私の感想に興味ないって?

 あ、そう。


▲△▲


【影太視点】


 ……暖かい…。


 さっきまでのあの神殿とは違う。真っ白な世界だ。不思議と心地良さも感じる。


 そうか、俺はずっと幻覚を見ていたのか。

 そんで今いるこの世界がその終着点。

 なるほど、そういう事か。


 徐に起き上がった矢先、すぐ近くから声が聞こえる。


「パパー!」

「なんだい?」

「僕、パパの嫌いな物知ってるよー!」


 なんだ、この会話は……。


「お、言ってみて!」

「パパイヤ!」

「すごいじゃないか〜!」


 目には見えないが、何故だろう。

 幼くしてダジャレを覚えた息子を褒め称えるために、頭を撫でる父親の像が見えてしまう。

 なんだ…? 何を見せられてんだ……?

 肉眼では見えてないが…。


 厳密に言うと、イメージが頭の中に入ってくる感じだ。


 軽く指先をつまんで手遊びをしながら普段通りの表情を作ろうとする。

 悪い癖だと気付いて即座にやめる。


 すると、その子供はこちらに気付いたのか、


「パパ〜、なんであの子はあんな顔でこっちを見てるの?」


 と、無垢な瞳で父に問う。

 不思議とイメージが湧くのが癪で、髪をわしゃわしゃといじり出す。

 これも悪い癖だ。

 動揺すると何らかの形で手を動かしてしまう。

 タチの悪い事に、動かした直後にそれに気付いてしまう。

 誤魔化すのを諦め、嘆息していると、


「ほら、行くよ」


 先程から一度も目を向けなかった頭上から気の強そうな女の声が聞こえる。


 …え?


 声がした方向を見ると、自分より背の高い綺麗な女性が。

 真っ白でスラッとした足。

 膝の辺りまで伸ばしたツヤのある黒々としたロングヘア。

 顔を覗けばキツい目つきに高い鼻。


 見覚えがある。


「………」

「返事ぐらいしなさいよ」


 乱暴に手を引っ張られ、気付けば道中の描写も無いまま昔住んでた家のリビングに移動していた。

 そして、部屋の狭さと相対的に、自身が現在の背丈とはかけ離れた小ささになってしまっている事に今更気付く。


 そうか、これは夢か。

 異世界転移でも転生でも幻覚の部類の物でもない。

 となると、さっきまでの馬鹿馬鹿しいやり取りも夢だ。

 いくらなんでもめちゃくちゃが過ぎるからな。


「あんたはなんでいつも勝手に家から抜け出して公園に居るわけ? ちゃんと家で勉強しなさいよ!」


 キーキーと不愉快な甲高い声で喚かれるが、夢と分かった以上は関係ない。

 しかし、昔を思い出し、ムキになってしまったからか、「無理強いするからだろうが」と流れるまま答えてしまう。

 自分の取った行動だが、その行動を取った実感が無いのは些か気持ち悪い。


 瞬間、頭を叩かれ、またギャーギャーと繰り事を吐かれる。

 何の思考も回らなくなってきた。


    また、始まった。



            延々と。



   考えたところでどうしようもない。



         相手は理屈が通じない。



 …。



 ……。



 ………………。



 そんな事をただただ考え続けてると、いつの間にか目が覚めていた事に気が付く。

 しかし何かがおかしい。どこだここ。

 背中の感触が柔らかい。

 なるほど、ふかふかのベッド。

 傍には小さな観葉植物が置かれた机とやたらと分厚い本が詰め込まれた棚。

 ほろ甘い香りがするこの部屋に見覚えなど全くない。

 少なくとも自分が知っている部屋では無い。


 では、どこの誰の部屋だ? 


 ああ、やたらと見覚えの無い場所を転々とさせられ続け、鬱屈した感情すら芽生えてきた。

 考える気力も抜け出す気力も考える気力も湧かず、ぼーっとしていると、慌ただしい足音が近付いてくる。


 大体誰なのか察した。

 あの女児か。

 可能性があるとしたらあいつだ。

 少女とは呼んでやらんぞ、あんなもん女児だ。女児に等しい。

 となると、このベッドはあの女児の物か。

 …いい匂いだなチクショウ。


 ロリコンでは無いから興奮はせんが。


 …待て、重要な事を見落としていた。

 女児がいるという事は、どういう事だ?

 さっきまで見ていたのが夢で、その前に見ていたのと今のコレが現実?


 訳が分からないよ、と、心のインキ○ベー○ーがボソリと呟く。

 そして状況を冷静に見る為、先程の女児との会話を思い出せる限り、思い出す。


 そういえば、終盤で帰らせてやるとか言ってたな。

 ならとっとと元の世界に帰らせてもらおう。

 …しかしあんな夢を見た後に素直に帰ってやる気も起きんな…。現実世界…いや、前の世界に戻ったところでって話だ…、

 ふーむ…。


 いや、いいか、うん。こっちで生きる方がめんどくさそうだし、今んとこ学歴は良い方だ。帰ってまた頑張れば勝ち組。友達いないけどな!


 しかも異世界って飯不味そうだし。


 よーし、どちらにせよ帰ろう。

 そんで元通りの暮らしを送ろう。

 どうせ記憶は元通りとかそういうお決まりのパターンなんだから後々後悔する事もないだろう。


 しかし俺、意外とこんな状況でも頭が働くんだな。

 ここまでの問題が起きた事は無いが、これの次に危険な状況だった時も割と冷静に動けたし、そりゃそうか。

 皮肉な話だが親の遺伝に感謝。


 しかしこうは言っても俺も人の子。

 もう少しだけ、異世界どうこうについて、考えていたい。


 と思った矢先、部屋の外から騒がしい足音が聞こえる。


 そそくさ布団を被り、寝たフリをすると、足音の主がゆっくりとドアを開ける音が聞こえる。


「起きてますか…?」


 予想通りの相手だ。

 寝たフリをしたのは相手が先程の女児かどうかを見極めるっていうのも兼ねていたが、しっかり当たっていた。


 空振る言葉に動じず女児がこちらに近寄ってくる。


「あ、あの、起きてますよね?」


 看破されていた理由すらも考える事無く、掛け布団を取っ払って体を起こし、観念して「あぁ」と無愛想に答えてやる。

 なぜバレてたのかは知らんが。

 そんなに寝たフリが下手くそだったのか?


「あ、起きてたんですね……」


 嘘だろコイツ。

 ハメられた。

 この異世界、難易度ハードモードの予感。

 プレイする予定は無いけど。


「カマかけたのか?」

「その、お、お食事をお持ちしましたので…仕方なく…」


 なるほどカマかけたって事ね。俺とした事がしてやられてしまった。

 …子供相手に下手打ったと思うと本気で萎えるな…。


 女児(少女)は、ベッドの横にあった小さな棚の上に、パンとスープを乗せたウッドプレートをコトッと置く。


 が、食欲がない為、今は放置。

 ため息混じりに、


「それより今の時間を教えろ。どれぐらい寝てたか気になる」


 今抱いている疑問をぶつけた。


 寝てしまう前のあの状況だと確か夜だったっけ? あの教会も薄暗かったし、元の世界だと思いっきり夜だったし。

 確かあん時は十時ぐらいだっけか。


「え、えぇっと…今は朝の八時半になります…。

 九時間程寝てたって事になるのでしょうか…?」


 相変わらずのオドオドした口調で返される。


 自分の世界と全く同じような形の時間の概念が存在する事には何の驚きも湧かなかった。

 むしろ便利で助かると思う。

 だが、それはそれで本当に異世界に転移させられたのか不安になってくる。


「ここはお前の部屋か?」


 朝食のスープを一目見ながら、ため息混じりに分かりきった事を訊ねる。


「は、はい! そうです! 

 その…迷惑な事をしてしまったので……その、せめてベッドの上にと思って……そ…それより、朝ご飯、食べないんですか…?」


 自責の念に駆られて、という事か、なるほど。


 朝食を食わないのかとか聞いてくる事に関しては単に急かしている訳ではない、という意図は察し、「…朝弱いんだよ」と素直に答えてやりながらもゆったりとベッドから降りる。


「ちょ、いきなり立つのは無茶です……って………えぇ…?」

「問題無い。昨日くたばったのも多分疲れてただけだ」


 恐らく召喚酔いとかでは無いな。

 腕の関節を鳴らしながらぶっきらぼうに朝食のスープを一気に飲み干してみる。


 イッキだイッキ。

 暖かっ。

 あれ、思ったより美味いな。


 この世界…そんなに悪くないのでは?


 …………。


 女児(少女)はどこか不安げではあるものの、暫くすると、安心したかのように胸を撫で下ろし、上目遣いで俺を見つめてくる。


 はぁ、なんか話してみるか。

 と言っても前の世界の事は話したくないしな。

 …そもそも、なんか話すって言っても何話せばいいんだ。

 …あれに関してもう一度聞くか。自発的に話題を振る方法が質問しかないのは情けない話だが。


「もう一回聞きたいんだが…」

「は、はい! なんでしょう!」

「なんで俺をこの世界に召喚したんだ?」


 記憶はしているがどうも納得出来ない。

 敢えて冷ややかな目を向けた上でもう一度問い質す。


「お友達が欲しかったからです…!」


 真剣な眼差しでそう答え、挑むような鼻息を鳴らして俺に近付き手を取ってきた。


「ですが、昨日はごめんなさい。

 貴方には本当に悪い事をしてしまいました。

 なのでご希望通り、元の世界へ帰して差し上げます。

 貴方の同意さえあれば、神殿に作った祭壇から送り返せますし、ここでの記憶は完全に消えますから___


 はあ、なるほど。

 珍しくハッキリとした口調で喋ったな。

 しかし、もう帰る気は失せた。

 丁寧に説明してくる女児(クソガキ)に対し、一切怯まず、わざと無愛想に口を挟む。


「お前、名前は?」

「へ!? あ、え、リリーです! リリー・クルスと申します!」


 予想だにしない問いかけだったであろうな。

 その複雑な表情から困惑が読み取れるぞ。

 リリーに対し、わざと不敵な笑みを浮かべ、


「リリーか、なるほどな」


 と小さく頷く。


「あの、何故名前を…?」


 当然の返答だ。

 この流れで名前を聞かれるとは思いもしなかっただろうな。

 そっと自然な形で彼女の手を振り解いてやり、


「聞く意味は特にない。だが一つ気が変わった。

 このまま帰ったところでまたいつものくだらん毎日の繰り返しに戻るだけだし、どうせならこの世界で色々試した後に帰る事にした」


 夢で過去の惨憺とした思い出の始まりに近い部分を再び見せられた事、時間とかその辺の概念が分かりやすいどころかこちらの世界により近い形で存在している事、食事が意外と美味い事が重なったお陰で気が変わった。


 そこまで強くこの世界を拒絶していたわけでもないし、気変わりぐらいするだろ。ハハハ。


 涼やかに帰る意思はないという旨を告げてやると、リリーはキラキラとした目で「じゃ、じゃあ!」と何かを言い掛けるが、内容はお見通しだ。

 容赦無く、


「今のところは友達になる予定はない」


 とあしらう。


「そ、そんなぁ…」


 ったりめぇだ! こんなめんどくさいやつの友達になんかなりたくねえわい!


 先程のキラキラとした目の残骸も残さず悲嘆に暮れるリリー。


 正直コイツに興味は無い。

 適当に利用したらポイ捨てするつもりだ。

 利用用途は今のところ不明だが。

 多分体か金ぐらいしか使い道無いけど。


 あ、ロリコンじゃないので体はパスね。

 そもそも大人の階段登るんだったらドラマチックな感じがいい。

 乙女チックな願望なのは自覚しているが、そこはいい。

 それよりもだ。


「ところで、この世界にも通貨の概念はあるのだろう? どうやって稼ぐんだ?」


 俺には異世界の予備知識がある。

 しかし、確実に自分の思った通りの物であるとは限らない事は、召喚の動機を聞いた際に学んだ。

 なので一つ一つの情報を吟味していくつもりで聞いてみる。


「う、うぅ…ありますが……ステータスもスキルもまだ無い人となると…稼ぐ手段は……そうですね、道具屋さんや、酒場等のお店でアルバイトしたり、鍛冶屋さんのお手伝いをしたり……あとは…冒険者ギルドで冒険者として稼いだり___


 期待通りの言葉が出た瞬間に間髪入れず、「それだ!!」と言って指を指す。


「ふぇっ!?」


 反射的に声を漏らし、おどおどしているリリーの横をスッと通り抜け、部屋を出ようとすると、リリーがあたふたとしながら腕に掴みかかってきた。


「ちょ、ちょっと待ってください!! ギルドに、ギルドに行くつもりですね!?

 ダメですからね! 冒険なんて危険な事しちゃダメですから! しかも丸腰じゃないですか!!」


 大声を上げながらふんばっている。

 しかし、この程度は雑魚だ。

 所詮は子供。

 腕にまとわりついた手を無理矢理振り解くと、「じゃあなんで教えたんだよ」と小言を吐いてやり、そのままさっさと逃げてやった。


 俺の勝ち。なんで負けたか、明日までに考えといてください。


▲△▲


【リリー視点】


「早過ぎる…なんで…まだ何にも話せてないし、向こうの名前すら聞けてないのに…うぅ……」


 泣いたところで戻ってくる相手では無い事は分かり切った事だけど、思わずその場に蹲って泣いてしまった。


 ただ、仲良くしたかっただけなのに。


 ただ、異世界の人とお話してみたかっただけなのに。


 どうしてこうなってしまったんだろう…。


 召喚の時の設定間違えてたのかな…。

 うーん…この世界に対しての適応力が確実にある人をイメージして召喚したのがダメだったのかな…。

 でも、逆にそうじゃない人を召喚したところで可哀想な事になっちゃってただろうし…。


 ………私の対応が悪かったのかな。

 やっぱり最初は帰りたがってたし…そういう事なのかな…。

 ……待って、昨日召喚した時、急に祭壇蹴ったりしてたよね、あの人。

 …あの人自体がおかしいのかな? そういえばあの時、あの人の表情は全く変わってなかった。

 癇癪とかじゃない、別に精神的にはおかしくはなさそう。

 でもそれはそれで問題があるよね…。


 サイコパス…? でももしそうなら、私とのやり取りであんなに人間らしい表情見せないはず…。


 時間について教えた時なんかは特に変な顔してたし。


 顔は整ってるのに、それが台無しになるレベルで面白い顔したりする事だってあるし…。

 驚いたんだろうなぁ。転移者の人達が暮らしていた世界の時計とこっちの時計ってほぼ同じだから驚くって本にも書いてあったしそうなんだろうなぁ。


 普通の人が驚くような事で驚くって事は普通な人って事だよね。

 じゃあ何のつもりであんな事を…?


 ……もしかして、私がちっちゃいからっていじめようとしてた?

 でも、だとしたらさっきちょっかい出されてる筈…。


 て事は、何か目的があってやったんだよね、あれ。

 目的があって私を脅したんだよね。

 狙いがあって祭壇蹴ったんだよね。


 …よく分かんないけど、その場の冷静な判断でああいう脅すような事されたって思うと段々腹が立ってきた。

 なんなのあの人、意味分かんない。

 何の目的があったにせよ、追い詰められてパニックを起こしてあんな事をしたって訳じゃないんだったら私も怒って当然では…。

 ああ、そっか、私怒ってもいいんだ。


 ……絶対にとっちめてやるんだから…。


 そして…私とお友達になってもらうもん…!

 せっかく出会えたんだから、この縁を無駄にしたくはない…!


- - - - - - - - - - - - - - -

▲△▲


【影太視点】


 冒険者…。


 強くなったらやりたい放題感あるし、いいな、ギルドに行ってみるか。

 へっへっへ。


 ハーレムとか憧れるしな。

 へへっへっへへっへっへへへへへへ。


 神殿のすぐ側にある家を出て、そのまま正面の噴水がある広間の下に続く階段を降り、街の出入り口を目指して走る。

 前の世界でやっていたゲームのマップでは、出入り口は街の下の方にあり、そしてギルドはその出入り口付近にあった筈だ。

 頻繁に使う施設なら入り口付近に配置する、恐らくそういう物だ。


 しかしその予想は大きく外れていた。

 出口がどこかは当たっていた。

 しかし、その周囲には冒険者ギルドではなく、兵士の詰所などの防衛設備ぐらいしか存在しなかった。

 ショックで思わずその場で座り込んでしまった。


 すると、見張り台の番兵に怪訝な目で見られていた事に気付いた。

 不審者として拘束されるのは嫌なので慌てて立ち上がり、笑顔で軽く会釈して横の道に足を進める。


 咄嗟の行動に出たは良いが、逆に怪しかったかも知れない、呼び止められたらどう言い逃れしようか…と考えるが、それが杞憂に過ぎない事に気付いた頃には大通りの商店街に出ていた。


 様々な店が立ち並んでいる。

 朝方だからだろうか、ここは人が多い。

 食材や日用品を買い歩いている女性が主だが、武装した者や、ガラの悪そうな者も中にいる。


 だが、今の俺みたいな服装の者は一人もいない。


 まずいな、流石に目立ち過ぎだ。

 …元いた世界で目立つのとは訳が違うぞ。

 ここで変に目立ったら何が起こるか分からない。

 最悪命に関わる。


 …もしかしてさっきの番兵、俺の仕草ではなく、服装を不審に見ていたからこっちの様子を見ていたのか…?


 念の為周囲からの視線を意識してみるが、そこまで変な目では見られていないようだ。

 他に変わった服の者がいるわけでもないのになぜだろうと考えていると、大きな獣の耳を生やした少女が駆け回っているのが見える。


 いわゆるケモ耳か。

 多分ありゃ猫の耳だ。撫でたい。撫でないけど。

 怖がられそうだし耳と尻尾以外は人間だから触れたくない。


 …しかし確実に…人間……以外…? の者も混ざってるな。

 リザードマン? みたいな者までいるのか…。

 種族間の抗争とかは無いのか?


 それはいい、とにかく、今俺は、色んなやつがいるお陰で俺が目立たないという事になっているのだろう。


 しかし、こういう状況だと絶対に変なのに絡まれるのがお約束。

 お上りさんいびり的な動機でな。


 それに何となく肌でわかるぞ、この周囲の視線…周りに馴染んでない服のせいで変な目で見られてるのは間違いないぞ。


 …。


 ん? さっき俺、目立ってないって思ってたけどアレアレ…? 改めて見たら、なんかおかしいな…。

 あっ、意図的に目を向けないようにしてるじゃんこいつら。クソッ。勘違いしてた。

 現在進行形で混乱しているからといって希望的観測なんて馬鹿らしい事をしたさっきの俺を殴りたい。

 というか視覚的情報だけで判断したからこうなったんだ。もっと感覚を意識しよう。


 一旦大通りの脇の方に移動し、毎度のように物思いに耽っていると、背後から声を掛けられる。


「おい!!!」


 きたああああああああぁぁぁぁ!!!!!!


 いかにも乱暴者のような、ガラガラとした厳つい声だ。

 しかし、声がした方向を見ると、誰もいない。

 おかしいなと周囲を見回すと、「下だ下!! 失礼なやつめ!」と横っ腹をデコピンされる。


 衝撃が服に吸収されて多少は痛みは軽減される物の筈だが、思っていたより痛い。

 デコピンされた箇所をさすりながら、言われた通り、下を見ると、小さく丸々とした体躯の、赤くもじゃもじゃとした髭を拵えた、険しい顔つきの男がいるではないか。


「ド、ドワーフ…?」


 唖然。

 初めてだ。こんなに厳つくてちんまいの。

 厳つくないけどちんまいのならさっき見たけどこれは新鮮。


「その通りだ。だが…なンだァ? その表情は…さてはオメー、ドワーフ初めてか?」


 どこか切なげな表情で言われ、何と返そうか迷ってしまう。

 やだわぁ、なんて返せばいいのかしら。

 お上りさんどころじゃないのがバレちゃうわ。

 イヤね…もう…。


「あ、あぁ、まあ…」


 しかし、案の定絡まれたなーって思ったら、予想の斜め下。喧嘩ふっかけてきそうなガラの悪そうな服装でもないし、下卑な雰囲気も感じられない。しかも単体で来た。


「なンだァ? その気合の抜けた声は……まあいい、オメーさン、転移者なンだろう?」

「へ?」


 ………はいぃ? 


 ………??????


 核心を突かれ、反射的にビクついてしまった。

 俺の予想では、自分の服装や、対応だけでそこまでバレる物だとは思ってなかったんだが…。


 というか待て、それがバレる世界ってそもそもどんな世界観だよ。


 ああ、そういやたくさん転生したやつとか転移したやつがいるってパターンもあったなぁ…。

 考え及ばなかった…。


「ハッハッハ! なァンだその顔ァ…クッフフ、いくら図星でもそンな風にゃならねえだろィ…

 オメーさん面白ェヤツだなァ…クフフ…」


 堪えては噴笑し、堪えては…の動作を繰り返すドワーフ。


 そういえば昔、父親に言われたな。『お前って驚いたらいつも、思考停止したハムスターみたいな顔するよな〜』って。

 クソ、忌々しい。


 やるせない気分で腕をヒラヒラとさせ、関節を鳴らして誤魔化しを入れる。


「田舎やら異国からのお上りさんだとかなんとか言われる物だと思ってたんだが…なんで転移者と分かったんだ?

 何かそういった事に関する知識でもあるのか?」


 これ聞かなきゃダメなやつだ。

 極力会話したくないが仕方ない。

 この世界がどういう世界なのかを知るヒントにもなる。


「いやいや、オメーさんの反応! 服装! 通りでの行動! 見てりゃァ転移者だって分かるさァ」

「あー…聞き方が悪かった。

 なぜそう簡単に転移者という発想に至ったんだ?

 中々いないものではないのか? そういった特殊な境遇の輩なんて___

「ンあ? 転移者なァンてそこら中にいるもンだぞゥ?」


 …やっぱりか。

 しかし、可能性がある事に気付いていても尚、信じられない気持ちがあったので、敢えて言わせてくれ。


 そこら中にいるだと!? 転移者がぁ!?


 転移者など自分だけだと思っていたが、確かに思い返せば不可解な点はあった。


 よくある異世界転生、転移物の小説や漫画の場合だと、『緊迫した状況で、確固たる目的の下に、他所の世界から何らかの能力に適合した人物を召喚する』みたいな展開が多い。

 そして基本的には一度きりしか使えないみたいなリスキーな前提条件もある物だ。


 しかし、自分の例は、あまりにもふわふわとした動機で召喚されてしまった。

 まずここがおかしい。

 人を気遣う事が出来る程度の倫理観があるリリーならば、流石にこんなに気安く世界の命運に関わる程の切り札を勝手に切るような事なんてしない筈だ。


 更に先程リリーは「元の世界に帰れば記憶も消える」という風に言っていたが、それを知っているという事は、過去にそういった事例がある可能性や、それに関する研究が進んでいる事を示す証拠になり得るのではないだろうか。


 で、先程気付いた点。

 転生者or転移者がたくさんいる世界観の異世界物の作品もあるという事。

 いや、作品…。今思えば、案外あれって自叙伝を創作として出してる可能性すら感じるのだが…。


 と、冷静に振り返れば振り返るほど自分の見通しの甘さに気付かされる。最早自嘲の念すら込み上げてくる。

 ぶっちゃけ泣きそうです。

 泣いていいですか?

 だめか。


 色んな意味で凹んでいる俺を心配そうな目で見るドワーフは、「ガハハッ、元気出せよォ!」と腰を軽く叩く。


 途端に走るそこそこの痛みでハッと我に帰る。

 ドワーフの男に目線を合わせ、


「なあ、話は変わるが冒険者ギルドへの道を教えてくれないか?」


 と問う。

 我に帰ると同時に当初の目的を思い出したのだ。


 これ以上その辺を無駄に歩いて無駄な時間を過ごすより、このドワーフを上手く利用した方が建設的だ。


「一回落ち着けや、転移したばっかとなると、マトモな装備の一つも持ってないンだろう?

 それになァ、オメーさん召喚者もいねェじゃンか。どうせ迷子なンだろう?

 冒険者ギルドに行く前にまず保護者さんの名前を言いやがれってンだィ。まずァそこからだァ」


 ごめんなさい迷子ですし装備もないです図星ですねはいごめんなさい。


「……そもそもアンタはなんで俺に話しかけたんだ?」

馬鹿野郎(ばっきゃろう)ィ!! 今言っただろうが! 『迷子か?』っつってンだよォ!!」


 迷子の保護が目的なのは分かったが、いちいち声を荒げてくるせいで少し萎縮してしまった。

 しかし、「召喚者なんていねえよ」と切り返してみる。

 異世界転移にも色々なパターンってもんがあるしな。


 この場合だとどう反応するかな…?

 次回は割と早めに投稿出来そうです。

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