〜第1話〜 予想に反する転移劇
一回投稿してその後清書し直す為に削除しましたが初投稿です。
ハイファンタジーかローファンタジーかで迷いましたがこの場合はハイファンタジーになるのでしょうか。私としてはどっちも指定出来るようにして欲しかったのですが。
私の名前の読み方はご自由にどうぞ。
え、興味ない?
………。
あ、そう。
じゃあ、作品の方、どうぞ楽しんでってください。
※家庭環境や、友人関係等にトラウマを抱えてる方は、ブラウザバックを推奨します。
※理不尽な暴力や、グロテスクな表現を多用する為、苦手な方は、回れ右を推奨します。
※書くの下手くそなのでよく添削したりします。そういうの無理〜って方はファックオフして欲しいところですが、温かい目で見守って頂けるのであれば、これ以上の幸せはないと思ってます。
※主人公は青春コンプレックスを拗らせた結果生まれてしまった重度の中二病患者ですので共感性羞恥に耐性が無い方は、直ちに閲覧をやめる事を推奨します。
※倫理に反するような内容が無理って方は全力で逃げる事を推奨します。
チャイムが鳴り、教室を出る塾の教師に続く雑踏と、それをよそ目に会話するいつもの何組かのグループがそれぞれ別々の会話をしている中、彼らと教室を出る時間をズラす為だけに、漫画アプリで時間を潰している少年がいた。
新納 影太。
それが彼の名前である。
真っ黒な髪に、鋭い目つき、平均的な背丈に対し、平凡とは程遠い服を着こなす攻めたファッション。
顔立ちは整っているが、目つきのせいだろうか、何もしていなくてもどこか攻撃性に近いものを感じる。
(…漫画読むのやめよう。この環境で読むと疲れる気がしてきた)
教室のグループの内の一組があまりにもハキハキとした声で喋るせいか、ヤケに耳に刺さる。
無視しようにもそちらに意識を奪われてしまう。
「月曜日なー、昔は嬉しかったよなぁ。
小学生の時なんか特にさぁ。
学校行ってさ、授業中ふざけたり、休憩時間に他所の教室跨いで友達と追いかけっこして怒られたり、ドッヂボールしたりしてさ〜」
切なげに語る短髪のよく焼けた肌の少年。
「ああ、分かるー! 今はなーんも面白くねえよなー! 教室の後ろでダラダラ喋るか先公にダル絡みするしかやる事ねえわ!」
対してその言葉に共感するのは坊主頭で同じく焼けた肌の筋肉質な少年。
見た感じだと、スポーツ系の部に属している典型的な陽キャというやつだろうか。
何の変哲もないよくある懐古的な普通の話題だ。
しかし影太は、心の中で悲しい罵詈雑言を並べて対抗し始める。
友人がいない自身のコンプレックスに触れるからだ。
(そうかそうか、そりゃあ良かったなゴミ共。
俺にはそんな風に語れるような思い出なんて無いよ)
影太の家は転勤族。
これまで小学生時代に二度、中学生時代に一度転校を経験したせいで、友人を作るのがただただ面倒にしか感じられなくなってしまう。
これがコンプレックスの原因である事は本人も自覚済み。
積極性が持てない原因というのは自分に自信が持てないとかそういった理由ではなく、人と会話しても会話しても、最終的にその積み重ねが泡の如く無に帰す事を体が学習してしまったからで、無意識的に拒否反応を起こしてしまっているのだ。
中学一年生の時、高校受験寸前のタイミングの転勤を危惧した父親の実家に預けられ、転校の心配は無くなったがしかし、その頃にはもう手遅れ。
学校には真面目に通ってはいたものの、インターネット依存症になっていたせいでリアルの関わりを求めなくなってしまっていた故に、よりそのコンプレックスは根深い物となる。
その事をよく理解していた父親も、単身赴任先で起きた地震によって行方不明。
影太の歪んだメンタルを正常に戻す鍵を握る者は皆いなくなってしまった。
(昔の事なんて愚痴ばかりだし、思い出したくも無い。仮にそんな事を吐き出せる相手なんてネットにしか___
「ま、塾も片付いたし出ようぜ!
そうだ、今からス○バで女の子と会うんだけどさ、お前も来る?
向こうもツレがいるらしいからさ、こっちも何人か欲しかったんだよなぁ」
(あぁクソッ、心の中の呟きですら妨げるその通る声が不快だ)
「お、いいねぇ、行く行く!
そうか、女の子かぁー、いいねぇそういう人脈あってさぁ」
「ネットの力さ、これのお陰で他校の子とも簡単に仲良くなれるのだよ」
そう言ってスマホを開き、得意げにグループチャットの画面を見せつけた。
(フン、俺の方がもっと上手く扱えてるけどな)
勝手に得意げな表情を浮かべるが、惨めな事に、影太にとっての『上手く扱えてる』というのは、一般人が知らないようなネットの闇の部分や、面白いネタを知っているという事であって、彼らのように、実生活にネットを組み込めているというわけではない。
数秒後にそれに気付き、勝手に赤面。
絶えず溢れる小者臭。
が、周囲の人間は誰一人それを知らぬまま過ごしている事をやんわり肌で感じると、次第に元通りに。
「ほぇ〜…ところでさぁ、アイツも誘ってみるか? 数合わせに何人か欲しいんだろ?」
「アイツってどいつよ…もしかしてあのゴツいの? クフフ」
端っこの力士と見間違えるほどに肥えた男を見ては、二人で大笑い。
「違う違う、ほら、あれだよ、あっちの!」
「もしかしてあのやたら派手な服着てるアイツ?」
「そう、そいつ!」
無駄に大きな声を上げながら影太を指差す。
この教室に派手な服を着ているのは自分しかいないという事を知っている為、彼らの様子を見なくても、自分が今この瞬間に慣れない注目を浴びているという事を察し、ソワソワする。
そんな影太の過剰な自意識には触れる事もなく二人はそのまま話を進める。
「いやー、俺アイツと話した事ないからパスで…しかも話しかけにくい雰囲気してるしさぁ…
顔は良いんだけど服が完全にやべーやつだろ」
(おい待て、なんでこんな芋みたいな奴らに言われなきゃいけないんだ。
しかもなんだ? 雰囲気って。
九州の田舎者共には俺のファッションは受け入れられないのか?)
笑顔を浮かべつつも、眉をピクピクさせながら自身の服装をチェック。
黄色と青色が激しく交わり合い、奥行きを感じさせるトリックアートが施されたシャツ、それを助長させるようなら細く白い刺繍が幾つも入った黒い上着、黒とグレーが乱雑に入り混じったズボン。
確かに周囲の同年代とは全く違う雰囲気を醸し出すような服装だが、やべーやつとまで言われてしまうのは心外だ。
「確かに、あれは無理だわ。
ていうかさ、アイツが誰かと話してるとこ見た事ある?
つか、あいつ名前なんてーの?」
(おい、名前ぐらい覚えろ。授業中とか俺当てられてんじゃん。ちゃんと毎回答えてんじゃん。逆に何で覚えてねえ___
「いや、無いわ、名前も覚えとらん」
クスクスと笑いながらそう告げると、お手上げのジェスチャーをしておどけて見せる。
「俺も話してるとこ見た事ないんだよな〜、なんなんだろうな、アイツ」
「暗いから誰も話しかけてくれねえんだろ? それか学校でなんかやらかしてるせいで嫌われてんだろ。
ま、そんなもんどうでもいいからだろ、とっとと出ようぜー!!」
「おーう! そうするかー!」
颯爽と教室から出る二人。
彼らからすれば今に至るまでの発言には何の悪気も無い。
当然の事だ。
自分達の思っている事を適当に言っただけ。本人が絡みにかかってくる訳も無い。不干渉前提。話を聞いているとすら思っていない。
要するにこれは、ある種の互いの友情や意識のすり合わせ、もとい確認作業であり、普段通りの平凡な日常会話をしたに過ぎない。
しかし、彼らの意図はどうであれ、コケにされた影太は怒りを隠しつつも動揺してしまう。
(…クソがッッッ!!!!!!
あんまり他人の発言に影響される事は無いと思っていたが、流石に今回のコレは例外だ)
昂る感情を抑えようとしたのか、自分の表情を見せまいと抵抗したのか、自分でも理由がハッキリ分からないまま手で顔を覆ってしまう。
(なんで会話もした事ないようなやつにディスられなきゃいけないんだ?
…あ゛〜〜〜…腹が立つ…いや、そうか、会話した事もないようなやつの言う事だ、勝手に言わせておこう…
…会話した事がない相手ならば、わざわざ怒る必要は無いな。
え、俺馬鹿じゃん。
そもそも関わった事も無いって事はつまり、ある種互いに何を言おうが自由な関係とも取れる。
え、俺超馬鹿じゃん。
そんな事も分からなかったのか。
冷静に考えれば変に動揺してしまう方が馬鹿じゃん。
ぴえ〜、やっちった)
…といった形で、発想の転換、開き直りの達人である。
その起源はリアルでインターネット上で様々な界隈で、様々な人達と交流をした結果と自負しているが、実際のところ、元々理屈をこねるのが上手いだけなので、ネットはあまり関係ない。
(情けない…こんな事で動じてしまうとは。
なんか無駄に疲れたな。
とっとと帰ってネットの連中とゲームしてから寝よう。
悩ましい話ではあるが、そこにしか居場所が無い。俺自身は納得してるが、お陰様で世間体は最悪だ。
はあ、こんな人生とっととリセットしてえな…今度はマトモな親の元に生まれてさ……)
ため息をつき、授業が終わってからずっと出しっ放しにしていた筆記用具を乱雑に筆箱に詰め込み、鞄に投げ入れた。
(でもせっかく自分に無いものを補填するべくネットで教養や知識を得てきたのにここで終わってしまうべきでは…。
だが、マトモな家庭に生まれ変わってしまえばまた来世ではもっと自然な形で身に付くだろうし…。
待て待て待て待て、死んだとして必ずしもマトモな家庭に行き着くとは限らないな)
中途半端な自分自身とのエンドレスな会話をしながら教室を出、駐輪場に向かい、そして延々と続く自問自答の中帰路に就く。
自転車で15分の帰り道。いつものように、五月の心地良い風が吹く中、田んぼの水路の傍の道を駆け抜けながらも憂鬱な事ばかり考えていた……。
- - - - - - - - - - - - - - -
(というところまでは覚えている。
しかしなんだ。
どうやら自分は全く見覚えも無ければ確実に行き着く筈もないような空間に居るらしい)
ここはどこだ? と思ったところで何も変わらないので、一旦冷静になって状況を整理する事にした。
まず足元。
チープなソシャゲのガチャの演出で出てくるようなよく分からない台の上に居る事は理解した。
次に周り。
火が消えた後であろう焦げた蝋燭や、シジルらしき物が描かれた板が安置された祭壇、やたら意味深げな模様の敷物やら綺麗に並べられた椅子…ステンドグラスで装飾された窓に、石造の壁に…。
辺りを見回したところで分析したところでどうしようも無く、「…どうなってんだオイ」と、ため息混じりにボソリと呟く。
状況を整理しようにも整理出来る筈が無い。
整理が出来たとしても、次のステップである理解に繋がる筈も当然無い。
絵では見た事があっても実際その目で見た事がないような物に囲まれている状況という事しか分からず、途方に暮れる。
次第に元の調子を取り戻し、今度は注目する点を変えて見る事にした。
(置いてる物や、装飾的に神殿か何かか? もしかして俺、怪しい宗教団体か何かに拉致されたのか?
いや、ここがどこであるかさっきまで跨ってた筈の自転車がどこなのかを気にした方が良いかもしれない。
…やっぱ思い出せん…。降りた記憶すらない…。相当の重症に違いない。
自分に起きた事も状況も何も分からないが、それだけは断言出来る。つか、自転車無いと帰れなくね? 絶対ここ近所じゃないし、日本であるかすらも怪しい。
ああ、クソ、愛しの自転車ちゃん…。あれ高かったのに…)
途中「はっ」と、気付いて思考を止める。
(自転車と何らかの形で離れた後の自分がここに至るまでの経緯を思い出すべきでは…。
危ねー…自転車ロスのショックでメンブレしてダメになるとこだった)
次なる要点は経緯。
一旦スマホを取り出し、地図を開こうとするが…。
無い。
どころか、自分がポケットに詰めていた所持品全てが無いではないか。
自転車のカゴの中のカバンも見当たらない。
(位置情報見れねえ…! 嘘だろ…!?)
帰るための計画、経緯を思い出す為の計画、大事な計画二つが見事に轟沈し、あたふたしていると、
「あ…お、お気付きになられましたか?」
「ぇへっ?!」
いきなり背後から少女の声が。
思わず変な声をあげてしまった。
そもそも背後に人が居るという発想すら無かったから無理もない。
「ひぇあぁ!?!? あ、あ、あの、すみません!! 驚かせてしまってすみません!」
(…よく分からんが、お前が驚いてどうする)
見た事も無いような銀髪の少女がヘコヘコと何度も頭を下げてくる。
自分の背丈よりもかなり小さい体にブカブカの祭服。
頬の辺りで切り揃えられた綺麗な銀髪のおかっぱ頭。
こちらを不安げに見つめる美しい碧色の瞳。
小動物に近い可愛らしさを持つこの少女は一体…。
なんとなくだがこの少女の現実離れした風貌を見て怪しい宗教団体の線が合ってる気がしてきたが、だとするならばなぜ子供が出てくる? とまた思考を巡らせ考え込む。
数秒後。
それは後に回し、今はハッキリさせられる事だけハッキリさせる事にした。
少女に問いかける。
「別にいいけどさ、どこだよここ…ていうかお前、どっから湧いて来やがった」
照準を絞りきれていない問いかけ。
こんな状況であるにも関わらず、無愛想な言葉遣い。
相手は自分より弱いと見たので高圧的な態度を取ってしまう。
ある種のコミュニケーション障害とも言えるだろうが、本人は会話自体は出来ているだろうという理屈でそれを部分的にしか認めない。
「え、湧いてきやがったってなんですか……。
――あ…あぁ、すみません! 祭壇の陰に隠れてたんです! 貴方を召喚した途端、閃光が起きて眩しくって…つい……」
あたふたとしながら答える少女に鋭く一瞥くれてやると、少女はビクッと体を硬らせる。
向こうも向こうで動揺しているのか、自分の質問の全てを答えてはくれなかった。
ここがどこなのかについては触れられなかったが、この光景を見るに、神殿か教会だろうと勝手に納得したと同時に、怪しい宗教団体の線が合ってる可能性が高いと判断し、一旦は落ち着いた。
(しかし待て、『召喚』だと?)
その単語一つで少し前に適当に読み漁った、いわゆる異世界転生、転移物の小説や漫画みたいな世界にでも迷い込んだような気がしてきた。
(まさかな…いや、それを装った高度な宗教勧誘…?
ならばこのやり取りは洗脳の序段階? と、ここでそういう風に断定するのも異世界転移と断定するのと同程度に現実的ではないし、気が早い気がするな…)
そう思うと顔の表情が険しくなる。
改めて周囲を確認。
遠目で見ているせいで何と書かれているか、分からないが、少なくとも今まで見た事のないのは間違いない不明な文字列が書かれた石板。
それだけで見るのが嫌になってきたので視線を少女に移す。
震えながらこちらを懸命に見つめている。
服装も身体的特徴も、現代日本じゃ絶対にあり得ない。
何から何まで日本らしくない。
日本語が通じる事は解せないが…。
試しに聞いてみる。
「おい、召喚ってなんだ?」
「へ? …あ、すみません!! 私が召喚しました!」
頓珍漢な返しだ。
召喚という単語が表す意味の説明を求めたつもりだが、見事にすれ違いが生じた。
「いや、もうそれは流れで分かってるから。
そうじゃなくて…あーもう俺の聞き方が悪かったかな」
「す、すみません…」
『口を開く度に謝ってくるが、謝罪癖でもあるのか?』と皮肉混じりのツッコミを入れたかったが話がややこしくなるからとその言葉を飲み込み、
「えっとな、召喚ってどういう事だ?」
大して分かり易くもなってない、むしろ何も変わっていない質問のし方だが、別に召喚した意図や、単純に召喚とは何の事かを聞きたいという事ぐらい伝わるだろうと踏み、台座の上から若干前屈みに少女を見下ろし圧を掛ける。
理不尽極まりない下卑た行動。
少女には、その目が明確な敵意を表しているようにも見えたのか、怯えてしまっている。
「ど、どういう事と言われましても……」
互いに冷静さを失ってるとは言えども影太の努力不足のせいで、マトモに会話が成立しない事に気付かぬまま、影太は腕を組み、少し俯き、深いため息を吐く。
完全に被害者であると確信しているが故の傲慢だ。
挙句、傲慢に更に拍車がかかり、逆らったらどうなるかを躾ける為、傍にあった祭壇を軽く蹴る始末。
「ひやあっ!!」
壇上の小道具が音を立てるとそれに被さるように少女が悲鳴を上げる。
そして、頭を抱えて蹲り、泣き出してしまった。
震えながら影太と目を合わせないように振る舞っている。
が、影太にとっては期待以上の過度な反応だ。
最早会話ができない状態になってしまったせいで、手詰まりを感じる。
思わず「クソが…」と漏らすと少女を冷めた目で見る。
すると目が合う。
少女は涙を流しながら、一所懸命に影太と目を合わせていた。
無言で圧を掛ける影太を何と見立てたのか、おもむろに口をパクパク動かし始め、
やがて絞り出したかのような掠れた声で、何度も頭を下げながら念仏のように「ごめんなさい」と延々と唱え始める。
その表情はどこか虚で生気を感じない。
(なんてこった、俺が悪いのか? 落ち度は向こうにあるんじゃ___
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
(…何にせよ、変なスイッチ押してしまった気がする。すっげぇ耳障りだな。どうにかならねえか…?)
「うるせぇ…」
小さな声で訴える。
しかし一向に収まらない。
恐らく聞こえていないのだろう。
(ダメだこいつ。俺の思考が遮られるレベルでうるさい。
早く黙らせないと何も出来ない気がする)
そう思った影太は、無慈悲にも少女の必死の謝罪に対し、
「うるせえ!!! 黙れ!!!」
と大声で一喝する。
刹那、少女は頭を抑え込む。
「嫌ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」
久しぶりに出した自分の大声に意外性を感じ、ぼんやりしていたタイミングに、それ以上に激しい金切声を上げられ、影太も怯んでしまった。
「ぐおぁ…み、耳痛っ……」
思わぬしっぺ返しを食らい、白目を剥き出しにしながら悶絶するこの小悪党ぶり。
まぬけの三文字が最も似合うであろう。
劈くような悲鳴で辺り一体が静寂に包まれたこの神殿内で、少女自身もまた硬直している。
先程までの記憶がやや飛んでしまっているのだ。
だが、影太の様子を見て自分の行動を思い出し、数秒の時を経て再び少女は泣き出し謝り出す。
「……うぐっ…うえぇぇ…うっ、ぐす…ご、ごめんなさい……ぐすっ……」
今度はまだ生気を感じられる。
嗚咽混じりの何度目か分からない謝罪に呆れ果てた影太はまた思考を巡らし、自分の世界に逃げ込んだ。
(どちらが悪いにせよ、流石に祭壇を蹴るのはやり過ぎたか…。
しかしなんであそこまで過剰な反応を…。
だが、それよりもっと優先的に考えるべき事がある筈だ)
冷静さを取り戻し、聞きたい事はなんだったかを改めて思い出す。
が、多少動揺しているせいか、今着ている上着のポケットに手を突っ込み、ごそごそ動かしながら、
「…えっとな、さっきから俺が聞きたかった事ってのは、どういう事情があって俺を召喚したのかについてなんだが…」
先程聞きたかった事とはややずれ、異世界に転移した事前提での質問になってしまってはいるが、やっと建設的な話を振れた事に表情を緩め、少女の様子を伺う。
「ぐすっ………お友達が欲しくって…」
「………は?」
予想の範疇の斜め下どころか、最早奥行きにまで達するレベルで想像もつかない返答に唖然としてしまった。
(ここはあれじゃないのか? 『魔王討伐の適合者として選ばれたからです!』とか、もっとスケールを小さくするなら『そちらの世界の知識を分けてください!』とか言われるもんじゃないのか? えぇ? どゆこと? お友達ぃ?
…そういうのは妖怪を呼ぶ為の貨幣でやんなさいよ…)
転生者、転移者特有のメタ的視点から物を言うと、困惑を呼ぶという定番を忘れたままそれを訴えるべきだと思い、
一旦崩れていた姿勢を直す。
が、そういった意図を知ってか知らずか、少女は、
「ご、ごめんなさい…とても身勝手な事しちゃったのは自覚してます…。
その……元の世界に送り返して差し上げましょうか?」
震えながら、掠れた声でそう提案し、上目遣いで影太の表情を窺う。
急に段取りが良くなり、その反動で疲れすら感じてきた影太。
帰れるもんなら早く帰りたい。
こんな面倒くさい性格のやつとお友達なんて嫌だしなと言い掛ける。
が、なんとか耐えた上で、
「それが出来るならそうして、マジで」
簡潔に済ませる為に、余計な事は言わないように気を付けているようだ。
しかし、力の抜けた声しか出ない。
なぜよりにもよって自分がこれだけのやりとりの為だけに呼ばれてしまったんだろう。
そう思うと影太は、怒りも優しさも悲しみもない死人のような目を少女に向ける。
それを見た少女が潤い溢れる目を拭い、しょぼくれた表情で頷く。
呆れからか、疲れからか、頭の中に湧き出た言葉でさえも声に出そうとする。
「ホント何してくれてんの……マジ……さっさと帰らせ……て…………」
声をひり出した時に気付いた。
喉に力が入らなくなってきた。
呼吸も出来ていない。
次第に視界が霞む。
足もおぼつかない。
体の温度にも違和感を感じる。
千鳥足でなんとか姿勢を保とうとするが、耐えらない。
「あれ!? え? ど、ど、どうされました!? 顔色悪……え、えぇ!? ちょっ……」
と動揺する少女の声には目も暮れず、そのまま地に伏す。
(ダメだ、もう意識が持たない。
召喚酔い的なやつか? それとも単純に疲れてるからか……? あぁ、もうダメだ、もうこの際何もかもがどうでもいい、流れに任せて楽になってしまおう…グッバイ世界…俺は死ぬ…)
体が楽になってきた為か、思考が働くようにはなったがしかし、依然として体は思うように動かない。
即座に全てを諦め、目を瞑る。
「召喚酔いの事忘れてたぁ〜、私の馬鹿ぁ…あぁ…ほんとにごめんなさい…」
影太の予想は当たりだった。
が、少女の声は聞こえていない。
そのまま何も知らぬまま、影太は覚めるかどうかも分からない眠りについてしまった。
戦闘シーンや大事なシーンは第三者視点で行きます。