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六話

 痛みが引いてくると冷静にもなってくる。人通りが少ない場所なだけに、辺りは静かだ。だからこそ自分の心臓が脈打つ音が良く聞こえる。ドクンッドクンッ、高鳴る鼓動はどれだけ興奮しているかを教えてくれる。

 改めてとんでもないことをしたとは思うけど、不思議と悪い気はしていない。むしろ気分がいい。この瞬間、この場所で、誰にも知られることなくヒーローにでもなった感覚だ。この場に湯ノ山しかいないのが残念だが、この話が広がれば俺のモテキが―――


「いってーな…。何してくれんだよ」


 俺が自分に酔いしれていたら倒れていたはずの男が立ち上がってこちらを睨んでいる。


「えぇー!立ち上がんのかよ!そこは一発で倒されて俺カッケーっていうシーンじゃないの?ちょっと空気読んでもらっていいですか?見なかったことにするんでもう一回倒れてもらっていいですか?じゃないと俺の武勇伝に傷がつくんで。俺のモテモテ計画がおじゃんになっちゃうんで…」


「あ?」


「ひぃ…」


 俺のユーモアは受け入れてもらえなかった。センスのない奴め…。

 先程の飛び蹴りは不意を突いたために見事に決まったのだが、構えられると格闘技経験のない俺には荷が重い。顔を見る限り冴えない中年男性なので勝てないことはないと思うが、こういう人物は何をしてくるかわからない。というか痛い思いをしたくないだけだが。決してビビっているわけでは無い。決して…。

 露出狂も逃げてくれればいいのに、その気配はない。怒っているのか、むしと前のめりだ。次の瞬間、「調子に乗るなよー!」と叫びながら突進してきた。


「待て待て待て待て待て待て―――」


 後ろに湯ノ山がいるので避けることもできず、説得を試みるも俺の声が届くはずもなく突撃してくる。覚悟を決めて誰も見たことないであろう我流拳法の太刀川流(たった今立ち上げた)の構えで迎え撃つ。


「うわぁぁぁ!」


「来いやぁぁぁ!」


 両者無駄に叫んだ結果、露出狂が俺の下にたどり着くことはなかった。


「タクト君に何してんだよ」


 後ろから駆け付けたテルユキによって阻止されていた。


「タクト君大丈夫?」


 露出狂は今度こそのびていて起き上がってくることは無さそうだ。


「惚れてまうやろ!」


 イケメン過ぎないか?美味しい所全部とられたのだが…。

 「怪我はないかい?」という言葉のチョイスと行動は誰でも落ちてしまうんではないか。


「あのー、それ聞くならユズじゃないですか?」


「ああ、ユズカちゃんもいたんだったね。まあでも大丈夫そうだし、興味もないし」


「アハハハハ…そうですね。柾木先輩を張り倒したいくらいには元気ですよ?」


 二人の仲の悪さはここでも変わらないようで間に火花が散っている。それどころではないのだけれど…。

 露出狂に遭遇したのが早かったので、部長たちともそれほど離れていなかった。すぐに部長たちも合流して警察に通報した。

 現場を見渡した部長は、何故か高らかに笑っている。


「我が校、いや、我が部に歯向かうからこうなるのだ!」


 別に歯向かってはないだろ。


「お前の残りの人生は牢屋で過ごすことになりそうだな」


 多分聞こえてないし、終身刑にはならないと思う。


「これで我がクイ研の評判もうなぎ上りだな」


 結果はどうであれ下ったことしかないのだが。


「タクト」


 騒ぐ部長の横を通って鹿沼先輩が歩いてきた。


「…心配してくれてるんですか?」


「…フン」


 プイッと横を向いた鹿沼先輩の顔は赤らんでいた。「意外と優しいんですね」と言ったらビンタが飛んできたので、調子に乗るのは良くないと学んだ。

 警察が到着したら、事情を話して後は任せる。実際に現場にいた俺と湯ノ山は色々と聞かれたが、「捕まえるためにわざと歩いてました」なんて言えるわけがなく、偶然ということにしておいた。これも部長の指示で、あらかじめ口裏を合わせておいたことだ。

 後のことや学校への対応等は部長がやっておくとのことで、その日は解散となった。

 当然の如く親には見破られて、ド叱られたとさ。


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