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五話

 炉出町は天越高校から歩いて二十分程のところにある。

 面積だけで見れば俺たち五人で調べられる範囲ではないが事前の調査で場所は絞ってあるので問題はなさそうだ。というより現れるかも怪しいところだが。


「いいか?作戦はこうだ。露出狂は女性が一人のところに現れる。そこで我が部の女子二人におとり役をやってもらうことにする。それぞれ一人になってもらって、露出狂をおびき寄せる餌となってもらう」


「襲われたって話は聞いたことないですけどさすがに危なくないですか?鹿沼先輩はいいとして、湯ノ山は危険すぎる気が…」


「何か言った?」


「じょ、冗談ですよ…。鹿沼先輩も心配ですよね…」


「ユズのこと心配してくれてるんですかぁ?もー…先輩ユズのこと好きすぎでしょ!そういうの嫌いじゃないです!デスデス!」


「心配はしてるがそこに俺の感情はないから。一般論だから」


 とは言ったものの本当に心配している。うちの部の女子たちは露出狂なんか屁でもないと思っているかもしれないが、何が起こるかはわからない。


「案ずるな。一人と言ってもその後ろの少し離れた場所に俺たちが待機している。一定の距離を保ちながら、露出狂が現れたらすぐに駆け付けて確保するといった算段だ。鹿沼には太刀川が、湯ノ山には俺が着く。一番フットワークが軽い柾木は中間地点で待機してどちらかに異変があれば応援に行けるようにする。どうだ?完璧な作戦だろ?」


 何だその二秒で考えたような雑な作戦は…。まあ五人まとまって時間がかかるよりは二組に別れてパパッと終わらせた方がマシか。

 作戦が完璧かどうかはわからないが、ひとまず部長の策に乗っかることにする。他の人も同じかと思えば、一人だけ異論を唱える人がいた。


「異議あり!何で鹿沼先輩とタクト先輩なんですか!昨日もそうだったし…。今日は私とタクト先輩にしてください!いいですよね?」


 俺としたら湯ノ山の意見はどちらでもいいのだが、鹿沼先輩と二人きりだと無茶な命令が下される可能性もあるので、やや湯ノ山に傾いている。


「ユズカちゃん、無茶言わないの」


 鹿沼先輩はそう言ってなだめているが、無茶ではないと思う。

 どちらも譲歩することなく、しまいには「無理なら行きませんから」と湯ノ山が言い出してしまった。そうなると計画倒れになってしまうので、俺から部長と替わると申し出た。


「タクト」


「いやいや鹿沼先輩が嫌ってわけではないですよ?でもここで湯ノ山に帰られたら元も子もないじゃないですか」


「…覚えてなさい」


 えぇー…。俺何も悪くないですよね?

 死の宣告ともとれる鹿沼先輩の言葉によって胃が痛くなってくる。

 明日休もうかな…。

 どうにか納得してもらったので、早速作戦を実行する。俺たちは東側、部長たちは西側のポイントに向かい、テルユキはその中間で待機する。

 五人の連絡手段はイヤホンを使用したグループ通話だ。逐一報告をしながら連携をとっていく。ポイントに着いて通話の準備をしている時に湯ノ山がお礼を言ってきた。


「先輩…ありがとうございます。ユズの方に来てくれて嬉しいです」


「別に誰でもよかっただろ?」


「いいえ…。タクト先輩じゃなきゃダメなんです!」


 思いきり抱き着いてくる湯ノ山は笑っていたが、体は震えていた。触れる体は縮こまっていて、いつもより小さく感じる。湯ノ山も一人の女の子だということを忘れてはいけない。


「怖かったら無理しなくてもいいんだぞ?」


 顔を上げた湯ノ山は笑顔を崩していない。


「大丈夫です!タクト先輩がいてくれるならなんだってできますよ!万が一何かあっても守ってくれますよね?」


 そんな顔で言われたら腹を括るしかないじゃないか…。


「責任重大だな」


 落ち着きを取り戻したのか、湯ノ山は意気揚々と前を歩き出した。俺もイヤホンをつけてから少し遅れて後を追う。視界には捉えにくいが、街灯の明かりで湯ノ山を確認することが出来る。


「というか本当に出るのか?」


 マイクに入らないように小声で呟いた時、イヤホンから【キャー】と聞こえた。この声は湯ノ山だ。


【で、出ました】


「出んのかい!」


 都合の良い展開ということは置いといて、俺は急いで湯ノ山の下へ向かう。テルユキや先輩も【すぐに向かう】と連絡があったが、この瞬間に頼れるのは俺自身だ。

 すぐに現場は見えてきた。

 湯ノ山は壁際まで迫られている。対面には情報通りの格好をした男が立っていて、その姿はまさしく露出狂の中の露出狂、誰が見ても露出狂だった。あまりにも露出狂過ぎて一緒に写真をお願いしたいくらいだったが、そんな悠長にしている時間はない。


「この変態野郎がぁぁぁ!」


 走った勢いそのままに地面を蹴って、じりじりと湯ノ山に近づくその男目掛けて飛び蹴りをお見舞いした。蹴りを横腹に喰らった男は吹っ飛んで電柱に衝突。俺は華麗な着地を決めて、といきたかったが反動でバランスを崩してしりもちをついた。……ダサいのはわかってるよ?でもこれが俺だもの。


「先輩!大丈夫ですか?」


「いてててて…。ちょっと尻が痛いだけだ…。湯ノ山こそ大丈夫か?何かされなかったか?」


「ユズは大丈夫です。いきなり出てきてちょっとびっくりして叫んじゃいましたけど、何もされてないです」


「というか襲わないって話じゃなかったか?近づいてるように見えたが…」


「さあ?あまりにもユズが可愛すぎましたかね?」


 この状況でその自己分析ができるのであれば大丈夫なようだ。

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