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四話

 放課後になって俺たちは部室に集合した。本来ならこのままクイズ研究部として早押しの実践練習や問題作成等をするはずなのだが、今回は違う。いや、正しくは今回も、だ。


「諸君、昨日はご苦労だった。早速だが調査の報告をしてくれ」


 俺たちはそれぞれ昨日聞き出した情報を発表した。部室にはホワイトボードがあり、そこにメモ書きのようにざっくりと書いていく。書記は湯ノ山が担当していて、忙しそうにペンを走らせている。湯ノ山の雰囲気や性格を知っていれば可愛らしい文字を思い浮かべると思うが、予想に反して湯ノ山は達筆だ。書道で段位も持っているらしく、湯ノ山の字の綺麗さを知ってからは書記は固定となった。

 あらかた情報を出し尽くしたら、整理していく。すると共通点や特徴が浮かび上がってきた。


「ふむふむ…まとめるとこんな感じか。遭遇した人に共通しているところでいえばまずは場所。四人共、炉出町(ろしゅつちょう)内で遭遇しているな」


 何だその露出狂しか住んでないような町は。


「駅から少し離れた人通りが少ない場所が多いですね。ただ完全に暗いと意味がないのか、近くに街灯があるのも条件のようです」


 プリントアウトした周辺マップに印をつけると出没範囲が見えてくる。部長は学校外で調査をしていたようで、目撃情報と照らし合わせるとその範囲は割と正確なようだ。


「そう考えるとかなり絞れるな。これを利用すれば…」


 おっと今の発言はイエローカード。嫌な予感がする…。


「出没時間帯は日が落ちてからの十九時から二十一時の間ですね。特徴としては全裸にトレンチコートを羽織っていて深めに黒色の帽子をかぶっているみたいです。背丈は170cm前後の体型は普通。いわゆる中肉中背ってやつですね。目安としてはタクト君くらいの…」


 テルユキがそう言いかけた時に全員の視線が俺に集中した。


「ま、まさか、タクト先輩…。そんな…嘘でしょ…」


 え?


「…タクト」


 は?


「太刀川…お前…。自首するのが賢明だぞ」


「やってねーよぉぉぉ!身長しか一致してねーじゃねーか!そんな人ごまんといるわ!」


「そうですよ!タクト君に限ってそんなこと…するわけないと思います。彼は濡れ衣を着せられているだけです。僕たちが信じてあげないで誰が信じてあげるんですか!」


「お前も変な庇い方するなよ!庇ってるようで庇えてねーんだよ!むしろ逆に本当にやってるみたいな空気が流れちゃってんじゃん!どうすんのこの空気?空気清浄機でも買って来るか?そもそも勝手に濡れ衣を着せてんのはお前だよ!」


 何故俺がこんなに必死にツッコまなくてはならないんだ…。

 息を切らしながら叫び終えた俺に対して、周囲は冷めきっている。これが温度差ありすぎて風邪ひくってやつですか?


「冗談ですよぉ。ムキになっちゃって可愛いです。タクト先輩」


「ごめんね、タクト君」


「…うるさい」


 あ、乗ったのにそういう感じなんですね…。これからは無視しよ。


「さて、情報の整理も終わったところで―――」


 この流れだと…。


「一旦この話は置いておいて、クイズの練習を始めるか。今日は俺が作ってきた問題を早押し形式で回答することにしよう」


「いや行かんのかい!」


「何だ太刀川。さっきからうるさいぞ」


「いやいやこの話の流れだと現地に向かうのかと思うじゃないですか!…別に行きたくはないんですけどね?」


「お前がクイ研らしい活動がしたいと言ったんだろう。それなのになんだ。クイズがしたいだのしたくないだのうるさい奴め。お前はやりたくないのか?」


「それは…やるならやりたいですけど」


 俺がごねて面倒くさいやつみたいになってしまった。クイ研としての活動ができるのであれば文句はないので、拒否する理由はない。どこか信用はできないが恐る恐る部長の指示に従うのであった。


 疑いを持って取り組んでみたが、蓋を開けてみれば充実した時間を過ごすことができた。部長の作成した問題というのは難しかったのだが学ぶことが多く、良い問題だった。普段はクイズとは関係ないことをしているのだが、やはり賢島イオリこそがクイ研の部長ということを再認識させられる。

 

 外を見れば日は落ちかけている。久々のまともな活動に熱中しすぎて時間の経過が早く感じた。帰宅準備を済ませたら全員揃って部室を出る。これが普通のことだが、最近ではバラバラに帰ることが増えたので珍しくも思える。ひとえに鹿沼先輩のせいなのだが。部長も鹿沼先輩の自由すぎる行動を咎めることはしない。それだけ聞けばパワーバランスとしては鹿沼先輩が上のように思えるが、決してそういうわけではない。鹿沼先輩は部長の指示にマイペースなりにも必ず従う。俺たちにはわからないがお互いに信頼しているのだろう。同級生とそんな関係が築けるのは憧れるものがある。


「忘れ物はないな?」


 鍵を閉めて職員室に返しに行くのは最後に残っていた人の役割なのだが、今日は全員揃っているのでみんなで返しに行く。

 その足で昇降口に向かい、出た先で別れを告げる。


「お疲れ様です。また明日」


 クルッと背中を向けて進もうとした時「どこに行く?」と引き留められた。


「どこって帰るんですけど」


「何を言っている。クイ研の活動はこれからだろ?」


「はい?部長こそ何を言ってるんですか?もう十九時前ですよ……ってまさか!」


「ようやく察したようだな。その通り…いざゆかん!炉出町へ!」


 勢いよくピンと指を指しながら宣言したものの、テルユキに「方向違いますよ」と指摘されているので格好がつかない。


「さっき行かないって言ってませんでした?」


「行かないなんて一言も言っていない。『一旦置いておいて』と言ったんだ。あの時間に行っても意味が無いからな。十九時まで待つ必要があったから暇つぶしとしてクイズをしたまでだ」


 おかしいだろ!メインのクイズが暇つぶしになってんぞ?


「嘘だろ…。みんなも納得してないよね?」


「え?わかってたけど」


「タクト先輩わからなかったんですかぁ?かわいいー」


「…鈍い」


 どこの世界もマイノリティは淘汰される。クイ研も例外ではない。

 俺だけ帰ることなど認められるはずもなく、鹿沼先輩に引きずられながら仲良く炉出町に向かうのであった。

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