一話
急に書きたくなったので連載始めました!
コメディ主体なのでツッコミどころはあると思いますが、気楽に読んでいただけるとありがたいです。
「諸君、ちょっといいか?」
また始まったよ……。
中指でくいっと上げた細いフレームのメガネはかけているだけで賢く見える。我がクイズ研究部部長の賢島イオリの癖と特徴の一つだ。
その賢島先輩がこの語りだしをすると決まって俺たちクイ研にとって良くない出来事の始まりとなる。なので現状、非常によろしくない。
「こんな話を聞いたことあるかね?」
「部長、それより今日もクイズ出し合いますか?俺最近良い感じ―――」
「最近この学校の周辺で露出狂が現れるらしい」
こうなると俺がスルーされるのはいつものことだ。かと言って俺も無視してしまえば「太刀川!聞いてるのか!」と名指しで指摘されてしまう。これが縦社会の厳しさか。
「噂で聞いたことあります。たしか、うちの生徒でも何人か被害にあったとか。と言っても襲われるというかアレを見せつけられて消えていったらしいですけど」
そう答えたのはクイ研きってのイケメン、否、天越高校きってのイケメン柾木テルユキだ。こいつは俺と同級生の二年生。一年の時はサッカー部でバリバリエースだったのだが、足に怪我を負って退部。二年の始めにとあるきっかけでクイ研へ移籍してきた。足は完治していて、周りからもサッカー部への復帰を望まれているのだが本人に戻る気はないらしい。
「テルユキも簡単に乗っかるなよ!毎度毎度この流れでクイ研としての活動から逸れるんだから!」
「アハハッ。ごめんごめん。でもタクト君も興味あるんじゃない?」
「ねぇよ!…ったく、鹿沼先輩もお菓子ばっか食べてないで何とか言ってくださいよ」
この部で部長と唯一対等に話せるのは同じ学年の鹿沼レイカさんしかいないだろう。この部で3年生はこの二人だけだ。そして残念なことに二人とも変人である。
鹿沼先輩はいつも無表情で口数が少ない。しかも言葉足らずでわかりにくい。かと思えば急に喋りだすこともある。大抵の人は物静かとかクールと思っているけれど…。加えて賢くて美人ということもあり、周りからは近寄りがたい高嶺の花なんて思われている。男子にも女子にもファンが存在し、多くの生徒から支持を集めている。俺も最初の頃はそう思っていたのだが、クイ研に入って本質を知った今、憧れなどは皆無。ただのマイペースな暴君、みんな…早く気づいて!
「それより鹿沼先輩…つかぬことをお聞きしますが、さっきからバクバク食べてるそのお菓子……僕のじゃないですよね?」
鹿沼先輩に反応はなく、お菓子を口に運び続ける。
「実は俺も朝同じやつを買って来たんですよねー…。新発売って無性に買いたくなりますもんね。食べるの我慢して放課後の楽しみにとっておいたんですよー…」
手を止める気配はない。
「いや別に疑ってるとかじゃないんですよ?ちょっと聞いてみただけというか……。ただ横に俺のカバンが捨ててあるかのように雑に置かれてるんですよね…。教科書も散乱してますし、まるで誰かが漁ったあとのような…」
ようやくこちらを向いたかと思うと、ギロリという効果音がぴったりのドスの利いた睨みが返ってきた。
「じょ、冗談ですよー!あっ思い出した!そういえば我慢できずに休み時間に食べたんだった!そうだそうだ美味しかったなー…。よくよく考えれば新商品なんで被ることもありますよね…。ハハ…」
食べた覚えはない。味も知らない。99%俺のなのに…。
「……食べる?」
「……アリガトウゴザイマス」
その「やれやれ仕方がないな」みたいな表情やめてもらっていいですか?すごい腹立つんですけど。なんて言えない俺が情けない……。俺ってやつは本当に情けない。
「そろそろ話を戻―――」
「遅れてすみませーん!タークトせんぱーい!寂しかったですか?」
部長が話を再開しようとするも、ガラガラと勢いよく開いた戸の音と同時に聞こえた女の子の大きな声に妨害された。
良いのか悪いのかわからないタイミングで入ってきたその女の子はこの部で唯一の一年生、みんなのアイドルこと湯ノ山ユズカだ。
「全く寂しくなかったが」
「またまたーそんなこと言ってツンデレってやつですかぁ?先輩ユズのこと好きすぎでしょ!そういうの嫌いじゃないです!デスデス!」
「湯ノ山は病院に行くことをおススメするよ」
「アハッ、そんなこと言ってー…わかってますよ。ユズは今先輩の愛をひしひしと感じています。ああ、愛って素敵ですね…」
うざい、うるさい、気持ち悪い、スリーアウトでゲームセットだ。
最早返事をする気にもなれなかった。男としては湯ノ山のような可愛い女の子にこんな言葉を言ってもらえたら嬉しいのだと思う。だが、俺は騙されない。この小悪魔ぶりっ子にはめられて一度痛い目にあっているからな。突き放すのはいつものこと。なのにこいつは毎日毎日しつこくて…。
ちなみに、
「相変わらず騒がしいなーユズカちゃんは。そんなんだからタクト君に嫌われてるんだよ?」
「あらー柾木先輩いたんですねー。というか嫌われてないですから。むしろ愛されてるんで。一見ツンツンしているように見えるのも愛情の裏返しなんで。それよりタクト先輩の隣退いてもらえませんか?そこ、ユズの席なんで」
テルユキと湯ノ山は何故か仲が悪い。しかも引き合いに俺を出すことが多いので迷惑な話だ。このような時はノータッチが一番ということを今までの経験から学んだ。
「オホンッ。ちょうどいい。全員揃ったところで話を再開しよう」
部長の言う通り、クイ研の部員はこの五人で全員だ。
天越高校クイズ研究部といえばかつては名門と名が知られていたのに、今や五人だけとなってしまった。華々しい実績も過去の栄光となっている。だからこそ俺が憧れたクイ研を取り戻すべく、くだらないことに時間を割いている暇はないんだ。
「先程も言ったが最近この学校の周辺で露出狂が現れるらしい」
「部長!露出狂がどうとか、そんなのどうだっていいじゃないですか!俺たちクイ研ですよね?もっとクイ研らしい活動をしましょうよ」
生徒同士でただの雑談としてはおかしくない話題だ。では何故俺がこんなに必死に話題を逸らそうとするかって?そんなの決まっている。
「どーせまた『我が学校に害をなすとは放っておけん』とか『面白い…』とか言い出すんでしょ?」
「よくわかってるじゃないか。ならば話が早い。この事件、我々が―――」
「じゃなくて!俺はそんなの無視してクイ研としての活動をしようって言ってるんです!露出狂なんて警察で取り扱う問題でしょ?そうじゃなくても教師や生徒会に任せとけばいいんですよ!俺たちの出る幕はないです!」
俺の主張はごくまともなものだと思う。だが、その主張がまかり通ったことなど一度もない。何故なら…。
「ほう…俺に楯突くのか。ならば仕方がない。鹿沼、いつもの頼む」
クイ研には謎のシステムがあるからだ。
「露出狂……問題、トレンチコートは第一次世界大戦である国の兵が着たコートが発祥だが、その国とは何という国?」
「イギリスだ」
鹿沼先輩が喋り終えるのとほぼ同時に答えたのは部長だった。
「正解」
はえーよぉぉぉ!まあ知らなかったんだけど…。
「また俺の勝ちだな。まったく、いつになったら俺に勝てるのやら。今回も俺に従ってもらうぞ」
「ぐぬぅ…」
そう、クイ研にある謎のシステムとは『意見が違えた時はクイズで決めよう』といったものだ。このシステムは天越高校クイズ研究部に代々伝わるもので、掲げている理念の【実力至上主義】に基づいている。
このシステムが存在する以上、本来のクイ研としての活動をするためにはクイズで俺が部長の上をいくしかない。
それだけを聞けば簡単そうなのだが、この部長はクイ研から逸れた活動を求めるくせに知識だけは一級品。部長だけでなく、鹿沼先輩も柾木も相当なもので、一番真面目に取り組んでいる俺は一回も勝ったことが無い。湯ノ山だけには勝ち越しているが、ジャンルによっては負けることもある。
そんなわけでこの部での俺は下僕のような扱いを受けている。……特に鹿沼先輩には…。
「わかりましたよ。とりあえず聞くだけ聞くので話してください」
「よろしい。では話を続けよう。最近この学校周辺に現れる露出狂だが、太刀川の言う通り我が校に害をなすとは放っておけん!この事件、いや、この不届き者、我々クイ研が捉えてブタ箱にぶち込んでやろうではないか!」
メガネをクイッと上げて決め顔なのが鼻につく…。
「まずは調査だ。二組に分かれて行う。鹿沼は太刀川と、柾木は湯ノ山と、それぞれ情報を集めろ。被害者に聞くのが一番なのだが、デリケートな部分でもあるから慎重にな。俺は俺で情報を集めながら整理しておく。報告は明日。それでは、解散!」
ふざんけんなよ…何で鹿沼先輩となんだよ!テルユキと湯ノ山も仲が悪いし、考え得る最悪のペアじゃないか……。部長はいつも何を見てるんだ?もしかして部長のメガネは伊達ですか?シャレオツ目的の伊達メガネなんですか?それならもっと他に気を遣うべきとこがあるんじゃないですか?
俺が絶対に口には出せないことを考えていると背後から黒いナニカを感じた。
「文句あるの?」
振り返ればいつも通り無表情の鹿沼先輩が立っていた。その美しい顔が今は怖い…。
「いやいやいやいや!文句なんてあるわけないじゃないですか!むしろ鹿沼先輩と組めて嬉しいなー!ハハ…」
「…行くよ」
そう言って部室を出た鹿沼先輩に急いで着いていく。
はい、これで今日もめでたく奴隷決定!おめでとう俺!
ただ鹿沼先輩の機嫌は良くなったみたいだ。最近になって鹿沼先輩の感情が読み取れるようになってきた。…多分。
表情は変わらないが、仕草やなんとなくの雰囲気で把握している。そうでもしないと身がもたないんだ…。
区切り単位で投稿していくつもりですが、続けるかは気分次第です。
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