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Code:Arcadia  作者: 星霜
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第8話 合流、思案

今日は投稿できてあと1話だと思います。

視界が戻ると足が勝手に動いていた。いや、勝手に動いているし、動かしている感覚もあるが自分で動かしていないという何とも言えない感覚がする。首と視界は動かせるので周囲を見ると、前方と後方両方に疎らに人影が見えた。恐らくあちらもプレイヤーなのだろうが如何せん周囲が暗いせいで顔すら見えない。10秒程度経っただろうか?前方に眩い光が見えてきた。前方を歩いていた人影が光に溶けていった。あそこがこの暗闇の出口らしい。目の前まで光が迫ってきてそのまま光の中に突っ込んでいく。明るさの差が激しいせいで目が眩む。勝手に足が動かされる感覚が消えて立ち止まる。


光を抜けきると、そこは既に街中だった。

レンガ造りの建物が並び、地面も色の違うレンガで舗装されている。中世ヨーロッパ的な文明レベルらしい。回りを見渡すと、他のプレイヤーが複数人存在しており、プレイヤー同士雑談をしている者。周囲を物珍しそうに見回している者。ぎこちない動きでメニューウィンドウを展開して何かに目を通している者。など様々な行動を取っていた。そんなプレイヤー郡から目を外し、他の様子も伺う。あれはNPCだろうか?プレイヤーの初期装備とは明らかに違う民族衣装のような服を身につけた女性や、こんがりと焼けた肌を大胆に露出し、大声で客引きをする露店の男性の姿が目に入った。あの男性の開いている露天は何か食べ物を売っているのだろう、香ばしい香りがこちらまで漂ってきている。


そこで背後から視線を感じ、振り返る。出てきた建物の衛兵がこちらをじっと見ていた。全身鎧で完全武装している姿に威圧感を受ける。

なんでこっちを見てるのかなー?と思っていると、無言で早く前に進むように促された。いままで風景に集中していて気が付かなかったが、他のプレイヤーたちの通行の邪魔になっていたようだ。そう気がつくと、こちらを見ていたのは衛兵だけでは無いことに気がついた。ログインしてきたプレイヤーもこちらに視線を向けてきている。


「ご、ごめんなしゃい!」


ここで直ぐに謝罪の言葉が出てくるのが僕の小市民っぷりを物語っている。とはいえ、思いっきり噛んでしまった。仮想とはいえここまで大勢に注目されていると少し...いや、かなり緊張してしまう。大声で噛んでしまったことから、さらに視線が集中する。羞恥で顔が真っ赤に染まっていくのを感じる。


そのまま赤くなった顔を隠しながら粘ついた視線群から逃げるように通りを走り抜けた。何やら小さな声で呟いている人も居たが、内容は気にしないことにしておく。


無事に、というか街中なので基本的には安全なのだが現場を離れることができた。後を付けてきている人も居ないようだし、後は素知らぬ顔をして普通に振舞っておけば良いだろう。


「そういえば待ち合わせ場所は噴水広場とか言ってたっけ?」


友人が現実で通話を切る先に、そんな単語を言っていた気がする。とりあえずはその噴水広場なる場所を探してみることにする。メニューにマップ機能くらいは付いているだろう。そこで、メニューウィンドウを呼び出そうとして気がついた。


「あれ?そもそもどうやってメニューウィンドウ出すんだろう?」


特にチュートリアルも無かったので操作が分からない。とりあえず昔ながらのVRMMO小説に習って指を重ねて下に振り下ろしてみたり、ステータスとか声に出して宣言したりしてみたがどうも呼び出し動作が間違っているようで、何かが変化した様子は無い。その後もメニューを呼び出そうと四苦八苦していると、チュートリアルのヘルプ欄が出てきた。


『メニューウィンドウの呼び出し方


胸の前で軽く握りこぶしを作り、手のひらを前に向けながら手を開くことができます。』


......出てくるならもっと早くに出てきてくれ...。そう思わざるを得ない。思考や動作から推測して対応したヘルプを出してくれている様だが、少し判定が遅いような気もする。

指示に従って胸の前で握りこぶしを作り、開きながら手のひらを表に出す。


ポーンと音が鳴り、半透明な薄緑色のウィンドウを呼び出すことができた。世界観が壊れたような気がしなくもないが、『ゲームだから。』という理由で片付けた。様々な項目があるが、中でも1番目を牽くのはステータスだった。内容はこんな感じだ。


名前 - - -

Lv.0

種族 人間

職業 冒険者

HP 60

MP 20

STR(筋力) 6

VIT(耐久) 6

INT(知識・魔力) 10

AGI (敏捷力) 13

DEX(器用さ) 13


残ステータスポイント 0


幸運値 16

<スキル>

- - -


昔からよくある形式の各種ステータスとスキルの複合制らしい。めぼしいところといえば『種族』というステータスだろう。キャラメイク時には選択することは出来なかったので、プレイヤーは変更できないNPCのみの仕様か、今後他の種族になることができるようになる要素なのだろう。職業も初期職の冒険者となっているが、ここも従来通りのゲームなら他の職に就くこともできる筈だ。基礎ステータスのほうの基準はよく分からないが、STRを始めとして馴染み深いものが並んでいた。残りステータスポイントという表記からレベルアップなどで貰えるポイントを振り分けていく形式なのだろう。運だけLUKではないのは、こちらにはステータスの割り振りができないから。と言ったところだろうか?スキルは当然キャラクターを作った段階では何も無いのが当然なので無視する。まぁこんなところだろう。


あと、名前に触れておくことも忘れない。

名前の空欄になっているところに手をかざすと、もう見慣れたホロキーボードが出てきて名前の入力を求められた。すこし悩んだが、友人達と待ち合わせしているので普段使っているものを流用することにして『エル』と打ち込む。カタカナで打ち込んだあとにアルファベットでの綴りも追加で要求される。こちらには語源となった単語の上から適当に抜粋して『Erlk』と打つ。入力を終了するとキーボードが消えて元の画面に戻ってきた。名前欄にはしっかりと記入されている。


当初の目的を見失いかけていた。ステータスの表記欄を消し去ると、左側からアイテムやらマップやらオプション、ログアウトなどの記されたメインメニューが出てきた。


その中からマップのタブに触れて表示させる。ウィンドウ全体にマップが展開され、主要施設の上には名称まで振られていてわかりやすい。今いる街の名前は『人族都市 アルベージュ』と言うらしい。丸い城壁で周囲を囲まれていて、なんでも『人族唯一の都市であり、最終防衛戦線。浮遊大陸の人族の殆どはこの都市に居住している。他種族のものは迫害・冷遇される傾向がある。』とのことだ。今は気にしなくても良さそうだが、そのうち何かプレイヤー側に影響があるのかもしれない。街の北側は王城と貴族街となっていて侵入することが出来なくなっているらしい。北を除く3方向に門があり、そこから外に出ることができるようになっているようだ。ちなみに城壁より外はまだ訪れたことがない為か、真っ黒に塗りつぶされている。


青い星型をしているのが恐らく現在地で、真っ直ぐ走って1本曲がった裏路地という移動経路から『還命の神殿』というのがログインした時に出てきた場所であろうと推測する。マップによると『噴水広場』という文字は無いものの、『交わりの広場』なる大きめのエリアを見つけた。中央に大きな噴水が描かれているのでおそらくこの場所が指定の場所だろう。


ただ、問題は場所だ。交わりの...『広場』でいいか。広場は還命...こっちも略して『神殿』で。ともかく、広場の場所は神殿の真北なのだ。あの醜態を晒した神殿の前を通らなければならないのは精神的にキツい。かといって下手に回り道を探しても、あまり細かい路地はマップに載っていないので迷う可能性もある。仕方なく先程と同じく顔を隠しながら通行しようかと考えたところでショートコートにフードが付属していることに気がついた。フードに手を伸ばして被ると頭をすっぽりと覆ってくれた。再びウィンドウが展開されてヘルプが出てくる。


『隠蔽用アイテム・装備について


現在装備しているようなコートや兜には顔や体型・声などをある程度偽装する効果があります。

適切に装備されるとパーティーメンバーやフレンド以外のプレイヤー・NPCから名前の認識を出来なくすることができます。


但し一部スキルの効果やアイテムによって無効化される場合もあります。』


おおっ!?

わざわざこんなシステムまで用意されているとは驚いた。フードを被ったことで他のプレイヤーからは顔を正しく認識出来なくなり、更には名前の表示までも偽装が出来るらしい。事前情報ではフィールドで他のプレイヤーに攻撃を仕掛ける...所謂PvPもあるようなので、奇襲で仕留めることができれば名前も顔も知られること無く撃破することができるということだ。暗殺者のようなプレイスタイルも想像できる。逆にキルされる可能性もあるが、強制的に一人称のVRゲームならではの要素に感動を覚える。


とりあえずこの機能を用いれば顔も名前も知られずに目的地までたどり着くことができるだろう。フードを被ったまま元きた道を引き返して広場へと歩いていった。



待ち合わせ場所に指定されていた噴水広場には既に沢山のプレイヤー達が居た。街の中心から近くて、噴水という非常に目立つシンボルもあるので待ち合わせ場所として利用されているようだ。昔からある例を出すなら、渋谷のハチ公的ポジションだ。


しかし、かなり広いこの広場からたった2人の友人を探し出すのは中々に骨が折れる。そもそも2人の見た目を聞いていなかったし、僕に関しては現実...というか元の姿とは似ても似つかない姿なので、あちら側から見つけてもらうというのは殆ど不可能だろう。可能性があるとしたら名前から予測してくるくらいだろう。と、思っていたら広場の噴水の傍で男性2人組のプレイヤーが雑談しているのを見つけた。


片方は短髪を赤く染めて逆立てている体格の良い男。もう片方は黒髪で青色のメッシュを入れて、後ろ髪を若干長く伸ばした男だ。どちらも初期装備のままで、この世界では珍しくも何ともない容姿だが、その顔には見覚えがありすぎた。


フードを外してからその2人組に近づいていく。赤髪の男のほうは会話に夢中で気がついていないが、青黒髪の男の方は近づいてくる僕に気がついたようで訝しむような視線を向けてくる。目の前まで近づくと赤髪の男もこちらを向いたので、思い切って話しかけた。


「あのー。もしかして"レインハルト"と"フィーリ"ですか?」


レインハルトとフィーリというのは勿論友人2人のいつも使っているキャラ名だ。本名をもじったり、適当な単語を探してきて命名したものなので今回だけ変えるということは無いと思ったので尋ねてみた次第だ。


「何で俺の名前を?!」


赤髪の男の方は本気で驚いているようで、それなりに整った顔が間抜けな顔で固まっていてちょっと面白い。


「あーやっぱり。そういうお前は"エル"だな?」


青黒髪の男がこちらに逆に尋ねてくる。僕も名前は名乗っていないので、こちらの名前を知っているというのから正解だろう。


「うん、当たり。でもよく分かったね?」


僕の姿は現実と共通点を探すのが難しいほどに変化しているはずなのだ。なのに何故目の前のフィーリという男は言い当てることができたのだろうか?


「歩き方とキャラクターの見た目かな。最初に見た時はもしかしたら?程度だったけどこっちの名前を言い当てた時に確信したよ。」


その推理力に思わず舌を巻く。いくら親しい仲とは言え、歩き方をヒントに個人を特定することができるだろうか?僕には真似できそうに無い。


あと、言うまでもなくレインハルト(=レイン)がレンで、フィーリがシュンだ。


「いや待て待て待て!それは流石に可笑しいだろ!?コレの何処がマオなんだよ!?」


ようやくフリーズから復帰したらしいレインハルトがテンパりながら尋ねてくる。コレとか言うなし。しかも、混乱しすぎて僕の実名を漏らしている。それはマナー違反だ。


「少し落ち着け!」


フィーリがレインの頭を強めに殴りつける。

クリティカルヒット!ボカッ!と表現するのがピッタリな良い音が聞こえた。


「こんなところで現実の名前言わないでよ。

聞いてる人が居ないから良かったけど。」


「すまん。混乱しすぎた。で、本当にエルなのか?」


ようやく冷静さを取り戻したレインが聞いてくる。


「うん、そうだよ。」


同意を返しておく。


「キャラクリの自由度は確かに広かったが、現実と別の性別とかあまりにかけ離れた容姿には出来ないんじゃなかったか?」


尤もな疑問だ。このゲームのキャラ作成には制限があるのはご存知だろう。僕のこの見た目は明らかにその制限を超えているので、現実の僕(変化前のだが)を知る彼らは違和感を感じたのだろう。ここで正直に話す訳にはいかないので適当にはぐらかすことにした。幸いにも言い訳は考えてある。


「いやーなんか機械のトラブルっぽくて、何故か最初の基礎モデルが女性型キャラクターでさ。変更も効かないし、どうせなら思いっきりキャラクリしてやろう!って思ってね。」


この手の展開の小説では大体こんな風に「バグで〜」とか「不具合で〜」とか言って誤魔化していたので、僕もそれに習ってその言い訳を使わせてもらうことにした。


「へぇ?そうだったのか。そんな不具合もあるのか...」


何かを考え込んでブツブツと呟いているフィーリを放っておいて会話を続ける。


「身体スキャンバグとか結構重大な不具合じゃないか?エルのそのキャラの場合現実との差が大きすぎてまともに動けなさそうだが。」


今度はレインが尋ねてくる。確かに元々の身体とはあまりにもかけ離れていて、視線の高さは勿論、歩幅や腕の長さも異なっており現実と何一つ共通点が無い。キャラクターの操作には多大な影響が出るだろうと考えるのは無理もない。


「うん。だからさ。ログインしてから暫く上手く動けなくてさ、それで少し遅くなったんだ。」


本当は道に迷っていたりしていたが、そのことは黙っておいて言い訳に使う。


「本当に大丈夫なのか?あんまりひどいなら運営に問い合わせて修正してもらったほうがいいんじゃないか?」


確かにこれは正論だ。現実とあまりにも異なる姿でゲームを遊ぶと、精神的・身体的共に重大な問題が起きるからだ。例を出すなら、現実で高所で作業をする仕事に就いている男性がアルカディア内では小柄な少女型アバターを使っていたとする。現実において高所の足場でバランスを崩した際、反射的に何かに掴まらなければならないという状況下では、少しの感覚のズレでも命にも関わる。そして、その責任は誰にも取ることが出来ない。そのため安全性を確保するためにキャラクリにも制限を掛けているのだ。


「うーん。でも、せっかくなんだからもう少しこのまま遊んでるよ。運営にはそのうち報告しとく。」


これは嘘である。例え運営に報告したところで、正常だと判断されるだけだろう。第一現状になんの変化ももたらさないので報告する必要も無い。


「エルがそれでいいならそれで構わないけど...」


二人とも真相は僕が少女化しているとは気がついていないようなので内心でそっと安堵する。立場が逆ならそもそもそんな可能性想定もしないのだから分からなくて当然だが。


「そういえば二人とも殆ど現実のままだよね。キャラクリしようとは思わなかったの?」


しれっと話題を別の方向にズラす意味も込めて、疑問をぶつけてみる。


「最初は少しくらい触ろうとしたんだけどな。髪の色変えてる間に面倒!もういいや!ってな。」


「一人称ゲームで自分で見れないなら気合い入れる必要も無いと思っただけだ。」


結局二人とも面倒くさかっただけらしい。このゲーム、キャラクリが細かくできるので回りのプレイヤーもかなりの美男美女揃いだ。その中でも元々イケメンに分類される二人は負けず劣らず違和感なく溶け込むことが出来ている。全く、イケメンは得である。じぇらしーだ。


「あんまりゆっくりしてると出遅れるかもしれないな。軽く準備してからフィールドに出るか。」


「了解」


「分かった」


深く考えないようにしたようなのでこっそりと安堵する。そのまま大通りに向かっていくレインの背中を追いかけて行った。

お読みいただけて嬉しいです。

面白いと思っていただけたなら幸いです。

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