第7話 変化、理想郷へ
リアルタイム投稿はここまでになります。
あれから15分程度弄ってみた。そして分かったことが1つある。このキャラクリは僕の手に負えるものではないということだ。別にキャラクタークリエイトの操作が難しいということではない。腕や脚などの各部位を選択し、長さや太さなどをミリ単位で調整することもできて非常に精度は高く、多くのユーザーが満足することができるだろう。顔のカスタムもかなりの美形に整ったテンプレートから選ぶこともできるが、500種類を超えるパーツを組み合わせて調整することができるので問題は無い。運営が特殊な技能が無くても満足の行くキャラクリができるように開発したということなのだろう。ではどこで僕が挫折したのかと思うだろう。
理由は一つ。素体が完成され尽くしていたのだ。僕のキャラクターの素体は、現実の身体が変貌してしまった影響でかなりの美少女型だ。
元々が美少女なので、更に磨きをかけることができるだろうと考えていたが、テンプレートを試してみても、パーツ一つ一つを細かく調整してみても、どこか違和感が残ってしまい結局元の形に戻したのだ。比較的大人風なパーツが少女型のキャラクターに上手く合わなかったせいだろうと思う。最終的に髪の色と目の色を調整し、軽くメイクを施した。大きく変更した点といえば全体的に身長を大きくしてみたくらいだ。この身体に変化した際、正確には測っていないが30cm程度視線が下がってしまっていた。その違和感を少しでも埋めるために脚の長さや腕、その他のパーツを細かく調整してみた。あと、流石に絶壁なのは嫌だったので少しだけ胸部装甲を盛らせてもらった。元男としては無くても構わないのだが、なんとなくだ。全体としては背を8cm程度身長を盛ることができたので、年齢が2〜3歳程度高く見えるようになったのではないか?若干幼すぎた感が少しマシになったのは大きい。もう他に変更すべき点はないのでさっさと切り上げることにした。
『キャラクタークリエイトを終了し、変更を確定しますか?』
目の前で出てきたウィンドウのYesを押す。
『キャラクタークリエイトの一部の要素は変更が出来なくなります。それでもよろしいでしょうか?』
親切にも2段階で確認を取ってきた。変更ができない要素というのは、キャラクターのステータスに影響するという体格面の再調整が出来ないということだろう。作り直す予定もないのでそのまま了承した。どうせ作り直したところで元々の姿とはかけ離れた姿なのだ。ウィンドウが消えると徐々に無音になり、周囲の光源の光が弱まっていく。
『神の子よ。貴方に実像を与えましょう』
再びそんな声が聞こえてくると、体が発光を始め、眩い光が視界を覆い尽くした。思わず目を閉じ、片腕で目を庇う。光が収まるのを感じるとゆっくりと目を開く。
手元を見ると、身体が先程緻密に作りこんだキャラクターに差し変わっていた。
光に包まれたと思ったらキャラクターの身体に変わっている。自身が光となってこの世界での肉体に移動するという演出だろう。改めて身体を見る。現実よりも少し身長を高く編集したので多少の違和感があるが、すぐに適応できる程度のものだ。
初期装備だろうか、見慣れない服装に変化していた。現実でもよく見る白いシャツのような服に青色のショートコートを被せたもので、胸部を守護する革鎧を装備していた。足は丈夫そうなブーツに黒いニーソックスに包まれていて、膝上から白くて細い足が惜しげも無く晒されていた。そしてその上にはシンプルなデザインの青色のスカート。うっ...女性キャラクターの初期装備だから仕方ないとはいえ地味に精神的にダメージが大きい。キャラメイクの出来栄えを確認していると、視界右端に先程まで無かったはずの本のアイコンが明滅しているのを見つけた。そちらに視線をフォーカスして選択する。すると簡単な絵とともにメッセージが流れ始めた。
--あるところに10柱の神々がいました。
彼らは悠久の時を生き、目的も何もない生活に退屈を感じました。あるとき神の1柱が『下の世界を作り、そこに様々な他の生物を創り出そう』と提案をしました。
全員がその意見に同意し、それぞれ別々の生物を粘土で形作っては命を吹き込んで地上に解き放ちました。作り出された人間や獣、竜や妖精などの種族は時にはお互い争い・殺し合うこともありましたが全体で見れば絶滅することはなく、ある程度の調和を持って暮らしていました。
神々も自分たちが生み出した彼らに寵愛を注ぎました。そのような平和な時代は数百世代と続きましたが、それも永遠には続きませんでした。
地上の世界を厄災が襲ったのです。
異空間より大量の闇が雪崩込み、地上のあらゆる生物や建物を蹂躙して回って行きました。長期間見守ることだけをし、直接的な介入は決してしようとしなかった神々もこの時ばかりは全力をもってこの厄災への対処を始めました。
しかし、異界より流れ込んできた闇は神さえ脅かす存在でした。
直接闇を押しとどめようとした地神と鋼神は瞬く間に闇に飲み込まれて消失し、傷ついたものを見捨てることできなかった水神と緑神、命神もまた消失しました。希望の光が唐突に失われた影響で光神も急速に力を失い消失。残ったのは火神と氷神に時神と全ての神を束ねる最も力を持つ無神のみでした。
彼らは残った力の大半を用いて、残った種族の救済を試みました。闇は地上を覆い尽くしましたが、天空は無事であることに気がつき浮遊大陸を作り出し、そこに豊富な自然を発生させて生き残った生物を転移させました。本来この作業は土神や命神を初めとした者が得意としていたもの、適正の無い神々は大きく力を消耗してしまいます。火神と氷神は力を使い果たし地上へと墜落。無神もかなり力を消耗していました。
そして彼は仲間達が命を失う原因となった生物達を憎みました。その気になれば世界ごと全てを破壊することが出来るほどの力を持っていましたが、仲間達が命を賭して守ろうとした生物を消し去ることはできませんでした。無神は絶望し、全ての生物を憎みつつも力を失ったが為に永い眠りにつくことにしました。失われた仲間たちの負担していた権能を管理するには全力でことにあたる必要もあるためです。
最後に時神は生き残った生物達にこう言い残しました。『この地に我らが戻ることはないでしょう...。貴方たちの未来に光あれ...』無神が眠りについた後も長い間寄り添っていた時神もいつしか姿を消していました。
それから再び悠久の時が流れ、この物語も殆どの民から忘れ去られようとしていた--
最後の一文が表示されると、開いていた本は光を弱めながら次第に実体を失って消えていった。
なるほど、別にグランドクエストが無いからってストーリークエストも無いという訳ではないらしい。ストーリーに関連するクエストもあるが、それに自身が参加あるいは関係するかするも自由ということなのだろう。
大まかな流れとしては、『世界を襲った謎の災害から生命を救うために犠牲になった神々が居た。』といったところだ。何故冒険の舞台が浮遊大陸なのかの説明も入っていたし、しっかりとファンタジー要素も展開されていて今から既にストーリークエストが楽しみだ。
そんな感じに物思いに耽っていると、再び目の前にウィンドウが飛び出してきた。
『ログイン可能時刻になりました。ログインしますか?』
いつの間にか時間が来ていたらしい。このままログインするか、それともログアウトするか聞かれるが、友人とゲーム内で待ち合わせしている上にすぐに遊びたいので勿論ログインする旨を伝える。すると、足元に魔法陣が描かれて奇妙な浮遊感を与えられる。
『貴方の冒険に光あれ。幸運を祈ります。』
最後に先程から誘導をしてくれている声からの激励を受けると、さらに浮きあがる感覚と共に視界がホワイトアウトした。
リアルタイム投稿はここまでになります。
今書いている部分が間に合うか少し微妙です。
お読みいただけて光栄です!