現代
満に影がささやく。
本当の望みはなに?
満は暖かな少女の手を握りしめて、思う。
本当の自分の望みはなんだろう?
満は今はこの傷ついた少女に、暖かなミルクを入れてあげたい。そう思う。ぼんやり夜道を満と少女はあるいていると、少女立ち止まって満の顔を見上げて微笑んだ。
「ありがとう」
そんなことを言う少女に満は微笑んだ。
「さぁ、寒いから家に入ろうね」
満は名前も知らない少女の頭を撫でた。
朝気が付いたらあの少女は忽然と、満の前から消えていた。
ぼんやり満はコーヒーをいれながら、テレビを見る。テレビにはあの少女の顔がうつっている。享年八歳。少女の死因は親から熱湯をかけられて、全身重度のやけどをおったかららしい。
満の瞳から涙が流れおちる。
満の影が満にささやく。
満の本当の望みはなんだと。
満の本当の欲望はなんだと。
それから満は売店の店員バイトからある企業の派遣事務員になった。残念ながら彼氏の徹とは別れた。徹からほかに好きな人ができたと、告げられた。
それは満が妊娠できない体だと、徹に告げた日から三か月後のことだった。
失恋に満の心はいたんだが、あの少女の最後の嬉しそうな笑顔を浮かべ、満は少しだけ満たされていた。
電車に乗ろうと駅の構内に行き、会社前の駅で満は下りた。駅構内に人身事故の放送が聞こえてくる。そんなことはしょっちゅうだ。
恵まれない命に、痛んで放棄された命。
駅改札口前に、一人の幼い少年が立っている。満は微笑んで少年に問いかける。
「お母さん、お父さんは?」
少年は満の問いかけに、首を横に振る。
「誰もいない。一人」
「一人なの?」
満の中の黒い影が問いかける。
本当の望みはなんだ?
「さぁ、一緒にさがしにいきましょう」
少年の手をつなぎ満の家へと歩き出す。
そう満の望みは自分が満たされること。それは間違っている願いかもしれない。けれどそう願わなければ、生きていけなかった。