現代
家の近くの公園から子どもたちの声がする。明るい子供の様子の声に、そっと家のソファーの上で女は溜息をつく。
どうしても藤堂満は子供がほしい。けれど満の体は子供ができないからだだった。そのことをまだ婚約者の榎並徹には話していない。話せるわけがない。徹は保育士を目指していて、常日頃「子供がほしい」が口癖の人だ。満が子供ができないからだを話したら、徹はどう反応するのかが、満は怖かった。満は本気で徹のことを愛していたから、なおさらだ。
満はソファーにあったクッションを抱きしめた。
そう妊娠できないことを徹に話さなければならない。本当に満はそう思っていた。けれど、どうしても徹に話せなかった。それに徹はバイトが忙しいと言って、あまり満に連絡をくれなくなっていた。
ぼんやりしながら満は憂鬱になっていると、近所に響き渡る子供の声がした。まだ幼い子供の少女の悲鳴。そして理不尽な大人の怒鳴り声。あの家はいつも子供が泣いている。近所では虐待をしているのではないかと、噂になっている。
理不尽だと満は想う。こんなにも子供がほしい、大切にしたいと思っている満のもとには子宝はやってこないのに、劣悪な環境な子供を愛さない親が子をなしている。
御茶でも入れて気分を少し変えようと、満は台所に向かった。
「あ、醤油がきれた」
満は醤油を買いにスーパーに向かう。
夜の外は静かで、きれいな月が出ている。ぼんやり温かな風に吹かれながら満は歩いていると、道端に裸足で座り込んでいる幼い少女がいた。幼い少女の顔は腫れてしまっている。あの親が暴力でもふるっているのだろうかと、満は心が痛む。
満の両親も、満を愛することはなかった。
ふと満の中で疑問が浮かぶ。
この子をあの邪悪な親ではなく満が育てたらどうなるのか?
その邪悪な親は悔しがるのか、それとも。
それとも満がこの子を殺したら、この子の親はどう思うのか?そんな疑問が満の心の中で浮かぶ。子供を殺すという考えは、満は首を振って否定する。
魔が差したとしか言えない。近所で幼い子供がひどい泣き声悲鳴を何度も聞いていた。だから誰が満をひていできようか?
「うちに来る?」
気が付いたら満は子供に向かってそういっていた。