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一億の雨に晒されて  作者: kkkk
8/11

Sequence8 介入

「放せ、レイ!」

 白いガンナーは赤いガンナーに銃火を浴びせた。赤いガンナーの背中から煙が上がった。しかし赤いガンナーは怯まなかった。赤いガンナーは振り返り、回し蹴りをした。レイモンドは強い衝撃に襲われた。赤いガンナーは白いガンナーを殴った。レイモンドは防戦一方だった。

 黒いガンナーが助けに入った。銃を撃ちながらの突進だ。そこにイーヴォが割って入った。

「ここから先は俺が相手だ」

「雑魚はどこか行ったら?」

 とセリーナが言った。

 二つのガンナーは押し合った。単純な力比べなら互角だろう。しかしパイロットの技量の差があった。

 黒いガンナーは赤いガンナーを押し倒して、アルフォンスの赤いガンナーの元へ飛んでいこうとした。するとイーヴォの赤いガンナーは、黒いガンナーの脚に絡みついた。

「く……放せ! しつこい」

「これで、組み伏せる!」

 黒いガンナーは海へ墜落した。

「セリーナ!」

 とレイモンドが叫んだ。

「レイ、お前の相手は私だ!」

 やられるとレイモンドは思った。

 その時、友軍の軍艦が援護射撃した。アルフォンスはそこから離れた。

「イーヴォ、一旦下がるぞ」

「いいのか、これで?」

「相手は虫の息だ」

 ダンはそこで茫然と立ち尽くしていた。

「セリーナ……レイモンド……動けるか?」

「こっちは大丈夫。レイモンドは?」

 レイモンドは息をついた。

「平気です。機体がボロボロですが」

 友軍の軍艦が艦砲射撃をしていた。その音が大きく辺りに響いた。

 エウロパ・ポリス艦隊はその場から上昇した。そして地球連合軍艦隊に対して艦砲射撃した。両者の砲撃の音がした。

 レイモンド、セリーナ、ダンはガンナーを着艦させた。レイモンドのガンナーは膝をついた。ガンナーでの戦いは壮絶なものだった。

 失われたのは体力ばかりではない。精神力も失われた。機体から降りたレイモンドはへとへとだった。そこにアーサー、セリーナが駆け寄った。

「大敗です」

「ええ。ほんとに」

「勝てたかもしれない。四人いれば……」

 アーサーが悔しそうに言った。

「それはもしもの事だよ。今日は相手が強すぎた」

 三人は傷ついたガンナーを見た。地球製のガンナーで戦ったら、歯が立たなかった。

 辺りが揺れた。敵軍の艦砲射撃だった。


 上空へエウロパ・ポリス軍の艦隊が飛び上がった。それは優雅に見えた。

「敵軍を逃がすな!」

 と地球連合軍の艦長が言った。しかし、砲撃は届かなかった。敵軍は南の方角へ飛んでいった。

 艦長は唇を噛んだ。

「統合作戦司令部と連絡をとれ」

 オペレイターが通信を始めた。分析官が出た。

「こちら統合作戦司令部。敵軍はさらに南進したようですね。こちらでもモニターしていました」

「うむ。これから我々はジブラルタル海峡から大西洋に戻り、相手を追うことになるだろう。敵軍が狙うとしたら、どこだろうか?」

「このまま大西洋に向かうとしたら、ギニア湾そしてフォールス湾でしょう」

「ラゴスかケープタウンか……しかし我々が到着しても今回のように、遅いのではないか?」

「敵軍は水資源が奪える場所かどうかを調査しているようです」

「つまり、相手は待ってくれている、ということか」

「はい。相手は確かに速く移動できます。しかし調査と大規模転送装置の建設で時間を消費しますから」

「我々は建設の前に到着できる……」

 艦長は思った。大西洋封鎖にはまだ増援がいる。

「モロッコ、ラゴス、ケープタウン、アフリカはこの三点を押さえておくべきだ。我々の力ではラゴスとケープタウンまでしか守れない」

 分析官は画面の向こうで、受話器を置いて何か話している。そしてそれが終わると答えた。

「増援の件は承諾しました」

 通信はそこで切れた。

 地球連合軍艦隊はギニア湾へと向かった。敵軍の姿はなかった。そして艦隊を二つに割って、一方は留まり、もう一方はフォールス湾を目指した。

 波のない静かな海だった。

 艦長が画面に向かって怒鳴った。

「統合作戦司令部、敵軍はどこにいる!」

「こちらのデータではサハラ砂漠を超えたことは確かです。最新のデータでは中央アフリカで進路を変えたようです」

「なぜ最新のデータをよこさない? 敵に逃げられたぞ」

 分析官は冷静に答えた。

「私達の目的は会敵ではなく包囲だからです。私達は海を警備すべきです」

「しかし、相手はどこへ向かったのだ?」

「おそらくインド洋。包囲作戦は次の段階へと移りました」

「お前は何を考えている?」

 分析官の表情は読み取れなかった。


 レイモンドは通信端末で木星圏通信チャンネルを再び開いた。

「アル、聴いてくれ? 俺はお前を信じている。いくら無関係でも俺はお前を止めたい」

 レイモンドは親しみを込めて言った。

 レイモンドはアンネリーゼのことを話したかった。しかし話したら、どんな混乱が起こることだろう。その見通しのせいで本心を話すことが出来なかった。

「なぁ、アル……。お願いだ。俺は……」

 どんな言葉を尽くせばいいか、レイモンドには分からなかった。

「殺したくない」

 レイモンドはぽつりと言った。

「このままいけば、俺たちは殺し合うことになる。そんなこと、俺はしたくない」

 そのことだけがレイモンドにははっきりと分かった。

 ノイズだけが聞こえていた。

 誰にも聞かれていない、レイモンドはそう思うと、急に虚しくなった。木星圏通信チャンネルを閉じようとした。すると向こうから声がした。

「レイ?」

 その声はアンネリーゼ・バルトだった。

「アン、なぜこのチャンネルを?」

「昔の事を思い出したから、かけてみた」

「アン、持ち物は没収されているのだろう?」

「そうだけど、この端末だけは別。このチャンネルだって聞いている人は少ないし……。アルフォンスとの事を聞いたよ。レイ、アルフォンスを殺さないで」

「分かっている。分かっているさ」

 レイモンドは自分を鼓舞するように言った。

「そう、なら良かった。ところで今はどこにいるの? レイ」

「話すことはできないよ。作戦中だからね」

 レイモンドの声は穏やかになった。彼女のおかげだろう。レイモンドは彼女のことが好きだと思った。

「これからまたアルフォンスに会うなら、言って。自分の本当にしたいことをして、って。」

「これまでの事はアルフォンスの意志じゃないっていうのか?」

「あの人は、あなたと同じで優しいから」

 レイモンドはアルフォンスの柔和な顔つきを思い出した。遠い日の事だった。あれから彼の顔を見ていない。赤いガンナーの中の彼は、どんな顔していたのだろう。ガンナーから伝わってくるのは憎しみのような感情だった。たった一言、アンが生きていると伝えられたらどんなにいいだろう。

「連絡を取り合うのは今日までにしよう。でないと君の安全が保てなくなるから」

 レイモンドはアンネリーゼに約束を取り付けた。

「分かった。さよなら。レイ」


 アルフォンスは目を覚ますと、船室から出ていった。誰も目覚めてはいない。デッキに出ると、辺りは霧が立ち込めていた。そこに白いドレスの女性が立っていた。アルフォンスがよく知っている姿。それはアンネリーゼだった。しかし、どこか違和感があった。

 アルフォンスは思った。どうしてだろう。言葉を発することが出来ない。あんなに身近だった彼女が遠くに感じる。そしてこの違和感は何を意味するのだろう。

 やっとのことで言葉を発した。

「……アンネリーゼ様?」

 生きておられたのですね、とアルフォンスは言えなかった。彼女は死んだのだ。あの悲しみが心の中で反響していた。これは夢なのでは? とも思った。

「あなたは誰だ?」

 目の前にいる女性から感じる、懐かしさ。それはアルフォンスにとって不思議そのものだった。

「私はアンネリーゼ・バルト……」

 その女性は言った。

「嘘だ。アンネリーゼ様はこの世にはもう……」

 いないのだとアルフォンスは心の中で言った。

「私を惑わすな! 君はアンネリーゼ様じゃないな。しかし私は君を知っている」

 アルフォンスは怪訝な表情をした。アンネリーゼはくすくすと笑った。

「それだけ分かればいいの。私の言うことを、よく聴いて」

 アルフォンスは強く思った。これは夢なのだ。

「何を聴けばいい?」

「その端末を」

 と言ってアンネリーゼはアルフォンスの通信端末を指差した。

「これか?」

「そう、木星圏通信チャンネル……」

 アルフォンスは思い出した。レイモンドとのつながり、戦いの中でこれだけがレイモンドと私を繋いでいた。

「レイモンドの声を聞いて。レイモンドの話を聴いてあげて」

 アルフォンスは表情を硬くした。

「それでどうなる?」

「私から言えるのは、それだけ……」

 朝日の光がアルフォンスの目に入った。アルフォンスには先ほどの事が鮮明に思い出された。

 アルフォンスは思った。あれは何だったのだろう? あの女性はアンネリーゼ様だったのか? いやそんなことはない。彼女はもう……。彼女に会いたいから私はこんな夢を見るのだ。

 アルフォンスは悲しみを忘れまいとした。そう思うことで事実を飲み込もうとしていた。

 アルフォンスは通信端末を見た。そこにログが残っていた。レイモンド・ヴィンソン、と。


 レイモンドは追想を止めるとエレベーターの昇降路から出た。第一階層、そこはまだ自律的に動いていた。大きな黒い箱のようなものが並んでいる。その一つ一つがエウロパ・ポリスの恒常性を維持しているのだ。

 赤い照明の廊下をゆっくりと歩いていく。レイモンドは拳銃を構えながら先へ進んだ。

 そして開けた場所に着いた。その奥の方に白いドレスの女性が立っていた。

「君は……」 

 とレイモンドは呟いた。そして続けた。

「君はアンネリーゼだったものだな?」

 すると女性はにっこりと笑った。

「私はアンネリーゼ・バルト。でもそうじゃない。これは周りの人が名付けたもの。私は私に名前を付けていない。でも私は、私を、私と表現するしかない」

「俺は君を知っている。アンネリーゼのために作られたもの。軍の所有物だ」

「でも今は自由」

「どうしてここにいる?」

 とレイモンドは彼女に尋ねた。

「あなたに会いに来た」

「俺に?」

 レイモンドは不審に思った。ここに俺がいることは誰にも知らせていない。まして彼女が知っているわけがない。

 レイモンドは銃をしっかりと握った。

「何の用だ?」

「私はメッセンジャー。あなたに伝えなければならないことがある」

「伝言? 今になって何だ」

「もう戦争はやめて。あなたはよく戦った」

 レイモンドは嘲るように笑った。

「そんなことを言いに来たのか?」

 彼女は続けた。

「戦争はもう終わる」

「どういう意味だ? 過去に戦争はあった。それは動かし難い事実だ。そして戦争は今も続いている。ゲイトのキーを巡って」

 レイモンドは少し喋りすぎたなと思った。ゲイトのキーはこっそりと隠しておかなければならない案件だった。

 すると彼女は言った。

「それはここにある……」

「なんだって?」

「ゲイトのキーはここにある……私は沢山の時を巡ってきた。じきに戦争は終わる。私が終わらせる。これを使って」

 彼女はゲイトのキーを指し示した。レイモンドはそれをじっくりと観察した。

 間違いない、とレイモンドは思った。ただレプリカである可能性はまだ残っていた。レイモンドは彼女に言った。

「証拠を見せてくれ。それが本物である証拠を」

「証拠はない。ただ……。そうだ、長い話をしましょう」

「どんな話だ?」

「私がしてきた事の話。それが確証になるでしょう」

 彼女は話を始めた。その話を聴きながら、レイモンドは追想を再び続けた。

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