Sequence3 宣戦布告
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アルフォンスは空母に戻った。頭は混乱していたが、すぐに冷静になった。レイは何故あそこにいたのか? そして、何と言っていたか? そしてどうやってエウロパ・ポリスのガンナーを奪取したのか? 疑問が次々と浮かんだ。
アルフォンスは思った。もう終わったことだ。切り替えなければ。そして次に戦場で出会ったなら、殺さなければいけないのか? アルフォンスは自らに問いかけた。答えは出てこなかった。アルフォンスは自身の甘さに苛立った。
アルフォンスの乗る空母は合流ポイントに向かった。エウロパ・ポリスの艦隊がそこに集結している。アルフォンスは格納庫で待機していた。整備員がアルフォンスのガンナーを取り囲み、メンテナンス作業をしていた。整備員が梯子を上ってきて言った。
「強者と戦ったのですか?」
「強者?」
アルフォンスはレイモンドの事を強者とは認識していなかった。
「ああ。奪取されたエウロパ・ポリスのガンナーと」
「ガンナーの脚部に想定以上のダメージがかかっていますねェ」
アルフォンスは戸惑った。
「脚部パーツを交換しますよ。そんなに時間はかかりません」
「わかった」
整備員が梯子を下りていく。
アルフォンスは思った。あの戦いはそんなに激しかったのか。ほんの数分だったはずなのに。レイモンドが次に私の前に立ちはだかるなら、私は容赦しない。
空母は合流ポイントに着いた。まだ数隻の軍艦しか揃っていない。艦長は言った。
「しばらくここで待機だ」
アルフォンスはガンナーのコックピットの中で修理が終わるのを待っていた。他のガンナーのパイロットがアルフォンスに話しかけてきた。頭をコックピットに押し込んできて、なんだか可笑しい。
「イーヴォ・シマントだ。君は?」
「アルフォンス・ヴァルノウ」
二人は握手をした。
「初陣はうまくいったか? アルフォン……長いから、アルでいいか?」
「いいよ。親しい人はみんなそう呼ぶ。少しばかり気がかりはあるが、うまくいった」
「気がかり?」
アルフォンスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……友達と戦う羽目になった」
「…………そうか。辛いな」
「でも覚悟はできている。アンネリーゼ様の無念を晴らすのだ」
「そのための宣戦布告だからな……」
「ああ」
イーヴォとアルフォンスは外に出ることにした。海風が冷たい。空母の隣には軍艦が集結していた。
今回の作戦で投入されたのはエウロパ・ポリスの全艦隊のうち3割にすぎないが、十分な戦力ではあった。隕石型兵器、ミーティアによる各都市の破壊作戦は概ね成功し、残るは補給基地の破壊が最優先であった。エウロパ・ポリスは、王女アンネリーゼ殺害をきっかけに地球へ宣戦布告した。
レイモンドはエレベーターを見つけると、その昇降路をおりていった。暗い昇降路は深くて底が見えない。レイモンドは開戦の日の事を追想した。
いつも通りの朝だった。レイモンドは制服に着替えた。
レイモンドは朝食を作り、熱いコーヒーを飲みながら、テレビを見た。今日の天気は晴れのち曇りだった。午後は雨が降るかもしれない。でも降水確率は低かった。
学校に向かう時間になった。鞄を持ってドアを開ける。
「行ってきます」
レイモンドは家を出た。
電車に乗り込むと、5駅先の学校の最寄り駅を目指した。同じ学校の制服も何人か混じっている。仲のいい友達はそこにはいなかった。宇宙出身者がこの学校には少ないからだとレイモンドは思っていた。エウロパ・ポリス出身の地球人、彼は少数派だった。
学校に着くと、教室へ向かった。机に座るとやけに人が少ないのに気づいた。レイモンドは思った。インフルエンザか? 彼はぼんやりと黒板を見た。何も書いてはいない。他の学生が教室のテレビを勝手につけた。そしてチャンネル6に合わせる。レイモンドは懐かしい顔を見た。アンだった。
アナウンサーがニュースを読む。
「アンネリーゼ王女はこれから各地を視察する予定であり……」
レイモンドが後で知ったことだが、学生の間でこの話は有名だったらしい。多くの学生はこの時間はテレビに張り付いているのだという。
先生が教室に入ってきた。
「誰だぁ? テレビつけた奴は」
授業が始まった。
学校は勉強するところなのだ。そうレイモンドは思うと、シャープペンでノートに今日の日付を書いた。先生はつらつらと説明を始めた。いつもの授業が始まった。特別、難しくも易しくもない内容だった。
五コマの授業が終わると、レイモンドは欠伸をした。レイモンドは帰り支度を整えると、教室を出た。最寄り駅に向かう途中で、何かが空で光っているのを見た。
「……何だ?」
そして轟音がした。ヘリコプターの音より大きい。何かが空から降ってくる、レイモンドはそう予感した。
爆発と爆風で彼は吹き飛ばされた。
レイモンドは気が付くと、道端で倒れていた。起き上がると、辺りを見回した。近くには瓦礫が散らばっていた。遠くのビルは倒れそうだった。レイモンドは混乱の中で、冷静になろうとした。状況を確認した。
幸い、怪我はしていなかった。地震と似たような状況だなとレイモンドは思った。携帯端末は壊れていないようだった。電波が届く。レイモンドは一時避難場所まで歩くことにした。レイモンドは未だに何が起こったのかは分からなかった。またしても頭上から轟音がした。レイモンドは空を見上げた。人型の何かが上空から降りてきた。レイモンドはそれに見覚えがあった。エウロパ・ポリス軍のガンナーだった。どうしてここに? などとレイモンドの頭の中は混乱したが、はっきりと答えが出た。
「これは戦争なのか?」
レイモンドははっきりと今の状況を認識した。
レイモンドは携帯端末から木星圏通信チャンネルを開いた。
「救助を求める。こちらはレイモンド・ヴィンソン。木星人です」
携帯端末から返事が来た。
「何? 木星人だと? 木星圏から逃れた者等は必要ない」
と相手は言った。断られながらもレイモンドは続けた。
「お願いです。本当に頼みます」
相手は少し考えてから、言った。
「よし、助けてやる。今降りるから待っていろ」
ガンナーのコックピットが開いた。パイロットが降りてくると、レイモンドは豹変した。レイモンドは当て身をすると、相手の銃を奪った。
「何をする? お前!」
レイモンドは構わず発砲した。銃声が辺りに響いた。
「このガンナー借ります。悪しからず」
そう言ってレイモンドはエウロパ・ポリスのガンナーに乗り込んだ。コックピットに入るのは何年ぶりだろうかとレイモンドは思い返した。子どもの頃に何回も乗ったガンナーは少しも変わっていなかった。レイモンドはエウロパ・ポリスではエリートパイロットだった。だが、そこで挫折して地球圏に移った。苦い記憶を噛み締めながら、レイモンドはガンナーを操縦した。
無線が入った。
「ナイト10、こちらカリウス。制圧は済んだか?」
レイモンドは答えた。
「こちらナイト・デケイド。制圧完了だ」
「ん? 機体ナンバーをもう一度頼む」
「こちらナイト10」
レイモンドは訂正した。うまく誤魔化せたようだ。レイモンドは頭上から、空母が降りてくるのを見た。
レイモンドは空母カリウスに着艦した。格納庫に向かうと整備員が、足元で騒ぎ始めた。ガンナーの整備員が叫んだ。
「銃器のロックをしろ! ロックだ!」
構わずレイモンドはガンナーを進めた。レイモンドは格納庫にある武器を探した。
「マシンガンか。これでいい」
レイモンドのガンナーはマシンガンを構えた。そして格納庫で手当たり次第に撃った。
すると整備員が警報を鳴らした。レイモンドは格納庫から出ると、ブリッジに向けて発砲した。ブリッジが破壊されると、空母はコントロールを失い、墜落していった。そこからレイモンドのガンナーは逃れた。
レイモンドは地球軍の通信チャンネルを開いた。
「こちらレイモンド・ヴィンソン。エウロパ・ポリスのガンナーを奪取して交戦中。増援求む」
「お前は何者だ?」
「学生です」
通信相手は驚いた。
「学生だって?」
レイモンドは自分の正体を明かした。
「俺は以前、エウロパ・ポリス軍に所属していました」
「敵軍じゃないか? お前は木星人なのか?」
レイモンドは少し考えてから言った。
「エウロパ・ポリスに帰る気はもうありません」
「わかった。増援を送る。位置情報を送れ。その場で待機していろ」
レイモンドはほっと息をついた。そして携帯端末で情報を収集した。どうやら、アンが原因でこんなことになっているらしい。
ニュースではアンネリーゼが行方不明となっていた。爆発テロがあったという。
レイモンドは思った。それにしたってこれはやりすぎだ。エウロパ・ポリスの軍は何を考えている? アンがこんなこと望むわけがない。
「カリウス、応答せよ。カリウス、応……」
どこからか通信が来た。通信の送り主は遠くにいるらしい。
「増援か?」
レイモンドは次に来る相手を予想した。ガンナー相手なら勝てる、しかしまた空母だったら勝てないかもしれない。こんなことが何回も成功するわけがないからだ。レイモンドはそこで立ち止まり、覚悟を決めた。
レイモンドは遠くから、空母がやってくるのを確認した。逃げるのはもう無駄だと悟った。
アンネリーゼは端末でエウロパ・ポリス大使館を検索した。ここから少し遠い山間部に大使館はあった。
そこへ行けば助けてもらえるかもしれない、とアンネリーゼは思った。
アンネリーゼは市街地から山間部を目指して歩き始めた。山の入り口へ来ると、彼女は車がやってくるのを待った。車がやってくると、アンネリーゼは車を停めさせた。道に飛び出したのだ。
ドライバーは叫んだ。
「危ないな! 何だ、アンタは?」
アンネリーゼはためらいながら答えた。
「……すみませんでした。……ここから乗せていってくれませんか?」
「どこだい?」
「エウロパ・ポリスの大使館です」
「あんた、木星人かい?」
「……そうです」
「こんな状況で、木星人と会ってしまうなんて不幸だな。まぁいい。乗せていってやるよ」
車内は煙草の匂いが充満していた。ラジオから最新のニュースが流れていた。
「――今日は予定を変更して、エウロパ・ポリス進軍のニュースをお伝えします」
ドライバーは言った。
「木星人が何で攻めてくるのだろうね? 我々は何もしてないのに」
アンネリーゼは俯いている。ドライバーは彼女の様子を見ながら続けた。
「まぁ、戦争なんてやめて欲しいよ、まったく」
ドライバーはハンドルをきりながら続けた。
「ちょっと、なじみの店に寄るけどいいかい? 紅茶が美味い店なんだ」
山道の先に一軒のログハウスがあった。ドライバーは停車した。
「あんたも一杯飲んでいきなよ。身体が温まるよ」
アンネリーゼとドライバーはログハウスに入った。木の匂いがした。
「いらっしゃい」
「紅茶を二つね」
「はい、かしこまりました」
店にはすでに二、三人の客がいた。各々、端末をいじったり、テレビを見たりしていた。テレビはチャンネル6、エウロパ・ポリス進軍の話題だ。
少しして店員がポットを運んできた。アンネリーゼがカップに紅茶を注ぐ。紅茶の香りが周りに立ち込めた。
「いい匂い……」
彼女はほっと息をついた。紅茶を飲むと身体が温まるのを感じた。
会計しようと立ち上がった。ポケットにはカードが一つだけだった。店員の顔を見る。店員は顔をしかめた。
「……ダメね」
アンネリーゼは店を手伝うことにした。腕をまくり、皿をスポンジで洗う。木星でもやったことぐらいある。全てをお手伝いさんにやってもらってばかりではなかった。
三時間ほど働いた。辺りはすっかり夜になっていた。
ドライバーが言った。
「これからエウロパ・ポリス大使館に行くかい?」
「ええ。そうします」
すると急に店の外が騒がしくなった。
アンネリーゼは言った。
「どうしたっていうの?」
扉が開くと、軍服を着た男が二人立っていた。そして男の一人が言った。
「アンネリーゼ・バルトだな。手荒な真似はしない。大人しくしていろ」
アンネリーゼは軍人に連行された。




