表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一億の雨に晒されて  作者: kkkk
11/11

Sequence11 一億の雨に晒されて

11

 歴史とは何だろうか? 彼女が歴史を改変した今となっては、この問いは無意味だ。彼女は荒ぶる世界を次々と麻酔していった。もともとそこにあった時間も、人々の関係も、記憶も上書きしていった。歴史改変が可能なったとき、我々は一度、立ち止まって考えてみる必要があったのかもしれないが。

 エウロパ軍の制服を身に纏ったレイモンドは、ガンナーのコックピットからエウロパ・ポリスを眺めている。この角度からでは、なかまで見通すことはできなかったが、いつものエウロパ・ポリスの日常が続いているはずだ。

 そこへ通信が入る。アルフォンスからだ。

「どうだい? 新型の調子は?」

「旧型より、だいぶいい」

 そう言ってレイモンドは星々の輝く宇宙を見た。

「あまり飛ばすなよ。テスト中だ」

「わかっているって、もう士官候補生じゃない」

 すべて、そう、すべてが変わっていた。アンネリーゼが地球に降り立つ、あの日はもう来ない。三人がともに歩く未来が確かに続いていた。無数の線の中から見出された、一本の線。ときに頼りなく、ときに力強く、それが、この現実だ。

「式はこれからか」

 レイモンドがつぶやくとアルフォンスが答えた。

「そうだね、あと三時間というところかな」

 アンネリーゼがエウロパ・ポリスの元首になるのだ。そしてレイモンドとアルフォンスは彼女の騎士となる。

「戻る」

「ああ、待ってる」

 レイモンドは通信を切る。息をつくと、つぶやいた。

「そこにいるのか?」

 何かが答えた。

「ええ。この世界はうまくいっている」

 少し前から、レイモンドにはそれがきこえていた。幻聴は精神の異常から、きこえるらしい。それは言った。

「私にできることはもう終わった。だから、あなたは、あなたの力をおさめて」

「分かってる、でも力があれば……」

 レイモンドには二つの記憶があった。兵士としての記憶と、いまの記憶。どうしてかはわからない。彼は特異点だった。それは言う。

「もう力は必要ない、だからあなたを解放してあげて」

 それは消えていった。頭に反響を残して。

 レイモンドは完全には狂っていなかった。現実の二つの顔を見せられていた。地獄のような時間と、光り輝くような時間。どちらを選ぶかは明白だろう。

 基地へ戻ると、式典用の制服を着た。鏡を前にすると、少し不思議だとレイモンドには感じられた。

 車で、会場へ赴く。

 レイモンドは思う。未来は明らかだ。こうして何もなく進んでくのだから。


 アンネリーゼの前には貴族や軍人たち、民衆が並んでいる。すべての人がアンネリーゼの言葉を今か今かと待っている。アンネリーゼが話し出そうとしたとき、軍人の列のなかから、男がとび出してきた。男は怨嗟の声を上げる。

「お前さえ、いなければ!」

 そして銃をアンネリーゼに向けた。銃口が滑りと光る。とっさにそれに気づいたのはレイモンドであった。レイモンドは彼がウィルヘルムだと見抜く。

 発砲音があたりに響くと、アンネリーゼの前にレイモンドが盾になり弾丸を防いだ。

「レイ!」

 悲鳴を上げるアンネリーゼ。

 すかさずアルフォンスが銃でウィルヘルムを撃った。ウィルヘルムが倒れる。アルフォンスがレイモンドの傍らに近づくと、レイモンドは死んでいた。

 アルフォンスは絶句して、空を見上げた。そして言った。

「アンネリーゼ様、雨が降ってきたようです……」

 そしてレイモンドへ、アンネリーゼが語りかける。

「雨が止みませんね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ