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四章 第7話 朝比奈尾道とのショッピング

  「着いた〜。尾道くん、待った?」


  「いや全然」


  待ち合わせ場所である駅前でそんな挨拶が交わされる。

  珍しく雨も降らず、梅雨は明けたように感じられるほどに日差しが照り付ける六月の休日。そんな日に夜空の誕生日プレゼントを買うべくこうして集まったのだ。

 

  「……何、固まってるんだ?」


  「いやなんかまた恨み言言うのかなーって」


  「は?」


  急に固まった春野に声を掛けたが、返答はどうも腑に落ちない。


  「忘れたとは言わせないよ。ほら前デートした時……」


  ぷくっと頬を膨らませながら抗議する春野。それがなんとなくおかしく思える。


  「大丈夫だ。覚えてる」


  「ホントかなあ〜?」


  「俺も成長するってことだ。ほら行くぞ」


  この会話もそこそこにして目的地である、前にも行ったショッピングモールに向けて歩き出す。ご飯は既に食べてきた。まあこれも成長の一つかもしれない。

 

  「誕生日プレゼントって何買えばいいかなー」


  その道中、独り言のように春野は呟く。だが視線は俺に向いているので意見を求めているのだろう。しかしね。


  「誕生日プレゼントを親にしか貰ったことのない俺に聞くな」


  「うっ……ごめん」


  「言った俺も悪いが謝らないでくれ……。心が痛む」


  「ああ、ごめん!」


  「いや、謝ってるから。超謝ってるから」


  学習能力がないのかなと思ってしまうし、学校でそんな感じなら反感買わないか心配だよ……。

  そんな心配をよそに春野はけろっとした風に話しかけてく。


  「でさでさ、何がいいと思う?」


  「だからプレゼントされたことは……」


  「でもプレゼントしたことはあるんでしょ?」


  パッと春野の顔を見る。口元は笑ってるが目が死んでる。……これ、知ってるパターンね。


  「まあ、たまたまだ、たまたま。流れってやつだよ」


  「言い訳は聞いてないんだけど?」


  きっ、と目線が鋭くなる。怖いよお……。俺が全面的に悪いけどさあ。そんなに嫉妬深くなくていいじゃん……。


  「分かったから睨むの止めてください」


  「いや〜だってさ。何も言ってないのに言い訳するから」


  「目が全てを語ってるんだよ。それであれだ。贈ったのはコーヒーカップだ」


  「コーヒーカップね。じゃあそれ除外で決めようか」


  「あ、ああ」

 

  てか今思うとこの会話いらねぇな。結局決まったことといえば「コーヒーカップは選ばない」ってことだけだし。

  だからこの会話は春野の詮索の意図とそれに対する許しが包含されている可能性が高い。さて俺の回答は彼女のお眼鏡に敵っただろうか。

  春野の表情を見ようとするが、何かを探すように周りを見渡しているので窺い知れなかった。代わりに訊く。


  「どうかしたか?」


  「いや、誰もいないかなーって」


  誰かいるか困るのか? そんなことを口から出かけるが丁度、目的地に着いたのとその理由は聞かなくても分かる気もして口を閉じる。


  「着いた!」


  「さっさと入ろうぜ。今日はあちーし」


  手をパタパタさせながら言う。なるべく軽装で来たつもりだが、初夏にそれなりの距離を歩くというのはやはり骨が折れる。額に汗をかいている。

  春野はというとTシャツの襟の部分をパタパタして中に風を送ろうとしている。胸元がちらちらと見えてしまう。

  俺はそれを見て、すぐに顔を背ける。いやめっちゃ無用心だろ、これ。それか女子特有の小悪魔的あざとさのどっちかだな。


  「今見たでしょ」


  どうやら後者の方だったみたいだ。春野は得意気に笑いかける。罠に嵌めた訳か。ちっ、これはウザイな。


  「別に見てない」


  「って言いながら見たね」


  なんでわかるんだよ。エスパーなの? 俺はエスパーから告白受けたの?


  「はいはい。見ましたよ、その豊満な胸を見ましたよ」


  「えっ、ちょっ、あ、うん」


  言葉にならない声を上げながら、春野は顔を赤らめ俯く。新しい追い払い方だったが上手くいったみたいだ。

  だがその代わり少し年のいった男性が何事かをこちらをじっと見ている。子供の母親は子供の耳を塞ぎ、その場を離れる。ちょっと風当たり強すぎやしませんかねぇ……。


  「……それで見てたの?」


  「ちょっと調子乗った。悪いな」


  「そ、そっか」


  おずおずと訊いてきた春野だが、それきり黙ってしまう。軽く手で追い払ったつもりが、拳がみぞおちに直撃してしまった感覚と似ていた。

  その後の買い物もどうも要領の得ない答えが返ってきたり、時々話を聞いてなかったりしてリズムが狂わされる。

  正直困るな。俺はプレゼント選びは役立たずなので、春野をあてにしていたのだが全く頼りにならない。

  それに業を煮やし話題を変える。


  「あー。夜空の誕生日パーティーの時ってケーキ準備するか?」


  「えっ、あ、うん。そのつもり」


  「どっかで買うのか? 買うなら今日中に予約した方が」


  すると春野は思案顔になり顎に手をやる。


  「うーん。本当は手作りがいいけど……やっぱりクオリティは高い方がいいかな?」


  「夜空なら何でも喜ぶと思うぞ」


  「喜んでる姿、あんまり見たことないけど……」


  「それもそうか」


  その言葉に妙に納得する。そうなのだ。いつだって夜空は冷静で、感情を爆発させることはない。

  母親がいる前でも憎しみとかを必死に抑えている。それはそれでこの関係が異常であることを思い知らされる。


  「……じゃあ夜空を喜ばせるってのが誕生日パーティーの目標だな」


  「うん、そうだね。……夜空を喜ばそう! おー!」


  春野は腕を突き上げる。だがその表情に浮いたようなものは見えなかった。つまり言動が一致していないように感じられた。

  だがそこでやっと春野は気を取り直したようで訊いてくる。


  「それで夜空が欲しいものってなんだっけ?」


  「パソコンと参考書だな」


  「ふざけてるの?」


  それは俺と夜空、どっちを指しているのか。俺だとかなりショックだけど、多分俺なんだろうなー。


  「ふざけてない。質問を返しただけだ」


  「そうやって真面目に否定するとこがふざけてるんだよねぇ」


  うっ、と思わず唸る。はっきりいって図星だ。俺のことをよく分かっていらっしゃる。


  「まあいいや。これとかどう?」


  春野は適当に見繕って、店先のマネキンが着ている白いワンピースを指差す。


  「別に悪くないが、夜空に似合うか?」


  「だよねー」


  そう言って春野は指差していた腕を下ろす。その態度に違和感を覚える。


  「意外とあっさり引き下がるんだな」


  「そりゃあ二人で決めるんだから、意見合わせないといけないし、それに……」


  「それに?」


  「夜空ってセンスあるから、喜ぶハードルも高そうじゃん?」


  それは納得と思い、うんうんと頷く。

  前にプレゼントした時はあんまり深く考えなかったが、相手に喜んでもらうには相手の予想外を突かなければならない。となるとセンスを上回ること。それが第一条件だ。

  その条件が提示されてから俺たちは長考の時間に入った。ああでもない、こうでもないと言いながらどれが夜空の誕生日プレゼントに最適か選んでいく。時折、誕生日パーティーの段取りを話しながら。

  それがある程度まとまった所で、プレゼントも何個かに絞られる。


  「これかな?」


  「それだな。これがいい」


  その中でも特に俺らが気に入って、夜空も気に入ってくれそうなものをチョイスする。

  思っていたよりも値段の高いものを買おうとしているので、当初の予算からは超えてしまったが、納得できるものを買うのが最重要事項だ。財布の紐はあまり気にしないことにする。

  これを見て夜空はどんな表情をするだろうか。そんな密かな楽しみの元、()()をレジまで持っていく。

後書きも 七十続くと ネタ尽きる


明日野ともしび心の俳句(季語がないので川柳ですけど)です。ホントこの欄はこの一言に尽きます。

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