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三章 第19話 朝比奈尾道と彼女のデートの始まり

  先日の雨でほとんど桜は散ってしまった。春の風物詩の一つが、終わりを告げると一気に春感は薄まるもんだ。春感ってなんだ。

  まあとにかく春感が薄まると、一気に夏に向かって突き進む感じがしてくる。

  それを一番顕著に表しているのが気温である。桜は散れといえどもまだまだゴールデンウィークに突入したばかりだ。

  なのに今日のニュースによると六月下旬並みの暑さになるらしい。はっきり言って異常だ。


  でもまあ、気温はいいのだ。あれこれ言っても疲れるだけだし、そもそも今日は暑くなると聞いたので、軽装にだってしてきてそれなりに過ごしやすいし。

  許せないのは今日の待ち合わせ相手である環春野だ。思わず時計を見る。12時に駅前待ち合わせのはずが気づけば30分以上過ぎてしまっている。

  女子は遅刻するものだ。これはもはや一般常識だ。だがここまで遅れてられると、相手に一般常識がないのではと思ってしまう。

  そもそもデートに誘ったのは春野だろうが……。そんな行き場のない怒りがこみ上げてくる。

  ちなみに俺はしっかり10分前集合を守ってここに来ている。ぼっちは体面を気にしないから準備が早いのだ。(体面を気にしないからぼっちである可能性アリ)


  貧乏ゆすりをし始める。だがそうした瞬間、見知った顔が見える。環春野だ。

  黒いパーカーに桜色のミニスカート。足元には赤いスニーカーという風にまとめている。背中には華奢な春野には大きすぎるようなリュック。そうか。荷物の多さはデフォルトか。

  いつものストレートパーマではなく、ゆるゆわなパーマをかけていて、THE・女子という感じだった。

 

  「ごめん! 遅れた。もしかして待った?」


  春野は口では謝りながらも、態度では微塵もそんな感じを出さない。その手合わせはただのポーズですか、ええ。


  「待った。32分待たされた」


  「それなら良かっ……え?」


  俺の正直な反応に春野は明らかに困惑している。


  「『待ってないよ。ちょうど今来たところ』とか言うと思ったか?」


  春野はブンブンと首を縦に振る。ちっ、これが世の中に『女子は遅刻する』理論が広まった悪影響か。


  「俺は許せねぇ。待ってないと嘘つくことがどうしてモテる必須条件なんだ! 嘘つきは皆が嫌うくせに!」


  「めっちゃ怒ってるし! 別に優しい嘘はいいの。そんなのにカリカリしてるからあんまりモテないんだよ」


  「優しい嘘ってなんだよ……。嘘つきは泥棒の始まりって習わなかったのかよ……」

 

  春野の言葉に俺は思わず辟易してしまう。この世にはあまりにも矛盾が多すぎるよ……。

  世を儚んでいると、そこでふと気がつくことがあった。


  「そういや昼食は摂ったか?」


  「摂った!」


  元気よく春野が答える。その反応にイラッとする。


  「お前、昼食抜けば普通に間に合ったろ……」


  「あー、いやー、そうかもね……。と、とにかく尾道くんは摂った?」


  「いや、それが摂ってないんだよ」


  「そっか。じゃあどこ行く? ボウリング? 映画?」


  「ちょっと待て。この流れならどっか店入るのが先決だろ。だいたい、食わせる気ある?」

 

  最近は春野も俺に対する扱いが雑になった気がする。これが夜空イズムということか。うん。多分、違うな。


  「バレたか。えー。じゃあどこがいい?」


  「あそことかいいんじゃないか?」


  俺が指す先にあるのは本格的な中華料理店。お洒落な店が並ぶ中にガテン系が集まりそうな店がポツンとある。


  「えー。マイナス1点」


  「そうかバーディーか。褒めてくれてありがとよ」


  迷わずそちらに向かって歩き始める。だが左腕に力がかかる。


  「なんでゴルフの点数方式なの!? そうじゃくて加点方式の減点なのー!」


  「別にお前は食わないから大丈夫だろ。店に入るのが嫌なら待ってりゃいい。すぐ食べてくるから」


  「それデートじゃないよね!?」


  「男のワガママについていく。むしろそれがデートだろ?」


  「ひねくれてるなあ〜」


  とにかく俺は腹が減っていたので、スタスタと再び歩き始める。春野は諦めたのかそれに渋々、ついてくる。


  「っていうかなんでデートじゃないとダメなんだよ。遊びに行くのじゃダメなのか?」


  俺は店の扉を開けながら言う。


  「それは……だって不自然じゃない? 男子と女子が二人で歩くならそれはデートでしょ」


  「定義が独りよがりすぎる……」


  そんな会話を繰り広げながら、俺はさっさと店員に麻婆豆腐丼を大盛で頼む。

  あまりに考えずに入った割にはいい店だったらしく、春野は沈黙している。間もなくして注文した麻婆豆腐丼が届く。


  「うわー。辛そう」


  春野はそんな感嘆の声を上げる。


  「そうか?」


  真っ赤っかならそういう感想を抱いたかもしれないが、俺が頼んだ麻婆豆腐丼は赤というより焦茶色をしており、あんまり辛そうには見えない。


  「お前、もしかしてカレーは甘口?」


  「え、甘口だよ」


  「まじか……。あれ幼稚園児以外、需要ないと思ってた……」


  甘口が不味いという訳ではないが、それなりに年を取るとやはり刺激が欲しいものだ。


  「い、いや、うち、妹がまだ幼稚園児だし……」


  「そういえばそうか」


  一応納得はしたが、これで春野が辛いものダメな疑惑が晴れたわけではない。まあ、どうでもいいか。

  その疑惑に区切りをつけ、早速食べ始める。うん、旨いな。麻婆豆腐のとろみの部分がご飯ととてもマッチしている。今度、個人的にまた行こう。


  「ねぇ、一口ちょーだい」


  「出たよ……女子のお決まりだな。そういう風にプログラミングされてるの?」


  「違うし! なんか人が食べてると、おいしそうに見えるんだよね〜」


  「隣の芝は青く見えるってか」


  それってちょっとヤバくないか。人のモンが異常に美味しく見えるとか……。


  「とにかく一口ちょーだい」


  「はいはい」


  大盛を頼んでおいて良かった。少しくらい減っても問題ないだろう。

  春野は箸立てから箸を取り、早速手をつけようとする。そんな春野に声をかける。

 

  「てゆーか。意外だな。昼飯食って、これ食って太らないのか?」


  ピタリと春野は手を止める。おお、すげぇ。全く動かねぇ。


  「……なんでそんなこと言うの?」


  「は?」


  春野は箸を一旦、テーブルに置く。それから口を開く。


  「女子はね、こういうこと一番気にするの。だから自覚させないの」


  「分かりました……」


  春野の凄みに圧されて、丁寧語で応対する。

  俺の反応に満足したのか春野は俺の麻婆豆腐丼を取り皿に取る。……それもたくさん。

  しかしそれを満足げに食う春野を見て、どうでも良くなってしまった。


  「今さあ、体型の話してけどさあ。そ、その尾道くんは痩せてる人がこ、好み?」


  春野がおずおずと訊いてくる。質問の意図は分からないが、まあ適当に答えるか。


  「あー。別に太ってるかは気にしないけどな。モデル体型? あれは逆に見てて心配になる。あと胸小さいイメージあるし」


  「結局、そこなんだ……」


  春野はなんかため息をついている。

  いや、別に胸が大きい方がいいとかじゃなくてな、ただないよりはましでしょって話! なんで心の中で弁解してんだ! あと別に春野見てないからね!


  「それでさ、このあとどうする?」


  「あー……」


  そういやメールでは日時のやりとりをしただけで、具体的なことは何も決まっていない。


  「逆にどこ行きたいんだ?」

  俺ではこの手の話題は苦手なので、春野に一任することにする。


  「えっーと。映画でしょ、あーでもカラオケとかもいいなあ。あ、服もちょっと見たい!」


  「欲張りすぎじゃないか?」


  「だって折角だし……」


  「折角っていうか、このゴールデンウィーク中に誰かと行くんだろ? その時に一部、行けば……」


  まだゴールデンウィークは始まったばかりで春野なら友達も多そうだ。その人らと行けばいい。

 

  「誰かとは行くかもだけど……、詳しく決まってないし……。と、とにかく映画と買い物! これだけには行こう!」


  どうやら春野の中でこれからの行動を決めてしまったらしい。元々、自分で決めるつもりはなかったのでそれに異存はない。

  俺たちはさっさと店の会計を済ませ、街にくり出すことにする。

こんな青春を送っていたらどんなに素敵なことでしょう。(現役高校生の言葉)

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