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番外編2-2 環春野の初めてのメール

この話は二章第15話の後の話になります。第15話読了後に読むのを推奨しますが、読まなくても特に影響はありません。

  ピロンと携帯から音がなる。そこで俺は首をひねる。はて、俺にメールするやつなんているのだろうか。そもそも俺のアドレス教えたやついたっけ?

  そこで思い出す。あー、そういや春野と片桐と安達とアドレス交換したんだった。しかし俺はあんまり乗り気ではない、こういうのは。

  俺は家でゴロゴロすることを何よりも愛している。逆に言えば、その安寧の日々を侵すやつを何よりも憎んでいる。

  それの急先鋒であり、唯一の敵だったのが母親の定期的な学校行けオーラの醸造だった。少し前まではカフェ「三ツ星」でのブラックな強制労働があったが、今はない。その立場は学校という牢獄が取って代わったが。

 

  どれかは仕方ないのだ。あっちが立てば、こっちが立たずになるくらいなら、どっちかを選び取ってしまえばいいのだから。

  けどメールまでは聞いていない。正直なんで家にまで学校要素を持ってこないと駄目なのだ。公私混同を知らないの?

  ということでこのメールはスルーで。少し宿題が多いし、さっさと勉強やっちまうか。

  だがちょっと勉強を始めたところでまたメールが入る。くそ、邪魔だな。あんまり好きではないのだが、音楽をかけながらやるか。


  だが再生機器を用意していると、またピロンとメールが受信する音がする。なんだよ、しつけぇな……。明日でいいだろ。

  そう思った瞬間だった。ピロンという音が連続で鳴る。は!? 俺は慌ててスマホを見るとすごい量のメールが受信ボックスに届いていた。

  「な、なんだよ……これ……」

  午後八時だぞ、まだ。丑三つ時には早いだろ! ホラーだよお!だがそんな思いは虚しく、メールは送られ続ける。……仕方ない、怖いもの見たさで開くか。


  From.環春野

  ねぇ、球技大会の競技決めよ!

 

  そういや忘れていた。そもそもこいつと連絡先交換した理由がそれだった。これを無視したのは俺が悪いので、しっかりメールを返す。

  うーんと一旦、悩んでメールを打ち出す。


  To.朝比奈尾道

  適当に朝に投票させたら?


  よし。仕事完了。さて勉強と……。とその前に春野がどんなメールを今までに送ったのかふと気になり、メールを開く。


  From.環春野

  ねぇ、球技大会の競技決めよ!

  From.環春野

  ねぇ、球技大会の競技決めよ!

  From.環春野

  ねぇ、球技大会の競技決めよ!

  From.環春野

  ねぇ、球技大会の競技決めよ!

  From.環春野

  ねぇ、球技大会の競技決めよ!

 

  怖いというか、こいつ馬鹿なのかと思う。現代の最新機器で送れてないなんてことは、流石にないだろう。全く……と思いながら他のメールも開く、


  From.環春野

  決めようってばあ……

  From.環春野

  決めようよお……

  From.環春野

  キ……メ……ヨ……

  From.環春野

  ねぇ、決めようよ、ねぇねぇ

  From.環春野

  ねぇってば! ねぇねぇ……

  From.環春野

  メールに出なさい


  おいおい……。これはホラーというか犯罪臭がする。最後のメールなんて、ホントに春野が打ったのか疑うくらいの丁寧な言い方。それが怖さをさらに煽る。

  これは謝罪でも打っておくか。路上で背後から刺されても面白くない。


  To.朝比奈尾道

  その……悪かったな……。始めメール無視してて……。


  するとすぐにピロンと音が鳴る。メールを開くと


  From.環春野

  別に全然に気にしてないよ~(*^^*)


  いや、これ完全に気にしてただろ。謝罪した瞬間、メール打ってくるとかもはや謝罪を待っていたとしか思えない。打たれた笑顔の絵文字がさらに恐怖を煽る。


  From.環春野

  それで球技大会なんだけど……投票?


  それにしてもこいつメール打つの早いな。さっきのメールしてからほとんど経ってないのに、速攻で来たぞ……。

  俺はというとあんまり慣れてない、というかほとんど使ったことがないのでメールを打つにも拙い手付きだ。

  どうやら人というのは使わない部分は退化するし、使う部分は凄い早さで進化するものらしい。おいおい、間違ってるじゃねぇか、ダーウィン先生。


  To.朝比奈尾道

  ああ、なんかしたいことを挙げさせて、出た候補から多数決取らせたらいいだろ。


  From.環春野

  なんか……適当すぎない?(´・ω・`)


  From.朝比奈尾道

  適当じゃない。一番、後腐れが少ないし、批判が出ても民主制を盾にしやすい。


  こっちが候補絞っても批判が出るし、全任せは割とアリだと思う。それに多数決は最も手っ取り早く決議するのに向いている。時間がない中ならこれが一番いい方法だろう。

  まあ俺は多数決嫌いだけど。少数意見の尊重なんて嘘だ。ここではマジョリティしか意見が反映されない。永遠のマイノリティにとっては辛いものでしかない。


  From.環春野

  うーん(ー_ー;)。それが一番楽かもしれないけど、うちのクラス意見出させたら、何も出ないよ。


  To.朝比奈尾道

  めんどくさいなお前のクラス。そんなにめんどくさいなら、紙に書かせたらいいだろ。


  なんだよ、そのめんどくささ。で、あれだろ? なんか決まったりすると、俺らそんな選択してませんけど? みたいな顔すんだろ? 全くどんなやつがいるクラスなんだよ……。


  From.環春野

  自分忘れてるよ!Σ(゜Д゜)。副委員長なんだからもっと自覚持ってよね~


  って言われるがこうしたの俺じゃないしな……。というか全部、お前が委員長の職権を濫用したせいだろ、これ。あと俺は別にクラスの一員って感じしないな。

  続けて春野からメールが来る。

 

  From.環春野

  じゃあ紙に書かせる感じで。その紙は準備してくれる?


  めんどくさいとも思ったが、一旦無視した謝罪料だ。これくらいは思い、メールを打つ。


  To.朝比奈尾道

  わかった。人数分用意しとくよ。

 

  さて会話終了。これでやっと勉強できると机に向かうが、メールで興が削がれ結局は文庫本を読み出す。だがそうしてる間にまたピロンとメールが入る。

  なんだよ……と思いながらスマホを開くとまた春野からのメールをだった。


  From.環春野

  ねぇねぇ、今何してる?


  会話終わったんじゃないよかよ……。これは無視パターン、もしくは明日の朝気づいたフリパターンかと思ったが、さっきのメール連投が頭をよぎり、無視しがたい。

  はあ……とため息をつきながらメールを打つ。


  To.朝比奈尾道

  あ? 別に読書だよ。

 

  From.環春野

  へ~。何の本?


  めんどくさいな……。これは正直に答えはするが、話は広げないパターンでメール送るか。


  To.朝比奈尾道

  ラノベ


  本当は読んでいたのは映画原作となったハードボイルド小説だったのだが、ここは敢えて春野がわからなさそうな本のジャンルを言う。これで引いてくれれば……。


  From.環春野

  ラ……ラノベ……?(゜_゜;)なにそれぇ……。


  そういうパターンか。これは質問攻めでいくやつだな。……ったく女子高生って皆そうなの?


  To.朝比奈尾道

  お前は知らなくていい。


  最適解な答えだ。ラノベに詳しい女子高生というのはなんと言うか……幻滅する。これをわざわざ教えるのは下卑た趣味な感じさえするのだ。

  それに加え一方的にこっちからシャットアウトすることで追随を許さない。だがそれを軽々とついてくるのが環春野だった。


  From.環春野

  ラノベ? で調べたらなんかすごい可愛い女の子出て来たけど……(´д`|||)


  オーマイゴット……。調べてしまったか……。なんでこんなにスマホっていうのは便利なんだ。やはり人間というのはな、世俗を捨て、云々。

  っていうかなんで調べんだよ! 普通知らなくていいって言われたら自分に対して遠慮しているのだなとか、自分を思ってくれているとか思うだろうが!

  いつも読んでいるラノベのことを知られた背徳感から色んな思考が入り乱れていつまでも完結しない。これはどう返せばいいんだ?


  To.朝比奈尾道

  それはコアなやつだ。普通のラノベはなんというか……もっと普通だ。


  当然のように嘘をつく。むしろラノベはだいたいそうなんだが、春野はラノベを知らない。なら嘘をついてもあんまり被害はないだろう。

  くそっ、なんで正直にハードボイルドの小説読んでるって言わなかったんだ……。


  From.環春野

  じゃあさ! オススメなに?


  ぐぉ……きっつ。ラノベのオススメを女子に教えるとかなんか終わってる。もう人間としてヤバい。


  To.朝比奈尾道

  ラノベ界というのは大海だ……。お前はその海に迷ったとき、人に聞くか? それは無理だ。一つ間違えば、海のもずくと消えるのに悠長ではいけない。自分で舵を掴みとれ!


  なんかかっこいいことを言ってみるが、特に深い意味はない。これを簡単に訳すと「オススメ教えたくないから、知りたいなら自分で探せ! 責任は取らないけどね……」だ。


  From.環春野

  なんかかっこいい!Σ( ̄□ ̄;)。それでオススメは?


  あー……。こいつには俺の言ってることが理解できなかったか。もうこれはダメだな……。ならば方法は一つ。


  「寝るか……」

 

寝落ちしたことにしてしまえばいい。メールはその前に滅茶苦茶来る可能性があるが、寝てしまえばこっちのもんだ。

  とりあえずスマホの電源を切る。これでメールの音が鳴るのもシャットアウトできる。

  完璧とは正にこのことを言うに違いない。俺はそんな思いで眠りにつく。


  だが俺は知らなかった、というか予想できなかったのだ。俺が返信を怠ったばかりに、その夜に春野がラノベとはなんぞやということを周りにメールしたことを。

  当然ながら情報源は俺ということになり、翌日、俺が教室に入った時、なんというか空気感が一旦、死んだ。詳しく言うなら静まりかえった。

  そんな中、とてとてと俺に向かう姿がある。その姿はただ一言、「ごめん」と言ってすぐさま俺の元を通りすぎる。


  その表情は一瞬しか見えなかったが、顔を赤くしていた。……ったく恥ずかしいのはこっちだっつーの。ラノベ好きは意外にクリティカルなんだよな……。

  だが今のところは痛み分けだ。どちらも同様の恥ずかしさを抱いている。

  はあ……。メールなんて慣れないことするもんじゃないな。

この話は女子高生のメールの書き方が本当にわからなくてTwitterでアドバイスをもらったりしてどうにか書ききった感じです。

メールには絵文字のイメージがあったのですが、意外にそんなことはなくてだいたいが顔のマーク? を多用していたので、それにちょっと驚きました。(文字化けする可能性もあったのでそれは今回使いませんでした……)

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