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二章 第20話 朝比奈尾道は次なる戦略を立てる

  教室の窓の外には銀世界が広がっていて、どこを見ても一面、白。春は遠いどころか、来る気さえしない。寒さというと雪が降っているのだから当然、寒い。

  まるで俺だな……。ははは……。そんな薄ら寒い自虐が思いついてしまう。だけど仕方ない。この例えがハマりすぎるんだもん。

  俺の席の周りには誰もが歩道の氷を避けるように誰も近寄らない。うーん。これは70点かなあ……。

  まあ、こんな冷え冷えとした所にいるのは俺も萎える。それだけではなく、クラスメイトも気分が悪いだろう。だから俺が教室を出るのはWIN-WINということだろう。

  逆に言えば今の状況はLOSE-LOSE。どうでもいいですね、はい。帰ります。


  だがただの帰るのもあれだなと思う。今日は省エネで過ごしすぎた。おかけでエネルギーが未だに残っている。

  仕方ない、どこかで道草を食うか。そういや、テストも近いし、勉強するのもいいかもしれん。次のテストは不登校の遅れもあるし、早めに始めた方が得だろう。

 

  そう思い、勉強できる場所を考える。ファミレスは……論外だな。いや、ファミレスは別に悪くないんだよ? 安いし、そこそこ喰えるし。でも環境が劣悪すぎる。

  なんであんなにファミレスはリア充と暇をもて余した腐れ高校生が多いの? あそこは幸福と不幸の墓場だ。あそこには近づきたくない。そもそも誘ってくれる友達がいない。


  ということは静かな場所。図書館かカフェかな。図書館は悪くない。けど学校帰りによるには味気ないし、気づいたら本を読んでしまうので除外だな。図書館の魔力半端ない。

  残りの選択肢はカフェとなる。しかしこれも困ることがある。これは他の場所にも通ずることだが、俺は家から出なさすぎてそんなに店とかに明るくないのだ。

  本当に限られた選択肢だな……。よく逃避する人間に逃げ場がないとかもう本当に悲しすぎる。いつだって背水の陣だ。意地は見せないけど。


  カフェというと……ああ、「三ツ星」があったな。けどあそこには行けないな。あんな勝手にバイトを辞めたんだ。流成さんに会わせる顔がない。……夜空にも。

  仕方なく他を考える。となると家の近くの俺の唯一とも言えるいきつけのところかな。流石にここで冒険する気概はない。

 

  ということで地元のカフェにやってくる。店内には誰もおらず、手っ取り早く席を取ると俺はフロアの人に注文する。

 

  「ブラックのコーヒーのホットで」

 

  しばらくしてコーヒーがくる。地元といえど「いつもの」なんて言えない。俺はここのマスターもなんならバイトも覚えているが、相手は俺のこと知らない風味なんだよなあ。

  それはさておき勉強を始める。国英は前の課題テストでは比較的良かったのでノー勉だな。数学はできる気がしないので捨てで。社理は……そういや一式教室に置いてきちまったな。


  勉強終了。そもそも勉強を開始もしてないが。気づいたら国語の教科書の物語を読んでいた。あるよね、全く関係ないところ読むこむの。社会の資料集とか無駄知識多くて超楽しい。

  やっぱ人は危機感を持たないとやらねばならぬことをしないんだな。勉強は一夜漬けでヒィヒィ言いながらやるに限る。

  そもそも学生はどこか赤点さえ回避すればいいと思っている節がある。ということは赤点を回避できれば、後はやり込み要素だ。俺は留年確定なのでやり込む必要もないだろう。


  カランカランとカフェの入口の鈴がなる。……ああ、俺だけの静寂の時間が……。これで騒がしいリア充ならそいつらの顎外すぞ。最近は片桐の凶暴性がうつってきている。あいつの感染力パネェ。

  と思ったら入ってきたのは片桐だった。何、飛来してきたの?

 

  「ああ、なんだお前かよ……」

 

  片桐が俺に向かい、嫌そうな顔をしながら言う。それはこっちのセリフだ。片桐はそのまま俺の前に座る。いや、すげぇ嫌そうだったじゃん……。


  「なんでここなんだよ。席は空いてるぞ」


  「責任取ってもらうためだよ」


  責任……。そこ言葉が深くのしかかる。球技大会でのあの失態。しかも片桐の頑張りを全てふいにして、クラスメイト全員から非難囂々。

  あれは本当に悪かった。すみませんの一言しか出ない。けれどそういう謝罪をああいう場で言うことは禁じられてるも同然だ。そのあと言うことも憚られる。


  しかし片桐にはあのあと謝罪した。これが俺が免罪符を得るための自己満足だとしても言わなければならないと感じたのだ。

  だが片桐といったらすかしたように

 

  「まあ、今回はしゃあない。次、頑張ってもらうからな」


  それだけ言ってどこかへ消えていったのだ。それ以来、喋ったりしなかった。もともと仲がいいわけじゃないし。

 

  「紅茶とチーズケーキを一つ、あとワッフルも、……紅茶はアイスで」

 

  どうやら片桐も注文してるらしい。というかこいつ食うな……しかもちょっとオーダーがかわいい。なんか彼女みてぇだな。

 

  「この分はこいつにつけといてください」


  「は!? ちょっと待てよ。なんで奢りなんだよ。前は払ってくれたじゃん」

 

  「謝罪料。気持ちとしては足りないくらいだ」

 

  ちっ。俺の罪悪感を巧みに操りやがって、なんて思わない。

 

  「ならお前の相談は聞かないまでだ」


  これがカードの正しい切り方だ。カードの強さを視野に入れた上で交渉とはするものだ。お前は自分のカードの強さはわかってはいたが、俺のカードの強さまではわかってはいなかった。これがお前の敗因だ。

  ふふふと笑いながら優越感に浸る。やはり頭脳戦なら俺の方が上……。

 

  「ごちゃごちゃ言ってないで手伝え。てめえに拒否権はねぇ。殺すぞ」

 

  「あ、はい」


  思わず返事をしてしまう。……出たよ。交渉のテーブルをひっくり返すやつ。いつの時代の人間だよ。現代人らしく話し合おうぜ。

  だがそんなのお構い無しだ。片桐はこうしている間にもガンガン話を進める。

 

  「やっぱもっかいかっこいいところ見せるべきか……? いや、逆に親しみ安さを見せるのがいいのか……?」


  少なくともお前に親しみ安さなんて要素がそもそもない。どこに殺すぞと暴言を吐きながら愛されるやつがいるのか。そんなやつが好かれることより、好いてるやつの方がよっぽど問題だ。

 

  「お前、黙ってろ。モテない男子はモテようとしてるからモテねぇんだよ」

 

  思わずひどいことを口走ってしまうが、これも世の中の摂理なんだよなあ。

  すごい矛盾だとは思う。努力は報われるとはよく言うし、俺もそれには賛同している。けど全てじゃない。報われない努力。これの代表格こそが好かれるということだ。

  モテたいと思えば思うほどモテない。そして片桐はその絶頂にある。こんなやつモテるはずがない。普通にやってもモテないのに。

 

  「まあ、自然体でやれってことだ。だいたいモテようとすると、お前もテンパってうまく話せないだろ?」

 

  「むっ、まあ、そうだ。盛り上がる話題を作ろうとすると頭がフリーズしてどうもうまくいかん」

 

  どうやら俺の言は間違っていなかったらしい。正直、恋なんてしたことないので機微などわからないが、人の感情ならわかる。もちろんネガティブなものに限るが。

  なるほど。こうやって整理すると次するべきことがわかった気がする。つまり自然に何かできる環境を作る必要があるということだ。

  さてどうしたものかと思っていると

 

  「お前もう勉強してんのか? 気ぃ早いな。テスト二週間前だぞ、馬鹿なのか?」

 

  なぜ勉強してるのに馬鹿と言われるいわれがあるのか。いらっとして咄嗟に言い返す。

 

  「勉強に早いはねぇんだよ。お前もちゃんと勉強しろよ。安達と同じ学年に上がれないぜ」


  「……がっ」

 

  声とも音ともつかない何かを発しながら、先ほどオーダーしたアイスティーを溢す。

 

  「あ、おい。……すいませーん、台ふき下さい」


  なんで俺がフォローしないといけないんだと思いながらも、コーヒーの侵略を防ぐために呼ばなければならない。

 

  「何すんだよ、お前」

 

  台ふきでコーヒーのこぼれを拭き取りながら片桐にいらだった声をかける。


  「くそ、盲点だったぜ……。次、一つでも赤点取ったら留年だった……」

 

  「はあ!?」

 

  本当にびっくりした。ちゃんと学校行ってるやつが留年になんてなることに。お前、どんだけ馬鹿なの? 留年なんて出席日数が足りないとかが主な理由だろ。出席日数が足りてて留年は……ダサい。幻滅するに決まっている。

 

  「危機感、ちゃんと持てよ! このままじゃ土俵に上がれないぞ」

 

  「ぐっ、くぅ……」


  どうやら効いている。やる気を出してくれるなら俺はガンガン煽るぞ。

 

  「勉強ができるからって理由でモテることはないが、勉強ができない馬鹿は論外だ。ここは意地を見せてでも勉強するべきだ」

 

  「くそ、なんでこんなに女子は無情なんだ……。ああ、でも……この遅れは……」

 

  どうやら勉強が遅れていることが不安らしい。二週間でもこの遅れを取り戻すのはかなり厳しい。それに加え、教えられる人がいない。

  春野はこいつと似たり寄ったりだろうし、俺も地頭はこいつらよりいいが、ブランクもある。到底、教えられない。

  そもそも教えたくない。万が一、俺よりいい点取ってなめた口でも聞かれたものなら、片桐の顔を安達に嫌われるように変形させてしまう自信がある。

  ここでいい案が思い付いた。片桐も俺も得する方策が。

 

  「なあ、安達って勉強できんのか?」


  「ん? あー、できるぞ。前の期末では学年六位で学級一位。五教科六科目で合計551点だった。特にな……」

 

  えっ、なんでこいつこんなに知ってんの? ちょっとストーカーぽくて怖いんだけど……。怖さの二刀流を使いこなすとは最早、魔王だな。

  だがこれなら最低条件は揃った。それにしても安達、運動ができるのは知ってたが、勉強もできるのか。ホントあいつみたい……。

 

  「それならどうにかして安達を入れて勉強会しようぜ」

 

  「そんな上手くいくか?」


  いく。頭がいいほどそういう勉強を群れでやるのは避けるものだが、こちらにはそれなりに使えるカードがある。

 

  「最悪、春野にどうにか頼み込むよ。あいつにも恩恵があるし、どうにかしてくれんだろ」

 

  あとメールの返し超早いから連絡もしやすい。というかほぼノータイムで来る。AIかと一瞬疑うレベル。

  しかしこれは我ながら優れた策だな。

  片桐は安達に勉強を習いながら、自然に話すことができ、赤点回避の活力にもなる。春野も同様に点数が取れるようになる。

  そして俺もまた学年トップクラスから勉強を教わることができる。これは今回のテスト勝ち確定だな。それに加え片桐が言う責任もどうにかなる

  ここでデメリットを受けるのは安達だが、まあ、他の人に比べるとあんまり問題が深刻でもないし、我慢してもらおう。


  やばい。これは最高すぎる。負けが見えねぇな。負けがあるのかは知らんが。はははははは。

  やっぱり帰宅最中は道草を食うもんだな!


この部分でこの作品が10万字を超えました。やっとここまでこれたか……と少し満足感があります。

そして私事ですがある文学賞の規定に達したので、明日野ともしび名義で初めて応募しようとも思っています。

何でも積み重ねが大事なんですね……。

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