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二章 第11話 片桐景介は恐喝する

  「おい」

 

  高圧的で攻撃的な声が後ろからかかる。ついで俺の椅子に向かって蹴りも入れて、少し揺れる。

  俺は実際どのくらい嫌われているかはわからないが、少なくとも好かれるタイプではないことはわかっている。だけど登校初日で見知らぬ人からこんな扱いを受けるのは全く想像していなかった。それには少し不機嫌になる。

 

  「なんだよ」

 

  後ろを向きながらそう言う。少し心中が漏れでて、後ろの人間と同じように威圧感になってしまった。

  だが俺はそんな声を発したのを後悔する。

  後ろの人間はとてもガタイがよく、見るからに強靭そうな男子生徒。不登校ライフで筋力を失った俺では一捻りでやられるだろう。

  髪は明るい茶色で見るからに染めている。しかも襟足も伸ばして、制服は校則で規定されてるものを軽く逸脱するほど着崩れていた。

  先ほどの安達すみれはファッションのためにそうしてる感じだったが、こっちは違う。明らかにヤンキーで周りに威圧をばら蒔くためこうしてるとしか思えない。


  「……」


  俺の問いかけには何も答えず、むすっとしたままだ。

  こうして見ると意外にヤンキーではないのかもしれない。心は優しいタイプか。

  まあ考えてみればそうだ。テストだってちゃんと受けてたし、春野から聞く限り問題がないとも言っていた。つまり学校もサボることもそんなに多くないのかもしれない。

  なら可愛いもんだ。学校休みまくってバイトしてる俺の方がよっぽど不良ぽい。するとこの男子生徒は舐められないために強がっているのかもしれない。ふふ、これは俺が勝ったな。


  「なんだよ、何か言えよ」

 

  俺が強気に言う。相手は沈黙を貫き通していたがやっとその重い口を開く。

 

  「やけに偉そうだな、殺すぞ、コラ」

 

  始めはこれも強さを誇るためだと思ったが、目を見るとその予想は粉々に打ち砕かれた。異様に殺気だって俺を眺めていた。それは端から見れば、蛇に睨まれる鼠だっただろう。

 

  「い、いや止めてくれないかな、その目……」


  さっきの強気はどこへ行ってしまったのか。自分でも不思議なくらいに弱腰になっている。殺すって言われたから怖いなんてことは決してない。決してないはずなんだ……。

 

  「ちっ、なんでお前なんかが……」

 

  「は? どういうことだ?」

 

  なんかいろいろ言ってたが、結局何が言いたいのかわからない。正直、怖……めんどくさいのでとっと会話を終わらせたいが、気をつけないと機嫌を損ね、海に沈められそうで怖い……。ジョークじゃ済まなさそうなのが、恐怖六割増しにする。

 

  「お前が……なんで安達さんと喋ってるんだよってことだよ」

 

  多分、こいつから見たら俺はさぞかし間抜けなツラをしていたことだろう。いや、だって。

 

  「それの何が駄目なんだよ」

 

  俺も無闇に女子に話しかけて「キモッ」みたいな顔はされたことがあるので、そこから自分から話しかけるのはやめた。そうすればとりあえず安全だしな。

  だがそれを他人に咎められるのは初めてだ。しかもこんなに待遇が悪いのも不思議だ。俺から話しかけたんじゃないのに……。この世は理不尽だなあ。


  しかし少し考えれば、その意味するところがわかった。なので俺はそれを口に出してやる。

  「あっ、ふ~ん。なるほどな。まあせいぜい頑張れよ」

  そう言って肩を叩いてやる。これは純粋な応援だ。リア充はムカつくのでなってほしくないが、告るだけなら応援してやらんこともない。そしてこっぴどくフラれてほしい。

 

  「テメェ、何納得してんだ……ぶちのめすぞ」


  いちいちこいつが言う言葉は怖いんだよ……。強い言葉使うと弱く見えるぞって漫画で見なかったかなあ……。でも弱くは見えるが中々、怖い。

 

  「いや、だってそういうことだろ? 俺はお前を応援しないほど血が通ってないことはないぜ」

 

  フラれることを応援をしているがね。いやーホント日本語って便利。

 

  「あー……、くっそいらいらしてきた」

 

  まあそうだろうな。自分のチャンスを潰さないために俺に吹っ掛けてきたんだろうが、逆に気持ちを見破られる。こんなに恥ずかしいこともないだろう。悪いな、敏感で。


  「何も恥じることはない。恋というのはある意味本能だ。人間なら恋をしてピーとかピーしたいって考えてもおかしくない」

 

  「お前はおかしいけどな。なんだよ、ピーとかピーって馬鹿か?」

 

  いや、どう見てもお前の方が馬鹿っぽいだろ。だから強い言葉を(ry

 

「そういうお前はどうなんだよ」

 

  茶髪男はニヤニヤ笑いながら訊いてくる。多分、俺の失言を待っているのだろうがそうはいかない。


  「悪いな。俺は誰にも好かれねぇからそういう希望は絶ってんだよ」

 

  すると茶髪男は急に真顔になりフリーズする。なんだよ……気持ちわりぃな。

 

  「ああ、なるほど。お前も可哀想なやつだな。同情するぜ」

 

  何故か同情された……。誰が欲しいんだよ、こんな同情……。

 

  「なんか少し気に入ったわ。お前、名前は?」


  「お前に名乗る名前はねぇ」

 

  急に名前を訊かれると、人は名乗らないものらしい。時代劇でよく見るあのやりとりも大分、慎重にやってるだろうな。

 

  「じゃあ俺から名乗るわ。俺は片桐景介。よろしくな」

 

  そうして周りの高校生男子と比べて大きな手を出してくる。この流れなら手を差す出すしかないのか……。

  そう思い渋々、握手する。……なんかこういうの初めてだな。


  「はあ……朝比奈尾道だ」

 

  渋々、名前を名乗る。すると片桐はニカッと笑う。なんだこれ。悪そうなやつは意外にいいやつとか映画版だけめっちゃ頼りになるとかそういうの?

 

  「そうだ。今日の放課後とか暇?」

 

  やけに積極的だな。なんか友達みたいじゃねぇか。こいつは友達だと強気になるタイプでもあるのか。

 

  「今日の放課後か……」

 

  暇だな。生徒会会議? は明日だし。だが暇だからといってほいほいついていくほど俺も尻軽じゃない。だいたい誘いってのは断るのが筋だ(持論)。

 

  「あー暇じゃねぇなー。まじ忙しいわ」

 

  「本当に忙しいやつは忙しいなんて言わねぇよ。お前、暇だろ? あ?」


  最後の「あ?」がまじで怖い。これあれじゃねぇか。遊びの誘いだ、わーいなんていってついていったらボコボコにされて身ぐるみ剥がされるパターンだ。

  しかもそこで弱み握られて、そいつらの子分になるのまで見えている。俺の想像力と危機回避能力が高すぎでやばい。


  「いや、まじで忙しいんすよ……」


  「いやいや、そんなことないだろ?」


  敬語で言ったのに一歩も引いてくれない。やばい。このままじゃ押しきられる。しかもヤンキーっぽい人の押しは強くて怖い。ホントに怖い……。どうしたらいいだろうと思っていると


  「朝比奈くん」

 

  後ろから優しい声がかかる。何? 俺、不登校から明けた方が待遇いいな。これが不登校補正ってやつか……。

  これぞ話をうやむやにする天恵! と思い、後ろを振り向く。しかし俺はその瞬間、後悔することになる。……というか俺、後ろ向くと後悔するパターン最近、多くね?

  そのには吉野深雪先生が立っていた。不服そうに仁王立ちしていて捻られそうだ、主に首を。

 

  「あ、なんすか……?」

 

  すると不満そうな顔から一転、急に笑顔になり


  「今日の放課後、職員室に来なさい」


  そうとだけ言ってすたすたとどこかへ行く。ふえぇ怖いよお。今日は恐怖がいっぱいだよお。

  ていうか説教される心当たりはあるけど、こんな始めから威圧する?


  多分こうやって不登校を咎められるとは思っていたがこのタイミングで言い出すのは予想外だった。すげぇブルーだ。

  助けを求めるように片桐の方を見てみると完全に少し苦笑いしながらフリーズしている。

 

  「片桐、ということで今日は無理だ……」

 

  「お、おう、そうだな……。その、死ぬなよ?」

 

  こいつはなんで死ねとか汚い言葉使うのにこういう時だけ優しいんだよ。もうそれすら怖い……。怖い怖い怖い、帰りたーい!

新キャラその2(順番的にはその3かもしれない)が登場しましたが学校編では第二の主人公になるかもしれません。2に愛されてますね。

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