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二章 第10話 安達すみれは気にかける

  始業式は中々につまらないものだった。しかしこれは始業式のせいじゃない。そもそも式自体がつまらないのだ。何も恥じることはない。誰を励ましているかは謎だ。

  式典というのは結局、権力の誇示なのだ。つまりする側に意味はあってもそれをされる側に意味はない。少なくもと生徒らにやる意味はない。ならこの式は誰がために?

  欺瞞が蔓延る式典に用はない。こんなものをいちいちやる学校はやっぱり糞だ。すげえ帰りたい。

 

  といつもなら思うし、現にそう思っているのだが少し心持ちは違う。カフェ「三ツ星」という居場所を犠牲にしてここにいるのだ。少しは何か吸収しないと夜空と流成さんに悪い。

  そんな気持ちで聞いたのだが、やっぱりつまらないものはつまらない。これはあれだな。つまらない時の対処法を学んでいるのだ。絶対、欲しくないスキルたけど。

  そんなことを考えていると、目が覚めるなんてことはなく、むしろ朝食抜きの影響で眠くなっていく。これが式典の魔力か……。

  うとうとしていると起立、というかけ声がかかる。やっと暇な式が終わったみたいで、それに少なからず嬉しさを覚えてしまう。

  始業式も終わり、一段落といった所か。そう思い教室でふぅーと息をついていると

 

  「やあやあ、君が朝比奈尾道くんかな?」

 

  見知らぬ女子生徒が話かけてくる。俺はこの学校の生徒は春野以外知らないので、見知らなくて当然ではあるのだが。

  それにしてもこの女子生徒はかなり個性的だった。ちょっとオブラートに包みすぎたな。派手派手しくていかにも華美という感じだった。

  背中にかかる髪は金髪に染め上げ、制服もかなり着崩している。メイクも周りの女子生徒と比べてもかなり濃く、見るからにケバ……派手だった。

 

  「そうだが、それがどうした?」

 

  そんな彼女が俺に話しかけてくる訳がわからない。ニートで不登校で引きこもりでぼっちの俺だぜ。話しかけてくるのは人外程度だろうと思っていた。


  「これよろしく」

 

  そう言って一枚の紙を俺の目の前に差し出す。何かと思い、それを取り上げる。

 

  「生徒会会議?」


  そのまま一番上の文章を読み上げる。

 

  「俺は生徒会入ってないぞ」

 

  「知ってるよ。あたし、生徒会だけど君が当選した覚えはないし」

 

  女子生徒はにこりと笑う。なにこれ、俺に対する皮肉? 登校初日から強烈すぎやしませんかね。


  「……説明をもっとください」

 

  俺が懇切丁寧に訊くとやっとのこと話し始める。


  「君ってこのクラスの副委員長だから……」

 

  「は? ちょっ、ちょっと待て」

 

  女子生徒は不思議そうに首を傾げる。逆に何が不思議なのかよくわからん。とりあえずなぜ俺が副委員長なのかが不思議だ。

 

  「なんで俺が副委員長なんだよ……」

 

  「ああ、それね。副委員長なんて誰もやりたくないでしょ、めんどくさそうだし。だから不登校の君に押し付けたの半分。あとは委員長様直々の推薦かな」

 

  委員長様……? 誰かと思うが、春野が学級委員長だと前に言っていたことを思い出す。


  「あいつ……」

  思わず悪態をつく。俺を何だと思ってるんだ、この野郎。

 

  「代理でやらされてたあたしの身にもなって欲しいところだけどね……」

 

  女子生徒は苦笑いをする。


  「それは悪かったな。で、これは何?」

 

  「生徒会、各部部長、学級委員長、副委員長が集まってディスカッションみたいな感じ」

 

  「具体性0すぎんだろ……」


  正直、何がしたいのか完全に意味不明だぞ。


  「それが明日の放課後にあるからよろしくってこと。詳しくは紙見て」


  「はあ……」

 

  曖昧な返事をする。その反応を見るや女子生徒はにこりと笑って

 

  「はい、じゃあこれで堅苦しい話終わり。実は君には前々から興味あったんだよね~」

 

  そう言って俺の前の席に座る。やめてくれ。しかもその発言。ちょっとドキドキするだろうが。

 

  「俺なんてつまらないぞ。家ではゲームしかしてない」

 

  「うっわ、それはつまんないね」

 

  納得しちゃったよ。俺のこいつに対する好感度が一気に下がったわ。


  「なんだ~。春野ちゃんの彼氏さんだからもっと面白いと思ったんだけどなあ~」

 

  今、聞き捨てならんことを言ったぞ。

 

  「誰が彼氏だ。あいつとは中学校の時、クラス同じなだけだぞ」

 

  「あっ、ふーん。そうかそうか。そういうパターンね」


  何に納得してんのかよくわからんが、とにかく誤解は解けたようだ。その代わり新たな誤解を生んだ気はする。


  「春野ちゃんから噂はかねがね聞いてるよ。優しいってね」


  それは心外だし、正しくない。訂正してやる。

 

「優しいのは俺じゃなく、あいつだ。それくらいわかるだろ」


  「うん、わかってる。あたし直接、人を見て判断する派だから。君が優しいっていうのも少なくとも今は信用してないよ」


  ほお、中々辛辣だと思う。今はSNSとかで噂こそが判断価値の一つであるのに、この言葉はそれを真っ向から対立するものだ。いいね。俺好みの答えだ。


  「まあ、優しいって評価はまだつけられないけど、言うほど悪い人じゃなさそうだね」

 

  「そうか?」

 

  俺は大分、悪そうだと思うぜ。不登校ってだけで印象悪いのに、中学時代には俺がやらかしたってことになっている。きっとその噂はこの高校でも広まっているんだろう。

  だから俺は彼女がそんなことを言うのは信じられなかった。

 

  「じゃああたしはこのくらいで」


  そう言って離れようとする女子生徒。そういえば


  「名前なんて言うんだ?」

 

  「ええ~、ナンパ? 彼女がいるのに感心しないぞ」

 

  「だから彼女じゃねぇし……」


  むしろ俺をストーカー扱いするやつの方が多いと思っていたが、彼女がこんなことを言うということは春野はちゃんと俺の誤解を解いてくれたらしい。……そんなことしなくてもよかったんだけどな。

 

  「あたしの名前は安達すみれ。これからよろしくね」

 

  「ああ」


  安達すみれは名前を名乗るとふらふらとどこかへ行ってしまう。

 俺がそれを目で追うとその先に春野を見つける。

  春野は目を合わせると凄い目で俺を睨んでくる。春野はたまに訳がわからん……。


  ちょっと時間が経つと吉野先生が教室に入ってくる。

 

  「はい、じゃあ今からテストするよ~」


  「は!?」

 

  思わず声が漏れでる。これはもしや長期休み明けテストというやつか。くそ、予想外すぎた。学校については情弱すぎてやばい。

 

  そのあとのテストはぼろぼろだった。国語と英語はフィーリングで乗り切ったが社会、理科の暗記系は壊滅的だし、数学に至っては公式を覚えていないので一つも解けなかった。

  学校って不意討ち上手すぎだろ。当日にテストするの伝えたり、体育で長距離走やらすとかバイオレンスすぎる。

  勉学の遅れはかなり深刻だな……。これからに不安を覚えているところに

 

  「おい」

 

  やたらと高圧的で攻撃的な一声が後ろから降りかかってきた。

やっと学校編がスタートしたということで新キャラが続々と登場します! この回では安達すみれにスポットが当たってます。この子がどうなるかは楽しみにしていてください!

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