二章 第4話 星合夜空は庶民派?
12月24日。今日はクリスマスイブで街の人々はそれに浮き足立っているように見える。街もいつもより騒々しく、イルミネーションのおかげで街の景色の一つ一つが光を帯びている。
こんな日はリア充もいるし、子供連れの家族もいるし、仲のいい友人連中がつるんでたりもしている。一見、一人一人が全く違う個性を発揮しているように見えるが、幸せそうな雰囲気を醸し出してる点でも個性も糞もありはしない。全く忌々しい。
このきゃぴきゃぴとした群れを見ていると怒りが沸いてくる。俺は一人寂しく、この冬の寒空のなか待ち合わせしているというのに。
ならどうしてこんな所をほっつき歩いているんだ。とっとと家に帰れという意見があるだろう。全くその通りで、素晴らしい帰巣本能を持った提言者に称賛を贈りたいくらいだ。
しかし今から俺はその在宅の師の言葉を破らねばならない。その理由はまあ、カフェ「三ツ星」の仕事だ。
それにしても……あいつ遅くねぇか……? もう待ち合わせの時間から1時間もたっているんだが。
女性は遅く来るのが当然だと聞いたのでちょっとくらい遅れるのは織り込み済みだったが、もうここまで遅れると女性がどうとかじゃなく、あいつだから遅いだけだ。傍若無人すぎるだろ……。
幸福に満ち溢れた者を見せられるのとあいつがあまりに遅いのと冬の寒さで怒りはピークに達しており、不幸そうな雰囲気をばら蒔いていただろう。ははは、それでいい。皆、不幸になっちまえ。
「何、辛気くさい顔をしているの? 幸福が逃げていくわよ」
やっとか。声がかけられた後ろをゆっくりと見る。そこには進んで言いたくはないが美少女が立っていた。星合夜空だ。
夜空はいつものカフェの制服姿とは当然のことながらまるで違い、上にはダッフルコートを着込み、下はフレアスカート、長い白髪は一つに結び、その上にニット帽を被っていて、いかにも冬らしい格好だ。
「三分の一は、というかほとんどお前のせいなんだけどな」
そう嫌味を言ってやる。遅れたというのに髪一つ乱れていない。これはもう分かってて、遅刻したな。
「準備は二時間前には始めたわ。でもテレビで面白そうな番組をやっていたから見いってしまったわ。あなたの約束は覚えていたけれど」
いつも通りの毒舌。遅刻しても反省を見せたりしないのも、女王らしい。だがおやっ、と思う。
「お前ってテレビ結構、見るのか?」
テレビは誰だって見るから、この質問はおかしいかもしれないが、夜空に限ってはあんまりそのイメージがなく意外に思った。
「……み、見るわよ」
おや、何だ。この不自然な空白は。しかも言い詰まってるし。これはダウトだろう。まさか……。
「お前、まさか方向……」
「行きましょう。時間があまりないし」
時間がないのもお前のせいなんすけどね……。まあ、意外な弱点を見つけたのでよしとしよう。
クリスマスの雑踏を二人で歩く。見方によっちゃあ、そんな関係に見えるかもしれない。いや、この距離感と二人の表情を見ればそうでないのは一目瞭然か。
だが一瞬でもそう見えてしまうのは心外だ。本当ならこんなことは避けたかった。にも関わらず、こうなったのはあの能天気な店長のせいだ。
話は遡って一週間前。
「12月25日にこのカフェでクリスマスイベントをしようと思うんだ」
「はあ……」
突然の星合流成さんの提案に俺は曖昧な返事しかできない。
「で、どんなことやるんすか?」
「まあその日は期間限定で料理でも振る舞おうかなっていうのを考えてる」
「……」
別にそれ自体は嫌ではないし、大体、この店の最高責任者はこの流成さんだ。俺が意見を言っても、あまり意味はないだろう。
しかし返事を渋るのには理由がある。なんとなく面倒事の予感がするからだ。ここで仕事をするのはギリギリのギリでセーフでも、これ以上私生活を崩されるとニートの禁断症状を発症し、やがて発狂するだろう。
この黙るという判断は結果的に裏目に出た。どうやら肯定したと思われたらしく
「ということで買い出し行ってくれないかな?」
と無慈悲にも休みは潰された。
これを承諾して買い出しに行ったのが先週の日曜日。五日前のことだ。この時は一人だった。じゃあなぜ買い出しが終わったのにここに? という疑問が湧くだろう。
これすら流成さんの気まぐれだ。昨日、「イベントならなんか店内を装飾したいよね」その一言が命取りだった。
俺は不満を言いかけたが、夜空の「いいですね、やりましょう」の言葉に遮られ、結局、言えずじまいだった。
それにしても夜空の父親の言葉に対する反応は早かったな。さすがファザコン。
だがそのファザコンのせいでこうなっている。こいつもリア充くらい憎い。
俺たちがどこへ向かっているかというと、ここらへんでは一番大きいショッピングモールだ。しかしこんな日に行くと、絶対に混んでいる。人モール状態だ。
はあ……。そんなため息が漏れる。こればっかりは仕方ない。元々家から出ないタイプなのに今日に限って、つれ回されている。ため息が出てもそれは不可抗力だ。
なのにこいつときたら、
「何? ため息? 従者がため息なんて江戸なら斬られてるわよ。即座に。」
厳しすぎろ、こいつ。大体、こいつの言にはおかしいのか多すぎる。
「俺は従者じゃねぇし。今は江戸でもねぇよ。むしろ時代劇で見るような器が小さい殿様は願い下げだね」
「へぇ、言うようになったじゃない。器が小さいのはあなただけど」
隙があると思ったが、それは夜空。きっちり毒舌をぶちこんでくる。くそう……。
そうして微妙な距離感を測りながら、ショッピングモールに辿り着く。だがもう既に人の出入りが多く、それだけで嫌になる。
早速中に入るともう人。人が多すぎて人でアレルギー症状が出て、アナフィラキシーショックを起こしそうだ。むしろそのせいで搬送されてここを離れたいくらいだ。
「さあ、行くわよ」
これだけ人の声で騒がしくても夜空の声だけははっきりと耳まで通るのだから不思議だ。
「ああ」
遅れ馳せながら返事をする。
それにしてももう人酔いした。本場(とは言ってもどこが本場なのかよくわからんが)ではクリスマスは家族で祝うのだそうだ。だからこそこんなに人がいるのは本来、おかしいことなのだ。
日本人のアレンジ能力は優れているとは思うが、ここまでアレンジしてしまうとそれはもうクリスマスではなく、クリスマスっぽい何かだ。あとハロウィンとかも原型を残してる感じしないな。
「夜空、そもそも論なんだが、店の装飾ってどうやりゃいいんだ?」
「クリスマスほど簡単なものもないわ。赤と緑の色のものを飾り付けすればいいだけだもの」
考えてみればそうか。クリスマスというのはカラーが決まっている。ならあまり悩む必要はないし、それ以外のカラーでやるならイメージが崩れて不自然になるしな。
「予算は?」
「一応、五万円を渡されてはいるけれど店のお金だし、なるべく残したいわね」
「まあ、そうだわな」
といっても何を買おうかなんて思い付かない。このままだと本当に従者だなと思う。夜空は計画を立てたりしてるのだろうか、と横目で見るが、なんとなく不安そうな表情をしている。
「まあ、なんだ、具体的にどんな装飾をしていいかわからんのならここの装飾を真似すればいいんじゃないか?」
ショッピングモールは赤、緑の他に金、銀など派手な装飾が施されており、いかにもクリスマス感がある。これを真似すればそこそこ様になるとは思う。
「じゃあとりあえず100円ショップにでも行きましょうか」
100円ショップ……。いや、確かに装飾品、しかも安いならここにたくさんあるだろうが、ここまで来る必要あったか? と思う。夜空との買い物、いきなり前途多難だわ……。
めっちゃくちゃ久しぶりの投稿になります。この作品は多分100回近くいくと思っているので投稿ペースあげないと……。




