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砂漠と入口

 青々と茂った草原に、ゆったりと水を蓄えた湖。

 木々は大地にしっかりと根を張り、枝の先々では鳥達がその鮮やかな羽を休めている。そして眼下に広がる街からは、少し離れたオレの耳にまでその喧騒が届いていた。

 

 道中で、街や砂漠、それに派遣者についてヒィラが色々と説明してくれてはいた。よくわからないが、この世界はオレの元いた世界とは違ったどこからしい。最近流行の異世界にどうこう、ってヤツが正に自分に降りかかるとは思わなかった。


 何故かこの世界に飛ばされたオレみたいなヤツは派遣者(・・・)と呼ばれていて、ヒィラが属する団体ではオレらを助けるような制度があるんだと。ちなみに、派遣者は何故か言葉だけは通じるらしい。



 そんな説明を道すがら聞いたお陰で、自分がどんな状況なのかも、ここがどこなのかも、頭ではわかったつもりだった。しかし、聞くと見るでは伝わり方は全く違う。


「……すげぇな」


 オレはただひたすら、景色の美しさと、先ほどまでの風景との違和感に圧倒されていた。砂漠と街の間にある丘を越えた辺りから、まるで区切ったように砂漠らしさのない風景が広がっていた。


「まじで砂漠の中と外じゃ全然風景が違うじゃねえか」


「ええ、あの砂漠はちょっと特殊なんです。身体疲れてませんか?」


「おう、大丈夫……だ!」


 サソリの脚を背中いっぱいに背負ったオレを気遣うように、ヒィラは声をかけてきた。

 正直なところ、大分疲れてる。だがヒィラが元気そうなのを見ると、男のオレが疲れているとは言いにくい。そもそも彼女の背に積んだ脚は、ぱっと見た感じでもオレの倍近い量はあるだろう。


 街は、今たっている場所を下った先に、もう見えていた。なら最後のひとふん張りだろう。

 オレは肩に食い込んだ大量の獲物を背負いなおし、またゆっくり街へと坂を下り始める。


「も! も!」


 そしてオレの隣では、例の亀が二本ばかり、サソリの脚を引きずって歩いている。

 ヒィラはそんな亀を見て、相好を崩した。


「ふふ……亀さんも頑張って下さいね。ねえウラシマさん。どうしてこの亀さんがサソリの脚を運びたがってるってわかったんですか?」


「駄々こねるような暴れ方だったしなぁ……それに、この亀をよこしたヤツが、こいつの事を”運ぶ亀”って言ってたんだよ。何を運ぶのかよくわかんねえが、手伝いたがってるのかなって思ってな」


 オレは背中の荷を分け合っていた時のことを思い出す。

 この亀は運び出そうとした二人の前で露骨にヘソを曲げ、その場でじたばたと大暴れを始め、手がつけられなくなった。ヒィラはその様子を見てまた顔を緩ませていたが、オレは何となく、亀が何故ヘソを曲げているのか、わかった。

 

 特に根拠があったわけではなかった。オレは、ヒィラに縄を借りて、軽そうなサソリの脚を二本ばかり亀に引かせてみたのだ。結果、荷を得た亀はのしのしと小さな手足を動かして機嫌よく歩き始め、疲れた様子も見せずここにたどり着いている。たいしたもんだ。


「派遣者は必ず特別な力を持った幻獣を持ってる……って聞いたんですけど、この亀さんが多分そうなんですね。私も派遣者のことそこまで詳しくないんです。街に行けば詳しい人がいるので、その人に色々教えてもらいましょう」


「助かる、本当に何もわからねえんだ」


「……」


 頭を下げた浦太郎だが、ヒィラの反応がない。不思議に思って並んで歩くヒィラを見てみれば、口元を押さえて笑っている所だった。


「あ、ごめんなさい。怖い人なのかなと思ってたんですけど、ウラシマさん優しいからなんかおかしくて」


「怖いも優しいも、なんか不本意だな……」


 頬を掻きながら答えると、隣の忍び笑いはますます激しくなる。しかしクスクスと笑う声が、オレには少しばかり心地良く感じた。



◆◆◆◆◆


 街は思った通り、とても賑やかだった。

 カラフルな壁の建物に、屋台から流れてくる食べ物の匂い。

 暗くなり始めた空に逆らうようなオレンジ色の灯りは、街並みを優しい光で彩り、一日の終わりを促すように、優しく美しい街並みを照らしている。

 湖から水をひいているのか、街中には何本か水路も見える。この水路は小船が交差しあうだけの幅があるようで、野菜や果物を運ぶ船や裕福そうな男を乗せた船が何艘(なんそう)か浮かんでいた。


 だが、ヒィナに連れられて”協会”とやらを目指しているオレにとって、気になるのは美しい街並みでも、胃袋を刺激する食事のにおいでもなかった。


「うわ! 狼男! それに、ドワーフ……? うわあ、あの人なんて馬車の荷台よりでけぇ……」


 行き交う人々が皆、現実離れしている。

 ハリウッド映画の特殊メイクかと思うような獣人に背が低くてごっついおじさん。それに巨人。よく見りゃみんな、銃刀法に違反しそうな武器をこれ見よがしに持ってるやつばかりだ。

 オレは街の中を見てやっと実感しつつあった。


「本当に。本当に、別の世界なんだ、ここ」


「やっと納得してもらえましたか。派遣者の中には別の世界に来た事を信じてくれない人もいる、と聞いていました。異世界転移って言うんですってね」


 認めたくはなかったが、あの狼男や鬼のような姿の人たちが作り物には見えない。あまりにも動きが自然過ぎる。オレは失礼とわかりながらも、この異様な住人達を見ずにはいられなかった。


「……はい。お疲れ様でした。そしてここが私たち”マグ”がお世話になる、冒険者協会です」


 あちこちに気を取られているうちに、どうやら目的地に着いたらしい。ヒィラは周りに比べると幾分地味な、しかし他の建物が十ほどは収まりそうな大きな建物の前で立ち止まると、そう言った。

第六話、お読みいただきありがとうございました!

引き続きお楽しみ頂ければ幸いです!

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