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動揺と疑惑


 シクスってのがどんなもんだか、まだオレにはよくわからないが、ヒィラの強さはわかってるつもりだった。でも、オレの知るヒィラの周りには、遠征隊の周りにあるようなにぎわいはなかった。あいつはただ人ごみを避け、周りにも避けられていた。まだ人だかりの消えない遠征隊の人気と、この協会のなかで1人寂しそうに座っていたヒィラの姿は、オレの頭の中ではどうやっても結び付かない。


「おい、それってどういう……」


 オレは思わず、イワシ君に問い質そうとした。しかし、一際大きな歓声でそれは遮られた。どうやら、また遠征隊の方が騒がしいらしい。イワシ君もそわそわしはじめ、


「あっ! 荷物をおろしはじめてる! 僕、見に行ってきます!」


 と、いそいそ人だかりの方へ向かおうとしている。冗談を言っちゃ困る。ここで逃がすわけにはいかないのだ。


「こらこら、イワシ君。気になる話の振り方をして去ろうとするんじゃないよ。ちゃんと最後までしようじゃないか」


 オレは慌ててイワシ君の腕を握りしめ、オレは話の続きを促す。恐らくこの話は、ヒィラに直接聞いても

濁されるだけだ。あいつが自分の過去の経歴を進んで話してくれるとは、ちょっと考えにくい。このイワシ君はどうやらミーハー情報に詳しそうだし、この際聞けることは聞いておきたかった。


「ひっ!? 最後までって……まさか派遣者さん、男もイケるタイプじゃ……なんでそんな血走った眼で僕を見るんですか!? 離してください! 僕には心に決めた人が!」


 しかしどうやら、オレは少しばかり動揺していたようだ。言葉の選び方がまずかったらしい。イワシ君は青ざめると、必死にオレの手を振り払おうと振り回しはじめた。


「まあ落ち着きなよ。別に痛くしようってんじゃないって。オレはただゆっくり話を聞きたいだけなんだよ」


 逃げられないようにきゃしゃな肩を抱き寄せ、オレは少し屈んでイワシ君の耳に口を寄せる。ちなみに周囲の声がやかましいから、よりオレの声がよく聞こえるようにしているだけで、他意は決してないことをここに証言しておく。


「ひぃぃっ! ち、近いです! 離してくださいぃ」


 イワシ君はオレの説得を聞き入れず、それどころか身をよじって逃げようとしている。こいつアレだな。小柄で細身だし、女の子に嫌がられてる気分になるな。そう考えるとちょっと傷つくが、今はそれどころじゃない。こうなったら、最終手段だ。


「なあ、イワシ君よ。オレのカメ、触ってみたくないか?」


「いいんですか!? 見たいです、何でも話します!」


 よし。交渉成立。ミーハーなこいつなら、きっとモリィに興味を示すと思ったが正解だったようだ。あっけなさ過ぎて拍子抜けしたくらいだ。


 と、そこでオレは気が付いた。さっきまで混み合ってた協会内が、オレの周りだけ空いている。ついでに、遠征隊の方に気がとられてか、カウンターもかなり空いているようだ。何かあったんだろうか。


「もも!」


 近くで様子を見守っていたモリィが、それに気付いたのかついてこいとばかりに前を歩き始めた。


「人のいない方にいこう。あっちで話そうぜ、イワシ君」


 オレはそれに続き、肩を抱いたままでカウンターの方にイワシ君を促す。ついでだから、荷物も納品しちまおう。それにしても、周囲でなにかひそひそ話す声が聞こえるのが少し気になるな。


「人がいないのは、派遣者さんの発言が完全に誤解されてるからだと思いますが……とりあえず行きましょう」


 イワシ君が、複雑そうな顔でそう言ったが、誤解ってのは何の話だろうか。それより、せっかくだから納品の仕方もこのイワシ君に教えてもらおう。


「なあ、イワシ君よ。こんなこと言うのは恥ずかしいんだが、オレ実ははじめてなんだよ」


「何が!? てか、さっきからわざと誤解される言い方してません!?」


 ……まあ、いい加減ばれるか。イワシ君の反応が面白くてやりすぎてしまったようだ。いや、ヒィラの過去が気になって動揺したのは事実でもあるんだが。でもへそを曲げられても困るししらばっくれていよう。


「ははは、何の話だイワシ君。オレはただ納品の仕方を教えてほしくてだな」


「ああ……そういえば派遣者さん、もうメダル(・・・)は発行されてます?」


 何も聞いてない。でもヒィラは”窓口でやり方を教えてくれる”と言ってた。あのヒィラが大事な説明を忘れることはない気がする。


「よくわかんねえけど、ヒィラは窓口で聞けって言ってたぜ」


 5列に並んで受付を待つ列に加わって、オレはカウンターを親指で指し示す。目の前には、一人並んでるだけだ。


「そうですか……じゃあとりあえず行ってみましょう。あ、ちょうど空きましたね」


「ふう……やっとこの重い荷物下せるぜ」


「ああ。重いですよね、ビートルンって」


 ぼそりとイワシ君がつぶやいた一言が、オレには妙にうれしかった。どうやら軽々と四つもビートルンの殻を担いでいたヒィラの方が、珍しいらしい。ちなみにこの後、協会内の一部のお姉さま達の間ではオレとイワシ君の関係がおもしろおかしく噂されることになるのだが、それはまた別の話。






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