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賑わいとイワシ

 ヒィラに気を取られていて気付かなかったが、協会付近は昨日よりずっと賑わっているようだった。

 協会の外には乗りつけた馬車や大きな荷車がたくさん止まっていて、荷物を下ろすマグらしき奴らやそれを整備している協会の係員が声を張り上げあっている。テレビで見た魚市場を思わせるような光景だ。


「おい、そこぉ! 邪魔だ、開けてくれぇ!」


 雰囲気に圧倒されていると、後ろから怒鳴りすぎてしゃがれたような声が飛んできた。巡り堂が誇るコワモテ、タナゴ氏の声といい勝負だろう。


「お、おう。わるい」


 避けたオレのすぐそばを、すごい速さで男が一人駆け抜け、


「どいてくれぇ」


 だの、


「通るぜぇ」


 だのと声を張り上げながら、どんどん前に進んでいく。手ぶらだったようだが、何をそんなに急いでいるんだか。しかし周囲は見慣れているのか、追い越されても気にした様子はない。それどころか、さっきはあんなに目を引いていたモリィの姿ですらさほど目を引いていないようだ。自分の仕事で手一杯なのか、すぐに自分の作業に戻っている。


 怒声と罵声、雑踏と喧噪。

 しかし、よく見るとそこには秩序とルールが見て取れる。荷を落とすものがいれば手を貸してやるものがいたり、馬車の車輪が外れれば人が群がって直すのを手伝っている。オレはその風景から、マグたちの誇りや熱気を感じざるを得なかった。


 マグってのは辺境の冒険者、荒くれ者、くらいのイメージを持っていたが、これは少し考えを改めたほうがいいかもしれない。まあ、ヤドカリ以外はな。あいつは許さん。オレはそんな決意を胸に秘めつつ、列にならって協会へと進んでいった。



 協会の中は、外に負けず劣らずのにぎわいを見せていた。

 病院の待合室のような椅子はほぼ、人が座っているし、カウンターにも人がひしめきあっている。それだけでなく、建物内の至る所が騒がしかった。馬鹿でかい秤で職員と声を張り上げながら何かを言い合っているマグがいれば、象みたいにデカい謎生物(トラ模様で四足の、カタツムリみたいな頭の何か)が四肢を縛り付けて解体されていたりもする。後学のために見学しようかと足を向け、しかしオレはすぐ足を止めた。


 協会の中に、一際にぎやかな声が上がったからだ。

 声はどうやら、例のデカい入口……忌々しい、ヤドカリ野郎との出会いの場となったあのあたりから聞こえているようだ。


「遠征隊が帰ってきたってよ」


「どこのだよ、フォースの奴らが早々に帰ってきたってのか?」


「いや、フィフスとシクスの混成だってよ。だいぶ前に旅立った奴らだ」


「なに!?」


 と、随分にぎやかだ。中でも、


「シャイコーンさまぁ!」

 

 と、誰かを呼ぶ声が一際よく聞こえる。どうやら女性の声は、このシャイコーンとやらに集中しているようだ。オレはあまり縁がないからわからないが、コイツに対する歓声は有名人やアイドルに遭遇した時のような、はしゃぐような声に感じなくもない。


 正直なところ全く関心がわかなかった。が、少し気になる言葉が飛び交っていたこともあって、オレは近くで目をキラつかせて背伸びしている若者のマグの肩を叩いた。ぱっと見た感じだと高校生くらいだろうと思うが、背があまり高くない。一生懸命背伸びしているところ悪いが、とてもお目当てが見えそうにはなさそうだし邪魔にはならないだろう。


「あのさ、悪いんだけど教えてくれないかな。この騒ぎはなんだってんだ?」


 予想はしていたが、若者はせっかく盛り上がっていた所に水を差された、と言わんばかりの視線でオレの質問に答えた。しかしオレと隣のモリィを改めてじろじろと眺めると、何かに気付いたように再び目を輝かせはじめ、ガッとオレの手を握ってきた。


「も、もしかして派遣者!? 今話題の!?!?」


 話題かどうかは知らないが、派遣者は派遣者だ。オレは気圧されつつも、こくりと頷いては見せた。しかしなんだ。何かこう、むず痒いぞ。


「僕、イワン・マルメって言います! 派遣者が現れたって噂聞いて探してたんだ! うわぁ、思ったより普通なんですね!」


 そしてこの少年、失礼だった。じろじろ見られた上に、面と向かってこんな評価を受けながら挨拶される機会は、異世界と言えども、そうないだろう。


「あ、ああ。よろしくな、イワシ君。で、この騒ぎはなんなんだ?」


 しかし、オレは大人だ。こんな事で心を乱したりはしないのだ。それどころか彼にあだ名をプレゼントしてやりつつ、本題の質問を再度投げかけてみた。イワシ少年は呼び名に疑問を感じたのか少し首を傾げたものの、気を取り直すようにオレの質問に答えてくれる。


「ええとですね、遠征隊が帰ってきたんです。最深部更新を狙って、最高峰のマグを集めて特別編成された部隊なんですよ! シクスが二人に、フィフスが十二人……こんなゼイタクな」


「はいストップ」


 滑らかに説明してくれるイワシ君を止め、オレはさらに質問を重ねる。


「噂ってので聞いてるかもしれないけどよ、オレは昨日ここに来たばっかりであんまりこっちのことがよくわかんねえんだ。その、フィフスとかシクスってのは何なんだ?」


「ああ、そうでした! 昨日さっそくヒィラ嬢と二人夜の街に消え、かと思えばマグ嫌いで有名な名店『大看板』でハル嬢と一夜を共にしたとかなんとか!」


 イワシ君は納得したように頷く。何を納得して、どうして少し尊敬したような、しかしどこか軽蔑の混じった目を向けてくるのか問い詰めたいが、まずは説明をすべて聞いてからにしよう。


「マグには、踏み込めるエリアに制限があるんです。エリアは色のついた塔で区分けされてて、青はファスト、緑はセカンド、黄色はサードまで、という風に、腕前に見合ったエリアでの活動を推奨されてるんですね。現在協会が管理出来ている最高深度は、紫……紫の塔より奥に行けるのは、現在の最高ランクであるシクスだけです」


 なるほど。昨日砂漠で見かけた塔ってのは、砂漠の標識みたいなものなんだな。と頷きかけたところで、説明に少しひっかかりを覚えた。


「ん? でも戻ってきた遠征隊ってのは、フィフスってのも混ざってるんじゃねえのか?」


「ああ。下位ランカーの立ち入りが禁止って訳じゃないんです。紫の塔より奥で活動出来るのはシクスのマグか、シクスのマグを二人以上連れたパーティ……つまり、下位のマグでも、より腕の立つマグが二人以上同行するなら探索は許可されます。深いところにいけば行くほど、荷物は増えますしね!」


 そう言うことか。まあトップレベルの奴らなんてそんなに数がいる訳でもないだろうし、長旅なら人手は多く必要にもなるんだろう。今賑わってるのは、要はドリームチームが世界記録に挑んで戻ってきた、みたいなもん、なのかな。だとすればこの歓声も、納得出来なくもない。


「でも、意外です!」


 オレが一人納得していると、イワシ君は首を傾げてそう言った。


「ん? 何がだ?」


「過去、シクスに最年少で到達すると噂されていたヒィラ嬢と行動を共にしていたのですから、どこかでこの説明を受けたものとばかり思っていました!」


「は?」


 空いた口がふさがらなかった。説明なんて、受けてなかった。エリアについての説明も、もちろんヒィラのすごそうな噂の事も。

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