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帰還と再会

 街、エントランスに戻ると、空が赤くなり始め、街は徐々に賑わい出していた。

 オレは心身ともに疲れきっていたが、これ以上足をひっぱりたくない一心でなんとかヒィラについて歩く。これから協会に、納品と報告に行くそうだ。


 それにしても。


「おお……すげえ」


「あれは幻獣か?」


 と、オレたちをみた周りのやつらの驚くような声がよく聞こえてくるのが、落ち着かない。確かに目立つよなあ、これ。


 ただ、周囲で噂されている程度で済むのは、予想よりは穏やかな反応と言えなくもない。ヒィラの様子を見て予想はしていたけど、この世界では幻獣や派遣者はわりと浸透していると言うことなんだろうか。


 ああ、それにしても重い。肩から背中にかついだビートルンの殻が、歩くたびにどんどん肉に食い込んでくる。なんでモリィもヒィラも平気なんだ。


「ん? おーい!」


 ヒィラとモリィの後ろを、重みと疲れでふらふらと歩いていると、ざわめきの中で聞き覚えのある声がした。


「おい、新入り! 昨日の新入りだろ?」


 誰かを呼んでいるらしい声が、どんどん大きくなる。しかしやっぱり聞いた事のある声だな。オレは歩む足を止め、周囲を見回してみる。


「げ、ヤドカリ……」


「おう、やっと気付いてくれたな! やたら目立ってる奴がいるから野次馬に来てみれば、昨日の新人がその中心にいるんだから驚くぜ。まさか派遣者とはなあ」


 疲れきったオレとは対照的に、ヤドカリ野郎はやたら機嫌よく話しかけてきた。少し顔が赤らんでいる。

 今日は昨日より軽装だし、あのでかい巻き貝も持ってない。一仕事終えたあとか、もしくは休暇をとっていたのかもしれない。酒が入って上機嫌、ってところだろう。


「あー、そう呼ばれてるらしいな。じゃ、元気でな」


 自分が酒を飲んでないときは酔っ払いの相手はしないのが、オレの信念だ。さらっと流して先を急ぐことにした。


「おっ。おいおい、待てよ」


 人が別れを告げていると言うのに、ヤドカリ野郎はグイグイ近寄ってきて、慣れ慣れしく話し続けている。出来ればさっさと別れたいんだけどな。


 酔っているからか前を歩いているヒィラには気付いてないらしいが、この男がヒィラをよく思っていないのはよくわかっている。忠告を無視して仲間にしたことがバレたら、ややこしい問題になってもおかしくない。


「待ちたい所なんだが、疲れてんだよ。わりいけど、またな」


「待てって。仲間見つけたのか? どんなヤツだよ、派遣者様を仲間にいれた幸運なマグはさ」


 まずい。予想しちゃいたが、やっぱりそう来るか。


「ウラシマさん、どうしました?」


 そしてやっぱり、そう来るか。もういいよ、わかってたよ。

 前方で足を止めてこっちを振り返っているヒィラを見て、オレは思わず顔を手で覆った。ここまで予想通りだと、笑えてくる。きっとここからどんどんこじれて行くんだろう。


 案の定、ヤドカリは上機嫌を潜め、表情を険しくしてオレを見ていた。


「……おい、新入り。派遣者様よ。ヒィラ……その呪い持ちの女と探索に出たのは、新人研修かなんかみたいなもんだよな。仲間にしようなんて思ってねえだろうな」


「あー……いや、ヒィラと組む事にした。オレがそう決めて、ヒィラに頼んだ」


「オレはやめとけ、って言ったぜ?」


 まずいなあ。絶対にこれはこじれるぞ。ヤドカリは元々細身で、キツい印象を受ける表情をしてはいるけど、身にまとう怒っているオーラが尋常じゃなくオレを圧迫してくる。


 でも、だからと言ってここでヒィラを仲間じゃない、なんて言う訳にはいかない。オレは自分が納得して、頼み込んで仲間になってもらったんだ。ここでその気持ちを一時的にでも偽る訳には、絶対に行かない。オレはヤドカリに一歩歩み寄り、険しい色を浮かべた飛び出し気味の目を睨みつける。


「聞いたぜ。新参に忠告してくれるのは親切だと思うし、ありがてえよ。でもな、オレはヒィラと旅したいんだ。こいつとなら、世界の果てを目指せるんじゃねえかって思ってる。わりぃけど、口出しはされたくねえな」


「……そうかよ。呪い持ちと旅するってことがどういうことか、わかってねえんだろう」


 また、ヤドカリの目が険しくなる。何だこのプレッシャーは。いけ好かないけど、人当たりのよさそうな男ではあった。ひょうきんな世話焼きだと思ってたんだが、違うのか……?


「ヤードさん、お久しぶりですね。ウラシマさんには、呪いのことはちゃんと説明しました。それでも、一緒に来て欲しいって言ってくれたんです。だから私は、この人の力になりたくて……」


「なれるわけねえだろ! マグなんてやめちまえって言ったのに、まだわかんねえのか!」


 ヒィラの弁解は、ヤドカリの怒声で遮られた。ヒィラは、露骨に怒りを見せ付けられて萎縮したように口を閉じている。うーん。この二人、どうやら知り合いらしいな。これはちょっと意外だ。


「いいか、新入り。派遣者なら引く手数多だ。なんなら、サードが二人、フォースが一人いる、ウチに入ったっていい。だからその女はやめとけ」


 びっとオレに指を突きつけてヤドカリはそう吐きすて、ドカドカと大股歩きで賑わう人の中を去っていった。何だアイツ。せっかくヒィラが仲間になってくれたってのに、こんなに辛そうな顔させやがって。



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